《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》南國王の【最後の王】

夜に火を放たれた街は、どうしてしいのだろう。

砂漠化したエーゲル半島にある、と怠惰の街。一夫一妻しか許されないクレイトス王國で存在するはずのない、後宮と呼ばれる街。

神の教えに背いて建てられた南國王の後宮。ルーファスの自傷行為でできあがった街が、燃えていく。

どれだけのと、どんなに契っても、子はなせなかった。老若男問わず相手にしようとも、神と竜神の神格に関わりもしなかった。

神は神のままひとをよせつけず、ただ護剣を持つだけ。

そんな日々にも、終わりがやってくる。

「いやあ、間に合ってよかった」

ルーファスの書棚を漁っていたが、びくりと背を震わせる。

「ルーファス様……なぜ、こちらに……」

「お互い様じゃないか。王太子軍が攻めてくるっていうのに、のんきに掃除かな」

床に散らばった本や開けっぱなしの機の引き出し、答えは明らかだった。を噛むに、ルーファスは笑い、ついと人差し指をかす。

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そのきに合わせて、散した床の中から書が一冊、浮かび上がった。

「さがしものはそれかな」

浮かび上がった書が、ルーファスの手に落ちる。

「ただの本に見えるよう魔をかけてあるからね。ジェラルドにだって見破られないようにしてるんだから、君が見つけられなくて當然だ」

「……わ、私、は、何か、ルーファス様の形見がほしい、と……」

「いやいや、笑わせないでおくれよ。君がここの報を流していること、僕が気づいていないとでも?」

およそ間諜とも呼べない素人で、害がないので放置していただけだ。

そしても、気づかれていると気づいていたはずだった。

「でもおかしいな。どうしてジェラルドがほしがらない僕の妻の日記を、君がほしがるんだろう」

「……しょ、しょぶんを、命じられて」

「それなら放置しておけばいい。擬態と封印の魔を施しているだけで、焼けば燃えるんだよ。それにジェラルドはたとえ運良く焼け殘っても、そんなものは正妃イザベラの手記ではないと言い切るさ」

いジェラルドはイザベラが日記をつけていたことを知っている。だが、彼の死後、日記を見ようとは決してしなかった。イザベラが見せなかったことを覚えているからだ。殺しておきながら形見のように保管するルーファスを、ひとでなしめと罵り故人のを暴くことを嫌悪した。

(見る勇気がないだけかもしれないけれどねえ)

実子ではない自分を育てることへの憎しみや後悔が書かれていたら――そう考えていてもおかしくない。

「ジェラルドが命じたんじゃないんだろう? ――これをほしがったのは、君の弟か」

は答えない。ルーファスは両肩を落とした。

「やれやれ、當たりか。悪趣味なことだ。……あのよくないお友達とつきあっているのも、君の弟だろう」

あの教団を差し向けたのは、ジェラルドではなく、このの弟だ。

竜の王をるなどという傲慢な振る舞いをできると考える人間たち。彼らは神も平気で食いにする。

何も知らぬ神をさらい、そのを穢してとってかわろうと試み、ここを砂漠にしたのは彼らだ。

――妻だって、神を殺せるなどといらぬことを連中に吹き込まれなければ。

「痛い目をみないとわからないみたいだね」

腰にさげた剣を抜く。

「妻の手記を見る資格など、ゲスな君の弟にはない」

読ませていいのは、妻の気持ちを理解できる者だけ。

本當にジェラルドを心からして、助けようとする者だけだ。

「如何に愚かな選択をしたのか、思い知ってもらおう」

竜の王にルーファスを始末させたかったのだろうが、それを差し引いてもルーファスを討つ理由が作れてしまった以上、彼の狙いどおりにことが進んでいる。

だと息巻く王太子軍を目にルーファスはできる限り例の教団に関わるところ――一見すれば無辜の民の町を派手に処分して回ったので、何が南國王の逆鱗にれたのか察することはできるだろうが、それだけでは足りない。

「彼は君を助けるためにジェラルドについている。なら、君が死ねばジェラルドにつく理由はなくなる」

命乞いでもするかと思ったが、は靜かに佇んでいた。

「私を……殺すのですか。ルーファス様、自ら」

「そうだよ。余計な好奇心のせいで姉は死んだと、わかってもらいたくてね」

「……それは、どうでしょう。弟は逃げろと言っていましたから」

ルーファスは剣を振り上げたまま、まばたいた。強い風に吹かれて、遠くの煙が薄くりこんでくる。

「最後にひとつだけ、聞かせてください」

薄いを挾んだように、ぼんやりとが微笑んだ。

「私の名前を覚えてくださっていますか、ルーファス様」

靜かなだった。そばに置いておいて、煩わしくなかった。それだけ。

名前など覚えてもいない。

「すまないね。僕がしているのは、イザベラだけだ」

「……ひどいひと」

馬鹿なだ。だがこれではを解さぬ竜神を笑えない。

それとも神の守護者は理を解すべきなのか。を貫く竜妃のように――ああ、竜帝の代役の守護者にとって、神の代役の竜妃こそが、最大の理解者になるのかもしれない。

(會ってみたかったね。竜妃に)

もう間に合わないだろう。でもどうか、息子にその奇跡がおとずれますように。

祈るように、ルーファスは剣をに振り下ろした。

神降歴一三一五年、春。

ルーファス・デア・クレイトスの心は、侵攻したラーヴェ帝國に原因があったと噂されている。現にラーヴェ帝國から取って返すなり、サーヴェル辺境伯夫妻を慘殺した國王の行を説明をできる者はいなかった。

しかしこれを契機に王太子ジェラルドは父であり國王であるルーファスの討伐を布告し、クレイトスは大規模なる。南國王と呼ばれる戦爭である。

あちこちの町を焼いたルーファスの心ぶりを容認できる者はおらず、南國王討つべしとクレイトス國民が一丸となり戦火は広がった。

追い詰められたルーファスはエーゲル半島最南端の岬で、王太子ジェラルドに討たれた。そのから滴ったを吸った雪の花は赤く染まり、決して白に戻ることはなかったという。

新王誕生。

クレイトス國中がわいたが、王太子ジェラルドは神からの戴冠という儀式を重視し、フェイリス王が十四歳になるまではと戴冠式を延期した。

しかしその後、ジェラルド・デア・クレイトスが戴冠した記録はない。

ルーファス・デア・クレイトス――彼の願いどおり、あるいは絶どおり、その名は最後のクレイトス國王として記録されている。

読んで下さってありがとうございます。想・ブクマ・レビューなど本當に嬉しいです。

次回の更新予定は本編7部ですが、現時點で真っ白なのでこれからの永瀬の活躍にご期待ください(嗚咽)

今年中に!と言いたいですが現実的には來年になりそうです。早くお屆けできるよう頑張ります!

他にもアニメやコミカライズなどのメディアミックス報もまたお知らせがくると思いますので、チェックよろしくお願いします。

引き続きジルたちを応援してやってくださいませー!

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