《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》また新たな発見

「これがリアナ様の作った、ポリムステル素材の布なんですね。薄くてとってもしなやかですねぇ」

廃棄として捨てる予定だったスライム廃に、商品としての価値が生まれるなんて思ってもみなかった。

あの時ヒントをくれたフレドさんには謝だなぁ。廃の処理にお金をかけるどころか、新しい価値を生み出してしまうなんて。

アンナは、見た事のない半明の布を持ち上げて、明かりにかしたりして興味深げに見ている。表面には沢があって、の加減によってうっすら味が変わるのを見ているようだ。

ポリムステルと名付けたこの素材からは、既に々な商品が生まれている。防水布については、「手持ちの鞄や靴、外套を防水加工できる」という手軽さもあって、主に冒険者や商人に大人気となっている。作業自は比較的簡単なはずなのに、提攜している工房が防水加工の予約でギッシリだと言えば、どれだけ需要が大きいか分かるだろうか。

クロヴィスさん経由で、軍が使うテントや背嚢などへの防水加工の依頼まで來ているがさすがにそれはちょっと待ってもらった。長期間使って布を傷めたりしないかがどうしても不安で。

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高溫・高度下での加速劣化試験はしたけど、せめてもう一か月は調べさせてほしい。

同じ理由で、盾の実用化も待ってもらっている。「必要な試験は済んでるんだから、実験運用はしてもいいんじゃないかな」とクロヴィスさんは気軽に言うけど、私は心配なので確信が持てるまでは遠慮したい。

生産制もまだ全然整ってないし。

しかし、明化に功したポリムステル素材の板を魔導車の窓ガラスの代わりに使いたいという話は現在試しに導している。

クロヴィスさんの所有する魔導車と、魔導飛行船の窓をれ替えたのだが、ガラスよりも丈夫なので好評だ。

通事故の時、割れたガラスで大怪我をする話は聞いた事がある。ポリムステルは衝撃に強いし、もし割れるとしても、割れ目から白くポロポロとした破片が多出るだけで人に怪我をさせる危険はほぼない。

特に魔導飛行船では、ガラスよりも結がしにくいという思わぬ長所も見つかった。

この布も、そういった新商品開発の途中で発見されている。防水加工をしていた際、ポリムステルが垂れてそのまま固まって糸のようになっていたのをフレドさんが見て「ヤママユの糸よりも釣り糸に良さそう」と言った事から開発されたのだ。

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ここでも、新商品のアイディアにフレドさんが関わっている訳なのだが、本當に人に出來ない発想が出て來る人ってすごいなぁと思う。

フレドさんの「魔眼」についての研究もかなり進んで、現在は効果を抑えるための裝が「ちょっと大きめの黒いゴーグル」くらいのものになっていた。例の、教會から持ち帰った黒いベールを參考にして作った……魔眼の力を遮斷しつつ周りが見えるよう作られた裝だ。

最初は重裝騎士の兜みたいなサイズの魔道だったため、かなり異様な景にじたが……フレドさん自はあの狀態で「人が聲をかけてこないから楽」だと高評価していたのが信じられない。

さすがに見る度ぎょっとしてしまっていたので、今のサイズに改良してくれたクロヴィスさんにはとても謝している。

今後、フレドさんは表向きには「病気の後癥で目がに弱くなって」という口実を使うらしい。五年間病気で療養していた事になっているので都合が良いから、らしい。

実はフレドさんの使ってる魔眼封じの裝には、私の作った人造魔石が使われているので、見るたびに「あそこに使われてるんだな」って思ってしまい、ちょっとくすぐったくなる。

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作ったのはクロヴィスさんで、映像を送れる魔道の仕組みを応用する事で周りの景が見えるようになっている。

その魔道の核にするために、「同じものが二つ」と言える品質の人造魔石を私が提供したのだ。

クロヴィスさんが使っているような、雙頭竜の魔石なんてものは國寶級としても、普通の雙子の魔も十分珍しい。野生では、小さく生まれがちな雙子はすぐ死んでしまう事が多いし、雙子だったとしても、我々には倒す魔に雙子の兄弟がいたとしても分からないもの。

