《モフモフの魔導師》505 潛と呼ぶには荒っぽく
リスティアと話したあと、落ち着かない様子のボグフォレスさんを横目に、独り思案する。
アーツを攫ったことに脅迫する意図があるなら、命を奪うことまではしないだろう。人質は、生きていてこそ価値がある。アーツが無事でなければ、ボグフォレスさんが条件を飲むことはない。
ただし、それは策を巡らせる者であればの話。単なる愉快犯のような輩であれば、何をしでかしても不思議じゃない。
いずれにせよ、一刻も早く救出することが最優先。
「ウォルト。訊いてもよいか?」
「何でしょう?」
「お主は、アーツと会ったのは一度きりのはず。何故、ここまでしてくれるのだ?」
「何故って…友人だからです」
「さっきも言ったが、会ったのはただ一度だぞ?」
この人は、何が言いたいんだ?
「ボクは元々友人がなかったんです。今は増えましたが、友達を大切にしたい。会った回数は重要ですか?」
アーツとは遊びながら友人になった。だから助けたい。
「いや…。変なことを尋ねてすまぬ…」
「はっきり訊けばいいのに。何か礼を期待しているのか?って」
なるほど。そういう意味か。
リリサイドは勘がいいな。
「思ってもおらぬよ。お主は、以前の礼すら断ったとドルジから聞いた。だが…一言だけ言わせてくれ。アーツの魔力酔いを改善してくれて、本当に謝している。あれから、日々元気に過ごしているのだ。ありがとう」
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頭を深々と下げられる。
「元気に過ごせているならなによりです」
「できるなら、もう1つだけ訊きたい」
「何でしょう?」
「お主は、もしや…」
…と、ドアがノックされた。
「どうした?」
「旦那様。ウォルト様にお客様が…」
「ボクにですか?直ぐ行きます」
玄関に向かうと、外で待っているとのこと。
礼を告げてドアを開けると……変装したサスケさんが立っていた。見事な変装だけど、匂いでわかる。
「久しぶりだね」
「お久しぶりです。もしかして…」
「そう。王様の使いで来たんだ」
報を渡す、というのはこういう意味だったのか。
「忙しいのに、わざわざすみません。まさかこういうことだとは…」
「事は王様から聞いた。俺達にも関係ある話だ」
「暗部に?」
「他国の不穏分子が王都に潜んでいる報は既に掴んでいたし、城も特定している。この屋敷を訪れていたのも」
「そうだったんですね」
「だが、怪しいきを見せなかった。ボグフォレス卿からも衛兵に通報はない。目的を掴みかねていたところに、君からの報がった。カネルラの貴族を脅迫するのなら、他国への干渉とみなす。衛兵だけでなく、我々もく案件だ」
「そうなんですね。でも、今回はボクに任せてもらえないでしょうか?」
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サスケさんは苦笑する。
「そう言うと思った。…というか、王様から「場所と輩の報だけ教えてあげて」と言われてるんだ。そして、「暗部は話を聞かなかったことにしてしい」と。シノさんは了承した。この件に関して、暗部は不干渉だ」
気が済むように行したいボクの思考を読んでるなぁ。四姉妹もそうだけど、わかりやすいということか。
「というわけで、俺は報を伝えに来た。あと、王様からの伝言を」
「何でしょう?」
「『黙ってカネルラを去られては堪らない。できるならお願い!』…と。意味がわかるかい?」
「わかります。確かに聞きました」
「では、本題だけど…」
サスケさんから報をもらう。人数や風貌の特徴を教えてくれた。
「これから約一時間程度、暗部の監視が外れる手筈になってる。君の行は、誰にも見られない」
「わかりました。何から何までありがとうございます。この恩は、いつか返します」
「必要ないよ。薬の件で恩があるのはこっちだ。あと一つだけ。君が救出に失敗したら、暗部は直ぐにく。子供の命が最優先。それを忘れないでくれ」
