《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》忍び寄る
その日は朝起きてすぐ、ライノルド殿下との連絡に使っている遠距離共振の畫面を見て私は酷く揺した。
あまりに挙不審にし過ぎて、朝食の時にすぐアンナから何があったのか聞かれてしまったくらいだ。余程変な態度だったらしい。
アンナに隠し事をするつもりのなかった私は、素直にどんな容の連絡が來たのかをつまびらかに見せた。
「……これが、殿下から來た文面ですか……」
「うん。朝起きたら連絡が來てたから、多の時差を考えてもライノルド殿下がこれを書いたのは夜の間だと思うの。それで、返事はこう書いて……今は次の連絡が來るのを待ってる狀態」
クロヴィス殿下が持っている天然の雙頭竜の魔石や、人為的に作った全く同じと言える人造魔石で制作した共振では畫面の同期にかかる時間はほとんど無視できる。目の前の人と手紙を書いてやり取りするくらいの覚だ。
最近はそっちを使う事に慣れてしまったせいか普通の遠距離共振で、遠い國とやり取りする時のジワ~ッと畫面が同期するのを待つのがとてももどかしくじるようになってしまっていた。
いや、連絡された容が容だからかもしれない。
「……リアナ様が外國でこうして発明した商品が生んだ利益を、『アジェット家が不當に扱ったせいで天才を逃して発生した損失』としてドーベルニュ公爵家が糾弾するとは……人造魔石にポリムステル布に、ドレスブランドのクリスタル・リリー……実際とんでもない損失が出たのは間違いありませんけど……」
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「て、天才って事にして大ごとにしたいだけだと思うけどね? それを、大部分がニナのせいって事で押し付けられてしまうかもしれないのが心配で……」
人造魔石や、その他私がクロンヘイムを出てから生み出した商品達の利益。ドーベルニュ公爵家は、それを計上して「これだけ発生するはずだった國の利益を奪った」……つまり「國に損害を與えた」としてアジェット家を訴えたというのだ。
これは政爭の一部でもある。アジェット家はアンジェリカお姉様が嫁いでる事もあって、外國に対抗するために國の様々な制度を改新する主張をする王太子派に屬する。
しかし貴族たちの既得権益を脅かす改新に、反対する貴族は當然多かった。ドーベルニュ公爵家は、その保守的な貴族派閥のトップだった。
ライノルド殿下は、改新には賛しているが、王太子殿下の提案の通りに改新を進めてしまうと経済や一般の國民への影響が大きすぎるのでもっとゆっくり慎重に行うべきだと主張していた。
政治の話について、クロンヘイムに居た時は直接話し合った事はないけど、ライノルド殿下が議會などで行った発言はチェックしていたので大把握している。
私も改新はした方が良いけど、ライノルド殿下と同じく進め方についてはもっと協議する必要があると考えていた。確かに現在の僚制度や地方の貴族領には汚職が蔓延していて、改善する必要はある。
けどすぐに全てを変えてしまったら、その下にいるたくさんの人達の生活に大きな影響が出てしまうのが分かっていたから。職を失う人もかなりの數が出てしまうのは予測されていたくらいで、場所によっては暴が起きる事も懸念されていた。
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王太子殿下は、稅金を取った貴族がため込んで領地へ還元しない狀態は「早急な治療を施す必要がある」ため、こういった「多の出と痛みが伴うのも仕方がない」と主張していたけど……。
私が家出した後ドーベルニュ公爵家の発言力が増して、王太子殿下が強引に進めていた革新の行い方について再考される事になったと聞いた時は正直ホッとした。あのまま実行されていたら弱い立場の人がたくさんつらい目に遭っていたと思うから。
