《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》2

フレドさんの思い詰めた表が頭から離れない。

すぐいつもみたいに笑って「もちろんまともな解決方法も探し続けるよ」って言ってたけど、明らかにやせ我慢していたように見える。

私だけ飼育室から出た後、やっと「クロンヘイムからの連絡について相談しようと思ってたんだ」と思い出したけど……フレドさん、すごく悩んでたし、私の事で煩わせたくないな……。

「リアナ君! 待ってたよ。居場所を聞かれたってエドワルドが言ってたから、來ると思ってた。君の研究室でいいかな?」

「あ……デリクさん」

危ない、考え事をしていたせいで、周りにクランの人がいるのにうっかり本名で呼びそうになっていた。

「リアナ君……今出て來た飼育室で何かあった?」

「っ! えっと……」

口ごもった私に、クロヴィスさんは人當たりの良さそうな余所行きの笑顔を引っ込めて真面目な表になる。

それ以上通路で深堀して聞かれる事はされず、私達は個室へと移した。

「おお! リアナ、見ろ、もうこんなに選別が終わ……何じゃ、珍しいな、フレド抜きでクロヴィスがいるなんて」

「あはは。お邪魔するよ琥珀君」

「ちょっとクロヴィスさんと話があるから奧の部屋にいるね」

「おう」

錬金作を行うの並んだ機の間を通り抜けて、執務室のような裝の個室に招きれる。クロヴィスさんはローテーブルを挾んだソファに私が何か言う前に腰を下ろすと、魔道を卓の上に置いた。寢臺列車でも使った、盜聴防止の結界を展開するだ。

「それで、何があったの?」

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「……その………」

中、気の利いた雑談の出來る余裕のなかった私もここまで無言だった。普段から、別に気の利いた雑談なんて出來ていないでしょう、という事実は置いておいて。

口にしようとしてふと立ち止まる。……これ、話してしまってもいいのだろうか?

さっきフレドさんからは口止めとかはされていないけど、そもそも……あの場で私が偶然見てしまっていなければ、私にも黙っていたんじゃないか……そう思う。

質問をされているのに答えられない私を見て、クロヴィスさんが面白くなさそうに片方の眉を上げると、座っていたソファの背もたれにドスンと寄りかかった。

正面に座っているだけなのに、高い所から見下ろされているような気持になってしまう。

「……兄さんの事だね?」

「そ……うなんですけど……」

「なるほど。……口止めされた?」

「口止めは……されてません」

「でも、僕とはいえ口外していいかを迷うような狀況だった、か」

このない報だけで言い當てられて心びっくりしてしまう。いつもはクロヴィスさん、私ですら驚くような鈍さを発揮するのに……フレドさんの事に関してだけ察しが良すぎる……!

「出て來たのは飼育室か。そこに兄さんもいたなら……魔眼の事かな? 何か進展があった? けど……それはましくない発見だった……當たってるかな」

「えっと、怖いくらいに」

頭が良い人が、人の心の機微にまで気が付くようになるとここまで推理出來てしまうのか。

ちょっと恐ろしさすらじる。

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「いったい何が判明したのか、」

「ま、待ってくださいクロヴィスさん!」

「……何?」

「こうして、私が偶然知ってしまった事を『聞き出されてしまったから』って形で話してしまうの、ズルイと思うんです。弟であるクロヴィスさんに尋ねられたから、仕方がないってで話すなんて……」

「それってまさか……僕には教えないって事?」

背中に冷たいものをじるような威圧だった。さっきまでの、兄の友人への親しげな態度は一瞬で消えて、部屋の溫度が下がったような錯覚すらじる程。

「……違います。仕方がないってで話すのはズルいので……フレドさんはにしたがってたな、って事を承知の上で、クロヴィスさんには共有するべき事だと判斷して私の意思で話します」

一言一言、間違えないようにしっかりと目を見て話す。

私が冷や汗を流しながらもそう言うと、いつも通りのクロヴィスさんの顔に戻っていた。……こ、怖かった……。

「ごめんごめん! 早とちりしちゃったよ。じゃあ聞かせてもらうね」

「は、はい。えっと……飼育室で見た事なんですけど……」

そうして私は、さっき見た事をなるべく細かく、私の主観がらないように説明した。

「うーん、王妃の魔眼を無力化できるかもしれない手段が見つかった……のは良いニュースだけど、おいそれと試すわけにいかないのが悩ましい所だ」

當初の予定では、フレドさんが自分ので試しつつ、魔眼を封じる方法を突き止めて、それをフレドさんのお母様に使う予定だった。

しかしこれでは本當にこれで無力化できるかまず試せないのもそうだが、私としてはもうし穏便な方法でなんとかしたいな、と思っている。

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「ドラシェル聖教の聖剣のかけらかぁ、どうやってそこに行きついたんだろう。何で出來てるのかな? でも聞いた限りの大きさでは分析に使ったらそれだけでなくなってしまいそうで……それにしても、聖のベールと言いこうして正解ろ思われるものを次々探し當ててしまうなんてさすが兄さんだなぁ」

