今日は、早朝からリリサイド親子と森を駆けている。

目的地はカネルラ王都。訪れる目的は、友人であるカリーに會うため。そして、ドナに街を験してもらうためだ。

「かぜがきもちいい～！」

併走するリリサイドの背に乗ったドナは楽しそうな表。

「リリサイド。疲れてないか？」

『大丈夫よ。丁度いいくらい』

馬種としては若干小柄だけど、リリサイドも駆けるのは速い。

「お母さん、はやい！ドナも大きくなったらはやくなる！」

「そうだね。ドナならもっと速くなれるさ」

「むっふぅ～！ウォルトにもまけない！」

「ボクも負けないよ」

休み休み駆けて、もうしで森を抜けるというところまで來た。一旦リリサイドに人型に変化してもらい、今日のために作っておいた服を渡す。

「魔力糸で編んで魔力付與してるから、力を使わなくても姿は戻らないよ。數日持つと思う」

「ありがとう。似合うかしら？」

「似合ってるよ。リリサイドに似合うと思う服を作ったけど、想像通りだ」

「ドナのふくもありがと！」

「どういたしまして。ドナも似合ってるよ」

「やった！」

ドナにもお出かけ用の服を用意した。一応、サマラに流行りの子供服を聞いてみたけど、これで合ってるのかわからない。

「じゃあ、行こうか」

森を抜けてからは、のんびり歩いて進む。

カリーは、騎士団所屬の騎馬。夜までは訓練施設か廄舎にいるはず。予定の時間よりかなり早く著いたので、二人と王都を観しよう。

「お母さん！何かあるよ！」

「えぇ。街が見えてきたわね。建が沢山建っているでしょう」

「まんなかの、おっきいのなに？！」

「あれがお城よ。この國の王様が住んでいるの」

「おうさま！えらい人だ！」

「そうよ」

街に行くにあたって、リリサイドが事前にんなことを教えたらしい。最近のドナは、何にでも興味があって、直ぐ覚えるから苦労しないと笑った。

どんどん大きくなる王都。

昔を考えると、ボク自が一番信じられない。こんな頻繁に王都を訪れることになるなんて、想像もできなかった。

いつもの如く東門から王都へる。

「アンタは！久しぶりだな！」

「お久しぶりです」

相変わらず元気で爽やかな門番だ。ボクの顔を覚えてくれていて、いるときは必ず聲をかけてくれる。

「ほら、ドナ。教えたとおりに挨拶しなさい」

「うぅ～…。……こんにちは！」

「おぉ！こんにちは！可い娘さんだな！王都を楽しんでいけよ！」

「あい！たのしむ！」

黙って頭をでられるドナ。最初は警戒してるけど、人に慣れるのは早い。ボクは慣れなかったなぁ。

「ひとがおおくて…くさい！」

「そうね。街はんな匂いが混ざってる。そういうものよ」

落ち著かない様子でキョロキョロするドナと、手を引く冷靜なリリサイドは対照的。街の経験も富なんだろう。

「ボクも王都には詳しくないんだ。かなり時間があるから、々な場所に行ってみようか」

「そうね」

「おなかすいた！」

「だったら、先ずは市場に行こう。屋臺も沢山あるよ」

「やたい！しらないけど、おもしろそう！」

三人で歩いていると、妙に視線をじる。理由はわかってるけど。

「何か注目を浴びてないかしら？もしかして…私達は目立ってる？」

「注目されてるのはボクらじゃなくて、リリサイドが人だからだ」

振り返るのも男ばかり。

「お世辭が上手いのね」

「ボクはお世辭は言わない。直ぐバレるからね」

「ふぅん…」

サマラも言ってたけど、人型のリリサイドは人。その位のことを見分ける審眼はあると思ってる。

「あっ！すごくおいしそうなにおいがする！」

「行ってみようか」

屋臺が並ぶ區畫に移する。

「たべもの、たくさんある！」

「ドナ。食べるのは一つだけよ。しっかり考えて選びなさい」