でもこうして人工的に作れるようになるなんて、自分がやった事ながらまだ驚いている。

まだ公表はされてないけど、クロヴィスさんから「作れるだけ作ってしい」と直接依頼をけて毎週のようにこの人造魔石のペアを納品している。でもこれが広まったら、今までと段違いになる報が飛びうようになるだろう。

クロヴィスさんに出されていた課題もクリア出來たのもあって、完した時にはかなりの充足があって、珍しく自分で自分に対して「これってすごい事なのでは?」と素直に褒められたもの。

しかも天然の雙子魔石ものより、明らかに品質が良い。多分、野生の魔は雙子として生まれても、その後どの土地で過ごすか、何を食べるかは個によって変わっていくから魔石にも違いが出てしまうからだろう。

この人造魔石なら、ミミックスライムに與える餌まで完璧に管理して、「ほぼ同一」と呼べる魔石が作れる。

こうして、生産に時間がかかるとはいえ、雙子魔石を手にれられるようになったので、私達は遠距離共振を個人的にも利用していた。

クロヴィスさんやフレドさんとそれぞれ連絡が取れるものの他、自宅に置いておいてアンナと「今日は何時頃帰るね」「今日の晩ご飯はシチューですよ」なんてやり取りもしている。

しかし便利は便利だけど、連絡を取る相手が増えると共振の數が増えて不便だな……。

一つの共振で複數人と連絡が取れれば便利なのに。そんな事をふと思った。

人造魔石の製作について思いを馳せていた意識を手元に戻す。

ちなみにポリムステル素材について、ついでに釣り糸だけではなく、こうして面白い使い方が出來る布もついでに作ってみたのだ。

「でもこんなスケスケの布、何に使うんじゃ? 服を作っても著れないじゃろう」

真剣に心配してくれている琥珀の言ってる容がちょっと面白くて、つい笑いそうになってしまう。

「これ一枚で作る訳じゃないのよ。ほら、こうやって他の布の上に重ねてみたりすると、今までにない見た目の服が作れるでしょう?」

私は琥珀の前に、試作品として作ったスカートを見せた。青い布の上に、半明のポリムステル生地がふわりと重なっている。このがとても可いと思うのだが、実用的なを好む琥珀に分かってもらえるだろうか。

「そうじゃのぉ。く時にひっかけて破きそうじゃが、リアナには似合うじゃろ」

自分で著る気はなさそうな返事に、ちょっとがっかりしてしまった。子供の夏服のワンピース、スカートにこの布を重ねて、袖にもこの布を使ってパフスリーブにして……とても可いと思ったんだけど。

「あら、こうして形になるともっと素敵ですね。それにここ……リアナ様、い糸にわざと目立つを使ってるんですか?」

「そうね。白い糸を使ってもい目が目立つから、いっその事い目もデザインに見えるようにしたの」

「面白いですねぇ……この布ってちょっともらってもいいでしょうか?」

「もちろんよ。どのくらいあればいい? アンナは何を作るの?」

木の板に巻き付けてあったポリムステル布をぱたぱたと解く。アンナはちょっと考えた後、自分の裁箱から作りかけのコサージュを取り出して私に見せた。

布で作られたお花とリボンの髪飾りだ。……最近晝間、暇だからと作っているものらしい。

「これを作る布にポリムステルを使ったら面白いと思いまして」

「これもとっても素敵ね……完したら売りに出來るわよ」

「リアナ様にそう言っていただけると嬉しいですねぇ。あと他にも、この生地に刺繍をしたら面白いと思いませんか? 例えばスカートに重ねてるここの縁にぐるっと一周、刺繍の絵柄だけ浮いてる様なじで……」

