「初めまして、冒険者のロックです」

「初めまして。ウォルトです」

「ウォルトさん。畏まらずに、普通に接して下さい。ミーリャと同い年の若造なんで」

「わかった。ボクもまだ２２だから、そんなに構えなくていいからね」

「ありがとうございます」

人間は獣人の年齢を判別し辛いらしいから、ちゃんと言っておこう。あと、人間には年上を敬う習慣もあるから、ちゃんと伝えておくのは大事。

今日は、ミーリャがパーティーメンバーの魔導師であるロックを住み家に連れてきてくれた。オーレン達も一緒に５人で訪ねてくれて嬉しい。沢山料理が作れる。

とりあえず、各々に飲みを出して住み家でお茶することに。

「めちゃくちゃ味いです…。俺は、こんなカフィを飲むのは初めてです…」

「でしょ」

「褒めてくれてありがとう」

ロックの名前は知ってたけど、會うのは初めて。アニカとウイカが言うには、「凄く才能がある魔導師です」とのこと。２人が言うのだから、相當なものだろう。

ミーリャ曰く「そろそろウォルトさんに會っても大丈夫だと思うんです。口酸っぱく言ってきたので」ということで、會わせてくれたらしいけど、まったく意味がわからない。

そんなミーリャがボクを見た。

「ずっと、ロックをウォルトさんに會わせたいと思ってました。気にらなかったら、燃やして構いません」

「そんなことしないよ」

「何言ってんだ、お前は…」

友人の友人は、余程の理由がなければ燃やしたりしない。

「ウォルトさん。ロックは、誰にも言わないと肝に銘じてます。教えてもいいでしょうか？」

「教えるって……ボクが冒険者の後輩ってこと？」

「違います………って、そうなんですかっ？！」

あれ？驚いてる。

「オーレンから聞いてない？つい最近冒険者になったばかりなんだ。ミーリャやロックにも、冒険について教えてもらうかもしれない。よろしくね」

「こう見えてＥランクになったんで、何でも聞いてください」

「先輩ぶるな、バカ！もの凄く後悔することになるから！」

「なんなんだよ、面倒くさいな。改めて、俺でよければ何でも答えます」

「ありがとう。助かるよ」

「調子に乗るなってば！」

「乗ってないだろ！真面目に答えてるだけだ！」

ロックの言う通りだし、オーレン達は笑ってるけど何でだろう？

ミーリャ達は馴染みと聞いていたけど、確かにオーレン達と似たような関係に見える。慣れてるからか、ほっこりするなぁ。

「いきなり話がおかしな方向に行きましたけど…ウォルトさんとオーレンさん達の関係について、ロックに教えてもいいでしょうか？」

「もちろん構わないよ」

「ロック…。今から言うことは、絶対に緒だからね」

「わかってるよ。しつこいな。何十回も言われて、耳にタコができてるんだよ」

ミーリャが気を使ってくれたんだろうけど、なんか申し訳ないな…。

「あっそ。じゃあ教えるけど、ウォルトさんは、オーレンさん達の師匠なの」

「師匠って…何の？」

「主に剣と魔法。薬學なんかもだよ」

「……？？」

ロックは丸眼鏡の奧の目を細めて、首を傾げた。

冒険者にり立てなのに、三人の師匠なんて言われても意味不明だろう。気持ちはわかる。

「つまり、オーレンさん達からいろんなことを教わった私達からすると、ウォルトさんは大師匠なんだよ。孫弟子ってやつね」

その表現は正しくない気がするけど、今は黙っておこう。

「ちょっと待て…。さっぱり意味がわからない。ウォルトさんは、冒険者になったばかりって言ったぞ？師匠のわけないだろ」

「冒険者になったのが最近なだけで、もっと前から師匠だから。ですよね、オーレンさん」

「ミーリャの言う通りだ」

「…わからない。特に、魔法…って？」

「ウォルトさんは、獣人だけど魔法使いなの。そして、ウイカさんとアニカさんの魔法の師匠。ですよね？」

「そうだよ。私は１年前くらいから教えてもらってる」

「私は２年くらい前からかな！」

「………」

ロックは考え込んでしまった。

いきなり言われても、信じられないのが當たり前だとボクもおも……。

「なるほど。理解したぞ」

理解が早いっ。

今の説明だけで納得できるのか。ロックは凄いな…。てっきり「魔法を見せてしい」と言われるとばかり。

「ホントに？」

「あぁ…。ウォルトさんは…顔が広くて、んな冒険者を紹介できる、いわば森に住む凄腕仲介者。まるで魔法使いのように１９８８９９９人脈………いったっ！！なにすんだよっ！」

