《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》5話 "U R MY SPECIAL"

「……あ? は?」

「何が、起きた……?」

「前鬼と後鬼がかないぞ……」

師。

ニホン、古くは平安の世より存在するこの國の神を守護し管理してきた由緒ある特別な存在。

そしてサキモリ。

最も新しき護國の輩。そして人類最大、國家最悪の災禍に抗うべくある男の號令により集められた特別な者達。

人の願いを聞いた者。

人の祈りに答えた者

人から外れし、優れた者。

”選ばれた達”

彼らは目撃する事になる。

「おっほ! やっり~! マジで出來た! これ、々悪さできそうだなァ~。じゃあ、とりあえず」

何にも選ばれなかった者が”たどり著いてしまった”先の景を。

大いなる責任を伴わない、大いなる力の発を!

「ひざまずけ、耳鬼共」

『yes、マスター』

『まあ、お耳なんで……』

跪くは1000年に渡る神の研鑽。

凡人の思いつきの前に特別な者達が心を注ぎ、幾人もの生涯をかけて生まれたがひれ伏す姿。

味山の両腕の郭がおかしい。

ぐねり、ぐねりと不定形。

まろび、溶けたが揺う。

「うわ~……アジヤマ、君、それ腕の辺りどうなってんだい?」

「うっわ、タダ。お前軽く人間やめてない?」

「お~、これか。なんかどろどろしてんな……最近なんかこういうドロドロしたじの奴との戦いが多かったからかなァ~、よっと」

じゅるり。

明らかに人からしてはいけない音と共に味山の腕が元に戻る。

「あっ、すごい、戻ったわ。タダヒト、痛くないの?」

「ビビる事に痛くはねえな、なんかそれはそれでまずい気がするけど」

凡人、味山只人。

部位戦爭にては耳とじる。

終末の世界にて化を経て、そのは耳の寫しとして完した。

の進化とは常に危険と共にある、だが、これは進化ではない。

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「えっと、あ~、こうか? おっ、また出來た」

じゅるるるる。

味山の変形した腕。

スライムのように流化し、また固形化する。

自在に

魂の形を認識し、になじんだそれを作する技

數千年後まで人類が生存し、特異な進化を遂げた先にある1つの可能に、今、味山は至った。

「なんだよ……それは」

零れたつぶやきは、師、神坂の長子より。

己の目の前で起きた事を、その優れた師のは決して認める事は出來ない、だが――。

「お前!!!! 何を、何をしたァァァァ!!?? 前鬼と、後鬼をどうやって!?」

優れた師のと才故にこの事態を誰よりも深く理解してしまう。

「どうやって、調伏した!!??」

すでに前鬼と後鬼の支配権は、あの男に奪われている、と。

「前鬼と後鬼?」

「そっ、そうだ!! 呪式が使われて形跡はない!! そもそも式神に干渉できるのは、俺達の式だけだ! 味山なんて家系聞いた事もねえぞ!!」

「前鬼と後鬼ってなんだ?」

「は? いや、それだよ!! それ! 今お前が調した式神!! ありえない!! それは俺達寮が1000年を懸けて創り出した――」

「前鬼と後鬼……? いや違う違う」

「は?」

「良い見た目じゃん、耳だろ、お前ら」

『……はい、耳です』

『はい……お耳です』

味山の言葉に力無く頷く前鬼と後鬼。

顔に張り付いた耳の面が力無くびよん、びよんと揺れて。

「だってさ」

「――ふざけるな!!」

怒號と共に放たれる師の一撃。

焔に変換された呪が味山に向かって。

だが。

「防

『『はい』』

呆気なく防がれる。焔を手のひらでけ止めたのは耳を生やした霊的兵

師達は唖然とする。式も呪いも用いず、只聲による指示に前鬼達が従った。

それはつまり。

