《モフモフの魔導師》509 作戦會議?
カネルラ王城。
拐事件が解決した翌日。國王ナイデルと暗部の長シノは、謁見の間にて対面していた。
「アヴェステノウルの犯罪者集団の制圧、ご苦労だった。謝に絶えないと、皆にも伝えてしい」
「有り難きお言葉…」
國王様より、暗部の長として直接労いの言葉を頂戴している。
「ときに、『猛犬』とやらは暗部の者が仕留めたのだろう?」
「はっ…。副長サスケが抹殺致しました…。捕獲できず…申し訳ありません…」
虛偽の報告は心苦しい。
「構わぬ。彼の者には、他國も甚大な被害を被っているとの報告をけた。『狂犬』は制などできぬ」
「その通りかと…」
「民に被害が出ることなく事態が収束したのは、其方達の盡力あってこそ。被害者であるボグフォレスも、謝の意を述べていた」
「當然のことをしたまで…」
國王様はふっと微笑む。
「訊きたいことがある。知っていればで構わん。リスティアは、どうやって此度の事件を知ったのだ?」
やはり、気になさっている。
「王様には…城下町における報収集手段があるかと…。詳細はわかりかねます…」
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「わからぬのに、あると言うのか?」
「そうとしか考えられません…。暗部は…王様から報を頂きました…」
「そうだな。だが、如何なる手段で連絡しているのか予想もできん。困ったことに、答えてくれぬのだ」
「左様ですか…」
「獨自のルートを築くことは、行き過ぎなければ別に構わない。ただ興味がある。しかし、リスティアは頑固で、俺達には教えないと決めているのか、貝のように閉口する」
ハッキリと聞いたわけではないが、王様はウォルトが作った魔道を使っている口振りだった。
つまり、王様にとって極事項であるということ。
「シノに頼みがある」
「なんなりと…」
「リスティアには、親友と呼ぶ人がいる。その者について、調査してもらえぬか?任務に余裕がある時で構わない」
「親友…でありますか…?」
「うむ。おそらく1人ではないが、今回の事件にもその者達が関係している気がしてならないのだ」
「畏まりました…」
「詳細な調査は必要ない。リスティアが勘付いて、より強固な壁を作らせることにもなりかねん。何処に住む誰なのか。その程度で構わない」
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「意…。私個人が…早急に調査致します…」
「頼む」
謁見の間を後にする。
國王様の要は予想の範疇。気にならない方がどうかしている。
そして…いい機會を頂いた。
★
野暮用を終わらせ、暗部の詰所に戻る。
與えられた任務について説明するため、見張りを除き部下を待機所に集合させた。
「サスケ…。俺は…今日王都を留守にする…。國王様の勅命だ…。不在間の指揮を執れ…」
「了承できかねます」
「なんだと…?」
「王様の親友の調査については、宰相経由で詰所に連絡を頂きました。俺が向かいたいと思います。既に皆と協議を済ませています」
椅子に座る部下達は、うんうんと頷く。
「ナイデル様は…直接「シノに頼みたい」と申された…。意に反することはできん…」
「宰相経由で正式に要が下りてきたということは、『シノさんが王都を離れるのは良くない』又は『実行者がシノさん限定になる伝え方をしてしまった』と國王様が思い直されたからでは無いでしょうが?」
部下達はうんうんと頷く。黒ずくめの奇妙な連…。
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……サスケめ。
最もらしい理由を盾に回しを…。小賢しい奴だ…。
しかし、既に意見聴取も済んだ雰囲気。
暗部は時間を貴ぶ。全ての行において即斷即決が基本。時間を無駄にするのは、愚行以外の何でもない。
俺がいない間であっても、下の意見を纏めて最終的に俺の意見とり合わせるのは、いつもの手法。何らおかしくない。
「お前達の意向は汲む…。が…今回は俺が行こう…。調査について…リスティア様に気取られることを何より気にしておられた…。全責任は俺が持つ…が、萬一にも王族間の関係悪化の火種となるわけにはいかん…」
これは誇張でもなんでもない。
「なるほど…」
「そう言われると…シビアな任務か…」
「相手は、あのリスティア様…。やはり、シノさんに任せるのが得策かもしれない…」
小聲だが、いい反応だ。
さぁ…副長はどう出る?
