《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三百五十一話 イザークの苦悩⑧

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第三百五十一話

イザークは眠れぬ夜を過ごし、気が付けば空が白み始めていた。外からはパンを焼く匂いが漂ってくる。ミモザ達が朝食の準備をしているのだ。イザークはサーゴを起こし、敷いた布を畳んで片付ける。そして朝食の準備をすべく、テーブルを組み立てて椅子を並べた。

しばらくすると料理を終えたミモザとユカリが、焼いたパンやスープを手に天幕にってくる。二に続きアザレアもやってきた。

アザレアを一目見るなり、イザークのは高鳴った。あまり見てはいけないと思うが、視線はつい彼を追いかけてしまう。一挙手一投足すらしいとし、僅かに漂う香りにすら興を覚えた。

アザレアの香に迷うイザークだが、こんなことではいけないと自分を叱咤した。

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サーゴやゴノーに対して、仕事に集中しろと説いていたのは他でもない自分だ。こんなことでどうすると首を橫に振り、雑念を追い払う。だが無理矢理視線をアザレアから外しても、アザレアの口から発せられる旋律の如きしい聲を聞くと、思考は酒に酔ったかのようにけてしまう。

何度も自重しろと言い聞かせるが。自分自ではどうすることも出來なかった。ならばいっその事、この思いをアザレアに伝えてみるか?

イザークは右の拳を固めた。

ギャミとアザレアが付き合っていることは、父であるガリオスから聞いている。思いを伝えても、當然自分は振られてしまうだろう。だが萬が一という可能があった。

イザークの見る限り、ギャミはアザレアに対してぎこちない態度をとっている。あまりうまくいっていないことは見てとれた。ならば自分にも可能があるのではないか?

イザークの脳裏に打算にまみれた考えが浮かび上がる。

もちろんこれが、大変不義理なことであることは分かっていた。尊敬する相手のを奪おうというのだから、許されないことだろう。しかしこの思いを止められそうになかった。

「アザレア様」

「はい、なんでしょう。イザーク様」

イザークが意を決し聲をかけると、アザレアが紅玉の瞳を仮面の下から向け、弦楽の如きしい聲を返した。

彩を放つ艶やかな瞳と聞く者を虜にする聲を向けられ、イザークはそれだけで天にも昇る心地となった。

あとでお話があります。そう切り出しかけた瞬間だった。目の前にいるアザレアの顔が変化した。

仮面から覗く赤い瞳は喜びに満ち溢れ、花が咲いたような笑みを浮かべたことが仮面越しにも伝わった。

一見すると腐病の面を被るアザレアに、大きな変化はない。だが明らかにアザレアのしさが増し、仮面の下にある瞳が輝きを増した。しかしその瞳が見つめるのは、目の前にいる自分でないことに、イザークは気付いた。

イザークが振り返ると、そこには一の魔族がいた。

背丈は子供のように小さく、顔はツルツルとしており皺ひとつない。背筋は曲がり腳を引きずり、手には杖をついている。

「おはようございます、ギャミ様」

アザレアは起き出してきたギャミに聲をかけた。

ただの朝の挨拶である。しかしその聲には溢れんばかりの喜びがあった。

アザレアはギャミに會えただけで、無常の喜びをじているのだ。

イザークは改めてギャミを見た。

醜い。魔族の覚からして明らかに醜い姿であった。しかしその醜いギャミを、絶世の姫が惜しみないを注いでいた。

ギャミに會えた。ただそれだけで表を一変させたアザレアを見て、イザークは自らのが儚くも終わったことを知った。

自分ではない。あのしい笑顔が、聲が、眼差しが向けられるのは、自分ではないのだ。

「イザーク様。先ほど何か言われていましたが、何か用でしょうか?」

アザレアが瞳をイザークへと向ける。しかしその目には、ギャミを見つめていたような輝きはない。

「いえ、大したことではありません。今日も頑張っていきましょう」

イザークは諦念と共に、自らの心にそっと封をした。

イザークの初、半日以下で終了

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