《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》3

「リアナちゃん、家族への渉人にさ、俺の事雇わない?」

クロヴィスさんに、実家から連絡が來た事で今後どう付き合っていくかを話した翌日の夜……フレドさんが私達が暮らしている住居にやってきてそう提案した。

実は……フレドさんが、魔眼を無効化する方法について悩んでいたのを見たので自分の事を相談するのを躊躇してしまったので、まだ話していないのだ。多分、クロヴィスさんがフレドさんに伝えたんだろう。

もちろんフレドさんにも共有する予定だったから問題はないけど、自分の事で悩んでいたであろうフレドさんにまた迷を持ち込む形になって申し訳ない気持ちが湧いてきてしまう。

「フレドさん……えっと、そう言ってもらえるのはすごい嬉しいんですけど……フレドさんの方は大丈夫なんですか?」

「そうですよねぇ、忙しそうにしてるのは私達も見てますし……」

夕飯後の時間にやってきたフレドさん達に多驚きつつも、「フレドさんがこの時間にやってくるなら余程の事なんだろう」と判斷したらしいアンナは、とりあえず何も尋ねずに招きれた。しかしこの提案には多驚いたようだ。私の隣で目を見開いている。

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うん……私贔屓をするアンナも、自分の事で大変なフレドさんの狀況を心配してるみたいだ。

「まぁまぁ、二人共俺の説明を聞いてよ。これは俺もすごく助かる話なんだ」

「……フレドさんがそう言うなら」

優しい人だけど、ここで噓を吐く人ではない。私はフレドさんの目を正面から見た。最近は商會でも竜の咆哮(ドラゴン・ロア)でも、他の人の目がある所では眼鏡型の裝をずっとに著けている。

何だか久しぶりにじるフレドさんの素顔に、ほんのしそわそわしてしまった。

「まず、リアナちゃんが一番気にしてるのは、ご実家が養子にしたって子の事だよね?」

「……はい」

あれからライノルド殿下と、共振の畫面上でのやり取りを二往復行って、私が想像していた以上にニナの置かれている狀況が良くないものになってしまっているのを知った私は、フレドさんの優しさにすぐ飛びついてしまいそうになった。

でも……昨日「いつも甘えてばかりだな」と自覚したばかりなのに、またフレドさんに甘える事になってしまうなんて。

「そのニナって子、リアナちゃんが助けたいって思う気持ちは分かるけど……実際問題は起こした訳だから。で、ここまで大きな話になっちゃったら、この話が解決したとしてもクロンヘイムでそのまま生きていくのはかなり難しいと思う」

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「そうですよね……」

未だに、「あの時私はどうしてればこんな事になってなかったんだろう」って考えてしまう。

家族に向けて、ちゃんと詳しく説明する手紙を書いていたら良かったかな、とか……でも、あの時は「認めてもらえないだけじゃなくて、信じてもくれないのか」って思ったら頭がぐちゃぐちゃになっちゃって、そんな事を冷靜に考える余裕なんて全くなかったから……。

過去の行を悔いても仕方ない、これからの事を考えるべきだ。そう気合をれて、意識を戻す。

「その子が人したら自分でその家を出る……が出來たら一番穏便だけど、これから一年近くこの狀況のまま我慢させる……ってのはリアナちゃんが嫌なんだよね」

「……そうです」

私と家族の確執とか、私が家出をしてからたまたま大きな利益を生み出す商品を開発したとか……偶然が重なったとはいえ結果的に貴族のメンツを潰している。かなり過ごしづらい環境になってしまっているだろう。

罪が暴かれて反省してしいとは思ったが、必要以上に重い罰を與えたい訳ではない。これは善行ではなく、どうしても私が気にしてしまうから……そう、自分の神衛生のためだ。

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「この……ニナって子をアジェット家から救い出して、外國で彼が暮らせる環境を用意する……俺を渉人として雇うなら、このくらいは果として約束出來るよ。その後、家族との関わり方にも間にるし。どう?」

「な……⁈」

それを聞いた私は思わず聲が出てしまった。このくらい、なんてそんなの……私が一番悩んでた事を、全部解決してしまうのに。

「それ……私に都合が良すぎませんか?」

「うーん、それがねぇ。ポリムステル布と人造魔石で、白翼商會がすごい儲かっちゃってて。その利益の還元って事で十分なんだけど……その顔、納得してくれなさそうだなぁ」

「だ、だって……」

私の顔を見て、言葉を発する前から私がれるかどうか分かってたらしいフレドさんが苦笑いを浮かべた。

……フレドさん、私の事心配して々手を貸そうとしてくれるの……嬉しいけど、いつもしてもらってばかりになってしまうのが苦しい。

商會の経営がすごく好調なのも私が作った商品のおかげだってフレドさんは言うけど……量産するために必要な、ミミックスライムを含めたスライムの飼育場や、人造魔石を育てるための魔力を含んだ餌として使う巖桂魔魚の生け簀も、土地の確保から建設からそこで働く人達を確保したのも全部フレドさんなのに。

