今日は、リリサイドとドナの母娘が住み家を訪ねてくれた。

「ウォルト！あそびとべんきょうしにきた！」

「いらっしゃい。ドナは偉いね」

「なんでえらいの？」

「ボクがドナくらいの年だったときは、勉強が嫌いだったんだ」

「べんきょう、面白いよ？」

「じゃあ、先に勉強しようか」

「がんばる！」

會う度に上手く話せるようになってる。スケ三郎さん達のおかげだろうな。

「リリサイドも久しぶりだね」

『久しぶりね。おかげさまで元気よ』

「森の暮らしで、何か困ってない？」

『全然。快適すぎて退屈ね』

「そっか。中にって。冷たい飲みを出すよ」

居間に移して二人に水とジュースを差し出す。

「おいしい！」

『冷たくて味しいわ』

二人が人心地ついたら勉強を始めよう、と思った矢先、ノックもなしに玄関のドアが開いた。

「ウォルト！ただいまぁ～！」

この聲は…。出迎えよう。

玄関に向かうと、やっぱりサマラだった。

「おかえり。連絡してくれたら良かったのに」

「ちょっと暇ができたから遊びにきただけ！午前中だけね！……ん？誰か來てるの？」

「ドナとリリサイドが來てくれてる。知ってるかな？」

「知ってる！チャチャから聞いた！」

サマラは笑顔で中にり、居間にいる二人に話しかける。

「おぉう！リリサイドは、綺麗な並みだね！ドナも可い！」

サマラの興とは裏腹に、二人は驚いたような表。

「リリサイド。ドナ。彼はボクやチャチャの友達だよ」

「狼の獣人のサマラだよ！よろしくね♪」

「サマラ…」

「そう！サマラ！ドナは何してたの？」

「べんきょうしようとしてた…」

サマラの勢いに、ドナも引いてるな。

「べ、勉強！？この年齢でっ？！マジでっ！？」

目を見開いてボクを見てくる。

「ホントだよ。ドナは、言葉や計算を覚えてるんだ」

「そっかぁ…。偉いなぁ……。よし！私も一緒に勉強していい？」

「サマラがいいならいいよ。ドナもいい？」

コクリと頷いてくれる。じゃあ、一緒に教えることにしよう。

★

「あはははっ！サマラ、おもしろい！すごくバカ！」

「なんだとぉ～！！」

「だって、ドナでもわかるよ！」

「くぅ～…！言い返せないっ！！」

まさかの展開。

ボクは、チャチャと同じで、サマラも教える側になってくれると思ってたけど、ドナと一緒に學ぶ側についた。仲良く並んで座り、問題を解いてる。

簡単な計算問題を出してみたところ、ドナは正解、サマラは間違えた。

ボクにはわかる。

サマラは至って真面目にやってると。普通に間違えたんだ。

「ウォルト！次のもんだい！」

「わかった」

次も同レベルの問題を出題してみた。

「む、むぅ～…」

「はい！ドナ、できたよ！」

「なにぃ～～！？ちょ、ちょっと待って！」

しゃかりきに計算するサマラ。鉛筆をかせばいいってもんじゃないけれど…。

「…できた！答えは…馬が五匹で、貓が八匹だ！」

「不正解だよ」

「あはははっ！うまは、ななひき！」

「ドナが正解」

「やった！サマラに勝った！」

「だっはぁ～！！頭が発しそう！ドナは凄い！やるねぇ～！」

「ありがと～♪」

「ちょっと休憩しようか。サマラはカフィがいい？」

「甘い紅茶でお願い！キンキンに冷やして！」

「ドナもおなじの！」

「了解」

サマラの真意はわからないけど、一緒に勉強することで、ドナと打ち解けて仲良くなってる。人との距離をめるのが上手いと心してしまう。

「はい。冷たい紅茶だよ」

「頂きます！……味ぁ～～い！！」

「あははっ！うまぁ～いね！！」

真似するドナは可い。

靜かに座って見守ってくれてるリリサイドにも水を淹れた。

『ありがとう。面白い娘ね。ドナも楽しそう』