「シノさんが仰っていることは、よくわかります。これは、言ってなかったのですが…」
「なんだ…?」
「実は、王様の親友について、既に目処が立っています。ほぼ確定していると言っていいかもしれません」
「ほぉ…」
白々しい臺詞を…。
正を知っているのだから當然。
「國王様からの依頼であり、迅速に報告すべき事項です。勿論確定ではありませんが、俺が最も早く調査できると思います」
「お前は…何故知っている…?」
「昨日の拐事件で奔走している最中、気になった人に數名遭遇しました。明らかに雰囲気の違う者と。その中にいるのではないかと推測します」
ぬぅ…。小癪な…。
最もらしい理由を考えたな。しかも、噓はついてない。ウォルトにも直に會っている。
そして、今さら俺は「知っている」とは言えない。どういうことだ…?と場を混させてしまう。サスケは先手を打って、俺の手を封じてきた。
「それなら可能は高いな」
「副長は、張り込みも行っていた。親友とやらと遭遇している可能は充分ある」
「察力に優れているし、信憑は高い気がする」
「となると、それが最善か。シノさんにも休んでもらえる」
俄に盛り上がる部下達。
だが、ハッキリ話すのがサスケくらいしかいない暗部では、ボソボソ喋る者ばかりでとにかく聞き取り辛い。
まぁ、俺が言えた義理じゃない。
「お前の報を…俺に渡せ…。とりあえず…昨日の疲れを癒やすのが先決…。北の猛犬の相手をしたんだからな…」
「おぉ!」
「シノさんが…そんな優しいことを言うなんて…」
「なんか怪しいな。明日、特訓か…?」
コイツら…。呟けば聞こえないと思っているんじゃなかろうな…。
「渡しても構いませんが、言葉だけでは正確に伝えられません。誤認する可能が高くなるので、やはり俺が行くべきだと思います」
あぁ言えば、こう言う。だからこそ副長であるわけだが。
「副長の言う通りだ」
「寫真でもあれば違うだろうが、不確定要素は減らした方がいい」
「シノさんに限って間違いはないと思うが、より確実な選択をするのが暗部」
くっ…。サスケ寄りの意見が多い。
自分でも不利なのはわかっている。宰相から依頼が來た時點で、俺が行く必要がないのだから。
しかも、相手は右腕のサスケ。これ以上は不信を強めかねない。
「シノさんは、自分を労るのも大切です。昨日は俺がいなかったせいで負擔をかけてしまいました。慣れない仕事もこなしたはずです」
「甘く見るな…。あの程度で…疲れなど溜まらない…。それに…お前に発されたんでな…」
「発とは?」
「カネルラのために…を張り…街を駆け巡る…。詰所にいて…指示と現場に顔を出すだけで『長だ』と言われても…お前達も納得すまい…」
これならどうだ?
「トビさんが帰ってきたな…」
「あぁ…。シノではなく、若い頃のトビさんが…」
「確かに、久しく目にしていない…『兇刃トビ』が見られるかもしれない」
……なんだ、その二つ名は。
初めて聞いた…。そして、そんな二つ名を持つ者は、絶対調査に向かない。
「そこまで言うのであれば、シノさんにお任せします。俺達で持ち場を守りますので、全力で任務をこなしてください」
むっ…?
「とにかく暴れないよう」
「とりあえず無事に戻れば大丈夫です」
「型で目立つので気を付けて」
謎の助言…。
それにしても……おかしい。サスケの奴……いやにあっさりを引いた。
一、何を企んでいる?
コンコン…と、詰所の口で見張りに付いているはずの部下が壁を叩いた。
「どうした…?」
「國王様からの伝言が屆きました。お伝えしてよろしいですか?」
國王様から…?
「構わない…」
「では、お伝えします。『先程シノに依頼した件については、無かったこととしてもらいたい。騒がせてすまない』とのことです」
「なに…?王様の親友捜索の件か…?」
「その通りです。こちらからも確認しました」
「そうか…。わかった…」
「伝言は以上です」
部下は見張りに戻り、サスケを見ると覆面の中で笑う。
やってくれる…。
これが真の狙いか。
自分が依頼をけて邂逅を阻止するのではなく、単純に時間を稼ぐこと。
リスティア様が國王様の思考と行に気付き…それを阻止するためにくまでの時間を。この推測が間違っているとは思わない。
「一、何だったんだろうな?」
「発見されたのかもしれない」
「シノさん。暗部がく必要は無くなりましたね」
「あぁ…」
サスケといえども、リスティア様と直ぐに連絡が取れるはずはない。ウォルトの作った魔道というのは、おそらく稀有なモノ。親友だという二人だけの連絡手段のはず。
つまり、ここまでの流れを読み切っていたということ。大した策士だ。
「王様の親友がどんな人なのか知りたい気はしますが、我々が知るべきではないということでしょうか」
「…さぁな」
いけしゃあしゃあと…。
サスケの「斷固阻止する」という言葉に噓偽りはないと認めざるを得ない。
國王様本人による依頼取消という、誰もが納得せざるを得ない理由を用意し、場を納めたのはさすが。俺の苦手とする謀略では、一枚上手だと認めよう。
再び部下が部屋にってくる。
「シノさん。急要請です。西都マリノにて不穏なきありとのことで、実の調査と然るべき対処を、との命です」
「わかった…。マリノの擔當は…ウロだな…。伝書鳥でも伝令でもいい…。可能なら衛兵からも報を得るように伝えろ…。他の者は…出向準備を整えつつ待機…」
「「「了解しました」」」
「サスケ…。しばらく、お前が指揮をとれ…。俺は…國王様の元へ向かう…」
「わかりました」
詰所を出て、國王様の元へ向かう。
何処の何奴か知らないが、カネルラで好き勝手はさせん。
俺は、今回の拐事件で、結果的に貓の手を借りてしまったことを恥じている。アイツの実力は認めるが、事件は本來暗部と衛兵が連攜して解決すべきだった。
憤りにも似たを抱いている。
アイツは自己の事でくことを希し、リスティア様の希もあって俺もそれを認めた。
行に非はない。危険分子を排除し、男児を無事に救出したのだから、謝を告げられて然るべきだろう。
だが、互いにを潛めて生きているのに、できるわけがない。國王様と話しながら、どっちつかずの二重間諜(スパイ)かのような気分だった。日者が日者の存在を隠すなぞ、面倒過ぎる。
これから先も、アイツは同様の行を起こす可能が高い。何者にも帰屬せず、自由奔放に己の理屈を押し通すのが獣人。
そんな奴だとわかっているが、誰にも知られず生きていけると思っているなら大間違いだ。何処にでもいるような獣人でないことを自覚してもらう必要がある。
そのために暗部に引きれ、俺の配下として働いてもらう。面倒事も減って戦力も増す。良いこと盡くめ。
……我ながら、々理屈っぽいな。
要するに、俺はアイツを倒す。
これだな。
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