《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》【コミックス完結巻発売記念SS】花火
今日、ゆいまほコミックス2巻(完結巻)発売日です!
書影やお知らせをあとがきにのせています……!
「――この日の夜7時。寮の前まで迎えに行くよ」
以前からレイナルド様にそう言われていた私は、あわあわと支度をしていた。
今日著て行くのは、淡いピンクのワンピース。歩きやすいようにヒールが控えめの靴を履き、上半分を編み込んで後ろに流した髪に控えめな飾りをつけた私は、認識阻害ポーションを飲んだ。……うん、いつも通り味が2で苦いです!
今日はこの王都の川近くで花火大會がある。そして、これはレイナルド様に私がフィオナだと打ち明けてから初めてのお出かけ。だから、フィーネではなくフィオナがよく著るような服を選んでみたのだけれど……。
「し違和があるような」
これまでの私は、自分がアカデミーの同級生だと知られることがないように気を付けていた。つまり、いつもフ(・)ィ(・)オ(・)ナ(・)が著るのと正反対のデザインやを選んできたので、なんだか鏡の中の自分がしっくりこなくてそわそわしてしまう。
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でもこれからは、レイナルド様の前でならフィオナでもフィーネでもいいのだ。こんなふうに、自分をけれてくれる人がいることがとてもうれしい。
ところで、この前お兄様が贈ってくださった流行の服のカタログには、東の方の國で親しまれている『浴』という風変わりなドレスが載っていた。
一度はそれを著てみようと思ったのだけれど、正裝をするときなみに著替えも髪型もアクセサリー選びも大変そうで、私は斷念したのだった。
支度を終えて寮のエントランスへ降りると、レイナルド様が待っていてくださった。
「あれ、フィーネ、浴じゃないんだ?」
私を見つけたレイナルド様は、開口一番、不思議そうにおっしゃった。それがあまりにも予想外だった私は思わず首を傾げる。
「えっ……と、浴、ですか?」
「ううん、何でもない。じゃあ行こうか」
「……はい……?」
レイナルド様はいつもの優しい微笑みに戻ったけれど、今のは気のせいだったのかな。レイナルド様に続いて歩き始めた私に、護衛役のクライド様がくつくつと笑いながら教えてくれる。
「フィーネちゃんさ、お兄さんからカタログもらわなかった?」
「はい、いただきました。王都で流行の夏の服裝が載っているものを」
「仕立て屋さんで使えるチケットついてたでしょ? どうして使わなかったの?」
「あの……一応お店に見に行きはしたのです。ですが、一人で著られる自信がなくて。あの流行の『浴』というドレスは普通のドレスとは違う作りのようでしたし」
「あー、そっちかぁ」
クライド様がレイナルド様の背中を叩き、「聞いてた? だからやっぱりメイドも手配するべきだったんだよ」と囁いたのが聞こえた。
それを聞いていた私は、はたと気がつく。
あれ?
……もしかして。あのカタログはお兄様じゃなくてレイナルド様からの贈りだった……!?
そうだ。思い返してみれば、お兄様が私に贈ってくださるのは大が珍しい草や水や砂な気がする。たまに寶石をくださっても、それもにつけるためのものではなく當たり前に錬金用だ。
お兄様は、引きこもりな妹のことをよくわかってくださっている。著飾るためのドレスやアクセサリーは絶対に選ばない。
つまり、レイナルド様はお兄様経由でカタログを私に贈るほど、私に浴を著てほしかった、ということでしょうか……!