ミーリャの拳骨が落とされた…。

「全っ然わかってないじゃん！失禮でしょ！バカロック！」

「バカとはなんだ！俺なりに考え抜いてだな…」

「知りそうな顔して、いつも的外れのことを言う…。そんなんだから、知的だと勘違いしてるの子に実際はアホだって直ぐにバレるんだよ！」

「なにを～！」

俄にエキサイトしてきた。こんなところも馴染みらしさ。ボクとサマラやヨーキーは違うけど。

何でも言い合える関係は、ちょっと羨ましくもある。ただ、獣人同士だと一歩間違えると危険だから無理かな。

「ミーリャ。そんなに怒らなくていいよ。ロックは何も知らないんだ」

「いいえ！ロックはもっと賢いと思ってました。ここまで失禮なアホだとは…」

「このぉ…。いきなりなんなんだよ！順を追って説明しろよ！理解力の無いバカですいません！ウォルトさん！」

「バカなんかじゃないさ。説明する前に、まず見てもらおうかな」

指先に『炎』を燈してみせる。

「……マジですか」

ロックは口をあんぐり開けて固まった。そのまま『炎』を変化させてってみせる。『炎舞』のようにグネグネと。

「獣人では珍しいと思うけど、魔法使いなんだ。オーレンもウイカもアニカも、師匠と呼んでくれてね」

「そ、そうなんですね…」

「俺に剣も教えてくれてるのも本當なんだよ。俺の剣は、白貓流なんだ」

「オーレンに教わる方が多いけどね」

「魔法については、私達の修練を見てもらった方がよくわかるんじゃないかな」

「後でロックも一緒に修練しようよ！」

「は、はい…。よろしくお願いします…」

確かに、ボクがどの程度の魔法使いかは、修練を見てもらえば一目瞭然。誤魔化しようがない。

「よし！ご飯の時間にはまだ早いです！修練しましょう！」

アニカの提案で、揃って更地に向かう。

★

う～む。

ミーリャにいきなり「の森に行くよ！」と連れ出されて、嫌々付いてきたけど、こんなことになるなんて…。

獣人の魔法使いに出會って驚いた…けれど、今はとにかく目が離せない。

ウォルトさんは、ウイカさんとアニカさんを相手に、更地で模擬魔法戦を繰り広げてる。その様子をオーレンさんとミーリャと並んで見學する。

「…ミーリャ」

「なによ？」

「あの人……とんでもない魔導師だぞ…」

「知ってるよ。３人の師匠だって言ったでしょ」

「そうだったな…」

アニカさんやウイカさんが連続で放つ魔法を、軽々と躱し、け止め、打ち消して反撃する。多彩な魔法と、見たこともないしい魔力。

魔法を見てるだけなのに、涙が出そうになる。こんなこと初めてだ。心に響くような魔法が存在するなんて…。

オーレンさんが微笑みながら教えてくれる。

「ウォルトさんは、とにかく目立ちたくない人なんだ。だから、ひっそり森で暮らしてる。俺達も師匠の存在を口にしないだろ？」

「聞いたことなかったです」

「だから、誰にも言うなって言ってるの。わかった？」

「よくわかった」

「ロックが言わないでくれるなら、ウォルトさんは魔法を教えてくれると思うぞ」

「マジですか！？教わってみたいです」

あの人に魔法を教わりたくない魔導師なんかいない。見てるだけでそう思える。

「けど、ウォルトさんは自分を大したことない魔法使いだと思ってるんだ。ロックには、故郷に師匠のダーシーさんがいるだろ？その人に気を使って、教えてくれないと思う。普通ならな」

「そんなバカな…。もの凄い魔導師ですよ…」

師匠には悪いけど、技量は比べものにならない。ウォルトさんは、不可能と云われる多重発すら簡単にこなしてる。信じられない技量の魔導師。

「だから強めに頼むといい。「ボクなんかが教えられない」と言われても、そこで引いちゃだめだ。「ちょっとでいいから」とか「それだけは知らない」とか言って誤魔化せばいい」

「いいんですかね？申し訳ないような…」

「大丈夫。ウォルトさんは魔法が好きだから、教えを請われることは嫌がらない。ただ、自分が教えていいものか…って気を使ってる。多分、ロックの方が格上だと勘違いしてるしな」

