《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三百五十話 イザークの苦悩⑦

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第三百五十話

月さえも落ちた深夜。空には無數の星が瞬き、壯大な星の大河を作り出していた。

イザークは天幕の前で、歩哨に立ちながら星空を見上げた。

星々のしさだけは、どこで見ようとも変わらないなとイザークは故郷に思いを馳せた。しかし郷の念も一瞬のこと、思考は晝間に犯した失態を思い出した。

ロメリアを前に、素直に話して余計な報を與えてしまった。

なんたる失態と、イザークは悔恨に顔を顰めた。一方で心するのは、同行したアザレアのことであった。

同じを見ていたはずなのに、彼は見えないを見ていた。素晴らしい慧眼と言える。それに思い返せば彼は所作が洗練されており、歩く姿にも気品があった。高い知と教養が、銀の仮面の下からじられる。

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自分もかくあらねばと、イザークは気を引き締めた。そして警備にを出すべく、大きく息を吸い込んで周囲を見回す。

もし何者かが自分達を害そうとするならば、それは間違いなく夜のうちだ。夜に紛れて行われるだろう。

イザークは天幕に近づく者がいないかと、四方に目を配った。

左に目を向けると、天幕の周囲を覆う柵が途切れることなく続いている。左に異常がないことを確認したイザークは、今度は右へと首を返した。

右を見ると、同じく木の柵が続いている。ただし右にはもう一つ天幕が設置されていた。アザレア達陣のための天幕だ。こちらには誰も警備は立っていない。

陣の天幕は靜かなものだった。夜も遅いため、すでに眠っているのだろう。イザークが視線を前に戻そうとした時、天幕かられ出るの點が視界に引っかかった。

移しかけていた視線を戻し、イザークはの點をまじまじと見た。改めて確かめてみると、やはり陣が使用している天幕の布に、が開いてれていた。

天幕の布が破けるのはよくあることだった。しかしここは敵地の真ん中だ。もしかしたら人間たちが部を覗き見るために、開けたものかもしれない。

早急に修復しておく必要がある。だが既に暗いため明日にするしかない。イザークはどれぐらいのが空いているのか、今のうちに確かめておこうと陣の天幕に歩み寄った。

天幕に空いたは腰の位置程の高さにあり、イザークは膝を折って確かめた。幸いは小さく、補修は簡単そうだった。

明日しっかりこのをふさいでおこうと、イザークが立ちあがろうとしたその時だった。空いたから天幕の側でく影が見えた。

黒い皮の長外套を著たアザレアであった。アザレアは機に向かい、何か書類仕事をしていた。

図らずしも覗き見をしてしまったことに、イザークは慌てた。覗きなど男のすることではないと、すぐに立ち去ろうとした。だが目を逸らそうとした瞬間、イザークの視線はアザレアの顔に吸い込まれた。

アザレアの顔を常に覆っていた腐病の面は取り外され、素顔が顕となっていたからだ。イザークの視線はアザレアに吸い付き離れなかった。心を占めるはただ一つ。

しい……。

イザークの心はへのに満たされた。

アザレアがにつけている腐病の面とは、病により顔が腐り落ちた者が、醜く爛れた顔を隠すために使用するものだ。しかしアザレアの素顔には傷ひとつなく、の結晶とでも言うべき姿がそこにあった。

赤い鱗にはしみひとつなく、艶やかな輝きを放っている。紅玉の如き瞳には長いまつで彩られ、鼻はスッと長い。口の周りはほんのりと赤く、花の様にづいている。下からにかけては、鱗ではなくらかそうな白い皮に覆われ、呼吸のたびに艶かしく蠕している。

目や鼻、まつの一本に至るまで、緻なしさがあり、その全てが完璧な均衡で配置されていた。

まさに神の降臨。しいと言う概念が形を持った姿とすら言えた。

あまりのしさにイザークは固唾を呑む。だがその音に気付いたのか、書類に目を落としていたアザレアが不意に顔を上げた。

覗き見をしていた気まずさから、イザークは慌ててその場を離れた。そして持ち場に戻り、警備をしていた様に取り繕う。

アザレアが出てくるのではないかと、イザークの揺に高鳴る。だが幸いアザレアはイザークに気づかなかったのか、外に出てくることはなかった。

イザークがホッと息を吐きかけたその時、背後から突然聲をかけられた。

「イザーク、代だ。……って、どうかしたのか?」

背後に立っていたのはゴノーだった。しかしイザークは驚きのあまり心臓が止まりそうになり、すぐに返事が出來なかった。

「……い、いや、なんでもない。あとは頼んだ」

イザークはボロを出さないように、すぐに代して天幕にった。

天幕では衝立を挾んで二つに區切られている。奧はギャミの部屋であり、手前にはイザーク達三人が眠るべく、三つの布が敷かれている。布の真ん中ではサーゴが橫たわり、いびきをかいていた。

イザークも眠るべく、サーゴの左にを橫たえる。今日は々あり、は疲れ切っていた。しかし頭は興して眠れなかった。無理矢理目を瞑っても、瞼にはアザレアの素顔が焼き付いている。

アザレアの素顔を思うだけでイザークのは高鳴り、悶々としたが頭の中を占領する。そしてついに一睡もすることなく朝を迎えた。

イザーク君おやおや

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