私がやってたら今の百分の一の規模も確保出來る気がしないし、そしたら三〇等級相當以上の人造魔石なんて月に一つ作れるかどうかになっていた。

そしたら、クロヴィスさんを満足させる數の、共振開発用のペアリング人造魔石を用意する事なんて出來なかったし……。

そもそも、フレドさんがそういった設備や人材を用意してくれたからこそ、ポリムステルを開発する余裕も出來たし、ファッションブランドを立ち上げてたくさんのデザインを描く時間も作れたのに。もちろん立ち上げたブランドのドレス工房や実店舗を持つ時にも、「こういう時のために後援がいるんだよ」とフレドさんとフレドさんが手配した人達がほとんど全部いてくれた訳で。

その時の私は、私以外のデザイナーやパタンナー、お針子さん達を職人ギルドの紹介から選ぶくらいの事しかしていない。

全部私のおかげなんて、フレドさんは自分の力を見くびり過ぎである。

「で……そこで一つ提案があるんだ。ちょっとこれ見てくれる? クロヴィスから預かってきた資料なんだけど」

フレドさんが取りだしたのは、私が人造魔石を作るにあたって參考にした、皇(すめらぎ)で行われている神珠(しんじゅ)の養について書かれていた。

かの國では飼育するスライムにキサカイウムギのを食べさせて、神珠(しんじゅ)を作る特を獲得させていたが、その後中々上手くいっていないようだった。神珠(しんじゅ)に似たものは得られるようになったが、そこまでにかかる費用が釣り合わない、と。

キサカイウムギのは、ポーションの材料や高級食材としても知られている。とても魅力的な発想だし將來じる研究だが、これには途方もないお金がかかるだろうという事は分かる。

研究とは果として目に見える形になるまでに年単位で時間がかかるなんてよくある事だが、往々にして後援者は即時のある結果を求める。神珠(しんじゅ)の研究者の名前は、皇(すめらぎ)の名付けの仕來りから推測するにかの國の皇族だろう。初期資金は潤沢だったのかもしれないが……いかに皇族と言えど金が無限に湧き出る泉を持っている訳ではない。

まだ正式な後援者もいないようだし、この研究はそう遠くないうちに研究資金的な苦境に立たされるだろうとクロヴィスさんは予測していた。

資料を見る限り、私もそう思う。論文では全ての報が開示されている訳ではないので斷言はできないが、余程の幸運に恵まれない限り數か月以に目覚ましい結果を出すのは難しいだろう。

そう考えると私はすごい運が良いよね……。

「で、クロヴィスがリアナちゃんが生み出した、ミミックスライムの報を利用させてしいって提案があったんだ」

「え……? あ、でも確かに、ミミックスライムを使えば、キサカイウムギの特を持ったスライムを安定して作れる可能はありますね」

私は、そう言われて初めて思い浮かべた。確かに、この技々な事に流用出來るかもしれない。人造魔石や神珠(しんじゅ)だけではなく、今まで魔を討伐しなければ得られなかった魔素材までも人工的に生み出せるかも。

「なら、クロヴィスさんの……」

「役に立つなら是非自由に使って、なんてもちろん言わないよね? これは大金どころか國家間の渉のカードになる、とても価値のある報だ。こんな大事な話を、世話をした恩に著せて無償でけ取ったなんてクロヴィスはしないし……他の錬金師にも失禮だよ?」

フレドさんは笑顔だった。けど、有無を言わせない圧をじて……私は続けようとしていた言葉を呑み込んだ。まさに、フレドさんが口にしたような事を言おうとしていたから……。

「で、クロヴィスが皇(すめらぎ)との渉に使う報……その対価として、クロヴィスが俺の時間を買ってリアナちゃんに貸し出すじかな。ちょっとクロヴィスが俺の値段を高く付け過ぎな気もするけど……」

「言え、正當だと思います」

それなら、フレドさんが私に力を貸す十分な利益がある……ように見える。私が「迷だけかけちゃってるな」って思わなくてもいいくらいの。

「あと実は……ちょっとだけ國を出たいんだよね」

「え、他に何か用事があるんですか?」

「いや、ミドガランドに俺がいなかった……って狀況にしたい、が正しいかな。せっかく國外に出る理由があるんだし、そのついでにリアナちゃんの実家のトラブルにも首を突っ込もうかなって。それに、元々俺は優秀な人に全部任せて回るようにしてるから、リアナちゃんの人造魔石で作った高能共振があれば國外でもけるんだよね」

