《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》343 魔法學院対抗戦の行方
久しぶりの投稿です。彌生の訓練風景は…
翌日の朝一番からデビル&エンジェルは授業そっちのけで彌生を連れてダンジョンに場している。ちなみに明日香ちゃんは桜と離れる絶好のチャンスを逃すはずもなく「私は授業を優先にしますよ~」などと言い訳を口にして付いてきていない。ということで聡史、桜、鈴、カレン、彌生という五人編でレベル上げ開始。例え明日香ちゃんが欠けようとも、この人智を超えた能力を持った4名がいれば彌生に危険が及ぶ可能は限りなくゼロだろう。
ということで、まずは魔との対峙に慣れてもらうために1階層を歩いていく。
「なんだか1階層なんて久しぶりね」
「いつもとあまりにも様子が違いすぎてちょっと拍子抜けのがありますね」
鈴とカレンが軽口を叩いている。だが忘れてはいけない。これは暗黒の支配者ルシファーと親と慈悲の神の會話なのだということを…
そうこうするうちに先頭を歩く桜の警告が飛ぶ。
「前方にゴブリンの気配ですわ」
「鈴、彌生に魔法の手本を見せてもらえるか」
「ええ、いいわ」
聡史の要請に軽く頷く大魔王様。そして薄暗い通路をこちらに向かってやってくるゴブリンの姿がはっきり確認できる距離になって魔法が発されていく。
「ファイアーボール」
1階層ということもあって鈴によって念に手心を加えられた魔法だが、ゴブリンの足元に著弾すると大きな炎と共に発の威力でゴブリンは木っ端みじん。
「す、すごい…」
そのあまりの手際の良さと魔法の破壊力に彌生が目を丸くするのはお約束の展開。何しろ魔法の第一人者が発した魔法なので、ファイアーボールと言えどもゴブリンを吹っ飛ばすくらいは當たり前の蕓當。
次に登場したゴブリンに対しては聡史がファイアーボールを撃ち込んで片付ける。もちろんこちらも一撃でゴブリンが吹き飛ばされているのは言うまでもない。
「西川先輩の魔法がスゴイのは咲ちゃんから聞いていたけど、聡史兄さんの魔法もすごい威力でビックリしました」
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「どうだ、ちょっとは見直したか?」
「はい、なんだか自分の技量が恥ずかしくなってきます」
恥ずかしそうに応える彌生だが、彼は比べる相手を間違えている。片や暗黒の支配者をそのに宿す大魔王で、もう一方はレベル400超えの星告の殺戮者の稱號持ち。こんな人ならざるモノといちいち比較していたら時間が無駄になるだけ。
こんなじで彌生のレベルが3になった段階で、初めて聡史が彼に魔法にゴーサインを出す。
「彌生、練習の果を見せてくれ」
「はい、頑張ります」
とはいったものの、最初から上手くいくはずもなく初弾は不発に終わる。やはり実際にゴブリンを目の前にすると外せないプレッシャーが圧し掛かって上手く発できなかったよう。いくら練習では上手くいっていても、いざ本番となると大抵の魔法使いはこんなふうに失敗に終わるケースが多々ある。とはいっても魔法が飛んでこない隙を突いてこちらに突進してきたゴブリンは敢え無く桜のパンチの餌食になってはるか彼方まで飛び退っている。
「彌生ちゃん、最初はみんなそういうものだから気を落とさなくていいわ」
「西川先輩、すいませんでした。桜ちゃんもありがとうございます」
「どれだけ失敗してもこの桜様がキッチリとフォローいたしますわ。彌生ちゃんは安心して魔法が発できるように頑張ってくださいませ」
頼もしすぎる先輩たちに囲まれて彌生は再び気を取り直す。そして次のチャンスでしっかりとゴブリンに魔法が直撃。
「やりました! 命中しました!」
「いいじよ。その調子で次もしっかり當ててね」
「はい」
こんな遣り取りをしつつ次々にゴブリンを倒していく。そして彌生のレベルが5まで上昇した段階で2階層へ移。2まとめて登場してきたゴブリンの足元目掛けて撃ち込んだファイアーボールが炸裂して魔のきを封じ込めている。
「そうそう、足元を狙っておけばどんな魔でもきを封じられるわ。あとは剣士がトドメを刺してくれるから今みたいなじでオーケーよ」
