《モフモフの魔導師》496 そんなんじゃダメだ!

「俺がですか?!」

「うん。無理かな?」

「俺でいいんですか…?」

「オーレンに教えてもらいたいんだ」

今日は、冒険の合間をって、アニカとウイカと共にウォルトさんの住み家を訪ねた。

いつもの如く、まずは修練しようと思っていたところで、ウォルトさんから意外なことを言われた。

「剣の基本を教えてしい」と。

冗談で言う人じゃない。本気なんだろうけど……。

「オーレンに習うことなんて、何もないですよ!覗きの神くらいです!」

「うるさいな!でも、ホント何でですか?」

「実は、鍛冶の師匠達から剣をもらったんだ」

もらったという剣を見せてくれる。

「剣のことはわかりませんが、格好いいですね」

「なんか凄い気がします!」

姉妹の言う通りで、一目で業だとわかる。相當な剣だ。

「剣に恥じないように、剣の腕を磨きたいと思って、まず基本を知りたいんだ」

凄くわかる…。気持ちがわかりすぎる…。俺も全く同じことを思ってるから。

「オーレンは、々な剣士と流してるだろうから、剣に詳しいと思って」

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流はしてますけど、俺はやっぱり白貓流なんですよ」

「白貓流の基本でもいいよ」

「白貓流には基本が無いんですよ…」

「そうなのか…」

殘念そうだけど、師匠は白貓流の意味がわかってないな…。

「ウォルトさんなら、今の剣の実力でも充分だと思います。俺が教えられることは何も…」

烏滸がましすぎる。

「オーレンは…何もわかってないね」

「ホント、いい加減にしろ!ウォルトさんは、もっと高みを目指してるんだよ!だから言ってるんだ。このバカチンが!」

「その位わかってるっつうの」

「じゃあ、何をもって充分だって言ってるの?」

「だったらアンタももう充分でしょ!Cランクなんだから!もう修練するな!」

「ぐっ…!」

ウォルトさんは苦笑い。

「アニカとウイカの気持ちは嬉しいけど、ボクが無理を言ってるんだ。他の人に聞いてみるよ」

「いいんですか!?私もオーレンは薦めませんけど!」

「オーレンは型にはまらない剣士だからね。基礎は自然にできるんじゃないかな?教えるまでもないことなのかもしれない」

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「いや…。そうじゃないんですけど…」

俺が教えるなんて恐れ多い。変なことを教えてしまうかもしれない。

「オーレンにはガッカリした。私は昔を思い出したよ」

「わかる!あの時だね!お姉ちゃんが『無』になったあの日!まったく同じが芽生えたよ!」

「理由を教えろよ!」

過去を蒸し返しやがって。

「それはお前だ、このバカ兄貴分!なんでウォルトさんに教えないの?!もし間違えたら…ってビビってんの?!」

「それとも、強くなってもらいたくなくて、教えるのを躊躇ってるの?そうなら最低だよ」

「ざけんな!そんなわけあるか!」

ウォルトさんはオロオロしてる。まさか口論が始まると思わなかったんだろうな…。非常に申し訳ない。

「もういい!ウォルトさん!私が知ってる冒険者に頼みますから!」

「私も何人か知ってるので、頼んでみます」

「ありがとう…。でも、素人相手に悪いなぁ…」

異論は無い。俺より凄い剣士は幾らでもいる。教えるのが上手い人も知ってる。適任者は沢山いるんだ。

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「オーレンは……ただの弟子にり下がりました!つまらない男です!」