考え事を始めたクロヴィスさんは立ち上がると、私とローテーブルを挾んで向かい合って座っていたソファの周りを大きくグルグル回り始めた。

これはクロヴィスさんが余程難しい事を考える時に出るクセだ……というのはしばらく一緒に過ごしていると気付いた。

「王妃に使うのは最終手段だな。これで取り巻き達の熱狂が本當に冷めるのか確信がないし、失敗したら余計面倒な事になる。せめて宰相が取り込まれていなければなぁ、多強引な手段を試す選択肢もあったんだけど」

聲はかけずに、そのまま獨り言を口にするクロヴィスさんを放っておく。この時は話しかけない方が良いのも知っている私は、今のうちに飲みでも用意しようか、と部屋の隅のミニキッチンに向かった。

クロヴィスさんが、王妃派と呼ばれている派閥を切り崩しあぐねているのは、宰相の存在だと聞いている。そのメドホルミ侯爵は、自分にも他人にも厳しいクロヴィスさんが「王妃にわされてなければ有能な宰相なんだけどね」と言う程の人らしい。

単純にメドホルミ侯爵自が優秀で、王妃の失敗を表に出さないように巧妙に立ち回っているというのもあるが、今のミドガランドが宰相を失うと國の運営に支障を來してしまうので取り返しのつかない失腳は出來るだけ避けたい意図もあるそうだ。

そのメドホルミ侯爵は、フレドさんのお母様がお輿れなさって以來、貴族なら知らぬものがいないと言われる程熱心に心を捧げている……という事なのだが。

それが公然のと言われているなんて、初めて聞かされた時にはびっくりしてしまった。貴族には妾や人なんてものを持ってる人もいるけど、それがここまで有名な話になってしまっているなんて。

メドホルミ侯爵の細君は納得されてる事らしいが、これは異常だと思う。當然、このような大きな噂になっているのでミドガランドの皇帝の耳にまで屆いている。

それなのに、二十年以上も何の対処もされてない。こんな事をしてきてもお咎めらしいお咎めがない……許されてしまう程、皇帝から王妃へのは深い……と、今では諫める事すら諦めてしまっている人もいるとか。

「確証が得られない狀態だと実行は出來ないな……王妃を排して一番に疑われるのは僕だし。不必要に國がれる事はしたくない。戦は絶対に避けたいし」

なんだか騒な事も言ってるな……。

けど戦を避けたいと慎重になるのはよく分かる。ミドガランド帝國は強大と言えど、戦爭になってしまえば絶対に國民やその生活に被害が出る。

特に、二十年前に帝國の領土・植民地・勢力圏をめぐっての対立から起こった大戦から、ミドガランドは「休戦中」である。今國で大きくパワーバランスを崩すと周辺國から狙われかねない。しかしクロヴィスさんの言う「病巣」も、今切り取らないと國ごと腐りかねず、そうしたらやはり弱化したところを他の國から狙われかねない。

「悪を倒してめでたしめでたし……とはならないのが現実世界のつらいところだね。とりあえず、兄さんには早まった事をしないように釘をさすとして……そうそう、リアナ君に用事があって會いに來たんだよ」

「私にですか?」

そう言えば、最初から私を待っていたような事を言ってたな、と思い出した。

フレドさん抜きで話をするという事は、またフレドさんの話をする相手を求めていたのだろうか。そんなのんきな事を考えていた私は、予想もしていなかった方向の話が來て驚く事になる。

「え……アジェット家から、ミドガランドに直接、私に関して問い合わせがあったんですか……?」

「うん。まぁ……君がまだクロンヘイムの貴族籍のあるただの令嬢でしかないなら自然な事だけどね」

ミドガランドでの「リアナ」については、ちょっと調べれば白翼商會に関わりがあるというのはすぐ分かる。

つまり、家族から接があるなら白翼商會経由だと思っていたのだが……。

もちろん、これでも「連絡を取る」という目的は葉う。しかし……こんな大げさな手段を取らなくても良いのに……。

「最初は、君を居づらくさせる作戦のなのかなって思ったんだけど。どうやら違うみたいで……白翼商會が僕がやってる事業だと勘違いした上に、國という頭越しに連絡してきたみたいで」

