《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》2話 渓流×サキモリ×異常存在ソイ、ソイ、ソォイ!!

お待たせしました。

ちちちちちち、ちちちちち。

ざああああああああああああああああああああ。

しゃわしゃわしゃわしゃわ。

鳥が囀る。

風が渡る。

水が砕ける。

足元にじるさらさらの石のが面白い。

水の気配、森の香り。

渓谷の隙間、見上げる空は高く青く。

「うおっ」

「むおっ」

「なん、だっこりゃ」

渓流の夢。

墓場の出り口に立っていたはずの彼らは気づけば、この夢の中に。

「……いつもの夢だ」

「ふむ。山間の源水地のような景だね。だが植生が奇妙だ。……それを踏まえてもしい場所だけど」

「うおー、キレーな水っすね〜、あ! 魚いる! でっか!! え、でかくない?」

渓流の景の中に2人がいる。

ーー

ーー

に喰われ、その皮を利用されていた仲間。

ソフィ・M・クラークとグレン・ウォーカー。

喪ったはずの仲間がここに。

「お前ら……なんで」

思わず溢れる呟き。

その呟きを聞いたソフィとグレンが互いに顔を見合わせて。

「さて、どこから話せばいいか。いや、そもそも何を聞いて何を説明すればいいのか。我ながら今回ばかりは事態が難しすぎて悩んでしまうね」

「あー、センセ? まあまあ、積もる話は置いといて。とりあえず、離れ離れのチームのメンツがひとまずは三人合流出來たって事でどうすか?」

「ふむ、それもそうか。アジヤマ、苦労をかけたね。君と會うのは久しぶりだが、元気そうで何よりだ」

にっと笑うソフィが手を差しべる。

もう2度と會えないと思っていた仲間との再會。

味山も無意識に手をばそうとして。

つーー

駆け巡る悪夢の景。

クソッタレの神モドキによる悪辣な擬態の瞬間。

「……待て、お前ら本か?」

味山がばした手は行き先を見つける事なく、止まる。

「タダ?」

「いやいい、グレン。……アジヤマ、どうやらワタシ達はキミに……大きな苦労をかけたみたいだね」

ソフィが渓流を見つめながらつぶやく。

が見つめる味山只人の表

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「キミはずいぶん、疲れているようだね」

「……ああ、そうなんだ。いろいろな事があったんだ、クラーク」

「ふむ……おおかた神種のクソッタレ共の擬態にワタシ達の皮が使われたりしたかい? 奴らの擬神は人間の皮をかぶる能力がある……ふむ、正真正銘我々はアレフチームのソフィ・M・クラークとグレン・ウォーカーではあるが……」

味山只人は凡人である。

殘念ながら、絆とか友とかそういうので本を見抜いたりする能力はない。

「クラーク。気分を害して悪いが質問に答えてくれ。……お前らを信じたいんだ」

「構わないよ、アジヤマ。無條件に信用されるより疑いを持ったうえで信を置かれる方が気分がいいからね」

不敵に笑うソフィ・M・クラーク。

同じだ。あの時の顔と。

あの神種がソフィの皮をかぶっていた時の姿と目の前のソフィ。

味山には見分けが付かない。

味山只人は凡人である。

殘念ながら、絆とか友とかそういうので本を見抜いたりする能力はない。

あるのは――

「クラーク。アシュフィールドの公稱プロフィール、長を教えて――」

アレフチームと過ごした確かな時間だけ。

味山がソフィにアレタ・アシュフィールドの事を聞いた。

「公稱では173センチだが、本當は175センチだよ。ただその日のキュートなアホの調子にもよるからミリ単位の誤差はあるかな。かわいいね。スリーサイズも公稱からし誤差があってね、公稱では上から80・52・78だけど実際は79・55・80かな。食事制限をしている時や、會合やパーティーが多い月だとアレタはおにおがつきやすいから81に変わったりもするかな。かわいいね。でも、アジヤマと出掛ける日の前日とかは食を細くしたり、運したりスパに行ったりして引き締めてるから全的なスタイルの數字は引き絞られて……え……待って、アジヤマとの用事の時だけ、あの天のアレタが、スタイルを気にしてる……それって……あ、脳が」

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「はい、お帰り、クラーク先生」

ソフィ・M・クラークだ。間違いなく。

もうこれが本じゃなかったら諦めが付くくらいに。

「んで、グレン、お前はーー」

次はグレン・ウォ―カー。

さて、何を質問しようかと味山が口を開いて。

「タダの初めて行った大人の店、大學時代に飲み屋街のハズレにある"ファンタジー"っていうーー」

「お帰りグレン君!!!!」

どうやら2人とも本らしい。

もうこれ以上の確認は必要ないだろう!!

味山はグレンの口を早々に閉じさせた。

「さて、我々の絆の強さを再確認出來た所で……これは一どう言う狀況だろうか」

っちちっちちちちちちち。

鳥のさえずり、石清水のせせらぎ。

様々な音が満ちる渓流の空をソフィが見上げる。

不思議な景だった。

この景の中に、アレフチームのメンバーがいる絵が。

「……」

同時に沸く、味山の疑問。

聞きにくいし、だいたい予想はついているが、この夢の中にソフィとグレンがいるという事は――。

「お、おお。……この場所にはまあ、俺はなじみがあるんだけど、えっと、まあ、うん。その、聞きづらいんだけど、お前らってさ、やっぱ、その」

「あ、うん、タダ。俺ら死んだっすよ、センセも俺も神種とか言うのに負けて死んで喰われたっす」

「うわああああああああ!! 聞きたい事だけどキッツ!! いや、聞かないといけないことなんだけども!」

けろっと伝えられた事実。

グレンがけらけら笑いながら告げる。

「ふむ。まあ、殘念だが、そういう事だ。ワタシもグレンも探索を全うする事が出來なかった。……アレタを1人にしてしまったんだ」

「……そう、っすね。俺達は結局、あの人と最期まで一緒にいてあげる事が出來なかったっす」

神妙な顔で俯く2人。

とんでもなく気まずい雰囲気。

死人となんて話すものじゃあない。

「え……じゃあ、お前ら、今マジで幽霊……?」

「ふ! フフ、ああ、その通りさ、アジヤマ。今君の目の前にいるのは本當のゴーストなのかもしれないね」

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「マジかよ」

もうそれしか言う事がない。

死んだと思った存在と夢の中で再會。

創作でよくあるパターンだが、実際に起きると非常に反応に困る、が――。

「……まあ、とりあえず、座れよ、楽にしようぜ」

すかっ。

乾燥気味の味山の指はガス男のような綺麗な指パッチンは出來ない。

それでもこの夢は味山の夢。

「ほう」

「うお! 椅子!? すげえ! 椅子が出てきたっすよ!」

「ここは俺の夢の中だからな」

現れたのはリクライニング機能付きのキャンプチェア。

登山ブランドの折り畳みが可能なものだ。

「ふむ……見た事のあるロゴだね。この夢がワタシの見ている都合の良い夢想でない事を祈るよ」

「それは俺もだぜ、クラーク。この椅子、やっぱりいいな。MYNEWGEAR……」

「ふむ。この脈絡なく自分の世界にじは正真正銘のアジヤマっぽいが……」

「おおー! センセ! この椅子! 背もたれが倒れるっす! 寢れる!」

三者三葉。

三つ葉の形で向かい合い、椅子に座るチームのメンバー。

「さて、紳士諸君。積もる話はたくさんあるが、今我々に必要な事は報共有だ。もうこの際、今この狀況がワタシが見ている夢か否かについては考えない事にするよ」

「センセも

「ふん、もしこれが都合の良い夢だとしても、だ。考えるという行為だけは放棄したくない。これはプライドの問題だよ、ワタシという人間を構する譲れないものだ」

味山は考える。

再會を果たしたクラークとグレン。

この2人に聞いておきたい事と言えば――。

「そもそも、今の狀況。こりゃ一なんだ?」

「ああ。それはお互いに共有しておかないとね。一つずつ考察していこうか。まず、…… ここはアジヤマの夢……という事でいいのかな?」

「ああ。いつか話したよな? 神の殘り滓。俺のの中に棲む連中、あいつらともここで會ってるじだ」

「君のの中に棲む存在との流の場……となると、我々の……まあ、なんだ。霊魂やら魂やらと呼ばれるこの報は今しばらくお待ちください今、アジヤマの中に吸収されている、と言うことかな」

