《気になるあの子はヤンキー(♂)だが、裝するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!》471 俺はせないのではなく、一人の男しかせない

俺が取材して手にれたネタ……いや、ヒロインたちとの思い出。

一年間、頑張って書いてきた作品。“気にヤン”だが……。

BL作品として売り出すには、キャラを排除しろと倉石さんは言う。

しかし、それではあまりにもサブヒロイン達が不憫だ。

「倉石さん……BL編集部で拾ってもらえるのは嬉しいのですが。やはりサブヒロインはでも、必要じゃないですか?」

それを聞いた途端、倉石さんの目つきが鋭くなる。

「は? なんで? メインヒロインが男なら、サブヒロインも男じゃないと、BLじゃないわ」

めっちゃ冷たい聲で、圧をかけてくるやん。

こんなに怖い人だったけ?

「あの……何度も言っていますが、俺が書いているのは実際に起きた出來事です。例えば、ミハイルが裝してアンナになる理由も、サブヒロインにあります。彼たちに対抗するため、の子に変したんです」

俺がそう説明すると、倉石さんは顎に手をやり、唸り聲をあげる。

「う~ん。そういうことなの……つまり裝男子とか、男の娘系ね。それは別の作品として需要があるかも」

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どうやら納得してくれたようだ。

安心したところで、再度倉石さんに確認を取る。

「分かって頂けましたか?」

「それは理解できたわ。でも、うちの編集部で出すなら、完全にリメイクする必要があるわ」

「へ?」

「BLならば、徹底的に制の世界じゃないと! これは鉄板よ!」

「はぁ……」

なんか似たようなことを、母さんが言っていたような。

「さっきも言ったけど、サブヒロインを男に転換したら立すると思うのよ……例えば、赤坂 ひなたちゃんってボーイッシュな子高生は、リキくんみたいな短髪のマッチョにしてね」

「えぇ……」

「あとほら、ミハイルくんにそっくりな馴染のマリアちゃんは、心臓手のついでに、改造をして年兵として戦爭に行くのよ」

「それで、どうなるんですか?」

「戦いが終わり、帰還したところで伝説の傭兵になった『マイケル』は、馴染の出版を耳にして帰國するの! そしてミハイルくんと対峙するわけ!」

マイケルって誰だよ。

「あの、それってBLの世界になってます?」

結局、倉石さんとの話は、終始平行線で決著が著くことはなかった。

仕方ないので、既存の作品である“気にヤン”はとりあえず、そのまま放置。

改めて、俺とミハイルだけのラブストーリー?

というより、二人の日常を淡々と描くことになった。

対抗馬がいなくなったので、盛り上がりに欠けると思ったが。

倉石さんは満足そうだった。

「琢人くん、これからのあなたは今まで以上に、困難な道を辿ると思うわ」

「俺がですか?」

「ええ……ゲイであることもカミングアウトしたし、何より結婚するのだから。二人の生活を維持するために、お金が必要だわ」

「まあ、それはんな人に言われてますから」

笑って話を逸らそうとしたら、倉石さんがガラス製のローテーブルを拳で叩く。

「そんな気持ちじゃダメよ! あなたは分かってない! まだ學生だから自覚がないの。もう結婚すると誓ったのだから、今までの自分を、考えを捨てなさい! 生きていくためには何でもするの……例えばミハイルくんとの営みも、包み隠さずネタにしてお金に変えるのよ!」