「えぇっ？！それはさすがに噓ですよ！」

あんな魔導師は、カネルラの冒険者にもいるかどうか怪しいと思う…。それくらい段違いだ。素人が見てもわかるんじゃないか？

「私もオーレンさんに賛。きっと「良かったら、ボクに魔法を教えてくれないか？」って言われるよ」

「それは冗談きついって！！噓つくなよ！」

「ミーリャの予想は、８割…いや、９割９分當たってると思うぞ」

「ですよね♪だって、ウォルトさんはそこら辺にいる、ただの魔法使いなんだから。しかも、ロックはＥランクの魔法使いだし？」

くっ…。

「それを言うなって…。めっちゃ後悔してるんだから」

「だから言ったでしょ！今後は謙虛になること！Ｅランクくらいで先輩面するな！！」

「だな…」

「ウォルトさんは気にしてない。本當にロックから魔法を教えてもらうつもりだ。その時は、何でもいいから知ってることを教えるといい。魔法じゃなくて、冒険に関してでも、スイシュセンドウのことでも何でもいいんだ」

「わかりました。覚えておきます」

休憩にったウイカさんとアニカさんがこっちに歩いて來る。

「しばらく休憩するね」

「次は、ミーリャとオーレンで一緒にいけば？」

「そうだな。今日は、俺達で師匠に挑むか！」

「はい！気合いれます！」

オーレンさんとミーリャは、木刀を持ってウォルトさんの元へ向かう。

會話もそこそこに、直ぐ２対１で剣の打ち合いが始まった。

…マジか。

あれだけ魔法を使って、剣も直ぐに修練するのか…。しかも、２人を相手に互角に闘ってる。かなり強い。

「ロック。ウォルトさんの凄さ、わかってくれた？」

「紛れもなく師匠だったでしょ？」

「はい。納得しました。今まで見た魔導師の中で、一番凄いです」

「でしょ」

「緒でお願いね！」

「もちろんです。俺も…魔法を教えてもらえるでしょうか？」

「大丈夫じゃないかな」

「師匠呼びは無理かもしれないけどね！」

「師匠はもういるからいいんですけど、ちょっとだけでも教わりたいです」

ウイカさんとアニカさんは、微妙な表。

「Ｅランクって言っちゃったのがね」

「まだまだ新人並です！って言えば、すんなりいったと思う！」

「言わないで下さいよ…。ウォルトさんがこんな凄くて、謙虛な魔導師なんて思わないじゃないですか…」

「ゴメンゴメン！冗談だよ！オーレン達のあとに、一緒に修練しようよ！私達から言ってみるから！」

「ありがとうございます。皆さんは、何でウォルトさんのことを俺に教えてくれたんですか？」

今までも言おうと思えば言えたはず。でも、

「私達というより、ミーリャの提案だね」

ミーリャが？

「多分、１人で抱えきれなくなったんじゃないかな！誰かに言いたくなるでしょ？したり興する魔法を見たって！」

「はい。既になってます」

「「あはははっ！」」

オーレンさんとミーリャが汗だくになって、息切れしたところで、俺達が代する。

「きっついなぁ…！」

「はぁ…　はぁ…　私達、まだまだですね…」

「ゆっくり休んでて！お姉ちゃん、ロック、行こう！」

「うん」

「はい」

ウォルトさんは微笑んで、平然としてる。

相當いてたぞ…。魔導師なのに、どんな力してるんだ？この人は。

「ウォルトさん！ロックもえて修練したいです！いいですか？」

「いいよ。でも、ロックの修練になるかな？」

「なります。大丈夫です」

多分…こういうけ答えでいいんだよな？

「それならやろうか」

どうやら正解みたいだ。

「俺は…Ｅランクなんですけど、まだれる魔法もないです。実際に見てもらった方が早いので、その後どんな修練をするか決めてもらえたら」

「なるほど。見せてもらってもいいかい？」

「はい」

全力じゃないと失禮だ。やるだけやろう。

俺が使える魔法をウォルトさんに見せる。

「こんなじなんですが…」

「ロックは凄い。さすがだね」

「そうですか…？大したことないんですが…」

さすがに、お世辭にしか聞こえない。

「ボクが言うことじゃないけど、基礎がしっかりしてて魔力も磨かれてる。今はれる魔法がそれだけだとしても、君はこれから才能をばす」

「ありがとうございます」

「ロック！魔法関係で気になってることとか、上手くいかないことがあったら教えて！今日はそれを修練しよう！」

「気になること…。俺は、氷系が得意だと思ってるんですけど、最近詠唱したときに違和があって…」

「どんな？」

ウォルトさんに相談すると、で魔力の歪みが起こっているらしい。聞いたこともない。

「まずは矯正するための方法を教えるよ」

氷魔法をりながら解説してくれる。間近で見ると、マジで凄いな…。無詠唱でとんでもなく複雑な作を軽く行う。話しながらとか、普通にあり得ない。