「えぇ～！？もっとたべたい！」

「仕方ないわね。じゃあ、２つよ。それ以上はダメ」

「あい！！どれにしようかな…」

ドナは真剣に選んでる。こうして選ばせたり、我慢を覚えるのも勉強。リリサイドは、娘のことをよく考えてるなぁ。

「悪いわね。お金を使わせて」

「構わないよ。こんな時しか使い道がないんだ」

ナバロさんから請け負う修理や品の売買で、お金に余裕はある。最近は、け取らないと怒られるから抵抗せずに有り難く貰っている。

冒険で薬草採取したときの報酬も殘ってるし、街に住んでいればあっという間に使うお金も、森にいれば使える場所もない。

「ウォルト！これと…あっちのたべたい！」

「わかった」

ドナが選んだのは、甘味と串焼きか。先に串焼きだな。

「食べたいのを指差して、「これを頂戴」って店の人に言うんだ」

「あい！これちょうだい！」

「はいよ！何個だい？」

「さん！」

「ちょっと待ってな。……はいよ！」

「ドナ。これをおじさんに渡して。お金っていうんだ」

「あい！おかね！」

「丁度だな。毎度あり」

串焼きをけ取って、ドナとリリサイドに渡す。リリサイドには野菜だけの串焼きを頼んだ。

「ドナ。ウォルトにお禮を言いなさい」

「なんで？」

「お金を出してもらったでしょう？お金がないと食べは買えないの。そのお金は、ウォルトのものよ」

「しらなかった！ウォルト、おかねありがと！」

「どういたしまして。さぁ、食べよう」

「うん！……おいしい！」

「確かに味しいわね」

食べ終えて、次は甘味の屋臺へ。買うときは、簡単だったのでドナにお金の計算をしてもらおう。

「むぅ～……。わかった！あわせて、さんじゅうトーブ！」

「正解。お店の人に渡してね」

「あい！これで、あまいのみっつちょうだい！」

様子を見ていた店のおばちゃんの頬が緩む。

「はいよ。アンタは賢い子だねぇ」

「ドナ、かしこいの？」

「賢いさ。これからも、たくさん勉強するんだよ」

「あい！べんきょうする！」

「一個はおまけだよ。いっぱい食べて大きくなりな」

「おまけ？」

「一つドナにあげるってことだよ」

「ありがと！！」

甘味を口いっぱいに頬張るドナは可い。

「ウォルト。私の分をあげるわ」

「リリサイドは甘いのは食べれないのか？」

「果なら食べれるけれど、人工的な甘みは苦手ね」

ボクもあまり得意じゃないけど、たまにはいいか。

なかなかの甘さを噛みしめながら頂いていると…意外な人に遭遇する。

「ウォルト様！」

聲の主は…というより、ボクをそう呼ぶのはこの世に一人だけ。

「お久しぶりです。ドルジさん」

バーレーン家の執事であるドルジさんだ。息を切らして、なにやら慌てている。

「はぁ…　はぁ…　親子水らずのところ、お聲かけして申し訳ありません…」

「親子ではないです。どうかされましたか？」

「アーツ様をお見かけしませんでしたか！？」

「アーツを…？見かけていませんが」

「そうですか…。では、失禮致します！」

ドルジさんは再び走り去ろうとする。

何故か気になって、立ち塞がるようにして尋ねた。

「アーツがどうかしたんですか？」

「…突然、いなくなってしまったのです」

「心當たりは？」

「あります…。はっ…！申し訳ありません！急ぎますのでっ！！」

「そういう事であれば、ボクも捜すのを手伝いたいのですが、ダメでしょうか？」

「何故…？」

「アーツはボクの友人なので。それだけですが」

「……助かります。お願いしてもよろしいでしょうか？」

「心當たりというのは？何処ですか？」

「そちらについては、私の口からは……うぅっ…！！」

突然を押さえてうずくまる。

「大丈夫ですか！？」

