《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》當主様は傍若無人でした。
獅子の鬣(たてがみ)のように奔放な髪と、この場の誰よりも日に焼けた筋骨隆々のに野な雰囲気を纏っている男、グリムド・ロンダリィズ伯爵は、そこに並ぶ農民たちをギロリと睨みつける。
「いいか、テメェら」
ビクリとを震わせる農民たちに対して、グリムド様はさらに唸るような聲を絞り出した。
「この領地は俺のもので、テメェらの命も俺のもので、命令に逆らうことを許した覚えもねぇ。ふざけた陳して來てんじゃねぇぞ!?」
「當主様。言葉遣いはともかく、恫喝はお控え下さい。萎させるのは、話し合いではございません」
その場に立ちったラトニ氏が聲を掛けると、農民たちが振り向いてホッとしたような表を浮かべる。
すると、グリムド様が不機嫌そうな様子ながら口をつぐんだのを見て、彼は穏やかな微笑みのまま、そっと農民たちに目配せをした。
すると、農民代表であるらしき老人が、口を開く。
「ぐ、グリムド様に逆らうつもりなど、私どもには頭ございません! ですが……さ、流石にグリムド様お一人に畑の世話をお任せして、毎年毎年我々だけが休むなど……!」
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「俺より貧弱なクセに何言ってやがる!!」
どうやらかなり短気らしいグリムド様は、そこまで聞いたところでドン! と機を叩いて、再び吼えた。
「今は収穫も終えた休閑期で、殘ってんのは薬草畑と萬年麥、それに畑を休ませる作業と諸々の仕分けだけだろうが!! テメェらは、俺の命令がない限り、壽命以外の理由で死ぬことすら許されねぇ立場だってことを忘れてんじゃねーぞ!! 元気だから働くってんなら、帰ってきた後に収穫祭で気張れや!!」
「そ、その収穫祭の下準備も、お一人でなさるのでしょう……?」
「當然だ!!」
ーーー何が當然なのでしょう?
そのやり取りを傍(はた)から聞いていたアレリラは、意味不明な論理に混していた。
察するに、傍若無人な言いをしている割に、命じているのは農民たちへの休暇らしい、ということだけは察せられる。
「いいか! この領地で(・・・・・)一番の悪は俺だ(・・・・・・・)ッ!!」
グリムド様は、再びドン! と機を拳で叩く。
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「一番偉いのは俺で、一番強いのも俺で、一番賢いのも俺で、一番働くのも、俺なんだよッッ!!」
その言葉に、農民たちの顔がひきつる。
「だからテメェらは休め!! 分かったな!?」
「グリムド様……!」
そんなやり取りを聞いていると、イースティリア様が囁くような聲音で問いかけてきた。
「どう思う?」
「大変個的な考え方かと」
同じく囁くような聲音で答えを返すと、彼は小さく首を傾げた。
「そうか。他には?」
「一貫のある思考かと思われます。なくとも、誰も不利益は被(こうむ)っていないかと」
ーーー理解はし難いですが。
何故悪であることが重要なのか、という點が特に、アレリラにはよく分からない部分だ。
しかし、イースティリア様は小さく一つ頷くと『同だ』とだけ口にして、會話を終えた。
その間に、どうやら堂々巡りになっているらしき會話に、ラトニ氏が靜かに割り込む。
「農民の皆様がた。そして當主様も、し落ち著かれませ」
ラトニ氏が聲を掛けると、また全員が口をつぐんだ。
どうやら、彼の言葉だけは全員が聞くらしい。
「當主様の仰る通り、この領地一番の『悪』は、當主様でなければなりません」
ーーーは?
