《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》対面
「なら、お父様、お兄様。私はお二人に決闘を申し込みます! 自由のために……私が勝ったら、もう私の行に口を出さないでください!」
王都でも老舗の、貴族の會談でも使われるレストランの一室。その衝立の裏から、私はそんな宣言を聞いていた。私の聲で勝手にされたその宣言を……。
なぜこんな事になったのか、最初から説明しよう。
私は、家族全員が、私との話し合いのためにアジェット邸を出発したの確認してすぐに屋敷に忍び込んだ。グレゴリーの協力のおかげで魔導車を使えた事もあってかなり時間短が出來て、予定していたよりも早く合流できそうだと思ったのだが、なんともう話し合いが始まってしまっていたのだ。
私は部屋を借りて著替えてすぐ、「変化」で私のフリをしている琥珀とれ替わって戻るために、皆が集まっている部屋の外までやって來た。そっと前室にってからタイミングを窺っていたのだが……思いもよらず、私はそこで盜み聞きのような真似をしてしまう事になったのだ。
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「お母様は、こんなに説明しても……私がフレドさんに『騙されてる』って事にしたいのね」
「実際そうでしょう! わたくしはリリアーヌ、貴のためを思って言ってるのよ!」
こっそり聞いている話し合いは、聞いている自分でもびっくりするくらい「私」が喋ってるみたいだった。聲だけじゃなくて、ちょっとした抑揚の付け方とかも全部。
琥珀は「相手が一番怖いものの幻も、一番んでるものを見せてわせる事も出來る」と言っていた。それを応用して「家族の記憶の中のリリアーヌ」を元に私に化けているらしいのだが、本當にすごい能力ね……。
しかし、私が戻って來たらとあらかじめ決めておいた合図を出したのだけど、琥珀は弁舌の勢いを止める気配はない。
ちょっと、私の口で何を言うつもり……?
「……ああ、そうか。お母様達は、私がお愚かで、騙されたから戻って來ないって事にしたいのね」
「何を……⁈」
「そういう事にしておけば、自分達は悪くないって思えるから」
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私の聲で鋭く差すように告げられたその言葉は、言われた側ではない私の首筋もすっと冷めるような覚がした。同時に、私のの中でずっとつかえていたものが外れる。
……そうか、私のせいじゃなかったんだ。お母様達は……自分の都合で、「リリアーヌが新天地で幸せにやってて、家に戻る気はない」って認めたくなかったんだ。そう気付いた。
家族にとって私は、「すれ違いで家出して、不幸な目に遭った愚かなリリアーヌ」じゃないと都合が悪いのね。
狩猟會での事件の事もそう。あれはあくまでもきっかけで、たったひとつの原因ではないって私が言っていたのに家族はニナに責任を押し付けていた。
不幸にも騙されて、すれ違いが起きてしまっただけ、そうじゃないと都合が悪かったから。でなければ、長年ふさわしい評価をしてこなかった上に、ニナを守るために怪我をした私を一方的に責めた挙句、噓吐きだと決めつけた事になるからだろう。(実際そうなのだが)
だから私の言葉を否定したんだな。
リンデメンで家族と接してから、ずっと私は……家族達は何故私の意見を「間違ってる」と決めつけ、戻って來いと言い続けるのか分からなかった。
ニナの事以外にも、それが全ての原因じゃないって言ってるのに「これからはちゃんと褒めてあげるから」って、それさえやれば全て解決とでも言うように主張されて。どうして私が今幸せにしてるから家には戻らないって意思をけれてくれないのかって、ずっと苦しかったのに。
そうか……これも、どうして私を一度も認めてくれなかったのか、家族の本音をフレドさんが言い當ててくれた時と同じだ。「自分が一番慕われる存在になりたかったから」って言われて、お兄様達は反論出來なくなっていた。あれから數度やり取りした、他の家族も同じだった。
今回も、「自分達が間違ってたって認める事になってしまうから」……だから家出した私の話なんて、最初からけれる気なんてなくて。そっか、私のせいじゃ、なかったんだ。
やっぱりこれって酷い事してるのかなって、家族から反対され続けてずっと罪悪があったの。だから、家族に理解してしい……私の意思で取った行をけれてもらいたいって思いがあった。
私が努力してもどうにもならない事だったのか。そう気付いたら、ずっとの奧にあった重りが取れたような、晴れやかな気持ちになっていた。
しかし私が悩んでいた事の正が判明したのは喜ばしい事だけど、早くこのれ替わった狀態から元に戻らなければ。
「あくまでも、認めない、家に戻れと言うのですね。なら……お父様、お兄様。私はお二人に決闘を申し込みます! 自由のために……私が勝ったら、もう私の行に口を出さないでください!」
ちょっと⁈
琥珀のその宣言はあまりにも予想外過ぎて、あまりに驚いた私は思い切り音を立ててしまった。誰が聞き耳を立てているんだ、とこの話し合いで気を立てていたウィルフレッドお兄様に見つかってしまうのも當然で……。
「な……リリアーヌが二人⁈」
