《モフモフの魔導師》513 再びタオへ
タオを訪れた日の夜。
住み家に戻って、魔法で生活を快適にするには何が必要か考えていたところで、いい機會だと気付いた。
魔伝送をポチッと。
『ウォルトさん。どうかしましたか?』
応答してくれたのはウイカ。
「夜遅くにごめん。急なんだけど、ウイカとアニカがよければ、明日一緒にタオに行かないかと思って。母さんの故郷なんだけど」
『行きます!アニカも隣で頷いてます!』
「予定がってない?無理しなくていいからね。また次の機會もあるし」
『ないです!有っても無いです!』
「それは、予定が有るってことじゃ…」
『無いんです!暇です!アニカ、オーレンに!』
『合點だ!』と遠ざかるアニカの聲が聞こえた。
やってしまったかもしれない…。
オーレン、ゴメン。
★
明くる日の早朝。
「今日は、ってくれてありがとうございます」
「アンタはってない!」
「別にいいだろ。ですよね、ウォルトさん」
「もちろんだよ」
次の日、姉妹と共にオーレンも來てくれた。
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やっぱり冒険の予定があったらしいけど、わざわざ予定を変更してくれたらしい。
「俺もウォルトさんの親族に會ってみたかったんです」
「ボクも紹介できるから嬉しいよ」
「私とアニカは気合いれてきました」
「もう準備運は終わって、私達はいつでもいけます!」
「何でお前らはそんなに気合いがってるんだ?會いに行くだけだよな?」
「行けばわかるよ」
「ですよね、ウォルトさん♪」
「そうだね」
2人はサマラとチャチャから話を聞いてるから、ばあちゃんのことを知ってるけど、ちょっと心配ではある。
タオまではのんびり歩いて移しながら、訪れる目的を伝えた。
「魔法で生活を快適にするのは、技量を上げる意味でもいいですね」
「凄くいいと思います!特にお年寄りばかりだと、大変なこともあると思うので!クローセもそうです!」
「住人でも考え方はそれぞれだから、余計なことはしないように気を付けるつもりだけどね。自然な暮らしが好きな人もいるかもしれない」
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「魔法は便利ですけど、頼りすぎると怖いですよね。俺も、なるだけ頼らないよう心掛けてます」
アニカが鼻で笑う。
「どの口が言ってんの?こないだ新人のの子に、魔法剣を自慢してたよね?ナンパで魔法に頼ってんじゃん」
「ナンパはしてねぇよ!普通に話してただけだろ!」
「そう?ミーリャに言っていい?」
「それは勘弁してくれ!」
「というか、ミーリャから聞いたし?」
「なぁっ!?」
それはいいとして…。
「ウイカとアニカをったのは、ばあちゃんに紹介したいのもあるけど、魔法付與の手法なんかを教えたいからなんだ。殆どわかってると思うんだけど」
「まだ全然です。勉強したいです」
「私もわかってません!」
やりたいことを話しながらタオに到著した。
「まず、ばあちゃんの家に行こうか」
家を訪ねると、ばあちゃんはいなかった。朝早くから、元気だなぁ。
「いないみたいだね。行き先はわかってるけど」
後を付いてきてもらう。
「うぉぉおらっ!」
「くっそがぁぁ!!」
やっぱり朝からやってた。
土俵の上で、ばあちゃんとアルクスさん姉弟が相撲をとってる。熱中していて、ボクらに気付いてない。
「あれがアイヤさんですね」
「めっちゃ若いです!サマラさん達から聞いた通り!ミーナさんと同じ歳くらいに見えます!」
「おばあさんには見えないな…」
実際、ばあちゃんは30代後半くらいにしか見えない。獣人基準だけど。
「ばあちゃん。また來たよ」
「…ん?っしゃ!オラァァ!!」
「ぐはぁっ!!」
アルクスさんは裏投げで後頭部から叩きつけられた…。スタッ!とばあちゃんは土俵から下りる。
「昨日ぶりだねぇ。…後ろの子達は誰だい?」
「初めまして。ウイカです」
「妹のアニカです!」
「オーレンと言います」
「ボクの友達なんだ」
「そうかい。アニカとウイカの名前は知ってるよ。オーレンは初めてだ。なんにせよ、遠いところまでよく來たねぇ!」
「昨日言った、魔法をかけるために來たんだよ」
「ゆっくりでいいのに、意外にせっかちだねぇ」
「やるなら早い方がいい」
「まぁ、年寄りばかりだから助かる」
ばあちゃんはそう見えないけど。
「アイヤさん。私とアニカとも相撲をとってもらえませんか?」
「お願いします!」