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「完全にコントロールしてる……?」

「ぎゃっはっは。良いじじゃねえか。――耳鬼ども」

『『は』』

「奴らを足止めしろ、誰一人殺さずにな」

『『ご命令のままに』』

対神種霊的防衛兵の2は完全に敵の手に墮ちた、という事だ。

『耳です』

『まあ、お耳なんで』

「う、うわあああああああああああああ!!??」

「前鬼と後鬼が寢返った!? 寮の奴ら何してんだ!?」

「うろたえるな!! 持ちは前に! 対神種仮想戦闘を思い出せ!!」

「おいおいおいおいおい、寮の作り上げた化けがさらに化けになってんじゃん、神坂のボンボン、お前あれどーすんのよ」

「あ、ありえない……神坂家の継承式が……呪が反応しない……? いや違う、呪による乗っ取りや、式の逆算ではない……? わからない、いや、わからねば!!」

反応は様々。

サキモリの経験富なものはすぐに対応を始める。

そして、神坂。

そのの才に恵まれた天才は己が才を以て、土壇場で式神の捜査式を改良。

「警備部隊!! 前鬼と後鬼の作を取り戻す、援護を――あ?」

式による再作。

奪われたのなら奪い返せばいい。

若き天才は至極當たり前な発想を才能をもって行に移した。

式を持って、神坂の意識と耳の、いや味山の魂に侵された式神が繋がって――。

「え」

神坂の脳に流れ込んだのは、河の音。

森、河、そして夕焼け。

ひぐらし、鐘、

墓場が、見える。

墓場が見える。

墓が見える。

いくつもの、墓じまいされた墓石の更に奧、奧、奧。

夕日すら屆かない、暗い場所にひっそりとたたずむ小さな墓石。

墓石には名前が彫られている。

『味山只人、年55歳』

――何見てんだ。

「あ――」

ぼんっ。

神坂の鼻からが噴き出た。

目がぐるりと周り、瞼の裏側に引き寄せられて。

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神坂はだらりと力して、落ちていく。

「坊ちゃま!! お気を確かに!! 」

「そんな!! 坊ちゃまが呪い比べに敗れたのか!?」

「神坂家始まって以來の神だぞ、そんな馬鹿な!!」

慄く師。

そして、耳鬼達がサキモリと戦を開始する。

「わお、やるわね、あの2。普通に強いわ」

「アジヤマ、君、なんかできる事増えてないかい?」

「トラウマ並みのパワーアップイベントあったからな。ま、詳しい話はおいおいで。てか、今のうちに行こうぜ、地上へ!」

「了解、ハートマン、出してくれる?」

『了解だ!! アーミー!! 全員摑まれ!! 愉快な遠足はまだまだ続くぞ! シートベルトを忘れるな!! オレンジジュースなどの柑橘系のものは車酔いするからやめておけ!!』

「タダヒト、銃座席についてて、ソフィ、グレン、車ではシートベルト著用ね! 舌噛まないように!!」

「アレタ!? キミ、いつまでハートマンのルーフに立ってるつもりだい! いやそんな幹が強靭なキミを素敵だが!!」

の窓からを乗り出して、ソフィがぶ。

確かにそうだ。

味山は銃座席に座りつつ、未だに長い腳で空飛ぶ裝甲車のルーフに突っ立っている。

なぜだ?

「アシュフィールド、クラークの言う通りだ、お前も車に――」

「見られてる」

「え?」

「嫌な視線をじるわ。っぽくて、じっとりしてる」

「ええ……なんだよ、またお前の厄介ファンか? クラークに正しいファン仕草を……いや、あれが増えるのも嫌だな」

「アジヤマ、喧嘩を売ってるならもっとわかりやすく売ってくれないかい?」

呑気にソフィが味山に軽口にこたえる。

いつものアレフチームの呑気な雰囲気、だが。

「あれ、でもおかしいな、今まだアシュフィールドはあの、アムネジアなんとかかんとかの影響で俺達以外から忘れられてるよな? クラークと同等に気合のったファンでも――」