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鈴の言葉が終わらないうちに聡史がサッと剣を引き抜いてゴブリンの心臓を貫いてトドメを刺していく。大よそこんなじで初日は彌生のレベルが10になるまでゴブリン狩りが続いて、晝の時間をやや過ぎた頃合いにデビル&エンジェルはダンジョンを出てくる。
「よし、本日の目標は達だな。學院に戻って晝食にしよう」
「お腹が空きましたわ」
こうして早々にダンジョンでの活を切り上げて學院に戻ってくる一行。すでに午後の授業が開始されているので學生食堂はデビル&エンジェルの貸し切り狀態。カウンターに並んでいつものように食事を注文しようという彌生に聡史のアドバイスが飛ぶ。
「彌生、サンドイッチやホットドッグみたいに手摑みで食べられるメニューにした方がいいぞ」
「えっ、わ、わかりました」
一何のために聡史がこのようなことを言うのか訳の分からない彌生だが、取り敢えずはミックスサンドとオレンジジュースを注文。け取った食事をトレーに載せて席に著く。そしていざ食事をしようと思ってプラスチック製のコップを手に取ろうとした瞬間、ベキッという音と共にコップに亀裂がる。
「えっ」
何が起きたのかわからない表で戸う彌生。彼の失敗を見て半笑いの桜が…
「彌生ちゃん、レベルが一気に10も上昇したんですから握力だって強化されていますわ。今までと同じ調子でいたら満足に食事もできませんよ」
桜の解説でようやく今自分がやらかした失敗の原因に気付く彌生。普通にコップを手に取ったつもりだったのだが、レベルが上昇したおかげで思いのほか強い力で摑んでいたよう。そのせいでコップに亀裂がったのだということにやっと頭が回っている。実は聡史がサンドイッチを勧めたのもこれが主な理由。フォークやスプーンを使った食事など今の彌生がまともに摂れるはずがないと聡史にはわかり切っていたらしい。
言ってみればこれが急激なレベル上昇の副産。ウッカリ今までの力加減で何かしようとすると大抵の場合モノを壊したりひっくり返したりする。特に彌生の場合はキーボードを高速でタイピングするという仕事が絡んでくるので、この力加減をしっかりマスターしないと指先の圧でキーボードごと叩き割りかねない。
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ということで午後は聡史と桜が付きっ切りでをかしながら上昇した力を上手に加減する訓練が始まる。実は彌生にとってこちらの訓練が大変なのは言うまでもない。聡史が學院長から彌生のレベルアップに関する命令をけた際に「10日で100まで上昇させるのは過酷」と口にしていたのは、日常生活を當たり前のように送る訓練が厳しいという意味で発した心配事だったよう。現に今まで明日香ちゃんやEクラスの生徒たちのレベル上げをした際もレベル100に到達するまで2~3か月を掛けてやってきたのも、當たり前の日常生活を送れるようにペース配分を考えてのこと。
だが彌生の場合は日本の戦略上の観點から短い期間で一気にレベルを上げる必要があるので、いまさら四の五の言ってはいられない。
ということもあって午後はグランドでランニングからスタート。しかし急にき出すと力を増した筋のきに頭がついていかない。踏み出した足が思った以上に前に進みすぎて、彌生はスタートの時點で足がもつれて思いっきりすっ転んでいる。これは魔法學院のあるあるなので、いまさら心配する人間は誰もいない。このような調子で彌生のレベルアップは進んでいって4日後の木曜日の夕食を迎える。
「彌生、今日も予定通りレベルが上がったけど、のきはどんなじだ?」
「コントロールが難しいです」
こんな遣り取りをしている橫では明日香ちゃんが桜に向かって…
「いや~、桜ちゃんがダンジョンに出掛けているなんて天國ですよ~。この先もずっとダンジョンに行っててください」
「明日香ちゃん、調子に乗っているのは今のうちですわ。彌生ちゃんのレベルアップが終わったら毎日泣くまでシゴイて差し上げます」
こんな他もない話をしていると、バキッという音が聞こえてくる。音の方向を見ると彌生が呆然とした表で自分の夕食のトレーを見つめる姿が。よくよく観察すると何かがおかしい。
「彌生ちゃん、もしかして力加減を間違えてお皿にフォークを突き刺したんですか?」