「…大丈夫です。久しぶりに走ったもので……持病が……うぅっ！」

もしや心臓か？

ドルジさんのに手を添えて『治癒』を使う。せめて痛みが和らげば。

「ふぅぅ………し楽に…。何故…？」

「これです。治癒魔法の効果があります」

掌の魔石を見せる。

「忘れておりました…。貴方様は、魔石使いでしたな…」

「一時しのぎです。薬は持っていますか？」

「屋敷に戻れば…。しかし、そんな暇は…」

「そのでは何もできません。倒れるだけです。一度戻りましょう」

申し訳ないけど、頼んでみよう。

「リリサイド、ドナ。ボクの友達が急にいなくなったらしいんだ。捜したいから、行ってもいいかい？夜には戻るから」

「何言ってるの。私達も一緒に行くわ」

「ドナもいく！」

「いいのかい？」

「何か力になれるかもしれないわ。邪魔はしない」

「ウォルトのともだちをさがす！」

「ありがとう。じゃあ、ボクに付いてきてくれ」

けそうにないドルジさんを背負い、ボグフォレスさんの屋敷を目指す。

★

屋敷に到著して、玄関をノックすると使用人らしきが顔を出した。

「どちら様で……ドルジさん！？」

「市場にアーツを捜しに來て、発作が出ました。薬が屋敷にあると聞いたので連れて來ました」

「大変！！みんなっ！ドルジさんがっ！」

ボクらはまとめて中に通され、ドルジさんをベッドに寢かせる。

周知の事実なのか、使用人達のきは迅速で、薬を飲ませるとドルジさんの様子は落ち著いてきた。

「ドルジ！！」

大きな聲とともに部屋に飛び込んできたのは、ボグフォレスさんだ。

「旦那様…。申し訳ありません…。アーツ様を…見つけられず…」

「気にするでない。今はとにかく靜養しろ。し休め」

「…はい」

一息ついたボグフォレスさんは、ボクらに気付いた。

「お主は……あの時の…」

「お久しぶりです。発作の場面に遭遇して、ドルジさんを連れて來ました」

「…そうか。深く謝する」

「アーツがいなくなったと聞きました。ボクも協力して捜したいんですが、心當たりがあるんですよね？」

「そうか…。ドルジから聞いたのだな…。だが、巻き込むわけにはいかん」

何か事があるのか。

「しでも早く友達を見つけるために、今ある報を聞きたいだけです。無理なら言わなくて構いません。勝手に捜します」

「むぅ…」

どうやら教えてくれそうにないな。

「リリサイド、ドナ。一緒に來てくれないか？」

「もちろんよ」

「いく！アーツをさがす！」

「其方達は…？」

「ウォルトの友人よ」

「ウォルトのともだちは、ドナのともだち！いっしょにさがす！」

「よし。行こうか」

部屋を出ようとして、呼び止められる。

「待ってくれぬか…。…知ってることを教えよう」

「いいんですか？」

「あぁ…。座ってくれ」

リリサイドと並んでソファに座る。使用人達は席を外した。気を使ってくれて、ドナと遊んでくれるみたいだ。

「これから口にすることは他言無用で頼む」

「わかりました」

「あくまで推測だが…アーツは攫われたのだ」

「攫われた…？誰にですか？」

「バーレーン家を狙う者に…だ」

「話が全く見えません」

「し前から、バーレーン家に渉を仕掛けている輩がいる。名は明かせないが、九分九厘其奴らの仕業だ」

「アーツを攫った目的は何ですか？」

「脅迫だ。『要を飲まないのなら、実力行使に出る』という意思表示だろう…。何度も警告じみた発言をされているのだ」

「ソイツらの要とは？」

「奴らの推薦する者と養子縁組しろ、という要だ」

「この家に寄生しようという魂膽ね」

リリサイドが冷靜に訊く。

寄生…？

「その通りだ。直系が儂とアーツしか殘らぬバーレーン家に狙いを定め、甘いを吸うために近づいてきた」