「違う」

にこりともせず、アレタが明後日の方向を見ながら呟く。

「あ?」

「視線の先は、あたしじゃない」

アレタの碧い瞳に移るのは銃座に座る――。

「誰かがずっと、貴方を見てる、タダヒト」

「は、そりゃ一

TIPS€ あっ

その瞬間だった。

耳に屆くヒントが妙な響きをらして。

「あ?」

「っっ!! タダヒト!!!! 首(・)!(・)!(・) (・)伏(・)せ(・)て(・)”(・)!(・)」

「うお!!??」

ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

風が悲鳴を上げる。

アレタのストーム・ルーラーが何かに干渉し、捻じ曲げて――。

「させない!!」

ばちん!! そのまま何かを跳ね上げる。

何が起きたかわからない味山とアレフチーム。

でもアレタだけがそれに反応し、何かを防いだ。

何か――。

「いてっ」

つー……。

味山は今更気づいた。

だ。

自分の首にいつのまにかかすり傷がついて――。

「うわ!! せ、センセ!! タダ……う、後ろ! 壁、壁見て、壁!!」

「な、なんだい、これは」

「おいおいおいおい、マジかよ」

亀裂だ。

アレフチームが目を丸くするのは、亀裂。

広い地下空間、その空間を仕切る壁にる一筋の亀裂。

さっきまで、なかった。

これは――。

TIPS€ 首を狙われている、せいぜい斷頭には気をつけろ、どっちでもいいが

「あ……これ、さっきの?」

アレタが防いで、逸らした攻撃の余波。

味山は靜かに戦慄する。

その攻撃の規模や、あと一瞬、アレタの言葉が遅れていたらこの攻撃は自分の首にあたっていたかもしれない事実はもちろんだが、何より。

「アシュフィールドが、逸らすのいっぱいて事かよ」

シンプルな事実。

も現代兵も神もすべてその圧倒的な力で真正面からねじ伏せた英雄。

が、ここにきて初めてパワープレイで防げなかった攻撃をする奴がどこかにいる。

「っ、クソ耳!! 攻撃はどこから來た! 教えろ!!」

TIPS€ …………あっちかな

「どっちだよ!!!!」

何かがおかしい。

嫌な予がしてきた。

味山の脳裏に、あの最悪の未來の景がリフレインする。

仲間の死、それはまだ起こり得る事だ。

「アシュフィールド!! なんか、なんかやばい! クラーク、グレン、窓から顔出すなよ!! ハートマン、ここから最大速度で離を――」

味山が下した判斷はこの場からの撤退。

1人の時の味山なら自分の命を賭け、いや何個か使い潰すの承知で脅威を排除しただろう。

でも、今は違う。今は、アレフチームの味山只人だ。

「アシュフィールド、お前も車に! 大丈夫だ! 俺はなんか知らんがすげえ殘機あるから――」

味山はアレタに聲をかける。

52番目の星は現代最強の異能だ、だが不死でも無敵でもない。

それは味山が一番よく知っていて――。

「狙った……な」

「……あ、アシュフィールド?」

あれ、なんだ。

すごく背筋が寒い。薄著だったかな。

味山がなんかよくわからない思考にとらわれる。

「今……今、完全に、タダヒトを、タダヒトだけを狙ってた……このあたしの目の前で……」

アレタがこっちを見てくれない。

俯いたままぶつぶつを聲をらしている。

「あ、あしゅふぃーるど、さん? その……」

蒼い瞳が、ぎゅんっと。

味山だけを。

「ひゅっ」

こっわ。

「味山只人を、殺そうとしたな!!!!!!!!!!!」

世界が揺れる。

の頭上に現れるのは、白と黒が混ざり合った球

嵐の調停者、ストーム・ルーラーの真

それがどろりと、溶け、アレタの頭のてっぺんのすぐ上に浮かぶ。