「うーん……そう言うことになるのか? でも、別に俺、お前らを食った自覚はねえんだけど」

「そうか、アプローチ2は食事をトリガーとして発するんだったね。ふむ……と、なると。なぜ今、ワタシとグレンは君の夢の中にいるのだろうか」

「あ、ちょうちょ」

うーんと頭を捻らせる味山とソフィ。

キャンプ椅子に寄ってくるちょうちょに指を差し出すグレン。

TIPS€ 目の前にいるのは”神種・アレタ・アシュフィールド”によって回収されたソフィ・M・クラークとグレン・ウォーカーだ

TIPS€ 加えて耳の化が喰らった神のにより、彼達の魂は今、お前の中に保管されている

「あ〜なるほど。クラーク、なんか大今、事がーー」

響いたTIPS。

味山にだけ聞こえる世界のヒント。

その容を共有しようとして。

「……い、今のはなんだい?」

「えと、なんか、聞こえたっすよね?」

「え?」

何かがおかしい。

ソフィとグレンの反応、まさか。

TIPS€ バベルの大のまんなかと地上の時間はズレている

TIPS€ 現在、バベルの大の真ん中には味山只人を除いたアレフチームが健在している

TIPS€ 特殊イベント発生・"ワンス・アポンタイムイン・アレフ"

TIPS€ ソフィ・M・クラーク、グレン・ウォーカーの魂をこの時間線のと同期させる

「まただ、また聞こえた……」

「この聲……どっかで聞いたことあるような気がするんすけど……」

響くTIPS。

キョロキョロと辺りを見回すソフィとグレン。

これはーー。

「……もしかして、お前らにも聞こえてんのか?」

「も……と來たかい。アジヤマ、これが君の言ってたヒントを聞く力か。"耳男"とやらのインパクトで薄れていたけど、不気味な力だ」

「まあ不気味なのは否めねえがこの報は噓はつかねえ」

あっけにとられつつ、話を進める。

ソフィもまた首を傾げながらも何度か頷いて。

「ふむ……確かに今の聲の言っていた事が事実なら、ワタシの懸念點は一つクリア出來る」

「なんすか、センセの懸念點って」

「パラドックスさ。我々は今、時を司るにより時間を遡行している。違うかい? アジヤマ」

「あってる、はずだ」

「だとすればたどり著く時間がどこであれ、最低限、アレフチームが全員存命している時間が目的地だろう? このままだとどうなるか、グレン、考えてみたまえよ」

「あれ……それ、もしかして……俺達が2人いる事になるって事すか?」

「その通り。だが、今のヒントとやらが真実ならその心配はない。今ここにいるワタシ達は言うなれば未來の出來事を知っている記憶そのものだ。同期、とはよく言ったものだね」

「よくわかんないっすけど……とにかくタダが昔の俺達と合流すりゃなんとかなるって事っすか?」

「概ねその認識でいいんじゃねえのか、グレン。クラークが言ってんだ、大筋は間違いねえだろ」

「事態が事態だ。あくまで予想と検討に過ぎない。だが、我々に行する事を躊躇っている暇はない……」

「クラーク?」

「……ああ、ちくしょう、確信したよ。アレタ……彼は、また1人になってしまったんだね。いや、1人にしてしまった。……神種アレタ・アシュフィールドだって? ふざけなるなよ……彼を1人にし、そして彼にまた救われるだけの自分の無能さが嫌になる」

「……クラーク、お前らはどこまで覚えてんだ? その、あの時計のが発した世界の事……」

「朧げだが、ワタシ達を喰らった神種の中で意識に似たものはあった……から奴らの全てがり込み侵されつくす覚、羽蟲に側から食い盡くされているようにも、巨大な生きの口の中でねぶられているようにもじる、二度と思い出したくない覚だった。だが……」

ソフィが、流れる川に視線を向ける。

巖の表面を磨き、そして流れるたびに自らも磨かれていく流水。

決して澱む事のない営みを見つめて。

「奴らの中で、突如聞こえた奴らの悲鳴と、誰かの嗤い聲。ワタシはアレで目が覚めて――ああ。そうか、アレタは1人じゃなかったんだ」

ソフィの赤い目が何かに気付き、瞬いた。

けてキラキラと輝く川。

それと同じように、ソフィの紅玉の瞳が味山を映して。

「キミがいてくれたんだね、アジヤマタダヒト」

「いや、最終的には俺も――うお」

手が味山の手を包む。

震えて、冷たくて、小さなソフィの手。

「クラーク?」

「ありがとう……ありがとう、アジヤマ。最期にアレタと一緒にいてくれて、本當に」

の細い肩が震えていた。

絞りだすようなか細い聲。

負けるという事の末路がどんなものか、そしてその末路を歩んだソフィの苦悩が見て取れる。

小さい。

ソフィ・M・クラークという人間がまだ20にも満たないである事を味山は思い出した。

思い出した上で――。

「ソフィ・M・クラーク」

「アジヤマ……?」

小さな手を、震える肩を、味山は握りしめる事も抱く事もない。

ただ、対等に椅子に座ったまま膝を突き合わせ、顔を対面に。

「まだだ。まだ負けてねえ。ここはお前の末路じゃない」

「……ぁ」

「アシュフィールドは1人になったんじゃない、お前らが1人にしたんでもない。あいつは只、前へ進んだ。自分の名前も自分の事も忘れちまってんのに、こうしてお前達をここまで送り出した」

