《ドーナツから蟲食いを通って魔人はやってくる》63話 蒸し風呂(サチ視點)
水を熱した香花石にかけると、ジュッという音と共に蒸気が立ち上る。たちまち、薬草の爽やかな香りに包まれた。サチはザカリヤに連れられ、屋敷の蒸し風呂にっているのだった。詰めれば四、五人れるだろうか。狹い空間で隣り合って座るのはとても打ち解けた狀態である。しかも、湯布を腰に巻いただけ。普段から半のザカリヤは違和ないとはいえ、若干の気恥ずかしさがある。
同じく半姿の妖族が背中をって垢を落としてくれたり、熱波を扇いでくれたりと世話をしてくれた。ザカリヤの眷屬と思われる妖族は、サチの腕半分くらいの長でとても可らしいのに艶だ。黒い布を腰にまとっており、は丸出しである。この妖族はサチとザカリヤに、吸い飲みで冷たいローズ水を飲ませてくれた。
狹い室だと邪魔になるのか、ザカリヤは角と羽を引っ込めている。汗をダラダラ流しつつ、話すザカリヤは剣で打ち合っていた時とは別人だった。獣じみた尖った顔つきは丸くなる。ザカリヤから攻撃を抜くと、殘るのはだ。薄暗い中でも、みずみずしいにときめかないはいないだろう。
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「さてと、グランディス。おまえ、弱そうに見えてなかなか悪くないぞ? 魔人のなかでは中の上くらいか? クロチャンと真っ向勝負だったら、勝てるかもしれん」
「噓つくな。まるで、歯が立たなかった。殺されかかったじゃないか」
「罠をかけられた、不意打ちというのもあるだろう。あと、人間と一緒にいたな? 人間の気配は覚を鈍らせる。一人では避けられものを、人間をかばったのではないか?」
図星だった。サチはイザベラをかばった。よくよく思い出せば、そのまえにワンアクション。エドを突き飛ばしている。毒霧で鈍っていたが、その時間に避けようとしたらできたかもしれない。
ザカリヤはサチの顔を見て、満足げにうなずく。
「クロチャンの出す鏃(やじり)は無限に出し続けられるわけではないからな? 一度に大量放出したあと、続けては出せない。だから、イツマデに襲われて逃げたのだ」
「そうだ……俺の仲間の安否はわかったのか?」
ザカリヤは顔を曇らせた。表から答えを聞かなくてもわかる。
「クロチャンの潛伏先はわかったのだが……」
「やっぱり、エドたちは……」
「いいや。ゴブリンの住処に潛伏していたクロチャンは、何者かに殺されていた」
「えっ!? それじゃあ?」
「ゴブリンのなかでもとりわけ臆病な種族の所に潛伏していたらしく、詳細はわからないのだが、どうやらドゥルジ関連ではなさそうな……ドゥルジの所に放っている俺の僕(しもべ)らの話だと、ドゥルジはいまだにクロチャンの行方を追っているそうだから」
クロチャンが死んでしまっては、エドたちの安否を確認することができない。やはり、ユゼフに問い合わせるしか──
「すまぬな……」
「いいさ。別の方法でも調べられる」
だが、すぐに問い合わせる勇気はサチになかった。無事だったところで、どうするというのだろう。エドもジャンも主國で元の生活に戻ったほうがいいのではないかと思う。ナスターシャ王と戦い、グリンデルを取り戻す気力はサチに殘っていない。今さら、主國に帰って何かできるとは思えなかった。
「グランディス、無理はしなくていい。おまえはずっと、ここにいていいのだよ。以前、迷をかけるから出て行くと言っていたが、その必要はない。ドゥルジだってクロチャンが死んでれば手詰まりだ。そのうち、あきらめるさ」
見かされてサチは居心地悪くなった。に當たる熱気は心地良いのだが、々息苦しい。
「おまえがいてくれたほうが、メグもタイガも助かる。それと、聞いてるぞ? おまえ、ウサちゃんといいじなのだろう?」
「いや、ウサちゃんとは……ウサちゃんはまだ子供だ。そういう対象じゃない」
ウサちゃんは娼館で下働きをしているだ。サチに懐いている。
「子供? 二、三年後にはになるさ。おまえのことが相當好きみたいだぞ? あの子は綺麗になる」
「そうは言っても……」
俺にはメグさんという想い人が──とは言えなかった。そういえば、サチにはイザベラという人未満もいるし、主國にはディアナという婚約者もいる。