「それは……」

「君のご家族は、報集めるのが相當苦手なのかな?」

遠慮のないクロヴィスさんの一言に、とても居たたまれなくなってしまった。

実際否定も出來ず、かと言って肯定もしづらい……。

「外國の事とはいえ……公爵家なら諜報部門もありそうだけど」

「……社や、それに必要な報収集はお母様が全て擔っていたんです。私が家出をしてから、気落ちしたのか社の場に出てきていないと聞いていますが……」

私が家に居た時は私も報を集めるのは手伝っていた。お母様の苦手な、稅収から他の領の経営狀況を予測したり、新聞記事から王都から離れた地の勢を考えたり。それを聞いて、お母様は社に生かしていた。

他の家族は仕事で関わりのあった人に贈りをするにしても何をどう贈ればいいかなど全部お母様の指示を仰いでいて。私はたまに、お母様に意見を聞かれて「土砂災害の見舞いなので、ではなくて技者を派遣して、被災者を我が領でれる提案をしてみてはいかがでしょう」なんて提案くらいはしていたけど。

でも家族達の部下は、それぞれの家族が専門とする分野ではとても有能だったが……そうした分野外のちょっとした報を得るとか、それを元に判斷するとかもしていなかったように思う。

そのくらいは出來る人もいたと思うが、それはお母様とその部下が全部していた事だったから。アジェット家は皆天才で、皆異なる分野で活躍していたが、他の家族に自分の専門の事で手を出されるのを酷く嫌っていた。

「なるほど。それでどう連絡を取るべきか判斷できる人が決定者にいなかったと……リアナ君のお母様の部下を借りれば良かったのに」

「そう思いますよね……」

家で、家族達はそれぞれの分野で「絶対」だった。家族間でも、他の家族の専門とする分野で何かやる時はお互いお伺いを立てなければならない空気があった。

ダメだと言われていた訳ではないけど……何故自分に聞きに來ないのか? と機嫌を損ねてしまった事も多いので、學園の教師に質問するのもちょっと躊躇した覚えもある。

さらに自分の専門とする分野では、部下達の行に対しての最終決定も必ず自らで行っていて……例えば、アンジェリカお姉様のドレスブランドでは、他にもデザイナーが所屬していたけれど、アンジェリカお姉様の許可がないと一切商品にする事は出來なかった。なので王太子妃としてのお仕事が忙しい時期は、アンジェリカお姉様の確認待ちの新作デザインが溜まったりもしていた。

今回報収集が上手く機能してなかったのも同じような理由なのでは……と思う。

「まぁ、事実それをしなかったからこそこうして國の機関を通した連絡が來たという事でもある。でもこの過程はどうでもいい。そういう相手だってだけで。ではこれにどう対応するか話し合おう」

「……はい、すみません」

「どうして? リアナ君が悪いんじゃないだろう」

フレドさん以外の人の心の機微に興味がないクロヴィスさん……さらっと流されたの、今回だけはちょっとありがたいなとじた。

「実は私も、クロヴィスさんと同じ……家族が私に連絡を取ろうとしてるって知ってフレドさんに相談しに來たんです。白翼商會に接があると思ってたので」

「ああ、そうだね。まぁ普通はそう思うよね」

「クロンヘイムにいる協力者……ライノルド王子からの連絡では、ほとんど全ての責任を養子に押し付けた上で、私を連れ戻そうとしてると……そんなの、間違っています。それに、家族のもとに帰るつもりは私にはないので」

「そっか、じゃあその養子への処罰はじておく。あと今後リアナ君にちょっかいかけられなくなるように、人造魔石産業を生み出した技者の柄の保護としてクロンヘイムに強めに抗議しておこうか。連絡が來ても僕か兄さんのとこで止めれば良いし、後は二親等以親の國も制限すれば……」

過激な発言が飛び出て、私は思わず制止する言葉を発していた。

「!! いえ、あの! クロヴィスさん、私そこまでは考えてないです!」

クロヴィスさんは心底不思議そうな表をしながら、首を傾げた。

「……逃げたいくらい嫌いだった家族を、なぜ庇うの? 聞いた限りだと、確執があったと思うんだけど」

「ニナが必要以上の罪に問われるのを止めてくださるのは助かるんですが、え……と……。私、確かに家族のもとに居たくないと思って離れましたけど、一生會いたくないとか、そこまでは思ってなくて……」

