《気になるあの子はヤンキー(♂)だが、裝するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!》
ミハイルが正気を取り戻したのは、午前中の授業が全て終わった晝休みだった。
俺を警戒していたここあも、ようやく彼を解放してくれた。
「タクト。オレ、なにをしていたのかな? なんか記憶がないんだけど?」
記憶が無いのなら、好都合かもな。
「ああ……きっと廊下でって転んだ時、頭を打ったからだろう」
「そうなんだ。でも、なんかベロがしびれているんだよね。タクトは知らない?」
「知らんな」
噓ついて、ごめん。
また思い出して、トリップされると困るからな。
「ま、いっか☆ タクト、お晝ごはんはまだだよね? オレ、たくさん作ってきたからさ。一緒に食べよ☆」
「もちろんだ」
お互いの機をピッタリとくっつけると、ミハイルが大きな弁當箱を取り出す。
相変わらず、たくさんのおかずで埋め盡くされていた。
彼のをじる。
二人して手を合わせて、「いただきまーす」とんだところで、ジーパンのポケットから振が伝わってきた。
スマホが鳴っているようだ。
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誰だろうと、ジーパンから取り出すと。
著信名は、マリア。
「あ……」
忘れていた、最後のサブヒロイン。
いや、ミハイルが唯一ライバル視していた最強のヒロインだ。
冷泉れいせん マリア。
実は前々から計畫していたのだ。
今日、1日で全てのヒロインたちに結婚を報告し、契約を解消しようと。
マリアは10年前からの長い付き合い。
それに彼は命をかけてまで、俺との約束を守ろうとしたの子。
簡単に諦めてくれるとは思えない。
でも、するミハイルのためだ。
俺は事前に彼へメールにて、『話がある』と今日の午後に會おうと約束していた。
ただスクリーングが終わる、夕方だったのだが。
「電話に出ないの? タクト」
とミハイルに言われるまで、固まっていた。
「ああ……実は相手はマリアからなんだ」
彼の名前を口から出すと、ミハイルも顔が凍りつく。
「え? もしかして、マリアに會うの?」
「そりゃ、マリアにも直接會わないとな……」
とりあえず、電話に出ることにした。
「もしもし?」
『タクト。ごめんなさい、まだスクリーングの際中でしょ? ちょっと急遽、予定がってね……』
強気な彼にしては、隨分と覇気のない聲だった。
「え? じゃあ會えないのか?」
『そうね。タクトとは、しばらく會えないかも……』
「しばらく? ど、どういうことだ? ちゃんと説明してくれ!」
『もうタイムリミットなの……あと一時間後には福岡を出るのよ』
「福岡を出る? どこへ行くんだ?」
『アメリカよ……』
「なっ!?」
言葉を失う俺に、優しく話しかけるマリア。
『珍しくあなたからメールが屆いて、すぐに理解できたわ。結婚の話でしょ? それから私たちの関係は終わり……と伝えたいのよね。でも、ごめんなさい。タクトの顔を見たらまた泣きそう……。その前にサヨナラしたかったの』
「……」
しまった、事前に予定を組んだのがまずかったか。
逆にマリアから気を使ってもらうとは。
でも、このまま彼と顔も見ないで、電話で別れを告げていいものだろうか?
それはダメだっ!