「はい、ついウッカリしていました」
彌生の夕食はハンバーグ。普通に食べようと思ってフォークを突き刺したところ、勢い余って皿まで貫通させたよう。これも魔法學院のあるあるなので、周囲は「ドンマイ」という表で生暖かく見ているだけ。
こうして彌生のレベルアップはまだまだ継続されていくのであった。
◇◇◇◇◇
舞臺は変わってこちら魔法學院対抗戦會場。そして迎えた金曜日、この日は各學年のチーム戦決勝の3試合が組まれている。
決勝戦にコマを進めたのは、1學年においては第1魔法學院の〔ブービートラップ〕と第5魔法學院の〔ハーミット〕の2チーム。ブービートラップトラップは言わずと知れた學がリーダーを務めるパーティー。対する第5魔法學院のハーミットは個人戦で學と熱戦を繰り広げた鵜飼孫忠が率いるパーティーとなっている。ちなみにハーミットというのは隠者という意味で、俗世間から隠遁してひっそりと暮らす人間を指す。転じて表舞臺に立たずにひっそりと任務を遂行する忍者の末裔である孫忠も、ある意味ではこのハーミットのような格を暗に指し示しているのかもしれない。
それから2學年においては、ブルーホライズンが見事決勝進出を勝ち取っており、本日の決勝戦はマギー率いる〔コンチネンタルナンバー〕との対戦。現在の學校対抗のポイント爭いは第1魔法學院が100點の差をつけて第4魔法學院をリードしている。これはすでにセーフティーリードと呼べる點差で、ブービートラップとブルーホライズンのどちらかが決勝戦で勝利した時點で第1魔法學院の総合優勝が決定する。第4魔法學院が逆転するためにはブービートラップが敗戦を喫して、なおかつマギーたちがブルーホライズンに勝利し、さらに同じく決勝に殘っている第4魔法學院の3年生パーティーが勝利もぎ取るというかなり厳しい條件が課せられている。
ちなみに桜から決勝進出を最低限のノルマとして課せられていた頼朝たちであるが、彼らは準決勝まで進んだものの敢え無くマギーたちにタコ毆りされて敗北を喫している。フィオとマリアの魔法で足止めされている間にマギーによってひとりずつ各個撃破されるという慘敗ぶり。とはいえ魔法使いが所屬せず、しかも4名構のパーティーというあまりに重たすぎるハンデでここまで勝ち抜いてきたのは、周囲からすれば稱賛に値するであろう。
こうしていよいよチーム戦決勝の開始時間を迎える。
「ただいまより1學年チーム戦の決勝戦を行います。第1魔法學院所屬ブービートラップ対第5魔法學院所屬ハーミットの対戦です。選手場」
場に響くアナウンスと共に會場に詰め掛けた満員の観衆が沸き上がる。1年生とはいえ個人戦の決勝で見せた學と孫忠の攻防は見事なモノ。その試合の再現が繰り広げられるであろうという期待でスタンドは大いに盛り上がりを見せている。
フィールドの中央に並ぶ両チーム。審判からの注意事項が終わると、孫忠が切り出す。
「個人戦は勝ちを譲ったが、チーム戦では俺たちが勝たせてもらう」
「はい、僕たちも負けないように一杯頑張ります」
學のある意味天然ではないかと疑われるようなセリフ。本人はまったく意識せずに誠実に答えたつもりだが、孫忠にとって煽られているように聞こえてしまうのもまあ仕方なし。
そしてついに1年生チーム戦決勝の幕が開く。
各々の陣地に配置されるメンバーだが、第5魔法學院のハーミットは孫忠が中央に陣取ってその左右に前衛を配置。中盤の下がり目に魔法使いとリーダーのガード役が橫並びになっている基本的なフォーメーション。対する學率いる第1魔法學院は前衛に學と盾役の生徒がいて、中盤には悠久なる大魔導士こと咲を真ん中にしてその両脇にサブアタッカーが配置されている。最前線だけを比較すると3対2でハーミットが有利に映るが、學には何らかの考えがあって敢えてこのような配置にしているのであろう。
「試合開始ぃぃ!」
審判の聲と共に孫忠ともうひとりの戦士が一直線に學目掛けて押し寄せてくる。さらに別の前衛は盾役の生徒を牽制しつつ隙あらば中盤まで押し込もうと剣を振り上げて盛んに仕掛けてくる。
「やはりそう來たね」
もちろん學にはハーミットの初手のきは想定の範囲。鎖分銅で自らを牽制しつつこの場で足止めを図る孫忠と、隙あらば學を突破してブービートラップの中盤に攻めかかろうというもうひとりの戦士を相手にしながら全のきにまで気を配っている。この辺は聡史に仕込まれた戦指揮と桜に叩き込まれた1対多數を制する戦い方が功を奏している。