り下がったってなんだよ!お前らもそうだろ!」

「違うよ。私達は、ウォルトさんの弟子でもあるけど、それ以前に友人なの。友人に技を教えて、何かおかしい?」

「ぐっ…!」

「どれだけ世話になってると思ってるんだ!恩返しとか簡単に言うくせに…実際は何もしない!口ばっかりだ!」

「アニカ。オーレンに言っても無駄だよ」

くっそぉ……。言い返せない…。

コイツらは、嬉々としてウォルトさんに魔法や冒険を教える。それは、友人として対等だと思っているから…ってことか…。

「みんな、ゴメン。ケンカさせるつもりじゃなかったんだ。もう忘れてしい。ボクに恩返しなんか必要ないよ。そんなつもりもない」

「むぅ~~!!」

「時間がもったいないから、修練を始めよう」

獨りでビビって……結局ウォルトさんにフォローされて……。格好悪すぎる…。

「…ウォルトさん」

「オーレンもいいかい?」

「俺が…剣の基本を教えてもいいですか?」

「それは…願ったり葉ったりだけど、無理しなくていいよ」

「もしかしたら…教えることが間違ってるかもしれないです。でも、俺の知ることを伝えたいです」

「ありがとう。助かるよ」

俺にできることを、堂々と教えればいいんだ。

教えられてばかりじゃダメだ。俺だってウォルトさんと対等な立場でいたい。今日は、コイツらに教わった。

「ふぅ。手がかかるね。小さな弟みたい」

「ホント…愚弟なんだから!」

「うるさいな!じゃあ、早速いきます。まずは素振りから」

「うん」

ウォルトさんに基本を教える。

俺は、クローセにいた頃からウォルトさんに會うまで、ずっと自己流で剣を振ってきた。今も大きく変わってない。

でも、冒険者になって知り合いが増えてからは、々な流派の剣を取りれる努力もしてる。それぞれにがあって心しきりだけど、剣は長い年月をかけて磨くもの。

ちょっと齧っただけでにつくほど、甘くない…んだけど…。

「こうかな?」

「できてます」

「この振り方は、力のれ所がわかりやすい。凄くタメになるよ」

「そうですか」

改めて…呆れるほど凄いな…。

乾いた砂が水を吸うように覚える、とはウォルトさんのことを言うんだろう。魔法の習得もそうだけど、コツを摑む早さが尋常じゃない。

しかも、真面目で納得するまでやるし、何かしら摑もうと一振り一振り試行錯誤しているのも伝わってくる。

學ぶべきは、取り組む姿勢。

一通り終えて、とりあえず休憩することに。

「オーレン、ありがとう。勉強になったよ」

「もういいんですか?」

「皆と修練したいからね。基本は、獨りの時にやるよ。しずつ教えてもらえたら」

「わかりました」

「ちょっと水を淹れてくる」

俺も、もっと知識を蓄えないと。

「ねぇ、オーレン。なんで、ウォルトさんはアンタに教えてもらうよう頼んだのか、わかってるの?」

「ん?それは、俺の知識に期待してだろ?」

「違うわ!自惚れるな!」

「なんでだよ!自惚れてないだろ!」

ウォルトさんがいないところで、また言い爭いになる。

「確かに、それも理由の一つだと思う。でも、大きな理由じゃない!」

「じゃあなんだよ?」

「気を使わずに話したり、聞いたりできるからだよ!」

「知らない人と長く一緒にいれない、って言ってたよね?忘れたの?」

「うっ…」

完全に忘れてた。

「ウォルトさんは、アンタだから頼んだのであって、他の人に頼むつもりはなかった。考えたらわかるでしょ?それを無下にしてるんだよ」

「それは…考えなかった…」

…コイツらには敵わないな。

を差し引いても、俺よりウォルトさんのことを理解してる。

「頼りにされたら嬉しいよね」

「私達はそう!しでも力になりたいでしょうが!」

「それはそうだ」

「教わるより教える方が難しいよね」

「教えるのも私達の修練になるからいい機會だよ!それに、ウォルトさんは私達が間違ったことを教えたとしても、直ぐに気付くし、責めたりもしない!だから、堂々と教えたらいい!」