ここで、しっかり彼に自分の気持ちを伝えないと絶対に後悔する。
「一時間後だな?」
『え?』
「空港にいるんだろ? 搭乗まであと一時間なら、まだ間に合うかもしれない」
そう言い終えるころには、俺は席から立ち上がり、リュックサックを背負う。
『ちょっと、タクト。無理よ……やめて』
「いいや。最後ぐらい顔を見て、話がしたい」
『タクト……あなたって人は』
話の向こう側で、すすり泣く聲が聞こえる。
「じゃあ、福岡空港でな」
『……』
無言の回答をYESと見なした。
ひとり教室から出ようとする俺を見て、ミハイルが慌てて止めにる。
「ちょっとタクト! どこへ行くの?」
「マリアのところだ。今からアメリカへ行くそうだ。しばらく會えない、だから最後に顔を見ようと思ってな……」
「そうなんだ……マリア、アメリカに戻るんだね」
一番憎んでいたはずの存在だが、日本から離れることを聞いて、なぜか寂しそうな顔をしていた。
「ミハイル、お前も來るか?」
「え、いいの?」
「だって近くにいないと、また不安になるだろ?」
「うん☆」
彼が作ってくれた弁當は、口惜しいがここあに渡して。
俺たちは學校から飛び出て、タクシーで福岡空港へ向かうことにした。
~約50分後~
タクシーの運転手を急かして、ギリギリ空港のロータリーへ到著した。
ミハイルが気をきかせ、「料金を払っておくから」と車から俺を押し出す。
スマホを片手にマリアの姿を必死に探す。
彼がアメリカへ旅立つと言っていたから、國際線のターミナルビルへ向かい、カウンターにいたお姉さんへ聲をかける。
「あ、あのっ! アメリカ行きってどこから出ますかっ!?」
「え? アメリカ行き……でございますか? そのような便はありませんが」
ヤベッ、細かい目的地を聞いてなかったわ。
「その……冷泉 マリアという名前で呼び出し……いや、もう時間がないか、クソっ!」
と焦りから、床を蹴ってしまう。
そんな俺を見て、付のお姉さんが優しく聲をかける。
「お客様、失禮ですが……お話からきっと、探していらっしゃる相手の方は國際線ではなく。國線に乗るのではないですか?」
「え?」
「あの、福岡空港から直行便で、アメリカへ向かうことは無いと思うので……たぶん、羽田空港へ向かうのだと思います」
「……」
またしくじった。
付のお姉さんに禮を言うと、國線のターミナルビルへと急ぐ。
二階へ上がる階段を登っていると、見慣れた姿のが目にる。
黒を基調とした、シンプルなデザインのワンピース。
元には、白い大きなリボン。
細くて長い腳は、白のタイツで覆われている。
その姿を見た途端、俺はんでいた。
「マリアッ!」
振り返る金髪の……。
しかし、その瞳は確認できなかった。
なぜなら、黒いサングラスをかけているから。
「タクト……」
俺の聲に反応した彼は、一瞬揺したように見えたが。
手にしていたキャリーバッグを、床に投げ捨てる。
そして、俺めがけて飛び込んできた。
避けるという選択肢もあったが、ここは黙ってマリアをけとめることにした。
もう最後だから。
「間に會ったな、マリア」
「バカッ! あなたにこんな顔を見せたくないから、黙って行こうとしたのに……」
そうは言うが、彼の両手は俺の背中を離さない。
むしろ、抱きしめる力はどんどん強くなっていく。
サングラスをかけているから、わからないが。
きっと例の畫を見て、ひなたのように泣いていたのだろう。
だから、俺に顔を隠しているのか。
の中に顔をうずめて、すすり泣くマリア。
「一分で良いから、このままでいさせて……」
「ああ」
ここまで來て、これを拒むことは出來ない。
時間も限られているし。
「でも……私、逃げるためにアメリカへ旅立つわけじゃないからね」
「え?」
「もう一度、自分を磨くために日本から離れることにしたの。まだ信じていないもの……タクトが同者だって」
「……」
返す言葉が見つからない。
「それに、タクトがいくらアンナ……いえミハイルくんと結婚をしたとしても、私は永遠のだと思えない。同って、あまり長く続かないって聞くし」
俺はそれを聞いて、思わず彼を引き離す。
サングラス越しだが、彼の瞳をじっと見つめる。
「マリア、俺は本気だ。男のミハイルと一生を共にしたいと誓った。だから、そんなことは絶対にないっ!」
「……そう。なら、証明してよね? 私が諦めの悪いだって知っているでしょ。毎年、福岡に戻って、あなたたちが別れていないか……確かめてあげるわ」
彼は俺のを人差し指で小突くと、怪しく微笑む。
しかし、これは去勢を張っているだけだ。
認めたくないだけで、本當は傷ついている。
ここは、優しくするのではなく、敢えて彼の挑発に応えるべきだろう。
「むところだっ! 毎年確かめてくれ、俺とミハイルのが永遠であることを必ず、証明してやる!」
俺が言い切るころには、彼の顔から笑みが失せ、が震え出す。
涙をこらえているようだ。
「じゃあ、一分経ったから……さよなら、タクト。大好きよ」
背中を向けるマリア。
これが最後の別れだと思うと、寂しい……。
咄嗟に彼の手を摑んでみたが、振り払われてしまう。
「マリア……」
「やめておきなさい、みじめなだけよ。それにさっきから、後ろであなたの大事なパートナーが、こちらを見張っていることに、気がついてないの?」
「え?」
振り返ると、近くのソファーに隠れているミハイルに気がつく。
涙目でこちらを睨んでいる。
「ふぅ~! ふぅ~!」
今にもこちらへ飛び掛かってきそうだな。
もうマリアを追いかけることはせず、未來の嫁を優しく抱きしめることにした。
こうして……最強のヒロインは、日本から旅立っていった。
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