「じゃあ……會いたいって事?」

「いえ、今は會いたくはなくて……。でも……嫌い、とも思ってないんです。わざと認めてもらえなかった事を悲しいと思ってるし、信じてもらえなかった事に怒りもしましたけど……」

私は私なりにクロヴィスさんに自分の心を正確に説明した。ここを誤解されて、取り返しがつかなくなっては困る。

私は家族に……私が家族との接し方に悩んで、どうじていたのか……いつか分かってしいと思っている。

でも今まで、これほどクロヴィスさんとの意思疎通に困った覚えはないんだけど、どうしてだろう……と考えていて気付いた。そっか……いつも橫で聞いてて上手く補足をれてくれるフレドさんがいないんだ。

……私が言いたい事を、私よりも上手く汲み取って言葉にしてくれるフレドさんに、普段は甘えてしまってたんだな……と反省しながら何とか説明した。

「で、々思うところはあるけど、不幸になってしい訳ではない……と。的にどうしたいとか希はある?」

「いえ……まだ家族と將來どういう関係になりたいとか、それも定まってなくて……」

「……人のって難しいなぁ……」

真面目な顔をしてそう呟くクロヴィスさんは、真剣に悩んでくれているのが見て分かった。他人のが分からないと言いつつも、うじうじしてしまう私を切り捨てずにこうして一緒に

考えてくれるのは、が優しい人だからだろうな。

「……不得手な事について、無理して今すぐ決斷しない方が良いだろう。とりあえず、今すぐ帰って來いという要求だけ斷っておくよ。それでいいかな?」

「はい。お手を煩わせてしまいますがよろしくお願いします。……國家間のやり取りに使う通信を何度も使うのは気が引けるので、白翼商會経由で連絡を……原稿書いてきますね」

「ああ、その方がいいかな。じゃあ明日までに用意して副クランマスターのジェスに渡しておいてくれる?」

「分かりました」

その後クロヴィスさんは、まだ発表してない新型の遠距離共振を「當分匿する予定だけど」と嬉しそうに見せてくれた。

「……? これ、やり取りする畫面はどこですか?」

「ああ、これは畫面を同期させるものじゃないんだよ。ちょっと待ってて」

私に渡された者の片割れらしい共振を持って、クロヴィスさんはこの部屋の外に出てしまった。

『これ、聞こえるかな? どう? びっくりした?」

これをどうすれば良いのか……と手にしたまま固まっていると、突然、共振の中央部分からクロヴィスさんの聲がしたのだ。

「ね、すごいだろう?」

「す……すごいですね……聲……音の振を共振で同期させて、遠くと會話が出來るようにしたんですか……?」

「そう。さすが、一目で分かるとは話が速い。でもこれもリアナ君のおだよ。共振に使う『同一と定義できる魔石』が潤沢に手にるようになったから開発出來た訳だし」

「えっと、良かったです……お力になれて」

すぐにまた扉を開けて戻ってくると、クロヴィスさんは悪戯が功したような顔をした。

試作品だというその新型の共振をローテーブルの上に並べて置くと、取り出した魔導回路図を橫に広げて、使っている技について嬉々として説明を始める。

すごい……伝魔導で線を引けば通話が出來るけど、そうか原理的には共振で同じ事が出來るんだ。今までの天然の、雙子の魔の魔石ではタイムラグがひどすぎて実用化されていなかっただけで……。

「……で、ざっとこういう原理でいてる訳だけど、何か改良案はある? 最終的には耳に引っ掛けられるくらいの大きさにしたいなとは思ってるんだけど」

「そう……ですね……ここに振のノイズを軽減するためにこう書き足せば、こっちの部分を丸ごと省略できるかなと思うんですけど、どうでしょうか」

「なるほど……? そうか、共振させる振を扱う魔導回路に二つ役割を持たせる訳だな。他には?」

「えーと……畫面に書いた文章が同期されて、見るまでずっと表示されてる訳じゃないので、これから連絡をする……と相手に分かるような合図が出來る機能がしいなと思いました」

「ああ、確かにそれは必要だ!」

クロヴィスさんは私とひとしきり錬金談義をすると、まとめた案をすぐに開発擔當者に渡してくる、と言って今書き込みをたくさんした魔導回路図を抱えて部屋を出て行ってしまった。

……そのまま帰るとは言ってなかったし、とりあえず戻って來るのを待てばいいかな……?

私は、たくさん喋ったせいかが渇いたのに今気付いて、すっかり冷めてしまったお茶を口にした。

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