「バカな……一何が。いや、そうか。ここで私達と話をしていたリリアーヌは偽だったんだな?」
「そうだったのね! 道理で、リリなら言わないような酷い事ばかり言う訳だわ!」
「いいえ、お父様、お母様。私が代理人を頼んでいたこの子の言葉は、全て私の本音と思っていただいて構いません」
私が二人いるのを見て家族達は揺していたが、すぐに何だか都合の良い事にされそうになって、私は慌てて否定した。
當事者の私が気付いてなかった事実の指摘もあったが、私が騙されてなんかいないのも事実だし、家に戻りたくないというのも私本人の意思だ。
「見ものじゃの。あれだけ『してた』って言ってたくせに、こうして琥珀が変化してた偽だったって気付かなかったんじゃな」
「こら、琥珀」
煽るような事言わないの。
くるりとをひるがえすと、琥珀はなんと私の姿に狐耳を出して見せた。私がしないような、まるで歌劇の悪の役のような笑みを浮かべて、お父様とお母様を挑発し始める。
……本のリリアーヌじゃない、って一目で見て分かるようにわぁとやってるのだろう、でも狐耳を頭に生やした自分の姿を見せられるなんて、正直ちょっと恥ずかしいのだが……。
「……いいのか? リリアーヌ、ミドガランドの皇族関係者に醜聞に巻き込むような真似をするなんて。今なら……」
「そうですねぇ。俺に何か不名譽な疑が持ち上がったら、後援しているリリアーヌさんにも影響が出てしまいかねない。そうならないように、常に襟を正して過ごしたいと思います」
家族達は、遅れて登場したフレドさんを見て皆一様に驚愕していた。無理もない、別邸に監していたと思っていた人質が何食わぬ顔でそこに立っていたのだから。
「……どうしてここに……」
「我が國の重要な錬金師であるリアナ卿が何やらご家族と重要な話をすると聞きまして、リアナ卿本人の許可を得た上で渉人お邪魔させていただきました。アジェット家の方達とは、一昨日ぶりですね」
実際、フレドさんに「公爵令嬢の拐」なんても葉もない迷をかけてしまうくらいなら、家に戻ってもいいと考えもあった。要求に応じず、フレドさん……とついでにニナを救い出すあてがなければ、私はそうするしかなかっただろう。
「な、ならば……リリアーヌの偽が口にしていた決闘、それをけよう。もちろん、偽ではない、リリアーヌ本人とだ。これで良いきっかけになるだろう? 家に帰って來なさい」
切るカードがなくなったお父様は、突然とんでもない事を言い出した。決闘って……さっき琥珀が言い出した話の事?
家族達はにわかに勢い付いた。ウィルフレッドお兄様も加わって、すでに「この際仕方がない、リリアーヌをいかに傷付けずに負けさせるか」なんて話に移ってしまっている。
私がポカンとしてる橫で、まだ私の姿をしたままの琥珀はきまりが悪そうに指で頬を掻いている。
「うーむ……リアナが來る前に片付けておこうなんて思ったんじゃがの」
「それは、琥珀は勝てるかもしれないけど……」
たしかに、琥珀ならお父様達と戦って勝てるかもしれない。
魔法も武戦闘もありの普通の決闘なら。お父様の魔の腕は素晴らしいけど、琥珀のスピードで近付いて近接戦闘に持ち込んでしまえば勝機はある。ウィルフレッドお兄様の強化魔法はとてつもない脅威だけど、距離を取って魔法……琥珀の場合は狐火を撃ち込めばこちらも何とかなる余地は十分にあるのではないかと思う。
琥珀はお父様とお兄様を見て勝てると思ったから、私のフリをして私の代わりに決闘して片を付けようなんて考えたのかもしれないけど……。
私は、今まで二人から一度も一本取れた事なんてないのに。お父様達はそれを分かってて、確実に家に連れ戻すために言ってるんだろう。
「ん? リアナ、何を言っとるんじゃ。お主は普通に勝てるじゃろ。だってあの二人、強いのはそれぞれ魔法だけ、剣だけなのじゃ。魔法も剣も強いリアナの方が強いじゃろ」
「……え?」
「琥珀の見立ては間違ってないぞ。それともあの二人、クロヴィスくらいに魔法も剣も使える、リアナよりも強いのか?」
……あれ、……ええ? だって、お父様もお兄様も、私なんか足もとにすら及ばないくらい強くて……。一度も認めてすらもらえなかったのは思があったせいだけど、流石に私が二人に勝つなんて、絶対……。
そう思いかけて、違和が引っかかった。ほんとに、無理なのかな?
だって、クロヴィスさんは二人に勝てるだろう。確かに、魔法だけ、剣だけのルールに制限したらお父様とお兄様が勝つと思う。でも、私がクロヴィスさんとやった試合みたいに、魔法も剣もあり、というルールで戦うなら……。
私の中で、もやもやしたものが形になろうとしていた。
「良いんじゃないかな?」
「フレドさんまで……」
「いやいや、勝てなくてもさ。決闘って口実でひっぱたけるよ」
「でも負けたらまた面倒な狀況になりかねないですし、」
「まぁ……そしたら、また家出しちゃえばいいよ」
「え?」
「今度は俺が迎えに行くよ、リアナちゃんの事」
フレドさんのその言葉で、何だか視界が広くなった気がした。私、家族を前に委してたみたい。
……そうか、私はもう「認めてもらわないと」なんて怖がらなくて良いんだ。今私の傍に居る人たちは、私が失敗しても失せず立ち上がるのを待っててくれるし……手も貸してくれる。
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