ウォルトさんは「もしかして、こうした方がいいかな?」なんて優しく聞いてくれて、こっちが間違いに気付く。

そうこうしていると、ウォルトさんが戻ってきた。渡された水を飲むと、ちょっとだけ酸味があって良く冷えていて味い。

「疲労回復に良いから、柑橘を足してみたよ」

味いです。ところで、ウォルトさんが剣を磨くと、魔法の修練ができないんじゃ?」

「大丈夫だよ。剣の修得も長い期間で考えてる。ボクの目標は、死ぬまでに達したいものばかりだね」

「普段持ち歩くだけでも違います。やっぱり剣もに馴染ませてこそなんで。暇なときに握るだけでも違います」

「そうするよ。冒険にも使えると思ってて、もし魔と闘ってるところを誰かに見られても、剣で闘ってたら気にされないと思うんだ」

「俺が思うに、魔法よりは目立たないだけで、結構目立つと思います」

「そうかな?冒険者は、ほとんど剣を持ってるよね?」

言ってることは間違ってない。でも…。

「獣人で剣を扱ってる人は珍しいです。私は見たことありません」

「私も、エッゾさんとウォルトさんしか知りません!」

ウイカとアニカの言う通りで、獣人の冒険者にはほぼいない。獣人の武は、ほとんど素手か手甲。あとは、棒みたいなデカい武

「でも、力に自信が無いと言えば信じてくれると思います」

「エッゾさんを尊敬してる、もアリですね!」

「なるほど。そうしようかな。どっちも噓じゃないしね。助言ありがとう」

「ウォルトさんは、剣技も沢山編み出すんでしょうね♪」

「凄そうだよね」

「剣技を編み出すのは無理かなぁ。でも、魔法を使った技能ならできるかもしれない」

「例えばどんなのですか?見たいです」

「そうだね…。こんなのはどうかな?ハァッ!!」

ウォルトさんは手に何も持たずに、俺を剣で突くような作を見せた。

「……? ……うわぁっ!!」

目の前に突然切っ先が現れる。

「魔力の伝達を全く阻害しないから、『隠蔽』するのも楽なんだ。気付かれないに刺せるかもしれないね」

「かもじゃなくて、刺せますよ…」

剣を消したことすら気付かなかった。…というか、今のは相當危険な行為。見えない剣で人を突くなんて、一歩間違えたら大慘事だ。

けれど、ウォルトさんにとっては、間合いは元より、腕や剣の長さも完璧に把握していて、寸止めする自信があっての行

やっぱり基本を學ぶ必要はない気もする。

「もし良かったら、剣を隠蔽したままでオーレンと手合わせしてみてください♪」

「アホかっ!!間違いなく死ぬわっ!!」

「オーレンもやればいいじゃん!」

「できるかぁ!!」

「冗談はさておき、私達の修練をお願いします!」

「うん。やろうか」

ウォルトさんと姉妹は魔法の修練を始めた。

この隙に……俺はみっちり基本をやろう。

休憩中の三人は、なにやら話し込んでいる。

「最近、戦闘魔法の威力が下がった気がしてて。気のせいじゃないと思います」

「そうだね。威力は下がってる」

「ですよね。原因がわからなくて」

「魔力の質が変化したからだよ。ウイカの魔力が、治癒魔法よりに変化してるんだ。治癒院で鍛えられてるからだね。矯正はできるけど、どうする?このままでも構わないなら、そのままにしておくよ」

「矯正をお願いします」

ウイカの背中にれて、ウォルトさんは何かしてる。魔力の矯正って何だ?