その間にも孫忠のきは學の予想の通りに変化を加えてくる。個人戦でも見せたように暗を飛ばしては學にダメージを與えようと目論む。さらに側方からはもうひとりの戦士が槍を手に突撃を敢行するので、學としても中々気を抜けない戦いがしばらく継続する。ブービートラップのもうひとりの前衛を務める盾役はハーミットの戦士と互角の攻防を繰り広げているため學には加勢できない。この時點で孫忠の思通り學を孤立させて二人掛かりで打ち倒そうという戦略が有効に働いているように映る。
それならばとばかりにブービートラップの中盤に控えるサブアタッカーが學を助けようと前進を図るが、その気配を察知した學から制止の聲が飛ぶ。
「まだいちゃダメだ!」
「でもこのままじゃ」
「いいからその場で待機!」
有無を言わせぬ學の聲にサブアタッカーは前進する足を止める。実は學には二人を相手にしたこの時點でまだまだ余裕がある。鎖分銅を振り回しながら折を見て暗を飛ばしてくる孫忠ともうひとりの槍士を相手にしてもなおフィールド全に気を配れるだけのゆとりを持っている。だがそんな學も一瞬肝を冷やす。これまでやりを構えて突進を繰り返した戦士が突然孫忠と同様に黒塗りの手裏剣を放ってくる。
「危ない!」
心臓付近目掛けて飛んできた手裏剣をギリギリで打ち払う學。アダマンタイトの籠手を嵌めていなかったらとてもこのような対処はできなかったであろう。そして一瞬だけ焦った頭を冷やして冷靜に二人の相手を観察すると、どうやら孫忠だけではなくて槍士も忍者の末裔のようなの捌き方をしている點に気付く。
「これはちょっと厄介かな」
小聲で呟く學に対して孫忠は嵩にかかったように攻勢を仕掛ける。鎖分銅と槍の直接的な攻撃に加えて、學が回避する方向にイヤらしいくらいに的確に暗が飛んでくるというかなり困難な狀況が生まれている。ここで學は決意をする。
「後ろはもっと下がって! 大魔導士様、萬能シールドで全員をガードして」
「クックック、この悠久なる大魔導士に指図するとは、そなたもずいぶんと大きくなったものだな」
「お願いだから早く対処してよ!」
「仕方ない、我に従う愚かな民にほんのしばかりの加護を與えるとするか。萬能シールド」
いつもの咲の悪い癖がここでも否応なく発揮されて、いちいち廚2フレーズを口にしないと指示通りにいてくれない。學としては頭の痛い限りではあるが、これで後方の仲間が暗の流れ弾に當たる懸念が無くなる。學としては後方を気にせずに心置きなく回避が出來るということ。今までは背後を気にして2方向から飛んでくる暗をすべて撃ち落としていたが、避けてもオーケーとなれば自ずと學に余裕が生まれてくる。
「クソッ、渡辺、応援を頼む」
不利を悟った孫忠はリーダーのガード役まで前方に呼び寄せて學に対処する。彼我の実力差をいやというほど理解している孫忠には他に手立てがないのだろうか。ともあれ有りっ丈の戦力を學に叩き付けるという目論見らしい。だが3対1になっても學には有効打を打ち込めない。それどころか逆にじりじりと押し込まれて後退せざるを得なくなってくる。それだけ桜とジジイによって鍛え上げられた學の実力が突き抜けているという証明に他ならない。
ここまで學ひとりに手を焼いている孫忠だが、まだ彼の目は死んでいない。それどころか學ひとりに押し込まれる狀況下にあってもその瞳はますます輝きを強めてくる。そしてついにその時が訪れる。孫忠にとっては待ちんでいた千載一遇のチャンス。個人戦の敗戦の鬱憤を晴らすべく虎視眈々とこの機會をうかがっていたよう。
學に同時に討ちかかっていた槍士と後方から參加した剣士が同時に引く。その直後、孫忠の口から零れた言葉は…
「火遁」
孫忠の右手に魔力が集まってバレーボール大の炎の塊を形。學との距離は約10メートル。これはもはや必中の距離といってよい。忍者の末裔たる孫忠は忍という名で魔法の取り扱いも継承している。これが彼にとって最後の切り札。ここまでひた隠しにしてきた甲斐があったようで、孫忠の目には學は魔法に対して完全に無警戒に映っている。
孫忠の右手から勢いよく飛び出していく炎の塊。これで完全に決著がついたと孫忠自確信している。だが…