英雄が選んだ凡人が、英雄に魅せられた者に言葉を継ぐ。

「お前達はアシュフィールドが放った弾丸だ。あの訳わかんねえ連中をぶっ殺す為のな」

「弾丸……はは、それは……いいね、悪くない」

縋る為に繋がれた手が自然と解ける。

自然とその手は握りしめられたグーの拳へ。

「やり直しだ。とにかく今回は前回の反省を生かして全員速攻で合流、先の事はアレフチーム全員で考えようぜ」

「ああ、そうだね、その通りだよ、アジヤマ」

「センセとタダだとどう頑張っても気はないっすね」

握られた3つの拳。

誰に依る事も、依る必要もない獨立した拳がそれでも3つ。

ぶつかりあい、たたき合い、重なり合う。

がんがん、ごんごん。

暴に突き合わされる拳が3つ。

「アレフチーム仮リーダー、ここにメンツが1人足りない気がするよな」

「ああ、その通りだ、アレフ4。彼の反省期間はそろそろ終わりでいいだろう」

「なんやかんやアレフチームのボスはやっぱあの人じゃないとしっくりこないっすよね」

敗北者達が、不敵な笑みを浮かべる。

負け、死に、しかして滅びず再び集った者達。

負けざる者達があの日、あの夜、星を墮としに行った時と同じ笑顔を浮かべる。

「俺達は星を墮とした。全部を1人で救おうとしたバカの足を引っ張って引きずり落した」

「ああ、その通り。彼みを我々は否定し、捻りつぶした」

「真正面から囲んでタコ毆り、相手が52番目の星じゃなかったらド悪黨っすよね」

へらへら。

似たような笑みを浮かべ、最前の探索者達が顔を見合わせる。

夢の中、彼らはそして再會し。

「――今度は墮とした星を掬いに行く。ほっといたら勝手に輝きだして空の向こうに行こうとしちまう奴だ、手段は選ばねえ」

「賛だよ、そして我々アレフチームはアレタ・アシュフィールドと我らチームに仇なす全てを踏み潰し、撃滅する」

「サーチ&デストロイっすね。もう二度と負けねえっすよ」

ちちちちちち。

ざあああああああああああああああ。

しゃわわわわわわわ。

渓流の夢が解かれていく。

TIPS€ しかし現実は甘くない

TIPS€ 未來は既に耐え、世界の運命は決定した

足元の石は消え、河は渇き、森は消える。

世界が闇に包まれる。

一寸先も見通せない漆黒の闇。

味山の視界も闇と黒。

ソフィもグレンも見えない。

星のも屆かぬ暗闇の荒野。自分の形すら忘れそうになる夜の世界。

TIPS€ 世界とはつまり、これだ。

TIPS€ 生きるとはつまり、これだ。

TIPS€

未來も展も何も見えないその場所で――。

「味山只人の――いや、アレフチーム探索記録」

ぼおう。

火が熾る。

ヒトが夜に、闇に、見通せぬ世界に挑む為見出した現象。

先の見えない荒野を進む事を決めた者にこそ扱うに相応しい力が、彼らを照らす。

「離散したメンバーとの一部合流に功。課題は山積みだが……くそったれの世界でも滅びちゃ困る。――敵を殺しに行こう、今度は全員でな。クラーク、グレン」

暗闇。

仲間の姿すらもう見えない暗闇。

火の燈りを飲み込む黒の向こう側へ聲を――。

「了解、アジヤマ」

「了解っす、タダ」

ぼおう。

足元。焚火、火が煌めき、火のが舞う。

ソフィの赤い瞳に火が揺れる。

グレンの水の目に火のが散らばる。

オレンジの燈りが、彼を、彼を照らす。

星も月もない夜空。

暗闇の荒野に3人。

それでも火を燈し、顔を向かい合わせ。

「それで――合流する為のプランはあるのかい? このやり直しがどこから始まるのかわからないが、もし、味山が地上にいるタイミングから始まったとするならば我々はバベルの大にいる。なかなかに骨が折れるとおもうが」

「あー……確かに」

TIPS€ ”報酬(リワード)を使え、イズ王國を落としたお前にはその権利がある

「……いや、なんとかなりそうだ」

「それは何より……え? イズ王國ってなんだい?」

「うわ、すっげえバカっぽい響きっすね」

「いやすげえ苦労したんだって。アレフチーム案件だったよ、あれは。――クラーク、グレン」

味山の呟きに2人が首を傾げる。

「話したい事がたくさんあるんだ。続きは、4人で。チーム全員が揃った時に話をしようぜ」

「……ああ」

「そうっすね」

火が揺らぐ。

照らされた視界。目の前の仲間の姿が揺らいでくる。

――抗えない眠気がやってくる。

夢の終わり、現実の始まり。

これより始まるのは、本當の再開。敗北から始まる探索。

「じゃあ、……また」

「ああ、またすぐに會える事を期待しているよ。……苦労をかけてすまない」

「タダ、頼んだっす」

ぱち、ぱつっ。

焚火のはじける音。

仲間の聲を子守歌に味山は目をつむる。

「アレフ2より。アレフ4へ」

ソフィの聲だけが聞こえる。

「命令だ。合流を。我々の反撃は君の進撃から始めよう」

「了解……クラーク」

夢は終わった。

なら、次は――

◇◇◇◇

時に。

西暦2032年、3月。

首相邸地下。

報集約センター。

多賀が総理大臣になった後に増設した邸地下の施設にはニホン全の監視報が集約されている。

數多のモニター、そして壁一面を使った大モニター、あまたのサキモリ所屬のオペレーターが生存のための業務を行い続ける。

『こちら中央怪種指定即応対策本部”サキモリ”封印執行部。全サキモリの人員へ定時通信を開始』

『特急指定封印機構”アメノイワト”定時システムチェック報告』

『皇居龍脈との接続、問題なし』

『首都外郭放水路の陣、正常稼働』

『概念深海深度2萬マイルで安定』

岳山頂上からの龍脈エネルギーに若干のブレあり。B現象の予兆かもしれません。執行部の監査対象として報告します』

『了解。続いて封印指定対象のチェック開始』

『特急指定封印壱號”マレビト”。狀態安定。サキモリ・西表執行、および貴崎執行との戦闘で欠損した四肢について再生の兆しなし。B現象の予兆も見られず』

『続いて特急指定封印弐號”タンパン”狀態安定。B現象、及び半徑10キロ圏での心霊現象の報告なし、民間人のSNSでもタンパンの覚醒兆候であるポルターガイスト現象、幻聴現象いずれもなし。安定です』

『最後に……特急指定封印參號。”味山只人”……本日で123回目の再生を確認……概念深海の深度は2萬マイルだぞ。ネモ船長が見たら腰抜かすよ』

『通信、私語は慎め。私見は必要ない、事実の報告のみを行え』

『し、失禮しました。”味山只人”封印開始から48時間が経過。その後、概念深海の疑似水圧による圧殺で、122回の心停止を確認。またウシノコクシステムによる呪殺による心停止も確認。――しかしいずれの心停止も、數十秒後には活を再開しています』

『味山只人に”B現象”の予兆は無し。しかし依然としてアメノイワトの自己診斷システムの評価は”大禍”を示しています』

『サキモリ寮からの報告です。近未來予測システム”ドーマン”による未來予測は未だ、崩壊。味山只人の封印を解いた結果、97.8%の確率でニホンが崩壊するとの事です。……先日に続いてね』

『國家崩壊の予測シチュエーションは?』

『は、先日と同様。國家制度の崩壊、サキモリの崩壊、ニホン霊的守備防三方の懐……そして、嵐と闘爭……』

『わかった、報告は以上で構わん。引き続き特級指定封印の監視を続けろ』

ニホンの防衛の為に超法規的手続きを以て組織された彼ら。

閣・通稱サキモリ。

が地上に跋扈、それまでを潛めていた超常が日常に蔓延るVer2.0の世界。

ニホンが未だ國家としての裁を保ち、仮初の日常を出來ているのはサキモリの存在が大きい。

そして、首相邸地下、報集約センターよりも更に下、奧の奧。

首都地下に張めぐされた地下水路の更に奧。

古くはエドの世、徳川幕府開闢の折に敷かれた首都の霊的防陣により封印された”地下大霊廟ヨモツクニ”。

深海においても運用可能な超強化ガラスによって覆われたその空間

地下に存在する監視塔の展エリアに彼達はいた。

、そして麗人が2人。

「定時報告は終了した。封印機構アメノイワトの稼働は問題なし、か」

が出るね、宮本長殿。サキモリの防衛部のトップがわざわざこんな封印に近い場所に來るなんて」

「西表教授……貴こそ、気分屋の割に存外まじめだな」

1人は黒い長髪に黒い軍帽、黒い軍服にを固めた鋭い目の

くたびれたシャツ目の下のクマ。

のここ最近の心労を想像させる。誰かお世話してあげてしい。

宮本未子。

サキモリにおいて國土防衛を司る部署の長が彼だ。

「西表の勤勉さが君に伝わっていないのが殘念だよ」

そしてもう1人は赤髪赤目の麗人。

長い赤髪を1房に結いシャツとスラックスにボンバージャケット。

奇妙なそれでいてサマになるいでたち。

西表 波(いりおもて なみ)。

ニホン最強の指定探索者にして、サキモリの最高戦力。

サキモリにおいて、いやニホンにおいても重要人に數えられる彼達の視線の先。

そこには3つの白い棺が並べられている。

「宮本君。ここは余人たる君のに障る。封印対象のきを阻害する為に世界各國の足地から収集した瘴気を常に循環させているんだ。今日の瘴気は……イタリアの地下墓所だって。墓場の空気をじて封印対象にはそのままおとなしくしていてもらいたいね」