「これで大丈夫」

「ありがとうございました!魔力の変質について教えてもらいたいです。自分達でも矯正したいので」

「私も知りたいです!二人でできたら楽です!」

「そうだね。まず、魔力は常に一定の質を保たない。だからこそ、んな魔法に変換できるんだ。魔力の生も然りで……」

真剣に言葉をわす三人。

最近では、何を話しているのかさっぱりわからなくなってきた…。ウイカとアニカも、殆ど理解できないらしい。しでも理解できたら、それだけで凄く喜んでる。

「なんとなく理解できました!」

「エルフの魔力に変換するときなんかと同じで、自分で自分の魔力をじられないと矯正は不可能ってことですね」

「そうだね。原型が摑めないと、戻すのも無理だから。でも、二人ならできるようになるよ」

「「はい!」」

きっとできるようになる。そう思える。

認めたくないけど、コイツらは魔法の天才。今では、冒険者の中にもやっかむような奴らが増えてきてる。

ただ、ウォルトさんの弟子らしく、実力を自慢したりしないし、どんな魔導師に対しても禮儀正しく接するから、圧倒的に好を持たれてる。

容姿に騙されてるもあるけど…。

姉妹で貓被ってるからな。

「オーレン…。何か言いたそうだね…」

「べ、別に!気のせいだろ!」

あっぶねぇ~!勘が鋭すぎる。

…と、ウォルトさんから質問が。

「みんなに聞きたいんだけど、下水道の鼠退治のクエストをけたことあるかな?」

「俺達はまだないですね。何でそんなこと聞くんですか?」

「この間、下水道にって何匹か倒したんだけど、普段は冒険者がやってくれてるって聞いたから、ボクでもできそうだと思って」

「…あぁ~!!そういえば、ギルドで話題になってました!嫌々引きけたパーティーが、沢山の死骸を見つけたって!」

「驚いたって言ってたね。ウォルトさんがやったんですね」

「どうかな?違う人の可能が高いと思う。ボクが倒したのは、多分五十匹くらいだし」

「「「だったら間違いないです」」」

全然、何匹かじゃない。

「結論から言うと、ウォルトさんでもけられます。不人気だし、鼠はさほど脅威じゃないから、Fランクから注できるようになってます。行くときは俺も手伝います」

「なるほど。今度、けてみようかな」

「私達もいきます!ってください♪」

コイツは……。お調子者め。

「すげぇ嫌がってたくせに、よく言うよ。行きたくないのに無理すんな」

「な、何言ってんの!?そんなわけないし!」

「アニカは「汚いから嫌っ!」って渋ってたんですよ。まぁ、ウイカもなんですけど」

「ち、違うよっ!」

「そっか。無理はダメだよ。強制することじゃないし、ボクだけで行くから大丈夫」

「俺はってください。汚くても気にならないんで。一緒にやりましょう」

「ありがとう。その時はうよ」

二人に睨まれてるけど、事実だからな。話を盛ってもいない。正直俺だって嫌だけど、コイツらほどじゃない。ウォルトさんと行けるなら行ってみたい。良い経験になるはずだ。

…ん?

「ウォルトさん。もしかして…下水道の浄化裝置に何かしましたか?」

「何もしてないよ。一緒に行ったメリルさん…ボクの魔道の師匠が裝置を修復したけど」

「なるほど…」

アニカとウイカを見ると、コクリと頷いた。

「フクーベの臭気問題が解決して、市民はみんな謝してます。ありがとうございました」

「ボクは何もしてないよ?」

絶対に何かしてるんだよなぁ…。無鼠討伐もそうだし。そのことに自信がある。

「浄化裝置が直ったおかげで、快適に暮らしてます。それだけ伝えておきたくて」

「結構辛かったんです」

「街のあちこちが臭かったよね!」

「それは良かった。メリルさんに伝えておくよ。喜ぶと思う」

「うぅ~!やっぱり私達も行きます!下水道に行くときは、ってくださいね!」

「絶対ですよ」

「そうするけど、本當に無理しなくていいからね」

皆が敬遠するようなクエストを、ウォルトさんがやるというなら手伝いたい。

それより何より、フクーベに住む俺達が、街に住んでないウォルトさんに助けられたことが恥ずかしい。「山のようにいる冒険者は、何をやってたんだ?」と言われても反論できない。

教えるとか教えられる以前に、やることやれって話だ。

なぁ、アニカ!ウイカ!

「ウォルトさん…」

「修理には、メリルさんと二人きりで行ったんですか…?」

「そうだけど」

「むぅ…」

「いいなぁ…」

ダメだ、コイツら。

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