「その時は、アーツのことをお願いします」
とても心強い。暗部が控えているなら、ボクがどうなったとしても、アーツは大丈夫だ。これもリスティアの計算の内か。
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「因みに、奴らのアジトに子供が連れてこられた形跡はなかった。犯人ですらない可能もあることは伝えておく」
「詳しい報をありがとうございます。ちゃんと確かめます」
サスケさんを見送って部屋に戻り、ボグフォレスさんに報告する。
「奴らの城がわかりました」
「そうか!さすがリスティア様だ!」
「既に不穏分子として暗部が監視していたようですが、城にアーツが連れてこられた形跡はないそうです」
「なんだと…?どういうことだ…?攫ったのは奴らではないのか…?我々の、勘違いだというのか…?」
「わかりません。ですが、ボクは行ってみようと思います。行かなければ何も進まないので」
「むぅ…。そうなると、腕の良い冒険者を雇って護衛に…」
「必要ないです。貴方は此処で待っていてもらえませんか?ボクが帰ってこなければ、暗部がきます。ご心配なく」
「初めから任せたらどうだ。本当に行く気か…?」
「行かないという選択はないです。リリサイドは…」
「ドナと一緒に此処で待たせてもらうわ」
「ありがとう」
理解が早くて助かる。
「行かせていいのか?お前たちは番だろう?」
「番じゃないわ。……ふぅ」
「なんだ?儂に言いたいことがあるのか?」
「し落ち着きなさい。自分の手を汚すつもりがないなら、黙って静観するべき。ウォルトが心配なら、さっさと他の手を打つべきだし、この状況で心配するような口を利くのは、ただの偽善でしょう」
「むぅっ…」
「リリサイドとドナをお願いします」
「無事に帰ってくるのよ。貴方がいないと何処に行けばいいかもわからないんだから」
「わかってる。最善を尽くすよ」
とにかくけ、だ。
★
『隠蔽』で姿を消し、教えてもらった城の近くまで来た。王都でもかなり外れに建っている一軒家。
サスケさんの報では、誰も住んでいないはずの空き家のはず。そこに、堂々と出りしているという。
玄関に立ってドアをノックしてみる。
反応どころか、耳を近づけても音一つしない。そっとノブを回しても、やはり鍵がかかっている。
『周囲警戒』
魔法で家の中を探る。魔力で知されないよう一瞬で終えた。確認できた人数は三人。部屋の配置も理解した。先ずはこれで充分。
ドアを破壊すればるのは容易だけど、アーツがいないとは限らないし、まだ犯人だと特定できてもいない。
安全策を選ぼう。こっそり潜できる方法がないか…。
ん…? 何か視線を…。
路地裏にを隠して家を見つめる男がいる。もしかして見張りか?そうだとすれば、意外に用心深い。
気付かれぬよう遠回りして背後に回り、姿を見せて声をかける。
「こんにちは」
「うわっ!?誰だお前?!」
「こんなところで何してるんですか?」
「…うるせぇな!あっちいけ!……むぐっ!?」
口を正面から手で掴んで、声を出せないようにする。
「ん~!ん~!」
「…お前は、バーレーン家を狙う一味か…?」
体臭が変化した。ボクの嫌いな匂いだ。
「バーレーン家の子供はどうした?」
「………」
「だんまりか…」
掴んだままの手から爪を出して、頬に突き刺す。
「ん~~!んん~っ!」
「次はを切り裂く。話す気になったか?」
激しく瞬きする男から手を離す。
「…ぶはっ!お前、こんなことして……」
「無駄話を聞く時間は無い」
爪をに突き付ける。
「ま、待てっ!待ってくれ!!言うっ!!あのガキは、此処にはいねぇ!」
良い報せではないけれど、アーツを攫ったのはコイツらの犯行で確定した。
「じゃあ何処にいる?」
「……」
「あの家の奴らに訊くことにするか。もうお前に用は無い」
「…くそっ!」
男は路地から逃げ出そうとするが、逃がすわけがない。
「ぐあっ…!足がっ…!?かねぇっ!?」