『サマラは真面目にやってるけどね。あと、リリサイドが話せることがバレたよ』

『噓っ！？何で？！』

『サマラは、チャチャ以上に魔力に敏なんだ。多分、もう気付いてる。ちょっと待って』

サマラに聞いてみる。

「サマラ。リリサイドが話せるの知ってた？」

「今さっき気付いた。ウォルトに魔力を飛ばしてたもんね。そうだと思ったよ。言わないつもりだったけど」

ドナと戯れながら軽く答える。

『ねっ？』

『あの娘……凄いわね…』

『彼はチャチャとは違う意味で凄いんだ。でも、口は堅いから心配いらないよ』

『そう…。バレたなら、ちゃんと挨拶しておこうかしら』

リリサイドが立ち上がる。

嫌な予がして、バッ！と振り返った。

「サマラ！！貫頭を持ってきてくれないか！？」

「へっ…？貫頭…？何で急に…って、えぇぇ～？！」

サマラが大きな目を見開いてリリサイドの方を見てる。やっぱり人型に変してるな…。振り向いておいて良かった。

「ウォルト？どうしたの？」

揶揄うような口調で、背後から聞かれる。

「何でもないよ」

「こっちを向いてよ」

「ダメだって！サマラ！ボクは見れないから、貫頭を頼む！」

「はっ…！わかった！」

サマラが貫頭を持ってきて、リリサイドに著せてくれた。

「殘念だわ」

「ボクを揶揄うのに、いきなり変しちゃダメだって」

「サマラ。私はリリサイドよ。ドナの母親なの。よろしくね」

話を全く聞いてない…。

「よろしく！リリサイド、めっちゃ人なんだね！」

「そう？ありがとう」

「おかあさんはびじん！サマラも！」

「あははっ！ありがと！ドナもだよ！」

リリサイドにもテーブルについてもらって、のんびり會話する。

「サマラも平然としてるわね。私が怖くないの？」

「何で？全然怖くないよ。多分、闘っても勝てるし」

サマラらしい返答。自分が倒せるものは怖くない理論。

「ふふっ。ウォルトの友達には、隠すだけ馬鹿らしくじるわね」

「隠さなくていいよ！私達は、ほら……々と慣れてるからね！わかるでしょ？」

「そうね。よくわかる」

全然わからない。何に慣れてるんだ？

「でも、ウォルトが言ってもいいと判斷した人だけにしといたほうがいいかも。ここに來る人でも々だから。私はたまたま気付いたけどね」

「そうするわ」

しばらく休憩したところで、聞いておこう。

「ドナ、もうし勉強するかい？」

「サマラとあそびたい！」

「いいよ！私はそっちが得意だからね！」

更地で遊ぶことにして、外に出る。

「ドナ。私は力持ちなんだよ」

「そうなの？」

「面白い遊びがあるんだけど、ドナには怖いかもね～！」

「ドナ、こわくないもん！」

「じゃあ、やってみようか。ウォルトにお願いがあるんだけど」

「なに？」

やろうとしてることを説明される。

「できるけど、サマラは大丈夫？」

「大丈夫！任せて！」

ドナとサマラはかなり離れた場所まで移する。

「じゃあ、いっくよぉ～！」

「こっちはいつでもいいよぉ～」

結構遠いけど、サマラならいけるな。

「ねぇ、ウォルト。サマラは何をするつもりなの？」

「ドナを投げるって」

「は？」

ドナを肩の上に擔ぎながらサマラは助走を始めた。一瞬で最高速度に達する。

「よっしゃ！ドナ、いっけぇ～！！」

サマラはおもいきりドナを放り投げた。大きく手足を広げたドナが、綺麗な放線を描いて頭からボクらの元へ飛んでくる。

「きゃはははっ！」

楽しそうな笑顔。度があるというか、なんというか…。小さな頃のサマラと、言がそっくりなんだよなぁ。

『捕縛』

タイミング良く前方に大きな魔力の網を張って、ドナをけ止める。バフッ！というより、ズバーン！と音が聞こえてきそうな勢いで、網に突き刺さるように飛び込んできた。