──メグさんが俺のことを好きなら、メグさん一択なんだが。
イザベラに対してはというより、キスをされてから的な興味を抱くようになった。好意を寄せられれば嬉しいし、なんとなくけれていただけで……百日城で助けてくれたことには謝しているが……
ディアナとの関係も“好き”というのとはちがう気がする。相は悪くない。仲も良かった。だが、政略的に結婚を考えていたのであって、お互いには持っていない。
そして、ウサちゃん。數年後には大人のになる。人に長したウサちゃんと診療所の手伝いをするのも悪くないと、サチは思った。どうせ、メグと相思相にはなれっこない。
ザカリヤの言葉がさらに拍車をかける。
「いいのか? おまえが貰ってやらないと、あの子は店に立つことになるぞ? それでも、俺は構わんがな」
ジュワッ……熱波がやってきた。妖族の子が石に水をかけたのだ。熱波が筋をいたわってくれる。ジワジワとほぐされていくじは気持ち良かった。
「あと、もうし筋をつけてもいいかと思う」
ザカリヤはサチの上腕部をモミモミしながら言った。それはそう。ザカリヤに比べたら、貧弱ななのは否めない。これでも、まえより筋は付いたのだが。
「それにおまえの……傷だらけじゃないか。おまえ……やっぱり、待されていたのだな」
ザカリヤの瞳が哀れみを帯び始めた。
確かにサチは傷だらけだ。しかし、これは待の痕ではない。六年前、イアンを説得するために切腹未遂をした時。教會で無頼漢どもに襲われた時。エゼキエルにを乗っ取られ、ユゼフに刺された時。夜の國にて、カオルたちに襲われた時……
「これは戦いの歴史だ。待の痕じゃない。でも、ザカリヤは騎士だったのに傷がないのだな?」
「ああ、人間の時はケガをしなかったな。俺は強いから傷なんかつけさせないんだよ。よく軍人で傷自慢する奴がいるだろ? この傷は○○戦で……とか、あの戦いの時にやられた、とか。俺から言わせれば、あんなのは自慢じゃなくて恥なんだがな? だって、俺みたいに本當に強い奴はまず敵にれさせないからな」
これは……アスターには聞かせられない……しかも、このザカリヤときたら素で言っているのだ。よくある優位の主張とか、そういうのではない。純粋に思ったことをそのまま言っている。劣等など微塵も抱いたことがないのだろう。
「魔人になってからは大ケガをしたが、ケガをしても痕が殘らなくなったんだよ。スッと治ってしまう」
これはザカリヤの言うとおり。サチも同じだ。サウルが覚醒してから、傷が殘らないようになった。
「元ある傷も消そうと思えば、消せるのだがな。魔に長けた魔人ならできるはず」
ザカリヤはサチの傷を確認しながら言った。言われるまで気にもしなかったので、サチは消したいとは思わなかった。だが、そこでふと思い出してしまったのである。サチは何気なく、左前腕の側に引かれた一本の痕を指でなぞってしまった。イアンとの臣従痕だ。忘れていた。これがあるということは、イアンは絶対に死んでいない。
「ああ、それ。それは消えねぇぞ? いったい、誰に付けられたんだ? 強い呪詛が込められている」
「これは臣従痕なんだ」
「臣従痕だと!? なんだってそんなものを!? しかもそれ、左腕ってことはおまえが従わされる側じゃないか!」
「り行きというか、なんというか……」
「り行きでそんなことするものか! 主が死んだらおまえも死ぬのだぞ!? なぜ、そんな不公平な契約を? どこのどいつだ!? おまえにそんな契約をさせたのは??」
ザカリヤが怒り始め、サチは怖くなった。普段はアホなのにスイッチがると猛獣のごとく変わる。その點、イアンと似ている。
──イアンがここにいたら、間違いなくやり合うだろうな。いなくてよかった
イアンは絶対にザカリヤが嫌いだろう。嫌いに決まっている。昔から、自分より目立つ奴が大嫌いなのだ。シーマのことも蛇蝎のごとく嫌っていたし、ユゼフの兄たち、英雄として知られるダニエルやサムエル──イアンからしたら従兄弟なのだが──険悪だったのは有名である。
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