「……珍しく良くしゃべるな、教授。戦場と同じくらいに」

「アハハ、分かるかい? 西表も張してるのかもね。壯観だよ、この三種の指定封印対象が並んでいるのはね」

広い、広いすぎる空間に等間隔に並べられた白い棺、3つ。

特級指定封印。

科學とオカルトのハイブリッド技により生み出された封印機構。

"現代の技、および戦力では討滅が不可能"と判斷を下された存在を封印し、隔離する為のシステム。

Ver2.0の世界が始まって既に、ニホンは3つの指定封印を完遂していた。

「特級指定封印対象”マレビト”。ドーマンの未來推測ではマレビトが20日以上地表に滯在した場合、ニホン、いや、北半球の全てが異星化するとの結論を下した異常存在」

西表が目を細めて呟く。

突如、ニホン上空の衛星軌道上に出現し、首都に落下した異常存在。

現れた瞬間、都民の約半數が地球にはない言語を使用し、そのうちの4割が異形の怪へと変化。

一瞬にしてトーキョーが陥落しかけた大事件の原因。

を纏った

どこからやってきたかもわからぬ客人(マレビト)は人類の守護者にして免疫機構たる西表と、鬼剣の覚醒と闘によりぎりぎりで封印に功。

「2つ目。特級指定封印対象タンパン。寮の解析では、ニホン人全員を対象とした呪殺が可能な推定神種、怨霊とでも呼ぶべきか?」

宮本が自嘲気味に憐悧な貌をゆがめる。

ニホン中の霊能力者、公安の特殊組織、平安の世から続く師の末裔達。古い大化生のを継ぐ名家。

そして、首都に設置されたニホン霊的守備防

の神にかかわる存在すべての死力、そしてその半數以上の犠牲を以て封印せしめた謎の怨霊。

単獨でのニホン國民全ての呪殺をも可能とする規格外の異常存在。

真っ黒な涙とを流し続ける短パン姿の子供。

ニホンが遭遇した2例目の”討滅が不可能”な存在。

「そして、最後はーー」

2日前にこの地下大霊廟ヨモツクニに封印されニホン史上3例目の特級指定封印対象。

「味山只人」

西表がその棺を見下ろしながら呟く。

「本來ならばニホンが行うべきだった神殺しをした男。因果なものだね。アサマ封印の為に用意した參號機を、アサマを葬った存在の封印の為に使うとは」

「……教授。今回は珍しくあの貍総理が強姿勢を取っていたな。何か心當たりが?」

宮本は抱いていた疑念を口にする。

サキモリの長にして、この國の総理大臣。多賀の判斷は珍しく早急かつ強固だった。

「さあ、西表にはなんの事やら。ただ……多賀君はひどく恐れているようにじたかな」

「あの貍に何かを恐れると言うがあるとは驚きだ。まあ、無理もない。ドーマンによる未來推測ではイズ王國によりニホンが崩壊する未來が濃厚だった。それがたった一夜で全て上書きされたのだからな」

寮の連中の慌てようたらなかったよ。この混に乗じて平安の最盛の時代を目指すような時勢の読めない連中だ。未來予測の変更は連中にとっても痛手だったたのだろうね。アハハ、快くアメノイワトを使わせてくれた」

「……貴崎凜の様子は?」

「彼は相変わらずだね。謹慎2日目だが、微だにしない。出された食事にも手を付けていないね。現狀バイタルチェックでは異常がないが、これ以上絶食が続くようなら気絶させて點滴をけさせるさ」

「経歴を洗うと、味山只人がアレフチームにる前にチームメイトだったようだ。彼が味山只人をかばう為にお前に挑んだのはその為か?」

「そうだろうね。いやあ、さすがは鬼剣。殺さずに無力化する事のなんと難しいことか。5回は殺すしかないと思ったし2回は死んだと思ったよ」

「……貴崎凜は護國に必要な人材だ。一刻も早い復帰を期待したいが……」

「宮本君、難しいかもよ。西表達は彼の逆鱗にれたんだ。それはあまりに蟲のいい話だよ。人間には誰しもそこにれられたのなら戦爭しかない、というのがあるんだろう?」

「……人間じゃない癖にやけに詳しいな」

「ハハ、えてして己の良さは己にはわからないものさ。西表はなんだかんだ、怪種と同じくらいに君達が好きだよ」

「喜んでいいのか微妙なセリフだな、それは」

「喜ぶべきさ。西表は君達から生まれた被造だ。君達の軌跡そのものが、君達の事を好意的にじている、誇ってほしいものだよ」

「頭が痛い。それで、そんな被造様はこんな所で油を売ってる訳か?」

「おいおいおい、宮本君。ひどいじゃあないかい。こうして後進の育にも一役買っているっていうのに、勤勉にもさ」

「後進……?」

宮本が西表の言葉に眉を顰める。

それと同時だった。

「は~い、みなさ~ん。私語は慎むようにね~、あ、エリンさ~ん、槍を出そうとしないでくださ~い、鳴上會長、皆さんの引率しっかりお願いしま~す」

「む……すまない、先生。ここは……ひどく、張するんだ」

「はい、先生。皆、あまり大きな聲を出さないようにね」

「ちっ。どこでも仕切りやがって。ここはアカデミーじゃねえぞ。會長殿よ」

「ネイ、それでもこれは授業だ。私の指示に従いたくないのは構わないが、先生に迷がかかってしまうよ」

「けっ、先生の名前を出すのは卑怯だぜ……」

ぞろぞろと監視塔、最上階の部屋に現れたのは奇妙な者達だった。

ベストの上から白を羽織った眼鏡人。

の背後には涼しげな白いセーラー服姿の達。

しアンニュイな顔の白髪の

穏やかな表、栗の腰までばした長髪の

吊目、ギザギザした歯をチラ見せしつつ口調を荒げる黒髪の

朗らかな笑顔、艶々の黒いショートカットに細い腳を包む黒タイツの

「やあ、アカデミーの優秀な探索者候補の諸君。それに先生も。遠路はるばるご苦労様」

西表が彼達に聲を掛ける。

「……西表波だ。最強の指定探索者」

「……すげえな。殺せる気がしねえ」

「イリオモテ越えの語源……」

「っ、は、初めまして西表執行。わ、私達は――」

學生達が張した面持ちで西表を見つめる。

「ああ、知ってるとも。優秀なアカデミーの選りすぐり。中央生徒會のメンバーだろう? 既に前回のスタンピードでの実戦経験もあると聞いてるよ。それに、あの”神の殘り滓”に適合した生徒もいるとか。持ちもいるとか」