「萬能シールド」
學のの手前に瞬時に鉄壁のシールドが構築されていく。孫忠がと魔法を兼ね備えた萬能型の忍者であるように、學も本橋流の武と魔法の両刀使い。當然ながら孫忠の火遁のは學のシールドに當たって霧散していく。
これがこのチーム戦全の分水嶺となる。
「なんだ、魔法を使ってくるんだったら僕も使うよ。エアーインパクト」
ここまで孫忠の戦い方に合わせてのみで対抗してきた學だが、相手もまた魔法を使ってくるとなったら話は別。凝された空気の塊が槍士を吹き飛ばして芝生に叩き付ける。
この景に驚きを通り越して聲も出ないのは孫忠。まさか學が魔法を使えるなど想定外にも程がある。もちろん事前のリサーチにもどこにも報告されていない。その理由は、これまで學はダンジョンの魔に対して魔法を使用するケースはあっても模擬戦において一切使用してこなかったという點にある。というよりも披する場面がなかったといったほうが正しい。
さらにもうひとりの剣士を魔法で吹き飛ばした學は、揺が抑えきれない孫忠を圧倒して簡単に捻じ伏せていく。
「大魔導士様、お願いします」
「クックック、時間がかかりすぎて底屈しておった。まあそなたの活躍に免じてあとは引きけようぞ」
などと意味不明の供述をしながら前進してハーミットの魔法使い目掛けてエアーボンバーを発。相手の魔法使いもシールドを展開して懸命に防に務めるが、咲の魔法は學が発したエアインパクトよりもワンランク上。シールドを打ち破ってその余波で魔法使いを吹き飛ばしている。
これで邪魔する敵がいなくなったブービートラップ。セカンドアタッカーとしてここまで控えていた2名が突撃を敢行してあっという間にリーダーを臺から叩き落して、ついにチーム戦の勝敗が決する。と同時に第1魔法學院の4連覇が決まった瞬間でもある。
この瞬間試合のり行きを見守っていたスタンドからは大歓聲が巻き起こる。
「やったぜ! これで総合優勝だ」
「1年生ながら見事だったな」
「これで來年以降も我が第1魔法學院の優位は揺るぎそうもないな」
「ついでに2年のチーム戦も勝って総合優勝に花を添えようぜ」
大盛り上がりの第1魔法學院生徒が陣取るスタンド。他校の生徒からも獅子迅の働きを見せた學に対して拍手が巻き起こる。
戦闘不能に陥っていたハーミットの面々も起き上がって整列。健闘を稱え合う握手をわす。その際學に対して孫忠は…
「まさか魔法まで使えるとは思ってもみなかった。誤算だったよ」
「いい試合でした。僕たちもここまで手を焼いたのは初めてです。ハーミットの皆さんは戦面で良く鍛えられています。僕たちにとって參考になる點がたくさんありました」
「そう言ってもらえるとしだけめになる。とはいえ俺たちはこれからもっと強くなるから、來年またこの場で戦えるのを楽しみにしている」
「はい、その時はよろしくお願いします」
こうして勝ち名乗りをけたブービートラップの面々はスタンドに手を振りながら控室に戻っていくのであった。
◇◇◇◇◇
學たちの試合が終了して30分後、こんどは2年生のチーム戦決勝が開始される。白熱のトーナメントを勝ち抜いてきたのは昨年の本大會で1年生部門でまったくの無名でありながら優勝を遂げた第1魔法學院のブルーホライズンと、同様に昨年度チーム戦のオープントーナメントで惜しくもデビル&エンジェルに敗れた第4魔法學院のコンチネンタルナンバーという黙っていても注目を集める組み合わせ。
ブルーホライズンが昨年に続いて連覇を果たすのか、それともコンチネンタルナンバーが雪辱を果たして昨年の借りを返すのか。今か今かと試合開始を待ち侘びるスタンドではどちらが栄冠に輝くのか意見が分かれている。
「やっぱりブルーホライズンだろう。あのチームワークは一朝一夕には出來ないレベルだぞ」
「確かに彼たちの抜群のチームワークは認めるけど、コンチネンタルナンバーにはそのチームワークを底から破壊する個人の強さがあるぞ」
「確かに留學生三人組は強力だけど、それでもあの強力な個人技を打開するはあるはずだ」
「じゃあどう打開するのか的に言ってみろよ」
「俺が考え付くレベルじゃないから答えようがない」
それぞれの考えの応酬が続く中、選手たちがフィールドに場してくる。昨年は無我夢中で戦っているうちに気が付いたら優勝していたブルーホライズンだが、一年間の様々な経験が彼たちを一回りも二回りも長させている。フィールドに立つ姿ひとつとっても堂々とした態度が見て取れる。