忙しいのに無理では、と思っていたけどこのタイミングでここを離れる目的がちゃんとあるんだ。

詳細を語るとややこしい話になってしまうが、フレドさんはミドガランドに帰って來てからまだ縁上のご両親と顔を合わせていない。これは意図があっての事で、わざと「療養していた第一皇子が回復して社界に戻って來る」事も公にしていない。

しかし、多調べものが出來る家なら新進気鋭の白翼商會のオーナーがフレデリック皇子だという事に気付ける。

最近はさすがにしびれを切らした王妃とその周辺がフレドさんに接しようとしているので、それから逃れる意図があるそうだ。今はまだはっきりと拒絶せずにかわしておきたいらしい。

「リアナちゃんは気がかりだった実家の養子を救い出せる、クロヴィスは外に使う有力なカードを手にれる、俺は周りに見える形で皇太子に貸しを作れる。全員得をする取引だ」

「たしかに、そうですね」

「でしょ? お買い得だよ」

おどけたように笑うフレドさんに、私は適わないな、と思った。

……本當は、何の見返りもなく手を貸してくれようとしたんだろう。

でも、アンナを連れてきてくれた時みたいに、私が気に病まないような理由を作ってくれて……。

「俺を雇わないなら、ちゃんとした形の褒章を渡すことになるって。ただ……すぐかせるものがないから、未だと爵位になっちゃうみたいだけど、どうする?」

「しゃ、爵位はちょっと。ふふ……じゃあ、フレドさん。フレドさんの事、雇っても良いですか?」

「ああ、喜んで」

その後は、クロンヘイムにどうやって向かうか。日程や準備などを確認していく。

表向き、フレドさんは人造魔石を開発委した錬金師の後援者として営業に訪れる形だ。私は開発者として帯同する。

実家がミドガランド帝國に直接連絡をしたのにはびっくりしたけど、クロンヘイムからは元々人造魔石について問い合わせが來ていた。ライノルド殿下とは直接やり取りしていたのと別に、國家間の話として。

人造魔石の生産設備一式をクロンヘイムにも作らないか……という提案で、似たような話は他にもいくつか來ていた。名目上は、その検討をしに行く事になっている。

「でもさっきは冗談みたいに言っちゃったけど、実際あると思うよ、爵位」

「え……ちょっと、遠慮するのは難しいですかね……?」

私がそう答えると、フレドさんは斜め上に視線を向けて一瞬考える素振りをした。

「人造魔石にも、ポリムステル布に被服産業……生み出した利益が大きすぎるからなぁ。まだ長するだろうし……『評価しない』のは難しいと思うけど、リアナちゃんが本気で嫌ならクロヴィスも無理強いはしないよ」

「良かった……」

「でも、貴族からの無茶ぶりを防ぐって意味では自分が爵位持っちゃうの、俺はアリだと思うよ。高位貴族が後援についてる平民よりも、高位貴族が後援についてる貴族の方がは守りやすいし」

「……そっか、そういうメリットもありますね」

爵位、と聞くと「とても大変なもの」というイメージがまずあって、それに伴う責任が真っ先に思い浮かぶ。けど功績を上げた平民を守る盾にもなるのだと思い出した。

え、でも私ってまだ、クロンヘイムに貴族籍が殘ってる? ……せっかく帰るんだし、一度確認しておこう。けるかどうかはまだ決めないとしても。

「ああでも、爵位持ったらリアナちゃんに……縁談がすごい來ちゃうと思うな」

「……リアナ様なら、爵位などなくても釣り書きが山ほど來るに違いないと思うんですが」

「ちょっとアンナ、変な所に反論しないでよ」

突然そんな事を言われたのもあって、私はなんだか頬が熱くなってしまった。でも結婚……學園にいた頃も、同級生には婚約者がいる子の方も多かった。貴族では、卒業後すぐに結婚をする事が決まってた人も結構いたし。

でもお兄様達を見てると、好きな事に夢中になって、自分からまない限り婚約の話も出なかったので、私にはどこか遠い世界の話用にじていたから……。

「いやいや、アンナさん。ミドガランドは貴族間でしか結婚出來ないんですよ。だから爵位を持った途端に申し込みが殺到しそうで……まぁ、クロヴィスも俺も、リアナちゃんがまない話は持ち込みませんから安心してください」

「そうですね……そこは信頼してます」

……そっか、クロンヘイムとは法律とかも々違うんだよね。

アンナとフレドさんのやり取りを聞きながら、私は「ミドガランドの貴族にならないと、ミドガランドの貴族の人とは結婚出來ないんだ」とぼんやり考えていた。

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