《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》103 彼のためにできること 6

フェリクス様と溫室で晝食を取った日から、私は今後どうすべきかについて様々に考えた。

これまでであれば思考することはそれだけだったのに、フェリクス様が何度も繰り返してくれたおかげで、『私はどうしたいのかしら』とも考えてしまう。

フェリクス様が何をんでいるのかとか、母國の家族が何を希しているのかではなく、私はどうしたいのか、と。

目覚めてからずっと、私がこの國にいては邪魔になるだけなので、母國に戻ろうと考えていた。

けれど、私がどうしたいのかと問われたら、……私はどうしたいのだろう。

ディアブロ王國には父と母がいる。兄も姉も、従兄だっている。

母國の家族のもとであれば、私は穏やかに、幸せに暮らせるだろう。

けれど、この國で暮らしたことで、この國の人々とも絆ができてしまった。

私はどうしても彼らのことが気になるし、幸せであってほしいと願ってしまう。

その筆頭がフェリクス様だから……多分、私は死ぬまで彼のことが気になるし、幸せになってほしいと願うのだろう。

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けれど、フェリクス様は私の母國にいないのだ。

だから、母國に戻るのであれば、彼と別れなければならない。

大半を眠って過ごしたとはいえ、私はこの12年半、フェリクス様の妃として過ごしてきた。

だからなのか、私が誰に紐付いているのかと考えた時、どうしてもフェリクス様を1番に思い浮かべてしまう。

彼と離れたならば、私はきっと寂しくじるだろう。

一方のフェリクス様は、私が目覚めて以降はいつだって私を優先してくれるし、ささいなことも気にかけてくれる。

その気持ちは心からのものに思えるから、私がこの國を去ったならば、彼は気落ちするのではないだろうか。

フェリクス様が悲しむかもしれないと考えるだけで、私も苦しくなってしまう。

「この気持ちはどこから來ているのかしら?」

フェリクス様のことを考える時、以前のようなそわそわして浮かれるような気持ちは生じない。

けれど、彼にはいつだって笑っていてほしいし、幸せでいてほしいと思う。

それを側で見ていられたらいいな、とも。

ともすれば『この國に殘る』と言いそうになってしまい、私は自分を戒める。

いったん口にしてしまったら取り返しがつかず、誰もが私はこの國に留まるものだとして扱い始めるだろうから。

10年前、ギルベルト宰相とビアージョ総長は『虹の乙』をフェリクス様の相手にと考えていた。

けれど、今では私をれる姿勢を見せてくれている。

2人にとって何よりも大事なフェリクス様の命を救った私に恩義をじ、贖罪と謝の気持ちから私をれてくれたのだ。

この國にとって、虹髪のを王妃に迎えることが理想である事実は変わらないのに、2人は理想を求めることをやめて、私がいいと言ってくれた。

それはとてもありがたいことだったけれど、もはや彼の代わりになれない私が王妃であり続けることは、2人の厚意に甘え過ぎているのではないだろうか。

「そもそも私はこの國に殘りたいのかしら?」

分からない。

が千々にれて、自分がどうしたいのかが分からない。

フェリクス様のことをどう思っているのかも。

一人部屋で考え込んでいると、ノックの音がした。

顔を上げると、フェリクス様が扉口に佇んでいた。

「ルピア、今夜は夕食をこの部屋に運ばせて2人で食べようか」

多分、私が思い悩んでいることをミレナから聞いたのだろう。

たったそれだけで、フェリクス様は私に靜かな時間を與えてくれようとしているのだ。

「フェリクス様、母國の家族はとても私に甘かったけれど、それでもあなたほどではないわ」

多分、これほど私に優しくしてくれる者は他にいないし、今後も現れることはないだろう。

それなのに、フェリクス様はそのことをアピールすることなく、さらりと誰も傷付けないような言葉を口にするのだ。

「そうか、彼らは君の夫ではないからね」

「あなたは私の夫だから優しくしてくれるの?」

なぜだか詳細に尋ねたくなり、じっと見つめながら質問すると、フェリクス様はを歪めた。

「……そうでもないな。もしも君が私を捨て去ったとしても、機會があれば私は君に優しくするだろうね」

あまりに正直にを言うフェリクス様が心配になり、ふと母國の母に言われた言葉を思い出して口にする。

「フェリクス様、そういうことを正直に口にするのは、駆け引きとして間違っていると母國の母が言っていたわ。今の場合でいくと、あなたを失っても同じ恩恵をけ続けることができると思わせたら、あなたを引き留めようという強い気持ちが湧かなくなるらしいから」

母に言われた通りの忠告をすると、フェリクス様は迷う様子もなく頷いた。

「構わないよ。君は駆け引きをする相手ではないから」

「えっ?」

「君が相手であれば、私は今後ずっと誠実に対応すると決めたのだ」

そう言うと、フェリクス様はりのない表で太のように微笑んだ。

「…………」

彼の笑顔を見た私は、なぜだか衝撃をけたようにびくりとする。

私はよく分からないを覚え、ぎゅっと服の元部分を摑むと無言で頷いた。

何を言っていいのか分からなかったし、そもそも聲を出せるようにも思えなかったからだ。

フェリクス様は無言でぱちぱちと瞬きを繰り返す私にそれ以上言葉を掛けることなく、椅子に座らせてくれた。

それから、まるで給仕係になったかのように運ばれてきた食事をテーブルの上にセットし、私のグラスにお水を注いでくれる。

「どうぞ、お妃様」

フェリクス様は優しい聲でそう言うと、私の隣の椅子に座り、食事をするよう促してきた。

私は黙々と目の前の料理を口にしたけれど、ともすれば手が止まりがちになる。

すると、フェリクス様が必ず手をばしてきて、私の口元に何らかの食べを差し出してきた。

「お腹の赤ん坊から『お腹が空いた』と訴えられた気持ちになってね」と、優しく微笑まれながら。

ああ、フェリクス様が今日も優しいわ。

きっと彼は、いつまでもずっとこんな風に優しいのでしょうねと思いながら、私は食事を続けたのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます!

12/7(木)にノベル3巻が発売されるのでお知らせします。

甘いお話からコミカルなお話まで、5つの話を書き下ろしています。

どれも読んで楽しいお話になっていると思うので、お手にとっていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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