《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》自分なりの

一応、言いたかった事は全部言えた……と思う。私が傷付いていた事、謝ってもそれはもうどうにもならない事、私の事を認めてしいって事も。

「歩み寄る余地を殘したんだね」

「……甘いって思いますか?」

「ううん、リアナちゃんらしいと思うよ」

お疲れ様、と労ってくれたフレドさんの聲が、何だかお腹の奧までしみ込むくらい心地良かった。……ああ、すごく落ち著くなぁ、って。

同時に、「私の日常はアジェット家じゃなくて、ここだな」って改めて思う。

「……でもフレドさん、良かったんですか? アジェット家がかけた冤罪について、拘束された事とかもなかった事にしちゃって……」

「いやぁ~容疑かけられた事もミドガランドに持ち帰りたくないから、文句言うのはやめとくよ。ただ、白翼商會として人造魔石事業を持ち込む際には、ちょっと冷遇しようかなー……」

それについては、本當に申し訳なさ過ぎる。私じゃなくても、家族がやった事なのだ。お詫びをしたいけど、フレドさんは私が代わりに謝るのなんてまないって分かってるから余計に居たたまれなくなってしまう。

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「それにしても、ニナが起こした竊盜騒ぎがあったからって、他國の外を疑って拘束するなんて……」

「……それだけ、なりふり構わないくらいにリアナちゃんの事を連れ戻したかったって事かな? まぁやり方間違えてたからダメなんだけどね」

私は言いたい事を言って、家には戻らない宣言もしていい區切りになったが、家族側はわだかまりが殘ったみたいだった。まぁそれも當然か。

本音をしっかり話せたこれを機に、今後良い関係を築き直せたら、と思う。

「あ! リアナ様、お帰りなさい。話し合いの様子は大聞かせていただきました。ご自分の口で本音を伝えられて良かったですねぇ……」

「お、お待たせ、アンナ。えっと……それで、何があったの?」

「ああ! リリアーヌお嬢様ぁ! どうか、どうか我が歌劇団をお救いくださいぃい!」

アンナが待っていたはずの部屋へと移した私達は、そこでの景に、ポカンと口を開けたまま固まってしまった。

何故か、涙やその他ので顔をぐしょぐしょにした男がそこにいたのだ。アンナとエディさんは、テーブルを挾んでむせび泣くその男に、戸いの視線を向けている。

「え……っ、えっと、ど、どちら様でしょうか?」

「あ、ああっ! これは申し訳ない、わたくし、パドゥーラ歌劇団の支配人、コージィと申します」

「え⁈ コージィさん⁈」

私よりやや早く瘴気に戻ったフレドさんが思い出したように男に誰何する。

自分の名前を呼ぶ、見覚えのないこの人は誰だろう……とぐるぐる考えていた私は、知り合いの名前がそこから出てきて心底びっくりしてしまった。

いや……知らない人、と思ったけど……よく見たら面影がある。

「リアナちゃん、知り合い?」

「ええ……お母様が運営している歌劇団の支配人さんです」

お母様はクロンヘイムの音楽會を牽引する存在として、いくつかの楽団などを所有している。お金を出すだけではなく、曲を作って演奏させたり、自分が歌手や演奏手として參加したりもしていた。

パドゥーラ歌劇団もその一つで、専用の劇場もある……周辺國を含めても一番大きな劇団なのだが。

コージィさんはその支配人で、私もお母様と共に何度も顔を合わせた、良く知ってる方だった。何故気付けなかったのか、それもそのはず。とてもふくよかな方だったはずなのに……今は頬骨が浮き出る程ガリガリに痩せて、目の下にはクマも出來ていた。顔が浮かばない程に様相が変わってしまっている。

「お願いします、リリアーヌお嬢様! ジョセフィーヌ様に……明日の舞臺に出てくださるよう説得してください!」

「ええ? 一どう言う事?」

涙をこぼしながら語るコージィの話によると……時期的にお母様は、私が家出をしてから「心労」を理由に一切表舞臺で音楽にれていなかったみたいなのだ。コージィがやつれてしまったのもそのせい。