ver2.0の世界の序列。

ダンジョンの脅威により死と危険が近なった世界で人の価値観はしづつ変わっていく。

容姿や財力、地位。

これまで人間のステータスとして認められていた概念の優先度は1つ下がった。

最優先のステータス。それは――

「こ、栄です。わ、我々も貴のお話は常々授業で……」

「……第一次トーキョースタンピードでは、私のホストファミリーの家を貴が守ってくれた、ありがとう、イリオモテ」

「おい、アイルランドっ子。さんをつけろよ」

「すみません、西表さん。私達、貴に會えるなんて思っていませんでして……」

學生達の目に映るのはわかりやすい憧憬の熱。

野球年がプロ野球選手を見つけた時のような表

強さだ。

このVer2.0の世界において最も優先されるステータス。

「意外だ。西表、君が子供達にここまで慕われているとはな」

「子供は素直なものだよ、宮本君。大人達よりずっと変化に敏で世界に馴染んでいる」

宮本はし愉快そうな笑みを西表へ浮かべる。

西表もまたそれを軽くいなしつつ、薄く笑う。

新しい世界の常識、それに最も早くなじむのは子どもたちなのかもしれない。

「はいは~い。皆さん、ニホンの英雄を目の前にしてテンション上がるのはしゃーないですけど~今は授業中です~。西表さんへの個人的な質問は授業が終わった後ですよ~」

糸目眼鏡の白の言葉にわちゃわちゃしていた生徒達のきが止まる。

「くくく。よく躾けているものだね先生。彼達のような超常の存在を君のような只の人間がすとはね」

すなんて大げさですよ~。それは彼達がお利口で賢いんです。アカデミーの子は皆立派ですよ~。親元を離れて自分達の世界の為に己の力を役立てようとしてる子達なんですから。よよよ、自分のバカしかしてなかったこども時代が恥ずかしいもので~す」

「せ、先生、もしかして私達は褒められてるのかな?」

とセーラー服の子高生達が仲睦まじくやりとりを繰り返す。

宮本と西表がその様子をすっと目を細めて。

「良い景だ。……我々が守り、つなげていけばきっと若者達が前へ進んでくれる」

「宮本君、君も多賀君と同じでどうも自分を捨て石扱いする傾向があるね。そういうのはよくないよ」

「ふっ、そう言っておけば貴の枷が増えるだろう? 私を無駄死にさせたくなければ西表教授、貴も自分を大切にしてくれよ」

「……善処するさ。――さて學生諸君。今日は簡単な課外授業を君達の先生から頼まれていてね、容はもう、ここに來た時點で理解できているだろう? 特級指定封印対象の見學だ」

西表がガラス壁の向こうを指し示す。

セーラー服姿の達は互いに顔を見合わせて、1人、また1人、ガラスの壁の近くへ。

「……おい、どうしたんだ、會長殿。手が震えてるぜ」

「ネイこそ、さっきからやけに瞬きが多いようだね」

「……先生、やはり槍を持たせてくれ。それがないと怖くてたまらない」

「これが……ニホンを崩壊させかねない3つの大禍……」

學生達もまた知っているのだ。

授業で、そして実験で。

自分達の生の保証のもろさを。

「ほわ~、すごいですね~あまたの霊的防衛が針目ぐされてるこの監視塔でもちょっち吐き気がするほどの瘴気と威圧。現代では討滅不可の異常とはよく言ったものですね~」

宮本と西表同様。のほほんと構えている白の糸目眼鏡のの聲も生徒達には屆いていない。

「……ネイ、この中で戦闘が立する相手はいるかい?」

「……相だけの話なら弐號だろ。でも、親父でも祓えなかった化けだ。せいぜい1分もつかもたないかのレベルの話だけどな」

「怖い、怖い、とても怖い……あの端っこ、壱號と書かれている棺、とてもよくない……」

「エリンさん、顔が悪くてよ……でも同。壱號、マレビトは當家の人間も大勢が犠牲になりましたもの」

に選ばれた者。

世界の枷が外れた事により、古い討魔の力に目覚めた者。

の殘り滓と化した先祖と見え、正しく神話の力をけ継いだ者。

古い大化生のを引き、その業を宿す者。

セーラー服の達はそのすべてがみな、何かに選ばれた特別な者だ。

故に、わかる。

西表波の常識外の強さも、そして。

「ちなみに諸君、西表の試算ではこの壁の向こうに安置されている封印、その1つでも今解かれれば、ニホンは今度こそ終わると思うよ」

「「「「……でしょうね」」」」

特級指定封印対象の脅威も、理解できてしまう。

優秀だ、西表はし驚く。

「いいね、敵の恐ろしさを理解するのもまあ強さの1つだよ。では……あの封印を見て何か気づく事はあるかい? 授業だからね、講師らしい事をさせてもらおうか」

生徒達が西表の言葉に従い、封印を見つめる。

おっかなびっくり、まるで心霊スポットの廃墟の中を進む者のような表で。

「う、うーん? すみません、こういう分野には疎くて、勉強不足です」

の髪の大人びたは顎に手を當て首を傾げる。

だが、他のメンバーの様子は違った。

「なんだよ……この複雑な結界封印。神道の三種神信仰をベースに原始仏教やら教、んでこのじは……土著の民間宗教の流れも汲んでんな。そのうえからニホン霊的守備防三方、おまけに首都結界の脈に……うえ、皇居の龍脈の流れも使ってんのか?」