やっぱりその気だったんだな。サマラ達に話を聞いて、やってみたかったのかもしれないけど、姉妹はやる気満々だ。
「いきなり挑むなんて、いい格してるじゃないか」
「サマラさん達に負けてられないので」
「気合いってます!」
「…いいねぇ!誰だろうと相手してやるさ!土俵に上がりな!…いつまで寢てんだ、このバカ弟!邪魔だよ!」
「ぐえっ…!」
蹴られて土俵から転がり落ちたアルクスさんを治療しよう……と、その前に。
「アニカ、ウイカ。ちょっと來てくれる?」
「なんですか?」
「どうかしましたか?」
「ちょっと後ろを向いてくれないか?」
「こうですか?」
服に手を翳して『堅牢』を付與する。普通に相撲をとると、サマラのようにズボンが破ける可能が高い。
あれは心臓に悪い…。あと、これだけは伝えておこう。
「気を付けて。ばあちゃんは強いし、手加減しない」
「わかってます。あのサマラさんが勝てなかったって言ってたので」
「それでも…には全力でぶつからないといけない時があるんです!」
「さぁ、早くしな!先ずはどっちだい?!」
「まずは、私が行くね」
「お姉ちゃん、頑張って!」
さて、ボクは行司をやろう。
『強化』を全に纏い、果敢に立ち向かう。ただ、魔法を使っても敵わない怪力熊おばあちゃんは仁王立ち。
「かない…っ!!」
「びくともしないっ…!!」
「アンタらは、鍛え方が足りないねぇ!飯食ってんのかい!そらっ!」
軽く土俵で転がされる。
途中からは、「まとめてかかってきな!」という提案で、2人がかりで立ち向かう。
「うぉりぁぁああ…っ!!」
「こんのぉぉ~!!」
「やるじゃないか!ちっとはマシになってきたねぇ!」
サマラやチャチャと比べて力が弱いのは仕方ない。獣人と人間という種族の違いがある。
それでも、激しくきながら『強化』を上半や下半だけに特化するよう、上手く魔法作してる。闘いの中で進化する才能は凄い。
「はぁ…はぁ…。悔しい…。手も足も出ない…」
「はぁ…はぁ…。アイヤさん、強すぎ…」
「人間のと相撲をとるのは久々だ。見た目よか強いけど、そんなんじゃ獣人のには勝てやしないよ!アンタらはそれでいいのかい!?」
発破のかけ方がおかしな気が…。
「……負けられません!!」
「……私は、勝ちたいです!!」
「いい目だ!さぁ、きな!!」
まったく歯が立たなかったけど、健闘を稱えたい。圧倒的に力で劣るのに、持てる魔法と知恵を絞って諦めず善戦した。平然としてるように見えるけど、ばあちゃんは疲れてる。
「オーレン!アンタもかかってきな!」
「俺もですか?!」
「ちっとは闘えるんだろ?」
「相撲はやったことないですけど…やります!」
「いい返事だ!」
組んだ瞬間に軽々と土俵外に放り投げられたオーレンは、「ぐふぅ!!」と一聲鳴いて悶絶する間もなく気を失った。
ばあちゃんは、男には本當に容赦しない。
★
「いい運になったよ!」
相撲をとり終えたばあちゃんは、一旦家に帰るみたいだ。
回復したアルクスさんが言うには、「ガキ共だけ朝飯食わせて、テメェは飯も食わずに相撲してんだ。バカだからな」とのこと。
付き合っているアルクスさんは優しいし、結局自分も好きなんだと思う。だって熊だから。
ボクらはここからが本番。
3人が「ご飯は後でいいです」と言ってくれたから、先に魔法付與をこなしてしまおう。
各家庭で住人の要を聞きつつ、必要な魔法を付與していく。オーレンは、の移なんかの力仕事を手伝ってくれて助かる。
雨りが酷ければ、屋の隙間を防水効果のある魔法陣で覆う。柱が一部腐ってる家は、備蓄の木材を使って『同化接著』で強化。
料理のときの使える簡易の魔石コンロや、冷蔵箱も作ろう。板や石を組んで、魔石を設置するだけでできる。
小さな『発』の魔石があれば、油や蝋燭がなくても夜の明かりを燈すことも可能で、さほど魔力も使用しないから、長期間持続させられる。
魔導師のいないタオでは、未だ提燈やランプが使われているけど、非常時用にでも使ってもらいたい。
共用の井戸に『浄化』の魔石を沈めておけば、大雨でも濁らず綺麗な水が飲める。トイレにも『浄化』を付與して、清潔に保てば疫病防止にもなって安心だ。
「凄く勉強になってます」
「魔法の有り難さがよくわかるよね!」
「ホントだな」
住民達の要に応える形で魔法を付與しつつ、「大丈夫だよ」「必要ない」と言われたことはやらない。お節介ではなく、あくまで手助けをしたい。
そんなこんなで作業は順調に進む。
「あらぁ。もしかして、ウォルトの人かい?」
「お前さん達は人だなぁ。羨ましいのぅ」