『風流』で両踵の腱を切断した。治療しなければ治らない。
「フゥゥ…。ウラァァ!!」
「ぐはぁ…!!」
踏み込んで顔面を蹴り飛ばすと、白目を剝いて気を失った。『混濁』と『睡眠』を強く付与して捨て置く。
再び姿を消して城に向かい、玄関のノブに触れる。
『闇蛇』
鍵の中に、小さな闇蛇を送り込む。
………もういいか。
ノブを回すとカチャッと回った。鍵から、鍵の内部だけ浸食して破壊しただけ。
ドアを吹き飛ばすのは簡単だけど、空き家とはいえ所有者にとって思い出の残る家かもしれない。無駄な破壊は控えるべき。
顔だけれて中を覗いても、人の姿はない。さっき確認したときのまま、きはないと判断した。
魔法で音を立てずに部屋へと向かう。
「もっと頂戴っ!!」
「オラオラァ!!」
真っ昼間からお楽しみ中の声が、外までれてる。そっとドアを開けても…夢中になって全く気付かない。
「これでどうだっ………」
「…えっ!?アンタ、急にどうした… の……」
耳障りなので、とりあえず眠ってもらう。
残りの1人は、奥の部屋に反応があった。一直線に向かうと、太った男が張なく普通に寝ていら。
とりあえず…もっと深く眠らせておくか…。
三人を引きずって一箇所に集め、手足を『拘束』して座らせてから『覚醒』させる。自分の『隠蔽』も解除した。
「…うっ」
「…何が起きたの?」
「…俺は、ベッドで寝てたはず…」
「おはようございます」
「なっ!?獣人?!」
「あ、アンタ、誰よっ!?」
「質問ですが、貴方達はボグフォレスさんを脅迫してる者達で間違いありませんね?」
一瞬だけきが止まる。
「…んだと?何の証拠があって、偉そうにほざいてんだ!………があはぁぁっ…!!」
台所から拝借したナイフで、男の口を真一文字に切り裂くと、口の幅が倍以上に広がった。
「きゃあぁぁぁぁ!!」
「無駄口を叩くな…。質問に答えろ」
「テんメェ…!こんなことして、ただじゃおかね……があぁぁぁぁっ!!」
今度は、太を深く突き刺す。
「時間が無いと言ってるだろう…。答えれば生かそうと思ったが、死にたいのなら…今すぐ殺してやる」
お楽しみ男を滅多打ちにする。
「や、やめ…ろ…。ごぶぁっ…。ぶぉっ……」
「しぶといな…」
「やめてっ!!全部言うからっ!だからお願いっ!!やめてっ!!」
懇願するに目を向ける。
「さっさと話せ。3、2……」
「私達がやった!!カネルラの貴族を脅迫してる!!」
「そうか。お前達は何処から来た?」
「………北よ」
北…?
「今日、攫った子供は何処だ?」
「それは…言えない…………いやぁぁぁぁ!!」
顔を爪で十字に切り裂く。
「だから許されるとでも思ってるのか?ズタズタに切り裂いてやろうか」
「言うっ!言うわっ!!だからやめてっ!!顔だけは、お願いっ…!!ここから、南東にあるもう1つのアジトにいるはず!此処がバレるのは時間の問題だとわかってたから!」
「アジトの特徴を教えろ」
「白の屋に、木目調の壁。窓が西側に2つあって……」
顔を更に切り裂く。
「いやぁぁぁぁ!!なんでっ!?教えたのにっ!!ちゃんと言ったじゃない!!」
「獣人に嘘は直ぐバレる。知らないのか?」
「ひぃっ…!!」
匂いが変化した嘘つきも、顔が変形するまでボコボコにする。お楽しみから一転、揃って瀕死状態。
コイツらには、腹が立って仕方ない。子供を攫っておきながら、快楽を貪る神も。
「お前はどうする?」
「ひぃっ!!」
残る1人を睨む。
「正直に話せば……助けてくれるのか…?」
「もし子供に何かあれば、戻ってきてから殺す。話さないのなら今だ」
「……わかった」
太った男は堰を切ったように語り出す。どうやら内容に嘘はない。
「俺が知ってる報は、これだけだ」
「そうか。ウラァァ!!」
「ぶばぁぁっ!!」
アニカばりのケンカキックを顔面にお見舞いする。足裏が正中線に食い込んだ。
「…しょ…正直に、言った…のに…」
「子供に何かあれば、その時は約束を守ってやる」
「く…くそ…ぉっ……」