対するコンチネンタルナンバーのほうは言うに及ばず。誰もが認める怪チームであるデビル&エンジェルにはさすがに歯が立たなかったとはいえ、上級生が待ち構えるオープントーナメントを圧倒的な破壊力で決勝までコマを進めた昨年の実績は伊達ではない。しかも今大會の個人戦においてエースのマギーは渚と晴を凱歌一蹴する強さを見せている。逆にブルーホライズンの強みは個人戦の魔法部門でフィオとマリアを押さえて千里が優勝を果たした點だろうか。とはいえ2位のフィオと3位のマリアとは僅差。魔法においてどちらが優位とは一概に判斷しがたい。
ちなみに桜から決勝進出がノルマを厳命された頼朝たちではあるが、彼らは準決勝でコンチネンタルナンバーに敗れている。とはいえ四人編で魔法使いが所屬しない脳筋チームがトーナメントをそこまで勝ち上がったことのほうがむしろ信じがたい出來事。気合いと力で悉く相手の攻撃を撥ね返して捻じ伏せた戦いぶりは誇ることはあってもけっして恥じるようなものではない。だが現在スタンドに腰を下ろす頼朝たちはお通夜のような表。その理由は當然ながら桜から課されたノルマを果たせなかったというもの。この結果を知った桜からどのような雷が落とされるのか気が気ではないようで、いまだに生きた心地がしないらしい。學院に戻ったら「脳筋は脳筋らしくコブシでモノを語れ」という桜からの制裁を心の底から恐れている。桜に弟子りを志願したあの日に戻れるならば、彼の前に土下座した自分を毆りつけてやりたい気分だろう。なんとも気の毒すぎる。
こんな外野の様子はともかくとして、いよいよ選手が開始線上に並んで審判からの注意をけている。すでにポイントの上では総合優勝は第1魔法學院に決定しており、重大な反則による減點でもなければ績上はこのままかしようがない。それでもなおかつスタンドの注目を集めるのはひとえにブルーホライズンの洗練されたチームワークとコンチネンタルナンバーのマギーに代表される個の力が自ずと生徒たちの関心を引き寄せているからに他ならない。
そしてついにフィールド上に全選手がポジションをとる。
コンチネンタルナンバーはこれまでのフォーメーションをいじらずに左翼の突出した位置にマギーが構えて、やや下がった中央にマリア、同じ並びにフィオという配置。中盤に男子生徒が2名とリーダーポジションにさらに男子生徒がもうひとりという隊形。マギーを中央から左側にずらしているのはマリアとフィオの魔法による飽和攻撃に巻き込まれないような位置取りをとっているためで、彼が敵前衛の前進を食い止めている間にマリアとフィオの魔法で敵陣地を躙していくのが基本的な戦。マギーの強靭なパワーとスピード、さらにマリアとフィオの強大な魔法能力があってこその戦だろう。ちなみに3名の男子生徒はレベル60~70程度でこの中にると明らかに見劣りする。マギー、マリア、フィオという三人の留學生の力が突出している分、彼たちに見合うパーティーメンバーがいないのがコンチネンタルナンバーにとっての弱みともいえる。
対するブルーホライズンのフォーメーションだが、こちらはここまでのトーナメントの戦い方からガラリと変えて、マギーが陣取る相手左翼側に晴、渚、ほのかという3名を集中して、殘った絵と魔法使いの千里が中盤に配置され、リーダーポジションには真という布陣。とにかくマギーの突進を押し留めてからでないと何も始まらないという真の判斷の元に、強力なアタッカー勢を自陣の右に集めている。
そしてついに決戦の火蓋が切って落とされる。
「試合ぃぃ!」
一気にダッシュしてブルーホライズンのアタッカー陣を蹴散らそうとくマギーと、その突進ををして食い止めようとする晴。勢いに任せてキックを叩き込むマギーの攻勢に合わせて盾を正面に翳して歯をくいしばって耐える晴。懸命の防をもってしてもマギーの攻勢は中々止まらない。だがその橫合いから渚の槍が突き出されて、反対方向からはほのかの剣がマギーに迫る。いくらレベル250に迫ろうというマギーでも左右から繰り出される渚とほのかの攻撃を無視はできない。バックステップを踏んで槍と剣を躱しつつ、自らを三方向から包囲しようというブルーホライズンのアタッカー陣を相手にする。