形を変え、わっかのようになったそれは、まるで――。

「わあ、アレタ……マイアークエンジェル……」

天使のわっか。

TIPS€ アレタ・アシュフィールドの特”半神”が発

世界は知る。

ヒトから神に至れてしまう、しまった英雄の暴を。

「誰だ……あたしの、補佐を、あたしの探索者を、あたしから奪おうとしたのは」

ぶ、ぶぶぶ、ぶぶぶぶぶぶ。

明滅している、アレタの蒼い瞳が金に代わり、また蒼に、金に。

「誰……今、あたしのタダヒトを殺そうとしたのは――」

手を翳す。それだけで。

TIPS€ ”アレタ・アシュフィールド、神(未完)”による人類への絶対優位発

「あ、ああああ……」

「無理だ、か、敵うわけない」

「あ、足、足が勝手に……」

「こ、これ、神種の……」

「き、綺麗……」

「か。かみさま……」

サキモリの誰しもが、寮の誰もが、警備部隊の誰もが、膝をつく。

あるものは恐怖を、あるものは諦観を、あるものは崇拝を。

星が、人間を魅せる。

「あはは……ちっさいなぁ――で、誰?」

の目が、すうっと細まる。

どんどんアレタの目は蒼でいる時間がなくなっていって。

「タダヒトを殺そうとした人は誰? ――殺したいから出てきて」

生來のアレタ・アシュフィールドの素がれる。

英雄として、自分の衝のままにそうあれかしとみ、まれた在り方。

しかし、それは今不安定な狀態に。

バカに完全否定された英雄としてのありよう。

只の人だといわれた、言ってくれた事実。

だがそれは、彼の枷を外す行為でもあった。

「出てこないなら――、ああ、仕方ないわね」

嵐が、ここに。

現象をる神の業。

英雄が、神としてそれのタクトを振るう。

世界を救える者は、つまり、世界を壊す事も出來るのだから――。

「もう二度と、あたしは、あたしの仲間を――あたしの補佐を、タダヒトを―ー」

はきっと殺すだろう。

を星から墮としてくれた仲間を奪おうとする者を。

それがたとえ、世界であっても――。

「ひ、こ、殺され……」

「噓、ここで終わり……」

「なんと……このような者が、まだ在野に……」

「……」

「綺麗」「お星さま」「輝いてる……」「サインしい」「アクスタしい」

人間が、英雄の、星の、怒れる半神の力の前にひれ伏す。

「ばいばい」

致死の威力を持つ嵐が、アレタの手から放たれ――。

「クラーク先生!! グレン君!! バカ一丁亀甲縛りでよろしくお願いしまァす!!」

「「はいよ!!!!」」

「えっ」

TIPS€ はいよ、じゃないよ

瞬時に英雄のに巻き付くのは虹の紐。

「っ、邪魔しないで、ソフィ!! っえ!!?」

しかし、半神と化したアレタを拘束するのは心もとない。

に沸く嵐が紐を吹き飛ばそうと――

「どっせい!!!!」

「きゃっ!!!!」

だが、そうはならない。

ここにはバカがいる。

バカはバカなので、思いついたのだ。

「クラーク!! 俺ごと縛れ!!!!」

「は!!!!???? うらやましすぎるんだが!!!! ワタシも後でしよ!!!!」

ぎゅっと。

銃座から飛び出した味山がアレタに抱き著く。

「あっ、ちょ、タダヒト、近っ……」

すんっ。

アレタの目が瞬時に蒼に戻る。

同時にふっと、頭のっかも消えて。

「キャッチザレインボウ!!!!!!」

ぎゅっるるるるるる。

の紐が、アレタと味山を巻き付け、笠巻にする。

ミノムシみたいで可いね。

だが。

「あっ、やべ」

「え、噓」

半神たる英雄を膂力で抑えようと、味山が使用したのはすっかりおなじみになった技能。

耳の大力。

なんとか踏みしめたハートマンのルーフを砕かないように手加減出來たが、そこは味山。

用な方じゃないので普通にやらかす。