「たった一人の孫を人質に渉を立させ、懐にればこちらのもの。あとは、骨の髄までしゃぶりつくすつもりね。當然斷ったのでしょう？」

「當然だ。何度渉されようと、けれる選択はない。だからこそ…奴らはアーツを攫った。しびれを切らしたのだろう。庭で元気に遊んでいたのだ…。ほんのし目を離した隙に…」

孫を可がる気持ちが油斷を招いた、ということか。けれど、理解できるし責めたくない。アーツは、まだ遊びたい盛りの七歳の子供だ。

「下衆の極みね。けれど、貴方の油斷が招いたこと」

「その通りだ…。しばらく部屋に閉じ込めていたアーツを、よかれと思い…」

「衛兵に相談したの？」

「していない。奴らは…衛兵に接したと判斷したならば、アーツを殺め即刻姿を消すと脅して…。どうにか裏で解決策を探っていたところだったのだ」

聞けば聞くほど…腹が立つ。

「貴族である限り、綺麗事だけでは生きていけない。わかっているのよね？」

「當然だ。だが…儂には信念と、どうしても手放せぬものがある。バーレーン家とアーツを天秤にかけられぬのだ」

ふぅ…。一旦落ち著こう。

「ボグフォレスさん。奴らの居場所に見當はついていますか？」

「わからない…。おそらくだが、他國からの流れ者だと思われる」

「いろんな國で、常習的に拐を行っていると言いたいのね」

「そうだ。今回も上手くいけば、家を衰退させたあと、行方をくらますつもりだろう」

「であれば、闇雲に捜すより良い手段を考えましょう」

「何か考えがあるというのか？」

「今から、良い案がないか友人に聞いてみます」

「なに…？どういう意味だ？」

ボクの伝手など、言っても信用してもらえないだろう。けれど、時間が惜しい。ボグフォレスさんも納得する人に連絡しよう。

魔伝送を取り出し、魔石にれる。

「なんだ、それは？」

ボグフォレスさんの問いには答えず、しばらく待っていると応答してくれた。

『ウォルト！どうしたの？こんな晝間に連絡なんて珍しいね！』

「なっ！？いきなり聲が？！」

ボグフォレスさんは大袈裟に驚いてる。でも、初めてコレを見たときはボクも驚いた。

「急にゴメンね。忙しかったかい？リスティア」

「リ、リスティアだと！？」

『いつでも大丈夫だよ！…って、近くに誰かいるの？』

「バーレーン家のボグフォレスさんだ。家にお邪魔してるんだけど、知ってるかい？」

『もちろん。この國の貴族は、皆知ってるよ。ボグフォレス、建國記念式典以來だね！』

「は、はぁ…。もしや…リスティア王様であらせられますか…？」

『そうだよ！そこにいるウォルトは、私の親友なの！何か事があるんでしょ？信用して何でも話してあげてね！あと、ウォルトと私の関係は誰にも言わないで♪』

「りょ、了解致しました。肝に銘じます」

さすがリスティア。話が早い。

「リスティアに相談があるんだ」

『なぁに？』

「ボグフォレスさん。事を説明してもいいですか？」

コクコクと頷いてくれる。

「実は……」

これまでの経緯を説明する。

「…というわけで、アーツを捜したいんだけど、何か報がないかと思って。それか、いい案がないかな？」

『それは一大事だね。私は怒ってるよ』

「どうしたの？」

『アーツのことは當然だけど、その輩は私の外出も邪魔した奴らだね。…というわけで、報を渡すから、そこでしだけ待ってて』

「報を渡す？どういう意味だい……って、リスティア？リスティア～！」

通話は切られてしまった。

「よくわかりませんが、とりあえず待ちましょう」

「わからないのは儂の方だ…。お主は…一何者なのだ…？」

「ただの獣人なのよ。ふふっ」

「リリサイドの言う通りです」

リスティアを信じてとにかく待とう。アーツが無事でいてくれることを祈りながら。