やや離れた位置では試合開始の合図と共にマリアとフィオの魔法攻撃が開始される。
「氷雪の銃弾よ!」
「アイスバレットですぅ!」
フィールドを氷で埋め盡くそうかという勢いで両者の手から激烈な魔法攻撃が繰り出される。対する千里は…
「萬能シールド!」
自分だけではなくて橫にいる絵とリーダーポジションの真さえも一気に包み込む広範囲のシールドを展開。マシンガンのように立て続けに氷の銃弾がシールドに叩き付けられるが、千里の魔法能力は留學生たちすらも凌駕してビクともしない。
こうしてフィールド上の戦線はマギーに対峙する晴、渚、ほのかという局面と、マリアとフィオの魔法に対抗する千里の萬能シールドというもうひとつに局面に分斷された様相。とはいえ圧倒的に攻撃するのはコンチネンタルナンバーで、雨あられと降り注ぐ攻撃を耐えるのがブルーホライズンという流れになって膠著した狀況を迎える。
マギーは自分を包囲する三人の敵をなんとか蹴散らそうと盛んに攻撃を仕掛けるが、晴はもとより渚とほのかも攻撃を最低限にとどめてマギーがこれ以上前進するのを押し留める構え。逆に誰かひとりをマギーが狙うと反対側にいる別のメンバーがマギーに武を突き出したりシールドバッシュを浴びせてくる。これにはさすがのマギーもイライラが募ってくる様子。
マリアとフィオも盛んに攻撃魔法を放っているのはいいのだが、いまだ千里が展開するシールドにヒビ割れのひとつもれられない狀況で堅固な防衛力に手を拱いている。
このまましばらくこの狀況が続くと思われたその時、渚が晴にアイコンタクト。
「オーケー。1分くらいなら我慢するぜ」
その言葉を合図にして渚はマギーの位置から離していく。そのまま中央寄りに數歩進んでマギーの手が屆かない位置に立つと右手を掲げて…
「エアインパクト!」
渚の目は自陣に向かって盛んに氷の弾丸を飛ばしているマリアに向けられている。さらにダメ押しとばかりに數発同じ魔法を放っていく。
「マズいわ!」
渚の位置の気が付いたマギーは慌てた彼を追おうとするが、その行く手をほのかが遮ってさらに後方から晴がシールドバッシュで追撃。そして渚の魔法が向かっているマリアはというと、攻撃に気をとられて橫合いから迫ってくる圧空気の砲弾に気が付いていない。直後…
「キャァァァァァ!」
そのび聲と共に渚の魔法によってが吹き飛ばされていく。そのまま意識を失って戦闘不能狀態に。これに気付いたフィオが渚に向かって攻撃魔法を放とうとするが、すでにその時には渚はコンチネンタルナンバーの中盤を守る男子生徒に襲い掛かっている。
そして一瞬フィオの注意が渚に向けられて氷の弾丸が途絶えた隙を真は見逃さない。
「千里、魔法使いに攻撃よ! 絵は晴に加勢して!」
「エアーボンバー!」
瞬時に千里はシールドを解除してフィオに向かて攻撃魔法を放つ。渚のきに気をとられたフィオは気付くのが遅れて千里の魔法が直撃。そのまま言葉を発する暇もなく吹き飛ばされて場外の芝生に崩れ去る。
二人の強力な魔法使いを一瞬で失ったコンチネンタルナンバーはあっという間にピンチに陥る。これまでの攻勢がウソのように自陣に構える中盤の男子生徒は渚によってあっという間に叩き伏せられて、すでに彼は自軍のリーダーの元に迫りつつある。
「仕方がないわ。こっちも時間との闘いよ」
マギーとしてはブルーホライズンの巧みな戦にしてやられたという思いがある。まさか自分に対して槍で攻撃していた渚が魔法でマリアを倒すなんて想定外にも程がある。思えば1年生の対戦でも學が一辺倒の戦士だと考えていた孫忠が、予想だにしなかった學の魔法によって一気に形勢逆転された試合容だった。そしてこの試合でも渚の魔法能力をひた隠しにしたブルーホライズンが劣勢を撥ね退けて現時點で圧倒的に優位に立っている。
だがマギーとしてもまだ逆転の目はあると考えている。現在自分を足止めしている晴とほのかを振り切って自らがブルーホライズンのリーダーを倒す… これこそが彼が「時間との闘い」と発言した理由でもある。渚がこちらのリーダーを倒すが早いか、自分が真を倒すのが早いかの勝負。
決意を固めたマギーは大會中は封印していたフルパワーを発揮。対戦相手がケガをする恐れがあるという理由で全力を発揮してこなかったのだが、ここまで追い込まれた以上いまさら四の五の言っている場合ではない。