らかく展開してるし、勢いを上手く殺せたから殆ど衝撃はないはず。起き上がったドナは、笑顔で目を輝かせている。

「きゃははっ！サマラ、すごい！おもしろかった！」

「はっはっは！そうでしょ！」

「もう一回やる！」

走ってサマラの元へと帰っていく。

「これが遊びなんて、笑えないわ。獣人って滅茶苦茶なのね」

「別に獣人の遊びじゃないよ。でも、獣人は投擲も上手い。サマラは力に余裕があるから、ほぼ狙ったところに來る」

「次、行くよぉ～！今度は高くいくから～！そ～れっ！」

二投目は高く舞い上がった。それでも、狙い通り飛んでくるから大したもの。し角度を変えた『捕縛』の網でけ止める。

「きゃははっ！」

「ドナ。大丈夫なの？」

「だいじょうぶ！いたくないし、とぶのきもちいい！お母さんもやる？」

「私はいいわ。ゆっくり遊んできなさい」

「うん！」

また投げようとするサマラから要が。

「ウォルト～！次は跳ね返して～！」

跳ね返す…？　……あぁ、そういうこと。

「わかったよ～」

三度飛んできたドナを、今度は魔力の網じゃなく魔法陣でけ止める。勢いをしっかり殺しきったところで…。

「わぁ～～！」

魔法陣の反発力で発するように打ち出すと、ドナはサマラの元へ舞い戻る。華麗にけ止めてくれた。

「方向も距離もバッチリ！さすがだね！」

「ウォルトもすご～い！」

「よし！ドナ、次の遊びをやるよ！」

「あい！」

仲良く走ってくる二人。

「ウォルト。魔法で足場を作ってくれない？」

「いいけど、どんなじで？」

「段々に設置するじ！」

サマラの要通り、空中に幾つかの小さな魔法陣を展開する。強度は足場には充分。結構な高さまで足場を要求された。

「ねぇねぇ、サマラ。どんな遊び？」

「それは見てのお楽しみ！」

サマラは足場をどんどん上に跳び移っていく。かなり高い場所まで軽々到達する。

「じゃあ、ドナ！いっくよ～！とう！」

一番高いところから飛び降りて、回転したり捻ったりしながら見事に著地した。

「決まった！」

初対面の時、顔から落ちたサマラの宙返りが脳裏に蘇って、つい笑みがこぼれる。

「かっこいい！ドナもやる！」

「ドナは危ないから、低いところからね！無理すると、顔から落ちるよ！」

説得力がありすぎる。

「ほっ！はっ！やっ！」

ドナも能力が高い。直ぐに宙返りできるようになった。萬が一、落ちたときのために魔法でけ止める準備も必要なさそう。

「ドナ、やるじゃん！」

「これおもしろい！」

「そうでしょ！魔法がなくても宙返りできるよ、ほら！」

「ドナもまけない！」

獣人が遊ぶのは、ひたすらをかすだけでいい。そのことをサマラはよく知ってる。あれこれ々なことを考えてしまうボクとは違うな。

結局、ドナが疲れるまでサマラは一緒に遊んでくれた。

「ドナ。そろそろ終わりにしよっか」

「えぇ～！？もうちょっと遊ぼう！」

「仕事があるから、今度また遊ぼう！それに、私は帰る前にウォルトのご飯が食べたい！」

「わかった！ドナもたべる！」

「準備するよ」

住み家に戻ると、ドナが「サマラとお風呂にりたい！」と言い出した。サマラも快く了承して、二人の浴中に食事の支度をすることに。

チャチャもそうだったけど、本當の姉妹のように仲良くしてくれる。きっとウイカやアニカもだろうな。みんな優しい。

順調に調理を進めていると、突然サマラの聲が聞こえてきた。

「ほ、ほんとにぃ～～！？！」

えらく驚いてるな…。

ドナの生活で、驚くようなことでも聞いたのかな？もしくは、リリサイドの年齢とか。

まぁ、気にすることじゃないか。料理に集中しよう。

★

湯浴みを終えた二人が戻る前に調理を終えた。

「うんまぁ～い！」

「うんまぁ～い！」

「味しいわ」