「ありがとうございます。そう見えますか?」
「実はそうなんです!どっちがとは言いませんけど♪」
「噓はダメだよ」
どの家に行っても、ウイカとアニカがボクの人に間違われるのが申し訳ない。皆はこういう勘繰りが好きなのか。
そろそろ休憩しようと思っていたら、ばあちゃんが來てくれた。
「よく働くねぇ。ちょっとは休んだらどうだい。こんなもんしかないけど飲みな」
「「「頂きます!」」」
ばあちゃんが持ってきてくれたのは、疲れがとれるでお馴染みのクエンのジュースだ。魔法で冷やして頂く。
「………酸っぱっ!!」
ボクはクエンの酸味が結構苦手だったりする。顔をしかめ、口を窄めると皆が笑った。
「アンタらは、全員魔法が使えるのか」
「はい。私達はウォルトさんの弟子です」
「全然追いつけませんけど!」
「々と教えてもらってます」
「この子の魔法はぶっ飛んでるだろ?あたしゃ魔法は詳しくないけど、昨日見てたまげたよ」
笑顔で頷く3人。そんなことないのに。
「ボクは誰でも使える魔法しかれないよ」
「そうかい。孫への贔屓目ってことにしとこうか。まだ仕事は殘ってるのかい?」
「あと三軒だよ」
「終わらせたら家にきな。飯を作ってある」
「ありがとう」
格や言は豪快なばあちゃんだけど、料理が上手い。そこは母さんと似てないんだよなぁ。
その後、全ての家で作業を終え、ばあちゃんの家に向かう。
「ういかとあにかは、びじんだね!」
「おーれんは…ふつう!」
「あははは!よくわかってる!ありがと♪」
「なんでだよ~。俺も格好いいだろ~?」
「ふつう!」
子供達と一緒に、ワイワイ晝食を頂く。
ばあちゃんの料理は味しい。懐かしくて好きな味付け。
「ウォルト。やることは終わったのかい?」
「家に関することは終わった。食べ終えたら、次のことをやる」
「そりゃなんだい?」
「農の修理だよ。柄が腐ってたり、鉄も錆びて危ない。あと、手れされてない土地の草刈りや、枝払いもやろうと思う」
「アンタは何でもできるねぇ。やっぱり番にしようかね!」
「無理だって。孫なんだから」
冗談はけ流して、まだまだやろう。
★
ウォルト達は、晝飯を食ってまた作業を始めた。
里のジジババと一緒に、作業の様子を眺める。ウォルトの魔法のおかげで、シャキッとしたもんだ。一気に若返ってるねぇ。
「おい、アイヤ」
「なんだい」
「婆ちゃん孝行の孫を持ったな。あの子は凄い獣人だ。昔の姿からは想像もできなかった」
「使いにならん農の鉄を魔法で溶かして、修理に使っとる。用で職人みたいだ」
「錆も魔法で落とすし、草や木も一瞬で刈る。使ってなかった畑の土を起こして、畝を作るのも魔法じゃ。痺れるわい」
「あれでただの魔法使いって言うんだから、世の魔導師ってのは、よっぽど凄いんだろうねぇ~」
自分で言うのはいいけど、人に褒められるとちょいとむずいねぇ。
「とりあえず、あたしゃウォルトが世界一の魔法使いだと思ってるよ」
「ははっ!さすがに世界一は言い過ぎじゃろ!」
「孫が可いのはわかるがな」
「本人はなりたくもないだろうさ」
「儂らはも治してもらって、せっかく里も住みやすくしてもらった。頑張らんとな」
「アタシらを怠けさせるためにやってくれたわけじゃない。これからも元気で働け、って意味さね!」
「皆そのつもりだぞ」
昨日と今日だけで、どれだけタオが助かったかしれないねぇ。
何の見返りも求めず、ただ黙々とやることをこなすなんて、お人好しもいいとこで、何人分の働きをしてるかわかったもんじゃない。
しかも、途中からはタオのためというより自分がやりたくてやってるじだ。ミーナは凄い子を産んだもんだよ。いや、ストレイのおかげかね。
番候補も、みんないい娘ばかりだ。ただ、鈍いところはサバト譲りかね。ちょっとばかり助けてやる必要がありそうだ。
「あの子は…サバトの生まれ変わりかもしれないねぇ」
あたしゃ、あの子が可くて仕方ない。やっぱり似てるんだよ。
「何言ってんだ?」
「ウォルトとサバトは、一緒に生きてたろ。ボケたんか?」
「ひっひっひ!相撲のとりすぎで、ついにおかしくなったぞ!」
「アルクスにぶちかましてもらったら治るかもしれんのぅ!はっはっは!」
「…アンタらぁ!!」
「「「「ひえぇ~~!!」」」」
…ったく。元気になって逃げ足も速くなったもんだ。
『アイヤ。皆、嬉しいんだ。許してやれよ』
久しぶりに聲が聞こえた気がした。
アンタに止められたら仕方ないねぇ。
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