に激しい痛みをじる。

特に右肩と左腳。顔も右半分が今も焼けているような痛みがあった。

「い、いたい……」

エインズは痛みで目が覚めた。

視界がいつも見ているものと異なっているのだが、いまのエインズはそこまで思考がいかない。

知らない天井に、知らないベッド。

まだ正常に思考出來ていないエインズは、右腕がなくなってしまっていることに深く疑問を持つこともなく左手だけで上を起こした。

痛みを耐えながら、思考がまとまらないエインズはぼうっと窓から覗ける外の景に目を向けたまま呆けていた。

しばらくして、エインズの背後でが落ちた。

「目が、覚めたの？」

、というよりはの子の聲がした。

エインズは窓から視線を外し、聲の主を目で追った。

金髪のショートヘアに、どこか気の強さがにじみ出ているの子。

そしての子が落とした湯のった桶の音に、もう一人今度はの子の母親と思われるが部屋にってきた。

「どうしたの、シリカ。さっき何か落とした音がしたけど。……あら？　ぼく、目が覚めたのね」

「……」

シリカとその橫の——、カリアに目を向けるエインズ。

「まだちょっと混しているのかしら。シリカ、とりあえず床を拭いてちょうだい？　床が水浸しよ」

「ご、ごめんなさい。いま雑巾を取ってくるから！」

シリカはそう言って、パタパタと慌ただしく部屋を出ていった。

エインズと二人きりになったカリアはエインズの近くで丸椅子に腰かけて、怯えないようなるべく優しい聲で尋ねた。

「ぼく、お名前言える？」

「……エインズ」

「そう、エインズくんね。私はカリア。さっきバタバタと騒がしくしていたのは私の娘のシリカよ。よろしくね？」

「……」

會話が続かず沈黙するエインズ。

しかし、カリアの聲を聞きしだけ落ち著きを取り戻したのか、エインズは自のの変化に意識を向けることができた。

「……ない。いたい……」

あったはずの右腕がない。

肩口は包帯で巻かれ、そこから先にびる腕がなかった。

それだけではない。

じわじわと鈍い痛みを左腳にもじていた。

そんなエインズの様子にカリアは表を曇らせる。

「いたいよね、ごめんね。私の旦那とシリカが瓦礫の下からきみを見つけたときにはもう……。エインズくん、きみの村で何があったか覚えている？」

「ぼくの、村……」

カリアの言葉をぼんやりと聞いていたエインズ。

しかし尋ねられて、徐々にその時の様子を思い出していった。

「ああ……。ああぁぁあああ！！」

そしてエインズの脳裏に絶的な景が広がる。

「うあああぁああ！！」

鼓が激しく打つ。息がれる。塞がった傷口が激しく痛みだす。

両親がを流して橫たわっている景。村の全てが激しい炎に包まれ、阿鼻喚が広がる地獄。歳の近い友人が目の前で殺され、得の知れない何かで貫かれて一瞬で絶命していく姿。

そして、頬に傷をつけた男の言うところの『魔法』によって家が破壊されて、自の頭上に降りかかる瓦礫。

熱い。痛い。

エインズはを激しく震わせて、鼻水を垂らしながら涙を流す。

エインズの止まらぬ絶に、カリアは優しくエインズのを包みこみそのらかな手でエインズの背中を優しくさする。

「落ち著いて、エインズくん。もう、大丈夫だから。もうエインズくんは大丈夫だから」

そこに雑巾を持ってきたシリカがってくる。

「お母さん！」

そしてシリカがこれまで目にしたことがないほどに、絶と恐怖で泣きぶエインズの姿に絶句した。

あの小さなにこれだけ大きな聲で絶する力がどこにあるのだろうか、限界を超えてを酷使し聲を張り上げるエインズ。シリカはその絶と恐怖に押しつぶされた人間を目にしたことがなかった。

「大丈夫よ、大丈夫だから。……ね？」

シリカが我に返りけるようになったのは、エインズが泣き疲れて眠った後になってからだった。

自分よりも恐らくい年。その年が見た絶は、恐怖は、シリカが瓦礫の中から見つけ出したがために一生拭い去れない深い傷となってエインズの中に殘り続けてしまうことになる。

死んでいたほうが楽だったのかもしれない、これ以上の苦しみを覚えることがないから。だがシリカはエインズを瓦礫の山から救った。

自が想像していた絶なんか生易しい。一度強く持った覚悟が揺れてしまう。

シリカはその重みに足が震えた。

數年が過ぎ、エインズも徐々にカリアやシリカ、エバンに心を開いていった。初めは目を覚ませば泣きび、疲れては眠る繰り返しだった。

シリカら三人の盡力あって、エインズは脳裏に焼き付いた絶的な景から目を逸らせるようになれた。

それでもエインズの表は暗く、何に対しても興味を持つことはなかった。

ただ生きているだけ。死んではいないが、今この時を生きていない。

シリカも遠慮した態度を見せることはせず、あえて何事もなかったように接するよう心がけた。

「いってきます」

エインズは一人で出かけるようになった。

といっても、エインズは歩くことができないためエバンが取り寄せた車いすに乗って外を散歩するだけである。

片腕、片腳のエインズは車を回すのも十分にできない。

そのため、取り寄せられた車いすは魔獣から採れた魔石を力源に自式のものである。

かなり値が張ってしまったが、それはエインズのためにも必要なものだと思い切って発したのだ。

これにより節制した生活を長らく送ることになったのだが。

レバー一つ倒すことで車いすの車がカラカラと回る。

家々を抜け、大樹の橫若干ぬかるんだ道を進む。

森へとびる一本道のあたりに人気はなく、村の子どもたちもここらで遊ぶことはほとんどない。

というのも子どもだけで危険な森にることを大人たちから固くじられているからである。

當然エインズもエバンから同様に忠告されているのだが、好意的ではない村民の目を避けるように足を延ばしたのがこのあたりなのである。