グランドーク家の三男アモン、次シトリーを乗せた馬車が本屋敷の門前に到著。

その様子を、屋敷の扉前から僕と父上は遠巻きに見つめていた。

「・・・・・・エルバ達が來た時より、護衛の狐人族が多いですね。父上」

「うむ。両家が張狀態であることを考えれば、當然かもしれんがし気になるな」

訝しむように馬車を見つめながら、父上は頷いた。

エルバとマルバスがやって來た時の護衛は、十名～十五名ぐらいだった。

でも、アモンとシトリーを乗せた馬車の周りには、三十名ぐらいの護衛がいるのが見て取れる。

念のため、本屋敷の敷地にる狐人族の武は、こちらで預かるよう騎士達に指示は出していから、問題はないと思うけど。

やがて、アモンとシトリーと思われる年が馬車から降りた。

その姿を見て、やっぱりね、という確信を得る。

眺めていると、騎士団長のダイナスとルーベンスが武を預かろうと彼等に近寄っていくのが見えた。

狐人族の戦士達は、嫌そうな反応をするが、アモンと思われる年が指示を出したらしく、不承不承で武を騎士達に預けてくれたようだ。

ちょっと、ヒヤッとしたけど何も無くて良かったよ。

程なく、ダイナスとルーベンスに先導された年と、一部の護衛達が僕達の前にやって來た。

「君とこんな形で再開するとは思わなかったよ。アーモンド・・・・・・いや、アモン・グランドーク殿とシトリー・グランドーク殿」

「それは、こちらも同じさ。リッド・・・・・・バルディア殿」

「お久しぶりです。リッド・バルディア様」

軽い挨拶と握手をわすと、父上が眉をピクリとさせて首を捻った。

「・・・・・・リッド。知り合いだったのか？」

「え、えぇ。以前、父上に報告した工房襲撃事件の協力者が彼だったんです。尤も、アモン殿はその時、アーモンド。シトリー様はリドリーと名乗っておりましたけど」

「あはは・・・・・・その節はどうも」

アモンは、笑いながら誤魔化すように頬を掻いた。

シトリーは、目を瞑ってペコリと會釈する。

「ほう。まぁ、良い。その辺りのことも、々と聞かせてもらうぞ。一先ず、貴賓室に案しよう」

父上は、踵を返して先導するように屋敷を歩き始める。

その時、ふとアモンの傍に控える狐人族に目が留まった。

「確か・・・・・・貴方はリックさんでしたね」

「はい。私のような者まで覚えてて下さるとは、栄でございます」

畏まって一禮する彼の表はい。

あれ？　以前、會った時はもっと明るい雰囲気だった気がするけど。

さすがに、張しているのかもしれないな。

「リッド、何をしている。早く行くぞ」

「はい、父上！　じゃあ、また後で話しましょう」

振り向き様に微笑み掛けると、リックは、「ありがとうございます」と表を綻ばせた。

そのやり取りに、アモンとシトリーを護衛する他の狐人族達の表もらかくなった気がする。

まぁ、護衛からすれば、ここは敵地のど真ん中だからね。

やっぱり、彼等なりに張していたみたい。

なんにせよ、エルバ達よりは有意義な會談になりそうだ。

貴賓室に移したのは、僕と父上の他、ディアナやカペラ、ダイナスとルーベンスを含んだ護衛の騎士が數名。

グランドーク家側も、アモンとシトリーの他、リックを含んだ護衛の戦士達が數名控えている。

ちなみに、會談の場に武は持ち込み厳であり、全員丸腰だ。

ディアナとカペラは、暗を隠し持っているだろうけど。

皆が會談の席に著くと、父上はジロリとこちらに目を向けた。

「さて、本題に移る前に、リッドとアモン殿達がどうして知り合ったのか。聞かせてもらうぞ」

「は、はい。実は・・・・・・」

僕は、ゆっくりと語り始める。

アモンやシトリー達と知り合ったのは、工房襲撃事件の時だ。

事件発生の一報がった際、バルディア領の町中に居た僕は、目にった狐人族の年に聲を掛けた。

それが、彼等だったんだよね。

その時、アモンはアーモンド。

シトリーはリドリーと名乗り、事件解決に向けて協力してくれたのだ。

彼等のおかげで襲撃犯達に追いついた僕達は、犯人達と激闘を演じた末に撤退させる。

その際の混に乗じて、アモン達も共に去ったけど、「また會う機會があれば、その時こそ々と話そう」と言い殘していた。

それが、まさかこんな形で再開するとは思わなかったけどね。

「・・・・・・という訳なんです」

説明が終わると、父上は「なるほどな」と相槌を打った。

「お前の報告から聞いていた狐人族の一行というのが、アモン殿達だったというわけか」

「はい。その通りです」

頷いたその時、ふとこの場にいない人。蠱的な彼の姿が脳裏を過った。

「でも、そうなると、あの時『リーファ』と名乗った彼は・・・・・・」

アモンは目を細めて頷いた。

「お察しの通りです。彼は、私の姉であり、グランドーク家の長。『ラファ・グランドーク』です」

「やっぱり、そうだったんですね」

そんな気はしていたんだけどね。

確信があったわけじゃなかった。

だけど、また新たな疑問が浮かんでくる。

「・・・・・・つかぬ事をお伺いします。あの時、アモン殿は、バルディア領の町で何をされていたんですか？」

「當然の疑問ですね。では、會談の本題に移る前に、その點からご説明させて下さい」

「待たれよ。その前に一つ尋ねたい」

父上は、を乗り出すと、アモンを睨み付けて凄んだ。

「我が娘、メルディ・バルディア。そして、クリスティ商會の代表である、クリスティ・サフロン。二人を含む多くの者達が貴殿達が主張する『過激派』によって拉致され、グランドーク家が預かったとのこと・・・・・・全員、無事であろうな。そうでなければ、貴殿の話を聞く価値はないぞ？」

言葉と共に、父上から怒気の籠もった殺意が発せられ、室の空気が一瞬で張り詰めた。

その殺気は、僕ですら息を飲むほどである。

正面の二人を見やると、メルと同い年ぐらいに見えるシトリーは殺気に當てられたのだろう。

耳と尾のを逆立て、目を潤ませているが必死に耐えてこちらを見據えている。

アモンは「う・・・・・・⁉」と一瞬怯むが、すぐにニコリと微笑んだ。

「・・・・・・ライナー殿のお言葉は、尤もですね。先にその點をお伝えしますと、メルディ様、クリス様を含めて皆無事であり、可能な限り丁重に扱っております。どうか、ご安心ください」

「そうか。それで、今から貴殿の話すことは、本題にも繋がることなのだな？」

「はい。その通りです」

彼は頷くと、真っ直ぐに父上を見つめる。

しんとした靜寂がし訪れた後、父上はふっと表を崩した。

「わかった。では、アモン殿の話を聞かせてくれ」

「ありがとうございます」

ほっとした様子を見せた彼だが、その顔つきはすぐに真面目なものに変わった。

「以前、私がバルディア領を訪れたのは狐人族を救う・・・・・・いえ、グランドーク家をいずれ改革するため、家の領地運営を參考にしたいと考えたからです」

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