まずは晴をキック1発で吹き飛ばしてほのかもあっさりと片付ける。こちらに迫ってくる絵は攻撃を加えるフリをしてヒラリとを躱して後方に置き去りにする。殘すは千里と真だけ。だがここでマギーの行く手を遮るかのように…
「アイスウオール!」
突如マギーの目の前に高さ5メートル以上もある氷の壁が聳え立つ。しかも千里はマギーを足止めしようとマギーを取り囲むように氷の壁を構築している。
「シット! こうなったら力盡くで叩き壊してやるわ」
マギーのコブシが氷の影を砕く。だがその先には絶しか殘されてはいない。すでに千里によって何重にも渡る厚い氷の壁がマギーを取り囲んでいる。
「シマッタ」
マギーが自らが置かれた狀況を理解すると同時に、フィールドには高らかに審判の聲が響く。
「そこまで! 勝者、第1魔法學院」
ついに渚がコンチネンタルナンバーのリーダーを務める男子生徒を倒して試合を終わらせる。稀に見る熱戦が展開されたフィールド上にはマリアとフィオだけではなくて晴とほのかまで倒れて起き上がれない様子。彼たちはそのまま擔架で運ばれて救護室に収容されていく。カレンはすでに學院に帰還しているが、彼の代理として聖の歩が回復魔法を用いて治療してくれるはず。
こうして2學年チーム戦決勝は総合優勝に花を添える形でブルーホライズンが勝利をおさめる結果となった。晴と渚については見事に個人戦のリベンジを果たしている。
この結果にスタンドは途轍もない歓聲に包まれる。稀に見る熱戦… というよりも死闘と表現するほうが正しい。そんな試合を目の當たりにして誰もが聲を出さずにはいられない。攻勢を続けたコンチネンタルナンバーの素晴らしい技量に対して、一瞬の隙に乗じて一気に戦況をひっくり返したブルーホライズンの巧みな戦と作戦を躊躇いなく実行できるチームワーク。どれをとっても優勝者に相応しい高い次元の能力が垣間見られる。そしてこの優勝を可能にしたのはブルーホライズンのメンバーたちの弛まぬ努力にある。
試合後立っていられる面々は大分なくはなったが、互いの健闘を稱えて握手を行う。その後真、渚、絵、千里の4名は一列になって自校の応援席の正面で深々と一禮してから控室に引き上げていく。
フィールドを去っていく彼たちの背中には大きな拍手と歓聲が送られていくのであった。
【お知らせ】
いつもこの小説得ご覧いただいてありがとうございます。作者が現在連載しているもうひとつの小説〔擔任「このクラスで勇者は手を上げてくれ」えっ! 俺以外の男子全員の手が挙がったんだが、こんな教室で俺に何をやらせるつもりだ?【全面リニューアル版】〕につきまして、これまではカクヨム限定で公開させていただいたのですが好評につきなろうでも投稿させていただくことになりました。
この作品とは真逆でエリートクラスに放り込まれた一般人の主人公が持ち前の反骨神でり上がっていくストーリーです。一部この作品に登場してくるキャラクターと被っておりますが、とても楽しめる容となっています。興味のある読者の皆様は是非とも下記のURLか作品タイトルを検索いただいて目を通していただければ幸いです。
作品名 擔任「このクラスで勇者は手を上げてくれ」えっ! 俺以外の男子全員の手が挙がったんだが、こんな教室で俺に何をやらせるつもりだ?【全面リニューアル版】
URL https://ncode.syosetu.com/n9977il/
Nコード N9977IL
すでに12話ほど投稿済みです。ぜひともご覧くださいませ。
魔法學園対抗戦が無事に終了して、ブービートラップとブルーホライズンが見事優勝を決めました。魔法學院に戻ってきた聡史たちは彌生の訓練にを出していますが、次回以降この作品の中盤の山場に差し掛かります。量子コンピューターオペレーションルームにもたらされたWEBというフレーズの中が日本の存亡に関わるような出來事に発展して… この続きは出來上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
それから、読者の皆様にはどうか以下の點にご協力いただければ幸いです。
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