それが今回、本當に久々に公演を行うとお母様から話があって、「クロンヘイムの歌姫復活」と大々的に宣伝したのに……ついさっき、お母様から「やっぱり心労で出られない」と連絡があったそうなのだ。それで、劇場の近くにアジェット家の魔導車があるのを見つけて、直談判しに來て……既にお母様本人に斷られた後なのだという。

……これは、えっと……勝手に、「リリアーヌを家に連れ戻してめでたしめでたし」ってなると思ってたのが、そうならなかったから……って事かな。

「とても悲しい事があって、涙が止まらないし、嘆き続けたらも傷めてしまったからと……歌を歌うなんて無理だと言われてしまったんです~」

「えっとそれは……お母様が迷かけてしまってごめんなさい」

でも、コージィの嘆きはもっともな事だ。主演が突然出られないとなったら、どれだけの賠償が発生するか。遠くから宿を取ってやって來てくださる方もいるだろうし。金銭的な事だけではなく、パドゥーラ歌劇団の信頼問題にもなってしまう。

「でも、その狀態で強引に出演させたとして、ちゃんと歌手としてお客さんの期待に応えられますかね? お客さんの通費とか含めて、アジェット家に賠償させる方向でいた方が良さそうな気がしますが」

「そ、そんな! ジョセフィーヌ様が活しなくなってしまって、やっと再開できた大規模な公演なんですよ⁈」

フレドさんの現実的な提案に、コージィは悲鳴のような聲を上げた。私だって、パドゥーラ歌劇団がそんな事になってるなんて知らなかったし、何とか協力したいと思う。トップスターであり、資金提供者のお母様が何もかなかったのなら、本當にここ一年苦しい運営をしていただろうから。

でも、あの狀態のお母様が舞臺に登れるかと言われたら……それも不安ね。

「……はっ! そうだ……リリアーヌお嬢様! リリアーヌお嬢様が代わりに出演してください! お願いします!!」

「え……⁈ 私がお母様の代わりに?」

「はい! お顔立ちはそっくりですし、舞臺用の化粧と鬘で見分けがつかなくなるでしょう。何より、リリアーヌお嬢様の歌なら! 観客が千人いても、言われなければ誰も……いや、気付く者がいたとしても片手で収まります!」

名案! とでも言うようにコージィに勢いよくばれて、私は思わず仰け反っていた。

「いえ……それはやめた方がいいと思うわ。國一番の歌姫の名前を騙って別人が出たなんて、それこそパドゥーラ歌劇団の信用にひびがってしまうもの」

「なら、一どうしろって言うんです⁈」

わっ、とさらに勢いよく泣き始めたコージィに、私は困り果てて思わず周りを見渡していた。

アンナもエディさんも、フレドさんも困ったような顔をしている。琥珀はこんな時もマイペースで、アンナの隣に座ってお茶菓子に手をばしていた。

「リアナちゃんはどうしたいの?」

「出來たら手助けはしたいです。でも正直、私もお客さんに十分な賠償をして、その請求をアジェット家に回す事くらいしか思いつかないですが……」

「……別に、お母さんのフリをしなくてもいいんじゃないかな?」

ぽつりとそんな事を口にしたフレドさんに、コージィが「どういう事?」とでも言いたげに顔を上げた。私も、その言葉の意味するところが気になって、フレドさんに視線を向ける。

「普通に、アジェット公爵夫人が急病のため、娘さんで弟子のリリアーヌ嬢……リアナちゃんが出演、って的な談として広報するのはどうかな。もちろん、チケットの返金を求める人には対応するとして」

「!! それは!! 素晴らしい解決策ですよ! こうしてはいられない、リリアーヌお嬢様、明日の公演までもう時間がない! すぐに劇場で臺本と歌を確認してください! そうだ裝も修正しないと!!」

「ええ……」

フレドさんは、思い付きで発言した自分のアイディアが速攻採用されてドンドン話が進む事に困して、私に「ごめん」と言いたげな視線を向けてきて。それを見て思わず笑ってしまった 。

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