《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》344.向き合った二人
その日の午後、のぞみはハイニオスの醫療センターを訪れた。花束を持った彼は、清潔のある廊下を歩いている。
Ms.モリジマと書かれた名札のある病室の前で、のぞみは足を止めた。
扉は自的に開き、ホーリプラックに座った蛍(ほたる)がクリアと話している。マーヤもいた。
「こんにちは、森島さん」
のぞみは蛍に微笑みかけてから、クリアとマーヤを順に見た。
「ヒタンシリカさんとパレシカさんもいらしてたんですね」
のぞみの顔を見た瞬間、クリアの笑顔が消え、不快そうに顔をしかめた。
「また來たの?!」
クリアからは歓迎されていないことに気付いても、のぞみは無理やり笑顔を作る。
「はい、今日もお見舞いにきました」
「何度も來て、あんたどういうつもりなのよ!?」
「森島さんの容が心配ですので……」
「自分がウザがられてるって、いい加減、自覚しなさいよ?」
「でも……森島さんが大怪我をした責任は私にありますので……どうしても放っておけません」
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「冗談じゃないわよ!」
とクリアの怒鳴り聲が病室に響いた。
「こんなことで許してもらおうなんて、蟲が良いのよ!」
クリアが振り払ったせいで花束は床に落ちた。のぞみはあまりのショックに言葉を失った。
「私……」
仲裁にったのはマーヤだ。
「クリア、やりすぎじゃない?」
「マーヤ、ダメよ。この、ちゃんとお仕置きしてやらないと、自分の過ちを理解できないのよ。Ms.ハヴィテュティーやMr.フェラーに何度も庇わせた挙げ句、怪我人がたくさん出たわ。この一人を守るためにあれだけの作戦をするなんて、そんな値打ちないでしょ?」
中間テストの初日、のぞみの失態で面倒なことになった苦い記憶が蘇る。クリアは蛍の立場に立って考え、のぞみのために重になってしまったことは、あまりにも損だと思い、腹を立てていた。
クリアに罵られているうち、のぞみは次第にけない気持ちになってきて、目元に苦い涙がり始めた。
「ごめんなさい……」
その時、蛍が言った。
「クリア、ちょっと外してくれない?」
信じられないというように、クリアが「蛍?」と答えた。
「マーヤも。ちょっと、二人で話したい」
「分かった、好きにすれば」
病室から出る前、クリアは余計なことを言うなとばかりのぞみを睨んだが、二人は躊躇うこともなく去っていき、扉が閉じる音がした。
二人きりの病室は、しばらく靜まりかえっていた。のぞみは、自分の脈音と呼吸音だけを聞いていた。
のぞみは床に落ちた花束を拾うため、膝を折った。
花束を拾いあげ、床に散った花の片付けをしているのぞみを見て、蛍が軽い溜め息をつくと、先に聲を出した。
「クリアが言ったこと、気にしなくていいから」
のぞみは頭を下げた。
「森島さん、ごめんなさい……」
「何日目?もう聞き飽きたわ」
「はい、ごめんなさい……」
「ったく、そのすぐに謝る癖、どうにかならない?」
「そう言われても……」
のぞみの々しい態度に耐えきれず、蛍が突っ込む。
「言ったでしょ?怪我をしたのは私の問題。敵に倒された私の力不足が原因よ。いつまで詫びる気?」
「でも……申し訳ないことをしたのは事実です……」
「傷を負うことなんてもう慣れたわ。それに、ヒーラー長の先生が見事に治してくれた。あんたはもう何も気にしなくて良いのよ」
「……あの、ハヴィー姉さんが森島さんに救急処置をした時に見たんですが、森島さんの骨の一部は、金屬製なんですか……?」
その質問を聞くと、蛍は心をグッと摑まれたような気持ちになった。それからそっと目線を外し、のぞみに語り聞かせる。
「ああ、ヤングエージェント時代のよ。予想外の敵に遭遇しちゃって、斬り倒されたの。脊椎のダメージが酷くて、機関の長に救い出された時、『章紋(ルーンクレスタ)』で強化した金屬の骨をもらったのよ」
「それは、森島さんがかつての戦いで得た、機関からの栄典ですね」
蛍はそれを、自分が未であった証だと思ってきて、思い出したくもない過去だった。だが、のぞみにそう言われて、グッとが熱くなった。だけど、それを認めるのも悔しくて、蛍はついのぞみに対して冷めた態度を取ってしまう。
「別に、そんな偉い話じゃないわ。それにしてもあんた、本當に暇人ね?今日でここに顔を出すの、何日目よ」
「ちょうど一週間、毎日來ています」
事件當日、蛍は醫療センターに輸送されたのち、すぐにホーリープラックの手をけた。金屬骨の修復を含め、五時間にも及ぶ手をけ、彼のはもうほとんど全快している。まだ院しているのは、リハビリ治療をけるためだ。
「あんた、どれだけ実技の稽古サボってるのよ」
「お見舞いの後にちゃんと稽古をけてますから、大丈夫ですよ」
「私はここでリハビリするしかないけど、あんたは私に付き合って無駄な時間を費やすより、もっと自分のために使いなさいよ」
のぞみはこれまで気になっていたこと、気付いていたことを、今なら蛍に面と向かって言える気がした。
「以前から思っていたんですが、森島さんはよく私のことを気遣ってくださいますね?」
「別に、そんなんじゃないわよ」
「私のためを思って、他の人よりも特別に、厳しく教えてくださるんでしょう?」
蛍はのぞみの純粋な想いを聞いて、これ以上、天邪鬼を押し通すことはできないと観念した。
「それは、あんたを見てるとちょっと、未だった頃の私を思い出すのよ……だから、私と同じ轍(てつ)を踏まないように、つい強く言ってしまうのよ」
蛍の告白を聞いて、のぞみはときめいたように、見開いた目の中にちらちらとを揺らしている。
「やっぱり、森島さんは優しいですね」
のぞみは気分転換するように言う。
「よし、決めました。私はリハビリが終わるまで、毎日來ます」
「毎日?!來なくていいわよ!」
「いえ、來ます」
「もう……。あんたのその変哲な頑固さには負けるわ」
心がくすぐられた蛍(ほたる)は、ここまで食らいついてくるのぞみを気にるより他に考えられなくなっていた。
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