穏やかな口調でこの場を収めるはずのラトニ氏までもが、妙なことを言い始める。
「そして実際に、お一人でその『悪』をすだけの力が、當主様にはございます。また、おそらくは魔王獣に襲われたとて逆に狩れるだろう頑健なもお持ちで、それが一番の取り柄ですし、短気でワガママですが無能でもございません」
ーーーさりげに失禮な言いですね。
どうやらラトニ氏も、ロンダリィズ伯爵家に近しい分、一筋縄では行かない人のようだ。
そこで一歩前に進み出たラトニ氏は、さらに言い募る。
「皆様がたが、毎年この時期に自分たちだけ休暇を取るのは気が引ける、というのは、理解致しました。なので、こう致しましょう。本來なら數人で赴く、祝祭前の帝都への買い出しの期間を、今回はし長く取ります」
何を言い出したのか、と訝しんだ様子の農民たちに、ラトニ氏は微笑みと共に伝える。
「ですから、妻子や家族を連れて、全員で行ってください。特別手當を出しますので、無理をせぬ程度に、ゆったりと」
「買い出しに、全員で……? で、ですが、帝都までの道中は危険な道もありますし……」
「飛竜便の使用許可を出しましょう。數度往復する必要はございますが、安全に向かえます。伯爵家の管轄ですので、代金は無料です。如何ですか? 當主様」
「良い案だ!」
「では」
聞くだけでも膨大な費用が掛かりそうな提案を即決したグリムド様に、ラトニ氏はまるで最初からこうするつもりだったかのように、懐から取り出した金貨の袋を、代表の老人に預ける。
買い出し、と言っているが、実質はどう考えても休暇旅行としか思えない提案である。
「こ、こんなに、いただけるので……!?」
「買い出し資金に、しをつけておきました。余った分は宿代や食事代など、ご自由にお使い下さい」
覗き込んだ老人の驚きに、ラトニ氏はニコニコと頷いた。
大きさと膨らみ合から、袋には、もし飛竜代をそこに含めても、なお余裕がありそうな金額が詰められていることが察せられた。
「これは賄賂(わいろ)でございます。代わりに、當主様の悪事(・・)や金銭の出どころを、帝都に行っても決して口外なさらぬよう、よろしくお願い致しますね」
どうやらグリムド様に見えないように顔の角度を変えたラトニ氏が、農民たちに対して片目を閉じてから、そっと後ろに下がった。
そして、改めてグリムド様に向き直ると、さらに口を開く。
「當主様。頭ごなしに相手を否定し、領民に全く働かせないというのは一流の『悪』がすべきことではございません。一番働くのは當主様、そして二番目に無理せぬように働くのが領民にございます。それでよろしいでしょう?」
「ああ、多働くのは許してやる! だが、絶対に無理はするなよ!? 死んだり怪我したり行方不明になったりしたら、どーなるか分かってんだろうな!? テメェらは俺のもんなんだからな!?」
「じゅ、重々承知しております……」
「では、話し合いは終わりということで」
ラトニ氏は、それ以上の反論をさせないようにか、さっさと話し合いを打ち切った。
まだ納得いかない様子の農民たちが去ると、グリムド様がニィ、と笑みを浮かべる。
「やっぱりラトニは流石だな!! これで今年も、俺が誰の目から見ても一番の『悪』だ!!」
「お褒めに與りまして、誠に栄でございます。當主様の次に悪巧みに秀でておりますのが、私めですので」
「ガッハッハ、悪いことをするのは気持ちがいいな!! よし、俺は畑に行くぞ!!」
「當主様、お待ち下さい。先日お伝え致しましたが、賓客が既にこちらに足を運んでおられます」
「あん? おお、誰かと思えば宰相か!」
「ええ、お久しぶりです」
本當に気づいていなかったのか、それともトボけているのか、グリムド様がようやくこちらに目を向ける。
「橫のが嫁か!?」
「はい。妻のアレリラです」
「ご紹介に與りました、アレリラ・ウェグムンドにございます。この度は宿泊を快諾いただき、誠にありがとうございます」
相手の地位が伯爵である為、侯爵家の人間であるアレリラは淑の禮(カーテシー)は取らず、手を前に揃えたままピシリと頭を下げる。
「ほぉ?」
ジロジロとアレリラを眺め回したグリムド様は、顎をでてからイースティリア様に目を向ける。
「良いだな! 有能そうだ! うちでしいから、引き抜いても良いか!?」
「良いわけがないでしょう。萬一にもないとは思いますが、拐などなさればウェグムンド侯爵家の全兵を挙げて伯爵領に攻め込みますよ」
「ガッハッハ! そんなチンケな悪事を働くわけねーだろうが! まぁ負けやしないが、諦めてやるよ! ここにいる間は好きにしろよ!」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「じゃあ、俺は畑に行ってくるからな! ラトニ、相手しとけ!」
「仰せのままに。アレリラ夫人はエティッチ様のご友人ですので、後ほど彼のところへ案させていただいても?」
「好きにしろって言っただろ! じゃーな!」
振り向きもしないまま手を振り、ノシノシと歩いて去っていくグリムド様に、ラトニ氏がさらに聲をかける。
「後で、弁當をお持ち致しますね」
「豬をパンで挾んだヤツが良いぞ!!」
「仰せのままに」
ーーー全ての振る舞いが、傍若無人ですね。
貴族の當主が賓客を放って畑仕事をしに行くなど、見たことも聞いたこともない……と思ってから、ボンボリーノに甘薯を掘ったままの姿で出迎えられたことを思い出す。
ーーーもしかして、當主の間で畑仕事をするのが流行っているのでしょうか?