「え、噓、タダヒト、あなた」

「すまん、ミスった、でも、アシュフィールド君がさあ、すーぐなんか自分の世界にるか、らあああああああああああああああ!!??」

ひゅー。

もうほぼタックルみたいな勢いでアレタを羽い絞めにした味山。

そのまま見事なタックルを決め、ハートマンのルーフの外、つまり普通に足場の外、落ちる。

おまけに虹のミノムシで互いにぐるぐる巻きになってるので――。

『まずいぞ!!! アーミーダウン!! アーミーダウン!!!』

「噓おおおおおおお!! ふ、普通、こういうときってなんかいいじにうまくいくよね!? ああ、しまった、そうだった! アジヤマだった!!」

「タダが用にヒーロームーブできる訳なかったす!!! 覧センセ!! ヒロインを止める為に容赦なく低空タックル決めて落ちていくっすよ!!」

うわあああああああ。

半狂のソフィが虹の紐をばす。

だが、それも屆かない。

「やべ!! アシュフィールド! お前、なんか風とか嵐で空飛べないっけ!!??」

「あ……顔、近い、いいいいい……、息、くすぐったい……」

「今そのテンションでいれるの!!?? なんなのお前!!!」

ぎゅっと目を瞑って、顔をそむけるアレタ。

駄目っぽい。

見る見る間に、地面が近く――。

ふと、味山は思う。

なんか最近、こんなじで落ちるの多いなァ。

そうだ、この前も、すっげえ落ちたり、飛んだり。

「――アサマの時もこんなじだったなァ」

のミノムシが、地面に落ちっ。

TIPS€ 権能の発條件を満たした

「――おやま、あじやま」

ばさり。

白い翼が舞う。

「あさまを呼んだ、みーつけた」

ミノムシは落ちない。

何かが地面に落ちる寸前でミノムシをキャッチ。

そのまま吊られるように持ち上げられて。

「「えっ」」

凡人と英雄。

のミノムシ2匹が目を丸くする。

黒と金のじった髪は、小さな背丈の足元にまでびるほど長く。

「……あじやま、行きたい所あるんだね、いーよ、あさまが連れてってあげる」

「は? あさま……アサマってお前、まさか!!??」

が、あどけなく、乏しい表で。

「……にへへ、ひさしぶり、……あいたかったから、あいにきた、よんでくれてありがとう、あじやま……ううん」

長い前髪の隙間から、人形のようなしい顔のが微笑んで。

「――ぱ(・)ぱ(・)」

「えっ」

味山が、固まり。

「――は?」

アレタが表を無くした。

がこん。

誰しもが狀況を理解できないままに、現れたのは”扉”。

翼をはやしたと、にじいろのミノムシは、その扉の向こうへ消えた。

◇◇◇◇

「……総理、本當にここでよろしいのですか」

「ああ、問題ないよ。――封印を解いた彼の目當ては私だろう。彼はきっと不義理を果たした私を許さない、彼は恐ろしい男だからね」

首相邸の中庭に、その男はいた。

曲がり始めた腰、生え際が後退して久しい頭。

和でいて、ふとした時に老獪さをにじませる味のある顔。

「彼は、味山只人は敵を許さない、――私はどこで間違えたんだろうね」

ニホン第99代、総理大臣。

多賀影(・)史(・)は死を覚悟していた。

芝生に腰を下ろし、高い空の上にぽっかりと浮かんだ羊雲を見上げ、その時を待つ。

「貴方は、何も間違えておりません、総理」

「間違えたさ、イズ王國を解放した彼に仁義を欠いた。ただ、私は私の臆病さゆえに選択を見誤った。その結果が、これだ」

イヤホンを通じて流れてくる戦況報告。

「サキモリは、ニホンはきっとあの男を止める事は出來ないだろう、上沼君、君もここを離れたまえ、護衛の諸君もだ。貴重な我が國の若者をこのような老害の失敗に付き合わせるのは忍びない」