サマラには骨付きと冷製スープ。ドナにも骨付きとニンジンの和え。リリサイドには、ニンジンの煮と丹込めて育てた生のニンジン。

「サマラ！ドナのニンジンもあげる！」

「大丈夫！食べていいよ」

「…ドナのニンジン、食べたくないんだ…」

「そ、そんなことないよ！一個もらうね！…うん、味しい！」

「でしょ！ウォルトのニンジンはおいしいね～！」

狼の獣人であるからか、サマラは昔からが好で野菜が好きじゃない。普段は可能な限り手間をかけて、エグみをとって味付けてるから味しいはず。

ただ、ドナとリリサイド用のニンジンは、二人の好みに合わせて素材の味を活かしてる。味しくないだろうけど、野菜はに良いからね。

「そういえば、サマラはなんでお風呂で大きな聲を出してたんだ？」

「ぶっ…！！聞こえてた…？」

「驚いてる聲だけ聞こえたけど」

「それはねぇ～、キノコのこと！！」

何故かドナが答えてくれる。

「キノコ？」

「うん！ウォルトの…　むがっ！？」

「こら、ドナ！二人の緒って言ったでしょ！！」

サマラが慌ててドナの口を掌で塞いだ。

「…ぷはっ！そうだった！サマラとやくそくしたからナイショ！」

「そっか。緒のことは言っちゃいけないからね。守らなきゃいけないよ」

「うん！ドナ、言わない！ウォルトのまほうもナイショ！お母さんに言われた！」

食事を終えると、皆でフクーベに帰るサマラを見送る。

「また來るよ！ドナとリリサイドもまたね！」

「またあそぼうね～！」

「また會いましょう」

「待ってるよ」

「ウォルト、ハグして！」

「うん」

そっとサマラを抱きしめる。

「遊びに來てくれたのに、々とありがとう」

「気にしないで！楽しかったよ！」

「今度はゆっくりもてなすから」

「楽しみにしとく！」

サマラは駆け出して、あっという間に見えなくなる。時間ギリギリまでいてくれたのかな。

「サマラはウォルトの番なのね？」

「違うよ。馴染みだ」

「おさななじみってなぁに？」

「子どもの頃からの友達ってこと」

「じゃあ、ウォルトもサマラもチャチャもスケさぶろうも、ドナのおさななじみ！」

「そうだね」

気が抜けたのか、お腹が膨れたからなのか、ドナは眠そうなので住み家でちょっとお晝寢。

起きるまで、リリサイドと居間でお茶することに。

「ねぇ、ウォルト。何もしてないのに、私は獣化しない。貴方が何かしたんでしょ？」

「貫頭に魔力を巡らせてるんだ。リリサイドの変の魔力をね。魔力が切れるまでは、ずっとそのままでいられる」

「なんでそんなことを？」

「上手くいけば、街に行くときに使えるだろう？魔力糸で編んだ服を著れば、もっと長時間変を持続することも可能になる」

メリルさんにも助言をもらって、既に編んでいたりもする。ボクの予想では、數日は持続可能。

「なるほどね。人型の姿が好きなのかと思ったわ」

「どっちもリリサイドだよ」

「どちらかといえば？」

「う～ん……。どっちかなぁ…」

「ふふっ。軽く答えればいいのに。ところで、貴方の知り合いのグラシャンに會ってみたいわ」

「いいのかい？」

「それも見越して試したんでしょう？ドナにも街を経験させたい。こっちから會いに行く」

「わかった。そういえば、グラシャンは世界に最低でも三十頭は健在らしいよ」

「…どうやって調べたの？」

「知り合いに聞いてもらったんだ。間違いない報だと思う。何人かは友人だと言ってたし」

「森に住んでるのに、どんな報網があるわけ？」

「君達グラシャンは、霊の存在を知ってるだろう？木の霊の友人がいるんだ」

「呆れた…。霊と話せる獣人がいるなんて…」

「普通だよ」

「貴方にとってはそうでしょうね」

近いにカリーに會いに行こうか。

ドナは王都に行ってどんな反応をするのかな。