たしかに、クロンヘイムには変わるべき事も多い。貴族の権力と特権が強すぎる事もそうだが……まだ平民が活躍するにはかなりの運と人脈が必要で、優秀な平民が外國に流出していると私が子供の頃から言われているし。
これから外國と競い合うためにも々な所に変化が必要だが……そこで働いていた罪のない人達の新しい勤め先を用意したり、革新によって起こる予想外の事について様子を見ながら行うべきだとライノルド殿下は言っていた。
ライノルド殿下の學友や、新興貴族が多いが、この意見にはそこそこ賛同者がいる。
こうした共振でのやり取りで初めて知ったけど、ライノルド殿下は文面だと隨分饒舌なんだな、と思った。……いや、そうでもないかも。誕生日には一応顔見知りという事でプレゼントと直筆のカードをいただいていたけど、書いてあるのは一言か二言だったし。
……顔を合わせるといつも會話がなくなって、無言になってしまうので苦手意識を持ってたけど……もっと々會話をしておけば良かったな、と思った。
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とにかく、ニナはその二つの派閥の政爭に巻き込まれてしまっている。ドーベルニュ公爵家は何でもいいから王太子派閥のアジェット家を攻撃する名目がしかった。攻撃されたアジェット家はその矛先を逸らすために生贄にしようとしている。
ニナがやった事はたしかに悪い事だったけど、あの時は彼は十四歳だったのに。その上屬の魔力が発現して學園に編する事になったので、教育も十分とは言えない狀況だった。とはいえ、忠告を無視して森の奧に進み、私が怪我をした件について噓を吐いた理由にはならないが。
けど、こんなとてつもない額の損失の全ての原因にされてしまう程の罪は犯していない。それは斷言出來る。
この事件で、怪我をした被害者は私なのに。私がちょっとどうかと思う程の罰を與えるのはやめてしい。
「そうですね……私も、噓が暴かれて、きちんと罪を償うべきだとは思いましたけど……この狀況は……彼一人の責任にしてしまうなんて、周りの大人達はなんて酷いんでしょう」
「攻撃の口実にしてるだけだから、未年のニナ実際に罪を負わされる事にはならないと思うけど……こんな話が出てしまったら、卒業後の進路にも影響しちゃう」
働く先を決めるという時に、こうして生贄にしようとしているアジェット家が後援者としてまともな対応をしてくれるか。そもそも、ニナ一人に責任を被せて終わりにしようとしたがっているのすら見える、このままあの家で生活する事自がかなり辛い環境になっているのではないか。
「あと、お父様が……私の所在は分かっているんだから、連れ戻そうといているみたいで」
「そっちの方が重大事項じゃないですか!」
リンデメンで「リアナ」として活を始めた時と違って、ミドガランドでは積極的にを隠そうとはしていない。
堂々と公言している訳ではないが、その気になって調べれば私が今ミドガランドの皇族の庇護をけて何かやっているというのはすぐ分かる事だった。
その皇子がどちらの事なのか、あえて分かりづらくはしてあるが。わざと勘違いしやすいようクロヴィスさんがんで報作しているので、それに従っている。
もちろん、調べても私が生活している住居が帝都のどこにあるとか、そういった詳細はしっかり隠してあるけど。連絡を取ろうと思ったら、仲介してもらう先にはすぐ辿り著けると思う。
人造魔石はフレドさんの白翼商會でしか取り扱ってない。人造魔石を開発したのがリンデメンで発表された人工魔石の発明者と同一人である事は隠されてないし、ここに縁があるのはちょっと調べれば分かるから。
ライノルド殿下から來た連絡では、「連れ戻すために申しれをしようとしている」という容だった。なので、接があるとしたらフレドさんになる。先にどう対応するかなどについて話し合っておきたい。
「文字でやり取りするには長くなるよね……お店で私が関わってる商品の売れ行きとかを確認するついでにフレドさんに直接會って來ようと思うの」
