《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》×2-11

皆さま、ご無沙汰しております。すずすけです。

なかなか投稿が出來ず、申し訳ございません。

かなり投稿頻度が遅くなってしまいますが投稿を続けていきたく思います。

今後とも、拙作のほうを宜しくお願いいたします。

また、こちらの章ももう數話ほどで終了いたしますので、引き続きどうぞお楽しみください。

それでは。

「この小屋はあたいの魔がかけてある。エイちゃんが持つその本と同じ質、魔の呪いの中でも殘り続けるさね」

小屋の中に二つの足音と、車が転がる音。

シギュンが窓に指をかけ、小さく開けられた隙間から外の青々とした風が小屋に吹き込んでくる。

「エイちゃん。そこの棚にその本をしまいな」

「えっ? ここに?」

がらんとした本棚を前に、どこにしまおうか悩んだエインズだったが中途半端な位置に一冊だけを置いておくのが気持ち悪くじられたため、本棚の一番端に靜かにしまった。

「さっきエイちゃんはこの本棚が寂しいと言ったね?」

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「うん、それがどうしたのシギュン婆さん」

「あたいとしてはね、この本棚が全て埋まらないほうが幸せなんだけどね……。だけど、間違いなく本棚は一杯に埋め盡くされる」

「そんな。シギュン婆さん、この壁を覆い隠すほどの本棚だよ? いったいどれだけの本がると思ってるのさ」

本は貴重でかなり高価なものである。

この本棚を全て埋め盡くす數となると、それだけで立派な屋敷が建ってしまうほど。

それくらい本が高価なものであることを知っているエインズは、シギュンの言葉にあり得ないとばかりに噴き出してしまった。

「ここに並ぶのはおおよそほとんどの人間からしてみれば無価値なものさね。この小屋、そしてこの本棚はエイちゃんのためのものであり、エイちゃんのためだけにその価値を発揮する。ここはエイちゃんにとって始まりの場所となるのさ」

「……なるほど」

そう頷くが、エインズは理解していない。だが、シギュンがそう言っているのだからそうなのだろうと問うこともなく飲み込んだ。

「その本はエインズくんの分といってもいいからねぇ。きみは分によって、導かれるようにこの小屋に訪れる」

車いすに手を置いていたイオネルが車いすから手を放し、ゆっくりとエインズの正面へ回り込んだ。

「森の奧にある小屋。壁を覆い隠す本棚とそこに並んだ本。エインズくんは間違いなくその本、きみの分を手に取るだろうねぇ」

それはつまり終わりを実し、そしてまた次の始まりを実することと同義だとイオネルは結んだ。

この膨大な數を納められる本棚がいっぱいになることはつまり、それだけの苦悩を経験し、挫折を経験し、絶を経験することを意味する。

人の一生は災いと福が変転していきながら歩まれる。幸せな人生も不幸せな人生も等しく福が訪れ、災いが訪れる。

禍福は糾える縄の如し。しかしこと、魔師において縄の切れ端を追うことは理に生きる人間のそれと比較することができない程に長い年月を必要とする。

場合によっては縄をたどるその作業は魔の呪縛により永遠となってしまう可能すらあり得る。その永遠の中ですり減った神が自らの縄を斷ち切ってしまう魔師すら生まれてしまうこともあるのだ。

師がを、祈りを顕現させる力を保有したまま心が折れ廃人となってしまう瞬間である。

しかしそれを想像することができないエインズ。

同じ魔師としてその永遠にたどってきた縄の上で、孫のように接してきたエインズが自分と同じ修羅の道を歩まんとすることを憂うシギュン。

それでもたどった縄を視認できないよりは幾分もましである。エインズが自の分に手をれさせた時、かなりの負荷がその魂にかかるだろうがそれでもこれまでの歩みを霧散されないことに次回への突破口が見つかるかもしれないのだ。

シギュンの魔は魔師を救うための魔。でありながら、視認させてしまうことで同時に魔師を苦しめてしまう魔でもあるのだ。

その矛盾ともとれる、自の魔に対する苦悩こそが彼が□□に至らない要因でもあるのだ。

「それじゃあ、帰ろうかエイちゃん」

「うん? もういいの?」

「ああ。エイちゃんにここを見せて、そしてその本をここに保管することが目的だったからね」

帰り支度を始めるシギュン。

それにあわせてイオネルがエインズが座る車いすに手をかける。

小屋を出て、鍵も閉めずに離れようとするシギュンにエインズが不安を抱いた。

「鍵は閉めなくていいの? 誰かが來て勝手に住んでしまうかもしれないよ?」

それに答えたのはイオネル。

「心配いらないよぉ。ここまで來るのには相當に魔法もしくは剣の腕が必要になるからね、ほら強力な魔獣が多いからさ」

帝國にいる腕の立つ有力者なら小屋までたどり著くことができるかもしれないが、彼らが住みやすい帝國を離れ、辺境の村の森の奧深くにあるこの小屋に訪れることはないだろう。

「それに、鍵を閉めてしまったらエイちゃんが開けられないじゃないかい」

首を傾げるエインズに笑って答えるシギュン。

それは小屋に來る者はいないということと、エインズならば自力でたどり著けるという二つを信じて疑わないシギュンのりのない表

「それならいいんだけど」

三人はこうしてタス村の森をあとにした。

ドアを開け、シギュンの家まで戻ってきた三人を待っていたのはすでにジデンが準備していた夕食の香しい匂いだった。

「皆さん戻られましたか、お疲れ様でした」

「坊や、手際が良いねえ。あたいもエイちゃんも丁度空腹だったから助かるよ」

ジデンに促されテーブルに著く三人。

「エインズ君もお疲れ様でした。……どこか顔がげっそりとしているのですが何かあったのですか?」

「いいやぁ? 大したことはないよぉ。ただ、強化をして高速で走ってきたからねぇ、車いすに乗っていたエインズくんはその激しい振にやられてしまっただけだよぉ」

「イオネル様……。それは大したことありますよ」

ジデンは「大丈夫ですか?」とエインズに聲をかけて、イオネルに代わって車いすをテーブルの前まで移させる。

小さく「ありがとうございます、ジデンさん」と呟くエインズに夕食を食べられるかと尋ねるジデン。

こくりと一つ頷くエインズに「食べやすいスープだけ食べましょうか」と提案し、エインズの前にスープのったを置いた。

変わらないシギュンとイオネルの前にはスープにパン、料理が置かれそれぞれ手をつけ始めていた。

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