目が走っている。

怖すぎだろ……。

「い、営みって、それはさすがに……パートナーであるミハイルも、嫌がると思いますし」

そう言って斷ろうとしたら、すっと手の平を差し出す倉石さん。

「出して」

「え? なにをですか?」

「ミハイルくんの電話番號よ」

「なっ!?」

この人、まさかミハイルを編集部に呼び出して、の寫真とか撮るつもりじゃ……。

「私がミハイルくんから許可を取ればいいでしょ? 今ここで彼に電話をかけて!」

「え……今からですか?」

「當たり前でしょ!」

仕方なく、俺はスマホのアドレス帳から、ミハイルの名前をタップすることに。

彼にしては珍しく、ベルの音が何度も繰り返される。

出ないなら、それに越したことはないのだが……。

しばらくすると、いつもの元気なミハイルの聲が聞こえてきた。

『もしもし、タクト☆ どうしたの?』

「あ、悪い。何か忙しかったんじゃないのか?」

何か用事があるなら、それを口実に電話を切ろうとしたが。

なぜか、彼は口を濁す。

『そ、その……ちょっと集中していて、電話に気がつかなかったの』

「ひょっとしてスイーツ作りか? なら切ってもいいぞ?」

『ち、違うんだ……この前、タクトと博多駅でしたじゃん?』

「は? なにを?」

『忘れたの? キスだよ……畫サイトで見ていたの。思い出したら、ドキドキして。あの時のタクト……凄かったから☆』

いかん、そんなことを電話越しに言われたら。

俺まで興してきた。

特に間が……。

だが、未來の嫁とのイチャイチャタイムは、倉石さんにより強制的に止められてしまう。

「琢人くんっ! 早いところ変わってもらえる?」

一気に興が冷めてしまった。

「あ、すみません……。ミハイル、ちょっと編集部のお姉さんと話せるか? 俺とお前の話を元に、作品にしたいそうだ」

『お姉さんって誰? どういう関係なの?』

今度は勘違いしたミハイルが、ドスのきいた聲で尋ねる。

「違うよ、ミハイル。ほのかのお友達だ」

『あ、ほのかと同じ病気なんだね☆ なら安心☆』

酷い偏見だ。

とりあえず、倉石さんと代わる。

「はじめまして、ミハイルくん。私BL編集部の倉石というんだけどねぇ。琢人くんとミハイルくんが結婚するじゃない?」

わざと大きな聲で話しているような気がする。

その証拠に、何度かこちらに目をやる。

『う、うん……結婚するって約束したよ』

応接室が靜かなせいか、彼の聲がこちらまで聞こえてくる。

「それでね、今後二人の結婚生活を支えるために、お金が必要じゃない。ミハイルくんがタクトくんとラブラブしているところをね。小説やマンガにしたいんだけど、どうかしら?」

『えぇ!? オレとタクトが、ラブラブするところを?』

やはり驚いている。

さすがに二人の私生活まで、ネタにはしたくないだろう。

「ためらう気持ちもわかるわ。でもね、ミハイルくん。二人の作品が有名になれば、抑止力にもなるわよ?」

『よく、しりょくってなに?』

「琢人くんに邪魔な蟲……そうね。どもが寄って來なくなるわ。だって二人のラブラブ作品は実話なんだから。全世界に知らしめてやるのよ! ゲイとして!」

『そっか。他のの子が寄らなくなるのは、安心かも……』

納得するなよ、ミハイル。

「でしょっ! “気にヤン”はアンナちゃんがモデルだけど、今回のBL作品は全く違うの! ただただ二人がし合う作品。いわば協同制作ねっ!」

『オレなんかで良いの?』

「もちろんよっ! 私たちBL編集部は、二人の結婚を祝福しているわ! もし邪魔ながいるなら、私に言って! ブッ殺してあげるから!」

なんて恐ろしいことを言っているんだ、倉石さん。

BLになると、人が変わるから怖いんだよな。

『あの……邪魔じゃないけど。でもタクトの中で、マリアとかひなたとか……また優しくするんじゃないかって。怖い時があるかな』

「なるほど。ミハイルくんの不安は排除しないとダメね。夫となる琢人くんには、きっちりと! 落とし前をつけてもらわないと、ねっ!」

と俺を睨む倉石さん。

電話を切ったあと、BL編集長から初の業務命令が下された。

「琢人くんっ! ミハイルくんが不安を抱えているんだから、排除しなさい! 全サブヒロインへ結婚を報告し、契約を解除してきなさい! 『俺はせない』とっ!」

「……」

別にそんなこと、誰も言ってないよ。

俺はミハイルしか、せないだけだって……。

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