「え、それ絶対可いじゃない。想像しただけで分かるわ」

私はアンナと二人、新しい布を目の前にキャッキャとファッション談義をして過ごした。琥珀は途中まであまり興味が無さそうにしていたけど、ポリムステル生地をっていてふと何かに気付いたような顔をしている。

「リアナ、この布ちょっともらってもよいか?」

「いいよ。どれくらい使う?」

「端切れで良いぞ。ハンカチにも出來んくらいので」

工作に使うのかな、と思いつつ、私はスカートを作った時に出た切れ端を取り出して琥珀に渡した。

それを両手でピンと張って持って興味深そうに見ていた琥珀は、私を窺うように視線を上げる。

「リアナ、これで実験していいかの」

「いいよ。琥珀にあげたものだから、どうやって使っても」

何をするんだろう、と興味津々で見ていると、琥珀は作業部屋からとことこ出て行った。

どこに向かうのだろう。私とアンナも何となくその後を追う。キッチンまで來ると、琥珀はポリムステル布を魔導コンロの上に置いて、なんと火を著けたのだ。

「わっ」

「わぁあ⁈ 琥珀ちゃん、いきなり何を! 火事になっちゃいま……あれ……?」

慌てて止めようとしたアンナは面食らったような顔で中途半端に手を上げた格好で固まった。

「……燃えてない……?」

「やっぱりなぁ。ホラ見ろリアナ、焦げ目すら付いてないぞ。この布、ちょっとやそっとじゃ燃えぬぞ」

コンロの火を消した琥珀は、火を著ける前と何も変化のないポリムステル布を摘まみ上げた。熱くないの、と慌てそうになったけど、全然平気な顔をしているし多分大丈夫なのだろう。

「燃えない素材だってどうして分かったの?」

「分かるから分かるのじゃ」

「? どういう事?」

「琥珀の狐火があるじゃろ? あれはな、まぁ大のもんは燃せるんじゃ。どのくらい力を込めれば良いとかも見れば琥珀にはピンと分かるんじゃが。で、この布はかなり巫力を込めないと燃せなさそうだったからな。琥珀の狐火でそうなのじゃから、普通の火でなんて燃せる訳がなかろう」

私が聞きたかったのは、その「どうして燃やせるかどうかを見ただけで分かったのか」なのだが。まぁ、天才の琥珀は自分でもよく理解せず力を使ってるから、説明してもらうのは諦めよう。

それに、どうせ理解できる説明が聞けたところで私にその力は使えないと思うし。

「これ、ちょっと調べてみようか。今のままでも火事の時とかに役立ちそうだけど、攻撃魔法でも燃えないのかとか、もっと高溫でも大丈夫かなとか気になるし」

「まぁ、またリアナ様の研究の蟲が出てきましたね」

「リアナ、また調べものか?」

「うん。でも気付いてくれた琥珀のおかげだよ。この布にまた新しい価値が生まれそうなの」

「……なるほど? つまり、琥珀のお手柄という訳だな?」

「そうだよ! これはもう大発見よ」

鼻高々の琥珀を、二人ですごいすごいと褒めそやした。

ちょっと考えるだけでも々な使い道が思いつく。耐火の裝備とか、火に近付く仕事の作業服とか。これからどのくらい燃えにくいか的に調べる必要はあるけど、

「今度、ポリムステルで作る防水布の方も燃えないのか、どのくらいまでの溫度を耐えるのかとか調べたいな」

「! その時は琥珀も一緒にやるぞ!」

予期せず、また新しい商品価値を見出したみたいだ。……とりあえず、フレドさんの商會に置く見本だけ作って、どうやって防火布として作って販売するかはまた周りに相談しないと。

人造魔石のための最高レベルセキュリティの錬金工房と、ミミックスライムの飼育場に、餌にする魔の繁用生け簀、防水布の生産についても持ち込んだばかりのフレドさん……もっと忙しくなっちゃうな……。なのに私は仕事でとは言えフレドさんと顔を合わせるのは楽しみだなとか思っちゃって、ちょっと罪悪が抱いてしまった。

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