黒髪ギザ歯の吊目が口元を抑え、吐き気に耐えつつも目視のみでその封印機構のあらましを看破する。

古く、かの貴崎家と並び評された退魔の家計たる彼の才能はこの世界で十二分に発揮されている。

「ほう、さすがは寮長のお嬢様だ。惜しいね、さらにその上からは――」

「ドルイド……わたしの國の古いまじないも混ざっている……」

先生に止められつつも、青い槍を両手で抱きかかえるように握る白髪の

の緑の瞳はい付けられたかのように封印機構へと。

「おや、エリン嬢、ふふ、君の中に棲む子殿が教えれくれたのかな? まあ、彼ほど上手くルーンを扱う事は出來ないが、手前みそで恐だ」

黒髪ショートの彼もまたまじまじと封印を見つめる。

他のと比べて、割と平気そうなのは彼の祖もまた魔よりの存在故か。

「……まだほかにもたくさんの呪いを混ぜてありますわ。北半球だけでなく、南半球の古代呪のものまで……平安の世の封印よりもこれ、強力なのでは……?」

「白面の末にそう評価されるとは。サキモリとニホンが総力を挙げて作り出した甲斐があるというものだよ。多賀君も喜ぶ」

封印を一目みて、その完度の高さを見抜く才能達。

西表は満足そうにうなずく。

――これなら間に合うかも知れない。予がある、大いなる破滅の予が。

西表波の存在理由は只1つ。人類の継続。そして願わくばニホンという國家の存続。

それをす為に失敗は許されない。

あのイズ王國の一件からずっと続く人を模したこのに確かに響く違和

自分は、そしてあの懐かしき|年《多賀にして當代のこの國の長はどこかで大きな間違いを犯してしまったのではないか。

そんな予

「……」

無意識に西表の視線は封印機構、その白い棺の3番目へと。

「それでは、諸君。次の課題だ、あの三番目の棺、アレを君達はどう評価する?」

西表の言葉に、生徒達は顔をこわばらせながら3番目の棺を見て――。

「――えっ?」

最初に妙な聲を上げたのは、黒髪の退魔の家計の末。

「なんだあれ、何もじねえ。呪もも霊も……あれだけ、なんか普通……?」

「わたしも、だ。アレは怖くない、槍がなくても大丈夫?」

「逆に不気味ですけど……皆様と同じですわ。あの三番目、確か、イズ王國のアサマを討ち、貴崎執行と熊野執行った怪種と聞いていましたが……」

かしを食らったかのようにぽかんとした表を浮かべる達。

だが、唯一。

パリッ。

「っ!? おい! 會長殿! お前、雷れてるぞ!! あぶねえって!」

「あ、ああ、済まない……あ、え、ええ……」

唯一、栗の長髪の

ある天現象を司るの保有者たる彼の様子だけ、違った。

逆立った髪は、まるで落雷寸前の地點で起きる靜電気の暴走。

「ネイ、エリン、白面さん。き、君達は本當に、あの參號の棺を見て何もじないのか?」

「あ? どういう事だよ、壱號と弐號と比べものになんねえだろ、あの參號からは何もじないぜ」

「あ、はは、そ、そうかい、ゆ、勇敢だ、皆は……わ、私、もう帰っていいかな」

「お、おい、會長殿、アンタ……」

黒髪のが目を丸くする。

髪の、アカデミー最優にしておそらくこの場の中で最も強い探索者候補たる彼の様子が、変で。

「わ、わ、笑ってくれて構わない、で、でも、でもね、嫌だ、これ以上、ここにいるのは嫌だ……あの參號、アレはおかしい……!!」

震えている、もはや誤魔化しなどきかないほど。

立っているのもやっとというほどに彼は震えていて――。

「お、おいおい、それはびびりすぎだろ、いくらあの壱號と弐號が怖いからって――」

「違う!!!!」

「ひっ」

怒聲。

生徒たちは知っている、栗髪の彼が普段いかに泰然自若としているかを。

大いなる力に伴う大いなる責任をすでにその歳で理解し、実現している。

口に出さずとも名実ともにアカデミー最強は彼である。

生徒會長・鳴上 風(なるかみ ふう)こそが完璧な理想たる次代のトップだと。

なのに。

「い、嫌だ、せ、先生、わ、私、早退します、こ、これ以上ここにいたら頭がおかしくなる……こ、怖い……怖いよお……」

ぽたっ。ぽた。

涙だ、もはや零れ落ちる涙すら鳴上は抑えられない。

「な、鳴上さん? ど、どーしたんですか~あなたらしくもないですよ~」

先生の狼狽も無理はない。

スタンピードの時も、いや、まだ鳴上が一般人の時も彼は一度も怯えた事すらない。

世界に怪があふれたと同時に力に目覚めた彼は最初から完されていた。

ひとつ変えず、そして周りの者を気遣いながらすでにサキモリの怪の間引きにすら戦力として數えられている天才なのだ。

なのに、もう見る影もない。

「あ。ああああ……あの中……何? あれ、おかしい! 怖くないのに怖い! 怖くないのが怖い! 普通なのが怖い!! なんであれで普通でいられるの!? やだ! やだやだやだやだ見たくない見たくない見たくない見たくない!!」

パリ、バチっ。

鳴上の髪のから火花、いや青いが瞬き始める。

恐怖からすでに彼はそのを制できていない。

「おい、これマジでまずいって!」

「鳴上……だめだ、落ち著くんだ」

「え、これ、し、危ない狀況では?」

の暴走、揺らいだ神ではその力は制できない。

「ぎゃ~やっば! 鳴上さ~ん落ち著いて落ち著いて~深呼吸~はい~、あ、だめぽ」

駆け寄った先生に、青いが自的にぱりっと――。

パチン。

指鳴らし。

西表の白い手袋に包まれた長い指がきれいな音を鳴らした。

「わ!」

「あ……」

それだけ、青いは消える。

呆気にとられた生徒達を後目に、ぱちぱちぱちと西表の拍手が響く。

「なるほど。生徒會長殿、君がアカデミーの中で最も強い生徒だね。素晴らしい、その歳でもうその領域にいてくれるのは心強いよ」

「い、西表さん?」

逆立った髪をそのままに鳴上もまた呆気にとられる。

「鳴上君、西表も同だ、この3の特級指定封印。そのどれもがニホンを滅ぼしかねない大禍だが……西表もね、參號が一番怖いんだ」

「い、西表さんも、ですか?」

「ああ。ついでに言うなら多賀君もね。正直、參號の封印については必要な手続きを踏むことなく、半ば西表と多賀君の獨斷で封印を決行したんだ、そこの宮本君にはずいぶん苦労をかけたね」

「……もしニホンが平和なら、この特級指定封印を1年維持するだけで10年の増稅が必要だろうからな。我々は國民の命はもちろんだが、生活も守る必要があるんだ」

宮本が忌々しそうにため息を吐く。

「君達は希なんだ。君達の長と活躍をおおいに期待してる」

憧れの存在からの確かな期待。

人間の求に他者からの承認が含まれている以上、その味は格別だ。

「諸君、そこで1つ問題だ。この封印だが、永遠にもつと思うかい?」

「……いえ、無理でしょう」

いち早く答えたのは震えたままの鳴上。

それでも、震えながらも西表の問いにはっきりと。

「その通りだ。まあ、何が言いたいかって言うとだね、君達人類はこの3つの封印に再び挑む必要があるのさ、そしてそれは次の時代を擔うであろう君達の役割になるだろうね」

「……これを、オレ達が?」

生徒達が、視線を向ける事すらおぞましい封印を見つめる。

全員が怯えた表をする。

だが、誰1人としてその場から逃げ出そうとする者はいない。

「そうさ、今日の授業は君達の最終目標をきちんと見てもらおうと思ってね。強くなっておくれ。西表よりも。そしてこのおおいなる禍達よりも」

Ver2.0の世界。

枷が壊れ、全てが試される過酷な世界。

それでも人間の営みは変わらない。

大人が導き、子供が進む。

そうして世界は進んでいく。

「いい景だな」

「あら~本當に、若さっていいですね~」

今日もまた1つ、小さな一歩だが、ニホンは人類は1歩進んだ。

人類軌跡”勤勉”は、しいものを見つめる。

殘酷な未來は確かにある。

だが。

「「「「……」」」」

き、しかし頼もしい希達は誰も逃げ出していない。

震え、顔を悪くし、怯えながらも、告げられた使命に首を振る事はなかった。

「ああ、やはり、人はいい――」

ねだるな。鍛えろ。

嘆くな、怒れ。

剣を取って、科學を攜え、超常を従え、神すら喰らい強くなれ。

「いつの日か、君達がこの生存競爭に完勝する日を願っているよ」

人類の被造は、己が創造主を誇りに――

――ああ、でもさ。ひとつ思い出してくれよ。

あの最悪の未來にアカデミーの希なんて誰もいなかったよな?