「そうですね。一週間程フレドさんとは顔を合わせてないですからね。是非行ってくると良いと思いますよ。きっとフレドさんも喜びますから」
何だか含みのある言い方ね。それに、よ、喜ぶって……何を拠に。
変な事を言い出したアンナの真意を追求して正そうとしたが、ちょうどそこで琥珀が起きて來たので……不本意ながらさっきの「喜ぶ」発言について訂正するタイミングを失ってしまったのだった。
「ほんとありがとう、琥珀。作るの手伝ってくれて」
「他ならぬリアナの頼みじゃからな」
「琥珀のおで良い品質のものが安定して作れるから、すごく助かってるよ」
「ふふーん」
フレドさんに相談に行くために所在を確かめたら、今日は竜の咆哮(ドラゴン・ロア)の錬金工房にいるそうだ。なので私も相談の後、注文が山ほど來ている人造魔石をしでも作ろう……と考えて琥珀と一緒に來ている。
実は、高品質の人造魔石を作るのに、琥珀が大活躍しているのだ。
現在巖桂魔魚の卵から得た魔石の核を使って作る人造魔石は、ほとんどが十八等級相當にしかならず……三〇等級相當を超えるほど大きい魔石が得られる事は珍しかった。ある程度の大きさになると、いくら魔石のもととなる魔力を含んだ餌をふんだんに與えても大きくならなくて、安定して三〇等級以上の人造魔石が作れずにいた。
そして、これは天然の巖桂魔魚の魔石とほとんど同じなのだ。巖桂魔魚の魔石も、なら大十八等級……そして、たまに巖桂魔魚にしては大きく、強大に長して魚群を形するものもいるのだが、この個の魔石が大三〇等級よりし上になる。
卵の中の魔石の核……この時點で、將來長する魔石の等級が決まっているのでは……そう推測を立てるのは自然な事だった。
ただ、「じゃあどうやって、將來特別大きく育つ魔石の核を見分けるのか?」と新しい障害にぶつかる訳だが……ここで琥珀が大活躍するのだ。
琥珀は本人自も良く理解していないが、魔力(琥珀は巫力と呼んでいる)の扱いに長けている。「妖狐」という琥珀の種族も関わっているだろうが、「むものだけを燃やして、それ以外は熱もじない」というとんでもなく複雑ですごい作を必要とする力を覚だけでやっている。
その繊細で説明できない能力を使って、琥珀が「この粒は他のと違う」と拾い上げた魔石の核は、必ず三〇等級以上の人造魔石になる事が分かっている。現在の所百発百中だ。
なので琥珀にはアルバイト代を払って、ミミックスライムにれる魔石の核の選別をしてもらっている。
他に代わりのいない技能なので、高額な報酬を用意しているが……ほとんどは貯金しておいて、琥珀にはお小遣い程度の額を手渡している。大金を渡すのはまだちょっと心配なので……。
ちょっと前、竜の咆哮(ドラゴン・ロア)の人達にわれて金級冒険者として手を貸した時に、報酬としてもらった金貨を全部使ってお菓子を買って來ちゃったので……。
一個の値段は平民の子供がお小遣いで買えるようなものだったんだけど。それを全種類數百個お店にあっただけ全部……大金は持たせないようにしている。
こんなに買って、腐っちゃう前に全部食べ切れないでしょう! とアンナに叱られて耳がぺしょッとしてる琥珀を思い出した。ちなみに、大量のお菓子は私が買い取って、人造魔石を作るために必要な単純作業部分を行っている工場で働いてもらっている人達に配って、無事全て味しいに消費出來た。
「じゃあリアナ、琥珀は先にリアナの研究室で仕分けしとるぞ。いいか?」
「うん、お願いね」
フレドさんの居場所を聞くと、飼育室だと教えてもらえたので私は錬金師工房の一階で一旦琥珀と別れた。私の研究室には、巖桂魔魚の卵から取り出した魔石の核をまとめて屆けてもらっている。琥珀はそれを量シャーレに取り出して、じっと見つめて「これだ」という核を別のシャーレに移す……というのをひたすら繰り返すことになる。
より分けた數によって手にするお小遣いの額が変わるので、大変熱心に手伝ってくれるのだ。