「伝わったかな？」

「はい。やってみます」

「……うん。良いじだけど、もうし……こう」

「アニカ、私達もやり方を覚えておこう」

「そうだね！」

しばらく魔力の矯正をする。

わかりやすい解説と、魔力作の実演。教えてもらいながら驚きばかりだ。

「うん。もう大丈夫。『氷結』を詠唱してみて」

「はい」

集中して詠唱すると…。

「どうかな？」

「かなりいいじです…。というか、前より楽に詠唱できてるような…」

「おそらくしずつ歪みが生じてたんだ。たまに矯正するといいよ」

「師匠にも教えてもらったことなくて…」

「きっと自分で気付いてしかったんだろうね。気付かないはずないから」

そうかな…？魔力の歪みなんて、聞いたこともない。歪むという認識さえなかった。でも、矯正したあと明らかに効果が出た。疑いようもないほどに。

「ロックの師匠は、長所をばす指導をしてくれたんじゃないか？魔力回路を見れば、どんな修練をしてきたか大わかる気がするんだ」

「そうなんです。「まずは得意な魔法をばせ」と教わりました」

「でも、苦手な系統、いわゆる短所もしっかり鍛えてる。將來を見據えた修練を課す人だと思う。矯正もあえて教えずに、自力で覚えるように放置したんじゃないかな。師匠は凄い魔導師だね」

「はい。尊敬してます」

ダーシー師匠は、田舎町の無名な魔導師だけど、俺にとっては誰より凄い魔導師で、魔法を教えてくれた恩人。こんな凄い人に褒められて、嬉しくないわけない。

ただ、矯正のやり方は絶対知らない。「そんなのわかるわけないだろ！」って怒る姿が目に浮かぶ。

…ははっ。師匠のおかげで、気が楽になった。

元気にしてるかな。今度會いに行こう。

「あと、今は『火炎』の修練もやってて、上手くいかないんです」

「見せてもらっていいかい」

その後も、ウイカさん達には悪いと思いながら々なことを教えてもらう。

ダーシー師匠は、俺にとって最高の魔導師だけど、ウォルトさんはカネルラ最高の魔導師なんじゃないかと、純粋にそう思った。

★

「アニカさんとウイカさんの修練を邪魔して、すみませんでした」

フクーベに帰る道すがら謝罪する。

結局、俺が教えてもらってばかりで、２人の修練にはならなかったはず。非常に申し訳ない。

「気にしなくていいよ！」

「ロックのおかげで、私達も勉強になった。魔力の歪みについて知れて良かった」

「ウォルトさんは何でも教えてくれるけど、基本的に聞いたことにしか答えないからね！問題點に気付いたり、探すのも私達の修練だから！」

ウイカさんもアニカさんも凄い魔導師で、冒険者の間でも注目されてるけど、ウォルトさんの弟子なら納得だ。

…と言いたいけど、実際に俺が同じ立場だったら、恐怖と重圧の板挾み狀態で、胃が痛むこと間違いなし。

凡庸な魔導師に長しようものなら、師匠の顔に泥を塗る。そんな狀況に絶対耐えられない。誰にも弟子だなんて言えずに黙ってる。

ウォルトさんの弟子になれば、否が応でも長せざるを得ない。脅迫観念に取り憑かれるだろうな。

俺みたいな小心者じゃなく、生き生きと修練して才能をばしてる。それが凄いと思う。

「ロックが教えたことも楽しそうに聞いてたね」

「相當心してた！」

ウォルトさんに俺が師匠から學んだ魔法の修練方法を伝えると、もの凄く嬉しそうだった。知らないことを知れて嬉しい、という気持ちが伝わってきて、ほっとしたんだ。

「本當に凄い魔法使いでした」

「まだまだだよ」

「そう！あれでほんの一部だからね！」

あれでほんの一部……なんだろうな。信じがたいけど。

ミーリャが覗き込んでくる。

「あのさ、周りのの子達に言ってるみたいに、ちゃんと『カネルラ最高の魔導師』になってよ？」

「……善処します」

の程知らずの、赤面ものの発言…。かなり難しい…けど、やる気はある。俺もあんな魔法をってみたい。人を魅了するような魔法を。

「あと、自分が料理下手なのを、『獣人よりは上手い』っていつも誤魔化してたけど？」

「それは完全に俺の偏見だった。マジで反省してる」

ウォルトさんが作った料理は絶品だった。もはや料理人級の腕前で、『料理は魔法に通じる気がするんだ』と言ってた。今後、言い訳せずにやってみよう。

「よろしい。今後は々と勵みたまえ」

「何様だよ」

魔法使いなら、俺じゃなくても誰だってそうなる。負けてられないって気持ちに。

正直、調子に乗ってた。『今のままでも、いずれカネルラ最高の魔導師になれる』って。

戯言もいい加減にしろ、馬鹿ロックが。

心をれ替えて、もっと魔法の高みを目指すんだ。そのための出會いだった気がする。