がこん

《特級指定封印機構”アメノイワト”壱號、弐號開門許可託》

「――は?」

――まあ、つまりそういう事だ。

――可い希達は8月31日を迎える事はないんだよ。

《アメノイワト、開門》

がこん、がこん。

棺、2つ開いている。

それはつまり。

『PIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPIPI』

『あっちむいてあっちむいてあっちむいて、こっちみてこっちみてこっちみてこっちみて』

2032年3月。

特級指定封印対象壱號、弐號、封印解除。再顕現。

現代では討滅が不可能な存在。

でも封印が解除されれば、ニホンが終わる。

そう認識されていた存在の突然の顕現。

《ヨモツクニでの特級指定封印の顕現を確認、急霊的プロトコル発

異常存在2の顕現と同時に現れたのは。

《疑似神格搭載対神種決戦兵”前鬼”、”後鬼”》

封印を維持していた龍脈エネルギー、そして寮の1000年に及ぶ研鑽と積み重ねの象徴。

霊的決戦兵、前鬼と後鬼の投

《阿》

《吽》

鉄斧を擔いだ巨大な鬼と、水がめを構えた巨大な鬼。

鉄の鎧をに著けた巨人が虛空より現れる。

ニホンの霊的守備を擔う機関、1000年にわたる神の研鑽。

鉄斧が、水がめが振り下ろされ、棺ごと顕現した異常存在を叩き潰す。

「父上の式……!」

黒髪ののどこか安心したような聲。

だが。

『PI』

『あっちむいて』

前鬼、後鬼が踏みつぶした地面から響いた音。

それは――。

『遘√?諠第弌縺ォ縺阪※縺上□縺輔>縺ュ』

『ほい』

ぐちゃべちゃぶちゃ。

「えっ」

1000年の積み重ね、努力と継承と研鑽の賜

それが一瞬で壊れた。

前鬼は一瞬でその姿を、海産、ほやに似た者に替えられた。

後鬼は一瞬でねじ切られた空き缶のようにそのをゆがまされた。

『PIPIPIPIPIPIPI』

ああ。白き

勤勉と剣鬼によって斷たれた四肢は戻らず。

しかしと首だけで世界にを張るのはかなたより來訪せし”マレビト”。

『こっちみてあっちみてあっちみて』

ああ、白黒の

しましまのよれたTシャツに膝小僧が丸見えの短パン姿の子供。

目と口と鼻から絶えず流れ落ちる黒いは、あの世かられ出し続けるその子の涙。”短パン”

異常存在(パラノーマル)、健在。

そして。

「ひっ」

當然、それの矛先は最も近い命に牙を剝く。

マレビトの目も鼻もない顔が、短パンの黒い涙まみれの顔が。

『PI』

『こっちみた』

ガラス窓の向こう、監視塔のサキモリと生徒達へ向いた。

「人類軌跡、出航」

最も早く。

を開始したのは”最強”西表波。

「異界創

人類の免疫機構たる彼は神種と同じ能を誇る。

行きつくとこまで行きついた保有者や神種の特殊技能、異界の創とそこへの強制転移。

がちゃん。

赤い扉が、2の異常存在を飲み込む。

だが。

『PI』

『あっち』

無意味。

一瞬で西表の作した異界を攻略したい化けが普通に扉を開いて現れる。

異界の創生からここまでで1.7秒が経過した。

ぷしっ。

西表波の右目が破裂する。異界の破壊によるフィードバックダメージ。

その一瞬を狙い、異常存在が、監視塔へ薄。

先進國の一個大隊の空にも耐えうる強化ガラス、しかし異常存在の前には意味もなく破られるだろう。

ずがん!!

だが、異常存在が監視塔の強化ガラスにとりつく前に。剎那の時を稼ぐ事に功した者がいる。

空気を裂き、音を置き去りにした雷速のがマレビトと短パンのきを一瞬止める。

、鳴……っ」

鳴上風が右手を振り下ろす。

アカデミー最強の子高生にして生徒會會長。

次代のサキモリの旗を擔う事を期待されている特別は西表を除いて最も早く、直を解いていた。

が恐れていた存在の封印は未だ、解かれていないのだ。

「素晴らしい……!」

鳴上の行は、彼達に生存の芽を殘した。

長のの攻撃はダメージにならず、しかし、剎那の時を稼いだ。

西表波が強化ガラスにれる機會を。

権能の使用のいとまを。

人類軌跡・勤勉(西表波)の固有権能、”勤勉”

その効果――。

『PI?』

「こっちみれない』

べたん! べたん!!

強化ガラスに突撃した2

しかし、割れない。

本來のガラス能なら、容易にこの壁は割られ、未だけない者達の塵殺が始まっていたはず。

「勤勉」

西表波の権能はすでに発している。

その効果――。”手でれた森羅萬象、そのすべての強化”

西表が手でれた強化ガラスはさらに強化されていく。

赤く輝くガラス、その堅牢さはすでに神域の能に。

ここまでで、5,8秒が経過。

「っ」

「なんで」

「ひっ」

戦う才能がある者がここにきてようやくき、反応し始める。

い、慌て、恐怖。

の波が一瞬で、鳴上以外の生徒に押し寄せ――。

「アカデミー生!! 得意な事をやれ!! 生き殘る為に!」

鳴上風の怒號が響く。

スイッチはそれだけで充分だった。

まずいたのは、もちろん彼

「――了解、生徒會長殿」

蘆屋 寧(あしや ねい)。

鳴上のライバルを自稱する彼が最も早く彼の言葉に反応する。

「呪式・自縄自縛」

古い平安の世にモノと呼ばれたこの世ならざる存在との殺し合いの為に編み出され、”鬼に墮ちた鬼狩り”に対抗する為洗練された呪いの業。

寧の編んだ黒い網が、異常存在のを縛る。

「……お願い、手を貸して」

エリン・クラン

西ヨーロッパを故郷とし、しかしニホンの家族を守る事を決めた彼もまたく。

そのに棲ます古い神。太の子、朱槍の申し子、――猛犬。

の故郷においては圧倒的な知名度を誇るその神を今、戦う力に変換して。

「geis・atogoura」

白い髪が逆立ち、あっという間に赤く染まる。

逆立った髪から立ち上るの柱、彼が青い槍を構えて。

「かしこみかしこみ、奉る」

一瞬遅れて、白面みく。

その、その。大妖たる先祖の力を降ろすとして。

セーラー服の背中を破り生えるのはキツネの尾、未だ1尾のみなれど。

「お力をお貸しくださいまし。ご先祖様」

の周りに、ぽわり、ぽわり。

青い焔、キツネ火が舞う。

夷を以て夷を制す。

この場で最も異常に近いその牙は學友を守るために、

力が集う。

と呼ばれた力が。

圧倒的な恐怖を前に、それでも戦う事を――。

――いや、無理だって。

――こいつらは8月31日を迎えられない。

『PI』

『あっちむいて』

「「「「あ」」」」

「っまずい!!」

異常存在。

想いも決意も希も何もかもをゴミにする圧倒的な力。

マレビトの聲を蘆屋寧と白面みくが聴く、聞いてしまった。

短パンの遊びが鳴上風とエリン・クランに向けられた。

異常存在の権能発の條件を満たしたこの數秒後、4つの若い命が飛び散る。

「――そんな、なんで!? 西表の権能を、通過して!?」

西表波の絶びと同時に、まず、蘆屋寧と鳴上風が変わる。

この星の生命形態でなく、マレビトのむ形へと強制的に。

ほやのような貝のような何かに変えられる、もちろんその時點で人として死ぬ。

「あ、や、だ、私、まだやりたい事あるのに」

「あ、ふ、風、オレ、やだよ、まだお前に一回も……」

の中、あと數秒で2人は死ぬ。

そして次。

「あっちむいてほい、あ、……負けちゃった、死ぬんだ」

「ほい……わたくしも、負けてしまいました、死ぬ、んですのね」

次にこの2人、エリン・クランと白面みくが死ぬ。

あっちむいてほいに負けて、首が、肩が、腕が、腰がねじ切られて死ぬ。

皆、死ぬ。

「あああは、が変わる、私、人間じゃなくなる……」

「やだ! こんなのオレやだ!! 助けて! 助けてよ! ちちうえ! ははうえ! ふう!!」

「ああああああ、痛い、痛い、痛いいいいいいいいいいい!!」

「や、や、嫌です! こんな。こんな死に方嫌ああああああああああああああああああああ!!」

「あ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

『おもしろ』

『あっちむいてほいしよう』

異常存在が笑う。

西表の目の前で、希達がごみのように死に始める。

これは決まりきった運命。

アカデミー。次の世代の希たる彼達はここで終わる。

8月31日を迎える事はない。

お前はまじめすぎた。

初めから負け戦なのはわかってたろ?