そんな訳が無いと思いつつ、アレリラは小さく首を橫に振る。
別に気分を害した訳ではないけれど、グリムド様の相手をするのは毎日するのは骨が折れそうだとじて、しだけ領民に同する。
決して悪人ではない筈だけれど、破天荒だ。
「今日も領地は當主様の悪意に満ちて平和ですな。良いことです」
「悪意とは」
ラトニ氏の呟きに、心そう思っただけ、のつもりだったのだけれど、イースティリア様がし驚いた顔をなさった後に、微笑む。
「意外だな。君がそんなことを口にするとは」
「!」
指摘されて、自分が気持ちを口にしたことに驚いたアレリラは、思わず指先を口元に添える。
「失禮致しました」
「構いませんよ。この領地では、ああした行が『悪意に満ちたもの』なのです。それでは、部屋にご案致しますね。旅の汚れを落とされた後、ラスリィ様、並びにエティッチ様との歓談の場を用意させていただきます」
「頼む」
イースティリア様がラトニ氏を見つめたまま応えると、彼は先立って執務室を出て、さらに屋敷の奧へと歩を進めた。
コミカライズ3話が本日更新されていますー♪
【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔術師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】
※書籍化決定しました!! 詳細は活動報告をご覧ください! ※1巻発売中です。2巻 9/25(土)に発売です。 ※第三章開始しました。 魔法は詠唱するか、スクロールと呼ばれる羊皮紙の巻物を使って発動するしかない。 ギルドにはスクロールを生産する寫本係がある。スティーヴンも寫本係の一人だ。 マップしか生産させてもらえない彼はいつかスクロール係になることを夢見て毎夜遅く、スクロールを盜み見てユニークスキル〈記録と読み取り〉を使い記憶していった。 5年マップを作らされた。 あるとき突然、貴族出身の新しいマップ係が現れ、スティーヴンは無能としてギルド『グーニー』を解雇される。 しかし、『グーニー』の人間は知らなかった。 スティーヴンのマップが異常なほど正確なことを。 それがどれだけ『グーニー』に影響を與えていたかということを。 さらに長年ユニークスキルで記憶してきたスクロールが目覚め、主人公と周囲の人々を救っていく。
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運命のように迷いついた先のホテルは普通のホテルではなかった。 そこに居た従業員には大きな秘密があったのだ。 だが、誰がそのホテルに私を導いたのか 私の運命を左右するホテルでの出來事は誰が導いているのか。 謎と恐怖の先にあるものを手にした時に人はどうなるのだろか? どうぞ心の準備が出來ましたら、ページを進めて下さいませ。 恐怖と人々の思いが絡まったラビリンスから出れますことを願っております。 主な登場人物 ~Fog HOTELの従業員~ 優 ジェネラルマネージャー リーダー的存在 戦略を立てるのが好き。 恵吾 シェフ 副リーダー的存在 仲間の仲介役。 光 ベッドメイキング 誰にも束縛されず自由を愛している。 快 ウエイター 臆病者でいつも仲間の顔色を気にしている。 零士 ウエイター 喧嘩ぱやいが、誰よりも熱い思いを隠している。 青空 ベルボーイ いつも笑顔でいるが、本當の自分を隠している部分もある。 歩夢 バトラー いつも落ち著いた雰囲気で、信仰深い。 不定期ですが小説が出來次第、隨時アップしていきますので楽しんでいただけたら嬉しいです。コメントなどはお気軽にして頂けたら作品の參考にさせて頂きます(⁎ᵕᴗᵕ)⁾⁾
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