飼育室には錬金に使うミミナガネズミなどの実験がいる。何か生きを使う実験をしているのだろう。その後で相談に乗ってもらうのだし、容によっては手伝おうと考えて私も飼育室にった。
あ、いたいた。
「フレドさん、今何の作やってるんですか?」
「…………」
「フレドさん?」
あれ、珍しいな。聲が聞こえないくらい沒頭しているみたいだ。
肩を叩いてびっくりさせて、何か間違いが起きたら大変だし……私はフレドさんが作業している斜め後ろに立って、作業を見ながらし待つことにした。ひと段落して張の糸が緩んだところで改めて聲をかけよう。
フレドさんの手元には、解剖臺にうつ伏せで固定されたミミナガネズミがいた。魔眼の魔法陣が描かれていているが……いや、不自然に魔法陣が欠けていて、その部分は真新しい薄ピンクの皮になっている。
麻酔で眠っているらしいミミナガネズミを見下ろして、フレドさんは機に両手をついて思い詰めた顔をしていた。
「はぁ――…………っ、⁈ リアナちゃん⁈」
「ぴゃ……ッご、ごめんなさい! 聲はかけたんですけど、集中してたみたいで、何の作業してるのかなって気になっちゃって……」
「いや、俺こそ気付かなかったみたいでごめん」
ふと私に気付いてとてもビックリしてしまったフレドさんと、二人で謝罪合戦のようになっていた。一通り謝罪とあいさつが終わった所で、仕切り直す。改めて、私はフレドさんに何の実験をしていたのか尋ねた。
「……この魔眼の魔法陣ってさ、これだけ々調べてるけど……完全に効果を消す方法ってまだ見つけられてないじゃん?」
「そうですね。目を覆っても周りを見る技はクロヴィスさんが作ってくれましたし、これで魔眼の力を完璧に遮る質があればひとまず安心なんですけど」
何せ、一度魔法陣を描いてしまうと、魔方陣を描いた魔を取り除いても効果が消えない。どういう原理化これまた分からないが。
クロヴィスさんはこれまでに々なでフレドさんの眼鏡型裝を作り直している。「財政破綻した國の寶庫にあった、呪いを封じる聖を買い取ったんだよ。あ、気にしちゃうから兄さんには緒ね」なんても使われていて、総額でいくらかかっているかは私も怖くて聞けない。
魔眼の魔法陣と同じ紋様を魔でミミナガネズミの皮に描くとある程度同じ力があるみたいだが、やはり完全な再現にはならない。人とは違う生きだし。
知が低い分、ミミナガネズミへの方が効果が高いみたいだし。例えば、人の皮に同じものを描いても何も起こらないし。
「ミミナガネズミのこの背中、ドラシェル聖教の聖剣……のかけらだって伝えられてるもので魔法陣を切り取ったんだよ。勇者が戦った地に殘ってた……なんて伝承、作り話かと思ったけど」
小さな金屬片を先端に付けたペンのようなものをフレドさんが指さした。その口ぶりでは、まさか本なのだろうか……?
手元の眠ってるミミナガネズミを他のゲージにっているミミナガネズミ達に近付けた。ごく普通に、他の個の臭いがした……くらいの反応で、今までの実験で見てきた……魔眼の魔法陣に対するような、興した様子は見られない。
という事は……魔法陣を描いた後に、その聖剣のかけらでミミナガネズミの皮を切り取って……?
「!! ダメです……それで効果があるとしても絶対ダメですよ⁈」
「わ、分かってるって。描いたのには効果あったけど、生まれつきの俺の目にも効くのか確証ないし……」
フレドさんの目に同じ事を當てはめて、やっと何をしようと考えてるのか察した私は思わずフレドさんの腕を摑んでいた。
「……大丈夫、自分で試すつもりはないよ」
「フレドさん……」
「ただ、あの人の力を削ぐために……もしかしたら効くかも、って手段でも必要になるかもしれないからさ」
「…………」
言ってる事は分かる。だからそんなのダメですなんて安易に言えない。でも納得もしたくなくて……私は何も言えなくなってしまった。
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