「あの」
「どうしたの?」
申し訳なくて謝ろうとしたものの、前を歩くレイナルド様が、心なしかあまりこっちを見てくださらない気がする。どうしよう。
いつも通り優しく話しかけてくださるけれど、もしかしてがっかりさせてしまったかな……。
そうしている間に、私たちは馬車に乗って川近くの橋の上へと到著した。いつも、街を散策するときには一般の方に紛れることが多いけれど、さすがに今日は別なようだった。
橋の上の目立たない場所、警備の人たちに守られたスペースにった私たちは、橋の欄干につかまって夜空を見上げた。空は暗くなっていて、間もなく花火が始まりそうに思える。
「フィーネは花火大會に來たことはある?」
「いいえ、ありません」
「だよね。こんなにたくさんの人の中、今日はよくいに乗ってくれたなって思った」
「……本當は苦手ですが、レイナルド様と一緒なら大丈夫だと思ったんです」
そう答えると、レイナルド様はしだけ固まった後、私から目を逸らして前を向き口元を隠すようにして仰った。
「今の言葉、どんな褒め言葉よりもうれしいかもしれない」
「そ……っそうですか……」
頬が赤くなるのをじた私は、恥ずかしくなって思わず俯いてしまう。
私はレイナルド様のこういうところを見習いたい。私は喋るのがあまり得意ではなくて、本音を伝えるのが苦手だ。そのせいで大切な友人ともすれ違ってしまったことがある。
もっと本音をうまく伝えられるようになったら、きっと自信が持てる気がする。レイナルド様の隣に並んでも気後れすることがなくなるんじゃないかな。……いつかそうなりたいな。
考えごとをしていたら、レイナルド様に気づかれてしまった。
「フィーネ、また何か難しいことを考えてる?」
「いえっ……その、あの」
「俺はね、今日のフィーネがすごく眩しいなって考えてる」
「!?」
信じられない言葉が返ってきて、私はぽかんと口を開けてしまった。けれど、レイナルド様は気にしないで続ける。
「さっき、寮のエントランスまで迎えに行ったとき、まさかその格好で出てくると思わなかったから、本當に驚いた」
「……あの、レイナルド様は私に浴を著てほしかったのではないですか……?」
「え? あー……あのカタログを贈ったときは、フィーネが流行の服裝を楽しんでくれたらいいなって思ったんだけど」
「……けど?」
聞き返せば、レイナルド様は私の耳もとに口を寄せた。ただでさえ隣同士に立っていて距離が近かったのに、さらにまる。
「今日のドレス、フィーネのときには著なかったデザインだよね。俺にフィオナとしての顔も見せてくれる気になったんだって思ったら、真っ直ぐに見られなかった」
「……!」
心臓が跳ねるどころか、鼓が止まりそうです……!
いつの間にかクライド様は私たちから數歩離れた場所に移しているようだった。気を遣ってくださったのはわかるけれど、こんな會話を二人きりでしていたら、ドキドキで死にそうです……!
そうしているうちに、空には花火が上がり始める。まさに天の助けだった。夜空いっぱいに広がるオレンジの花火がとってもきれい。
さっきまで心臓が止まりそうだったのも忘れて見惚れていると、花火の合間にレイナルド様が話しかけてくる。
「花火って魔法みたいだよね」
「確かにそうですね……!」
「昔、魔法が存在したころは魔法で花火を起こしていたんだよね? どんな呪文を使ったんだろう」
「それは、以前読んだ文獻に上級魔法にあたる不死鳥の魔法を使ったという記録がありました。ちなみにその不死鳥の魔法の呪文が書かれた魔法書はかつてスウィントン魔法伯家にあり、威力や形狀に応じて鍛錬が必要だったとされています。加えて、不死鳥の魔法は魔力の消費量も大きく、騎士団長クラスでないと使いこなせない魔法だったと書いてありました。今魔法が存在していたとしても、なかなか見ることは難しいもののような気がします」
魔法や錬金の話は、私とレイナルド様の共通の趣味で。二人とも、ひとたび話し始めると止まらなくなってしまう。
けれど、今日はどこか違った。ひとしきり私が話すのを聞いてくださったレイナルド様は、夜空を見て微笑む。
「そっか。いつか見てみたいな。その不死鳥の魔法」
「……そうですね……」
いつもとはどこか違うレイナルド様の様子を不思議に思いながら、私も一緒に空を見上げた。
空気ごと揺らすように響く大きな花火の音に、降り注いでくるの波。
本當に、いつかレイナルド様に不死鳥の魔法を見せてあげられたらいいな。……決して葉えられないことだろうけれど。
――夏の終わり、私たちは夢のような夜を楽しんだのだった。
今日(10/5)はゆいまほコミックス2巻(完結巻)発売日です!(漫畫/山悠希先生)
2巻完結のハッピーエンド、これまでコミカライズお読みでなかった方もぜひお手に取っていただけるとうれしいです!
コミックウォーカーなどで連載を追ってくださっていた方も、描き下ろし漫畫が本當の最終回っぽくて本當に好きなのでぜひコミックスを読んでみてください……!
広告下に書影と公式へのリンクをっておきます。
2巻の冒頭のカラーをご紹介します♡
フィオナはかわいくレイナルドはかっこよく、ファンタジーいっぱいの世界観でとっても素敵な漫畫にしていただきました!
電子ストアでは特典がつくところもあります!
ぜひお好きなところでお手に取っていただけますように!
★小説版はもうし続く予定で、第三章のスタートは2024年1月を予定しています。どうか完結までお付き合いいただけるとうれしいです。
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