「そんな……ここは、ここは法治國家です、総理……たった1人の人間が、そんな、バカな」

「上沼君、世界は変わったんだ、社會はいまや強大な個の力を抑えることはできない。そんな世界でこれから君達は生きねばならない。……命令だ、逃げなさい。ここで死ぬのは、恐るべき凡人の怒りをけるのは私1人だけだよ」

「……貴方の元で働き始めて、もう8年です、その間、私は貴方の期待に応えてきた自負があります、総理」

「ああ、君ほど優秀な男を私は知らない。君は実に誠実で、この國の良い所をすべて併せ持った人だった。君が私の、僕の期待に応えなかった日はないよ」

「なら、申し訳ありません」

びっ。

上沼と呼ばれたスーツの男が、についていたバッジを外す。

「今日、初めて私は総理の期待に応える事、出來かねます。そして、誠に勝手ながら職をこの場で辭ます。もう、私は貴方の命令を聞く義務はありません」

「上沼君…君は」

ばっ、ばっ。

多賀の周りにいる他のスーツの護衛もまた、上沼と同じ。

バッジを芝生に投げ捨て、直立不で立ち盡くす。

「総理、いえ、多賀影史。あなたが私達をここまで連れてきてくれた。貴方が私の國をここまで守ってきてくれた、たとえその選択を一回間違えたとて、それでも貴方の全てが否定されていいわけがない」

まっすぐ、多賀を見つめる上沼。

誰もこの場から逃げ出そうというものはいない。

多賀影史は空を見上げる。

「……良い天気じゃないか。まったく自分の人のなさが嫌になるね、誰もいう事を聞いてくれないときた」

「貴方が選んだ部下ですので」

「耳が痛いよ。まあ、……あの男もあれで妙ながある。私の首1つで勘弁してもらうよう、最期のお勤めを頑張ろうとしようか」

がこん。

その時だった。

空に扉が現れる。

西表の力を理解している多賀にはその扉がなんであるのか予想がついた。

「やれやれ、神種まがいのこともできるのかい、味山只人、本當に君って奴は」

「……あれが」

「來たか……」

張が走る。

ここに現れるのは異常存在。

特急指定封印、國家の崩壊を可能せしめる存在として封印された恐るべき凡人。

ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい。

扉が開く。

多賀が、上沼が、護衛が、その圧力に、その神に脂汗を流す。

だがそれでも、誰一人逃げ出そうとする者はいない。

老人は覚悟していた。

己の最期の仕事を。

この場に殘った勇気ある愚か者達、この先必ずニホンの存続に必要な若者を生かす事と定め、その男の怒りを一に背負おうと。

若者達は覚悟していた。

己の最期の仕事を。

この老人の命を一分でも一秒でも長く生かす事だと。誰よりもこの國に必要な、自分達のちっぽけで、しかし偉大な指導者を命を賭けて守ろうと。

「やあ、味山君。久しぶりだ――」

さあ、笑え。

さあ、覚悟しろ。

全てを臺無しにする最悪が現れ

「パパってどういう事なの!!!!!!!!!! 説明してよ!! タダヒト!!」

「……ぱぱ、この、なに。ぱぱにふさわしくない、絶対重いよ」

ぽいん、ぽいん、ぽいん。

扉から転がってくるのは、虹の笠巻にされた男

そして翼をはやした

は、もう聞くに堪えない口喧嘩。

そして、笠巻にされてる男は。

「――あ、ちょうちょ」

空を見上げて。

多賀と、若者達は互いに顔を見合わせて。

「「「「「ほんとだ、ちょうちょ……」」」」」

ちょうちょ、綺麗だった、

読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!

次にくるライトノベル大賞に凡人探索者、ダンワル両方ノミネートされました。

良ければ下記サイトから是非皆様のご投票頂ければ幸いです。

ありがとうございます。

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