やり方の汚さに、殺したいくらい腹が立ってる。けれど、アーツを助けるのが最優先。
意識のない3人を並べ、『治癒』で出している部位のみ綺麗に治療する。あとは、強力な『混濁』と『睡眠』を付与して捨て置いた。
時間が勿体ない。急ごう。
★
「思った通りか」
人気のない通りに建つアジトに到着すると、直ぐ隣にが証言した建。襲撃されるような急事態が起これば、隣に導するという小癪な罠。
ということは、近くに監視が……いるな。
もう…々と限界が近い。
姿を消したまま接近して、後ろから襲撃する。
「ぐあぁっ…!何だっ?!」
顔を見られないよう、後ろから右腕を捻り上げた。
「お前らの親玉は、アジトの中か?」
「誰だ、お前はっ!?…ぎゃあぁぁぁ!!」
躊躇わずに『筋力強化』で腕をへし折る。び声は『沈黙』で掻き消しているから誰にも聞こえない。
「答えないのなら…このまま死ね」
「い、いるっ!アジトの中にっ!」
「中に何人いる?」
「全部で4人だ!…ぐあぁぁ!!があぁっ…!」
反対の腕を折る。
「1本で足りないのなら、嘘をつく毎に折ってやる。次は…首がいいか」
サスケさんから、一味は9人と聞いている。とことんふざけた奴らだが、この反応が当然ともいえる。
「ぐうぅぅっ…。5人だっ!!命は助けてくれっ!頼むっ…!!」
「攫った子供は何処だ?」
「中だっ…!」
「無事か?」
「わからない…が、おそらく大丈夫だ!殺したら渉に使えないっ…!」
「どうすれば中にれる?」
「それは言えない!」
「そうか。これで教える気になるか?」
「な、何をする気……ぐあぁぁっ!!痛いぃぃ~!!」
魔法で覚を何倍にも増幅させ、体のありとあらゆる箇所を魔法の針で刺す。いつかのブロカニル人にも食らわせたやり方。
刺しているのは軽くでも、途轍もない痛みをじる。似たようなことを何度も師匠にやられてるから、痛みはよく知ってる。
「気が狂うまでやってやるぞ」
「教えるっ!合言葉だっ…!『シュナウザー、然もありなん』!玄関で訊かれたら、そう答えればいいっ!!」
「シュナウザー…」
北の国、アヴェステノウルか。
「ぐぇっ…!!」
後ろからクイッと締め落とし、念のため深く眠らせて記憶を飛ばしておく。
アジトに向かい、ドアをノックする。
「……誰だ」
「シュナウザー、然もありなん」
変声魔法陣でさっきの男の声を模倣済み。
「れ…… っ…」
開いた瞬間に魔法を浴びせ眠らせる。倒れる音が響かないよう消音して中にる。
あと3人。
居間のような部屋に移すると、厳つい男が揃って酒を飲んでいる。軽く眠らせると、テーブルに突っ伏した。
残るはあと1人…。アーツは何処だ?
『周囲警戒』を使っても人の反応はない。ということは、地下室か屋裏がある。
…微かに音が聞こえた。
この音は…地下からじゃない……上かっ!
大きく跳び退いてを躱すと、ズドンと天井が崩れ落ちてきた。天井裏の埃が部屋に充満する。
瓦礫の中から人影が急接近してきた。
「ハハッ!そこかぁぁ!!」
「ぐぁっ…!!」
辛うじてガードしたが、蹴り飛ばされて壁に背中から激突する。
「ガァッ…!!」
「見えない敵ってのは初めてだ!オラオラァ!」
「くっ…!」
素手の連続攻撃を躱して距離をとる。
『風流』
窓を割って空気をれ替える。視界が晴れると、体中に刺青のった体格の良い男が立っていた。
どうやら、この男が最後の1人で間違いない。
「おい、姿見せろよ。ガキを取り戻しに来たんだろ?出てこないなら、殺しちまうぞ」
何だと…?
『隠蔽』を解除して姿を現す。
「…たまげたぜ。まさかの獣人かよ…」
「あの子は何処だ…?」
「さぁな。知りたいなら、無理やり吐かせてみたらどうだ?」
「そうか…」
何者か知らないが、この男は強者。
纏うオーラが語っている。サスケさんも「1人、危険な奴がいる」と言っていた。間違いなくコイツのことだ。
だが、そんなことはどうでもいい。
さぁ……やるか。
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