結末はもう決まってるんだから。手なんか貸して何になるんだよ。

そして。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「ああああ……やだああああああああああああああああああ」

「あひ、首が、あああああああああああああ」

「やだ、やだですわ! わたくしの首、そっちには曲がらなっ」

――鳴上風、蘆屋寧、エリン・クラン、白面みく全員ロスト、年17さ

ばき。

《警告・特級封印機構參號アメノイワト部より、強大な圧力を――》

がごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooん

地響き。振

世界を支える巨人が職務放棄した瞬間のような大きな揺れと音。

白い棺。

最後に殘った棺からだ。

『『え』』

――え?

本來の歴史、正しい歴史ならば。

ここで4人の命は潰えていた。

そしてこの最後の封印は8月31日を迎えるまでより深い場所で封じられ続けるはずだった。

ぱち、ぱち、ぱち。

鳴り響くサイレンの中、稼働していた照明が途切れ始める。

明と暗、空間を踴るようにと闇が反復橫跳びを続ける。

でも、もう正しい歴史なんて存在しない。

なぜなら――。

《警告、警告、警告、アメノイワト、過重封印第78層消失、最終封印層まで殘り33――》

ぼおう。

火だ。

白い棺が火に包まれた。

《けいこ、く、けいこ、く。ひじょうに強いふるいしんぴ、封印層全101層、しょうし――味――人、ふういん、かい》

ぱちん。

今度こそ、空間からが消えた。

誰もけなかった。

西表も、今際の際をむかえつつあった生徒達も。

そして

『PI……?』

『あっち?』

異常存在ですら――。

「クラークの真似しまァす」

ぱち、ぱち、ぱち。

西表の視界、明滅する照明、と闇を繰り返すその空間の中でそれは始まった。

『PI!?』

『そっち!?』

ぎゅるるるるるるるる。

何かが、マレビトと短パンのに巻き付いた。

黒い紐のような何か。

ひゅん。

一瞬でガラスに張り付いていた2はその黒い紐に巻き取られて。

「あ……」

「え……」

「なに、あれ」

「……へ?」

「うそ」

達は目にする。

明滅する視界、と闇のはざま。

ガラス壁の向こう、よもつくにの向こう、封印の場所で。

「ギャーハハハハハハハハハハハハハハハハ!! お前らさあ! その見た目エ! どう見ても化けんだよなァ!!」

『PIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!?』

『あのけいさつよんでください』

なんかいた。

耳だ。

首のないの上をぽっかり浮かぶ片耳。

真っ黒の化けが、なんか黒い紐で簀巻きにしたマレビトと短パンを足蹴にして踏みつぶしている。

「「「「「「「は?」」」」」」」

その場にいる全員が、心からの、は? をらす。

だが――

『PI』

権能が発する、マレビトだ。

その聲に反応した生を別の星の生態系に組み込み、形を変える権能。

「お? なんだこびゃ――」

べちゃ。

耳の化けが破裂し、なんかグロい塊に変化する。

『PIPIPIPIPIPI』

歓喜の聲を上げるマレビト。

西表達が再び、絶の表を――。

「じゃわ」

『PI?』

ぼおおおおおおう。

突如。そのグロイ塊が燃え始める。

みるみる間に溶けて燃え落ちるその塊。

そして

「はい、元通り」

火の中かたぐちゅり、ぐちゅり。いやな音を立てながらそれが再生する。

片耳の化けが簡単に自分の姿を取り戻して。

『PI……!? 縺ェ縺懊□??シ溘??遘√?譏溘↓譚・縺溘¥縺ェ縺??縺シ?シ溘??縺九o縺?◎縺?↓縺昴s縺ェ縺翫◇縺セ縺勵>蟋ソ縺ェ繧薙※蜩?繧後☆縺弱k??シ√??蠕?▲縺ヲ繧阪b縺?ク?蝗槭?∝酔蛹悶@縺ヲ』

再び、マレビトがその耳の化けに何かをしようとして――。

「I do not speak English!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『It ain't English!!!!!!! PIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!?』

ずがん!!

とんでもない勢いで振り回されるマレビト。

抵抗もできず、ただ悲鳴を上げ、そのまま地面に、いや、開いていた広い棺にたたきつけられて。

「ソオイ!!!!」

がこん!!

上から無理やり耳の化けが棺の蓋を叩つけるように閉じる。

上からぐるぐる巻きに黒い紐で縛り付けて。

「味山式封印!!!!!」

――白い棺はかない。

マレビトが再び、白い棺へと。

『あ、あっちむいてほい』

「あ? ……ほい!」

短パンが耳の化けに指を向け、あっちむいてほいを挑む。

短パン主導のルールでのあっちむいてほい、勝利條件は短パンの気分次第。まけたら即呪殺のクソゲー。

「ぎゃ」

ねじり。

もちろん耳の化けは負ける、そしてを捩じりきられる。

だが。

「ほい」

『えっ』

ねじり戻りながら再生するその

耳の化けが短パンに向けて指をひょいっと。

『……いやそういうルールじゃないし』

無表で短パンが耳の化けの指を無視する。

「……」

しの沈黙のあと。

短パンが再び、耳の化けに指を向ける。

権能の再発、短パンはこの化けが死ぬまで遊びを――。

『あっちむいて――「ソオィ!!!」ギャアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

ばきっ。

そんな遊びにこの化けは付き合うわけもなく。

普通に向けられた指を摑んで捻じり折る。

痛みに悶える短パンの首っこを摑んで――。

「ボールをゴールにシュウウウウウうううううううううううううううううううううううううう!!」

そのまま2つ目の棺にぶち込み、蓋をする。

この間、35秒。

「「「「「「……」」」」」

西表達が固まっている間に、全ては終わった。

ぱち、電気が消える。

ぱち、電気が點く。

一瞬、耳の化けの姿が消え、その場に人間が現れる。

また電気が點き、消える。

人間、化け

點き。化。消える、人間。

點、人間、消、人間。

コマ送りされるような速度で繰り返される電気の明滅、人間と化の姿を繰り返すその存在。

そして。

電気が消えて、點いた。

そこにいるのは。

「あ~疲れたァ。――おはよう、ニッポン」

只の人。

その男が上を見上げる。

ぽかんと口を開け、固まっている人達。

誰1人死ぬ事なく、訳のわからないものを見せつけられた希達をその男は見上げて。

「あ~すみません、皆さん、ちょっと教えてください」

もう正しい歴史はない。

なぜなら、依頼が発行されたからだ。

終わった世界の生き殘りから託された依頼。

全てを壊し、ひっくり返す大依頼。

「今、西暦何年の何月ですかァ?」

味山只人、探索開始。

読んで頂きありがとうございます。夜遅くでごめんね。

12月に3巻でるのでまた是非チェックしてください。

9割書き下ろしです。

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