《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》2

「お願いですリリアーヌお嬢様! このままクロンヘイムでわたくし共のパドゥーラ歌劇団を率いてください!!」

「ごめんなさい、私もやる事があるから……その、」

「はいはい、コージィさん、ミドガランドの超優秀な錬金師を無理に勧するのはやめてくださいね~」

「ああっ!」

今日はミドガランドに帰國する日。私の足元に縋りつこうとしていたコージィがフレドさんにあしらわれていた。

期待に応えられない事をちょっと申し訳なく思うが……一応、歌劇の演出の相談には乗るから手紙を出すように伝えてある。

お母様がをあけた代わりをする事が出來たのは良かったけど、思ったより騒ぎになってしまったのだ。こんなに注目を集める事になるとは思わなかったな……。

「あの支配人の勧、すごい熱意でしたね」

「それだけ、リアナ様が代役を務めた昨日の舞臺が素晴らしかったという事ですよ」

後ろからやり取りを眺めていたアンナとエディさんが、完全に他人事としてのんびりとそんな會話をしていた。

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「でも、ほんとにほんとに昨日の『歌劇』ってやつはすごかったのじゃ! リアナの歌に合わせてあちこちったり風が吹いたり、雪や花びらが舞って、甘い匂いがした時もあってな……!」

「ありがとう、琥珀達も楽しんでくれて私も嬉しいよ」

ちなみに、昨日から琥珀は同じ事をもう百回は褒めてくれている。毎回くすぐったくじつつも、の奧が溫かくなる。もちろんアンナ達もとっても楽しんでくれて、公演が終わった後楽屋で大絶賛だった。

本當に、上手くいって良かった。お母様の代役としての公演だったが、演出面を大きく変更させてもらったかいがあった。

私はお母様より歌手として下なのは確かなので。そのまま同じ事をしても、実力の差がそのまま評価に出てしまう。

だから、お母様と違う事をやって、お母様とは別の方法で観客を楽しませたいと考えた。

他の出演者にやってもらう事は変わらない。ただ、私が歌う歌を「魔唱歌」にさせてもらったのだが、これが結構功したんじゃないかと思う。他ではない演出なのでびっくりした人も多かっただろうが、魔唱歌の演出の旅に歓聲が上がったし、幕が下りた後の拍手は「普段の倍はあるんじゃないか」ってコージィが言ってくれてたから。

魔唱歌は、琥珀の前で使ったのはそう言えば初めてだった。これはざっくり言うと歌で生み出す魔現象の事だ。魔法・魔には様々な発方法が存在する、そのうちの一つ。魔的要素を持つ文言を組み合わせた「詠唱」や、魔法陣や魔導回路も一般的だ。儀式という「行」を使って発させる魔のくくりにる。

私は今回、歌聲に魔力を込めて、聞いている人にの加減で幻を見せたり、その場に弱い風やを燈すという演出に使って舞臺を盛り上げたのだ。

習得して使うのは難しいが魔唱歌は本當に面白い。聲に魔力を込める事さえ出來れば々出來るから。今回は歌う曲も歌詞ももう決まってたけど、「聞いてる人の元気が出る」とか「勇敢になる」なんて魔唱歌も使う事も出來る。

「でも本當にすごく評判になってたよ。ロビーで『ジョセフィーヌ様よりもすごい歌手だ!』って言ってる人もいたくらいだし。俺もリアナちゃんは素晴らしい歌手だと思う」

「それは……好みの問題だと思いますよ」

これを使うには魔力をに制した上で、歌の技も必要になる。家族とは別の事を習得しようと挑戦しているときにに著けたものが、こうして大きく役に立ったなんて。船で赤ちゃんを寢かしつけた時も思ったけど、誰かの役に立てた事は全部寶みたいにとても誇らしくなる。

私が學んでに著けた事、一つも無駄になってなかったんだな、ってすごく嬉しい気持ちになれたから。だから、厳しく々教えてくれた家族達には、そこは謝している。

先日の話し合いで、家族達の底にあった不誠実な態度を直接見た私は今までのように「でも」と心の中に浮かばずに、真っ先に喜べるようになった。自分が家族達よりもすごいなんて事はかけらも思ってはいないが、私を私として評価してくれる聲をすっとれられるようになった。……これも長と呼べるだろうか。

「予想外のトラブルもあったけど……やっとこれで落ち著いたし、どうするのかの予定を話したいと思うの。ニナ、貴についての話もしたいんだけど……」

「…………。」

コージィが帰ってひと段落付いたホテルの一室、実は今ここにニナも一緒にいる。平民になったニナを屋敷から連れ出したことについては、あの話し合いの後にアジェット家に連絡してややなし崩し的に柄を保護すると伝えてあった。

その……屋敷の調度品の竊盜、なんて事件が起きてなければもうミドガランドへ帰ってる途中だったのだが、日程が結構ズレてしまったからね。

ニナは返事はしなかったが、私の聲かけに反応して皆と同じようにテーブルを囲んで席に著いた。私だけではなく、アンナやフレドさん達にも想が悪い。でも変に可子ぶったあの態度よりかは、ずっと接しやすいかなと私は思う。

「今日はこの後お晝を食べて、午後は観がてら買いに行きたいと思うの。ニナの服とかも必要だし」

「……あたし、そんな事頼んでないからね」

「うん、分かってるよ。これは私がやりたいから勝手にするの」

「まぁ……そこまで言うなら、」

「そっか、餞別を気持ち良くけ取ってもらえそうで良かった」

「え……?」

日程はずれたが、ニナは予定通りの魔法使いについての研究機関が営む私立の學校にれてもらう予定になっている。そこは一般の生徒もいるがを持つ者は全て學費は無料、寮もついていて魔法や魔について學べる。ニナが起こした問題についても申し送ってあって、問題を抱える未年向けの保護観察も行われる事になっているが……竊盜未遂についても學校側に伝えておかないとか。

今度はちゃんと學んで、普通に生きてしいな。その上で、ニナなりに幸せを見つけてくれたら……と思っていた。

午後の買いでは、その學校でニナが使うだろう文房やちょっとした私なども用意する予定だ。の魔力を持つ生徒には、研究に協力すれば學費とは別に手當も出るから不自由はしないと思う……だからこれは、私の自己満足なのだけど。

狩猟會の件では怒りもじたが、あれから時間が経ってしまったせいで、個人的な恨みとかはもう私の中には殘ってなかった。人を恨んで生きるのってすごく疲れるから、私には向いてない。アジェット家から出たニナを送り出して……これで全部「過去」の事にして前に進めそうだ。

それから私は、明日の午前中にクロンヘイムを経つ事と、簡単な地図を描いて「ニナが向かうヴァーナ魔法學校があるのはここで……」と琥珀にも一緒に説明する。

フレドさんも戻って來たし、予定してなかった家族との話し合いでもきちんと本音も伝えられたし。お母様の代役でバタバタしたりもしたが、やっとこれで本當に一件落著だな……と私はすがすがしい気持ちになっていた。

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