《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》戦士達の結末と始まり
音が鳴り止むと辺りには黒い煙が漂い、焦げた匂いが鼻を突き刺してくる。
「皆、大丈夫!」
咳き込みながら呼びかけると、あちこちから返事が聞こえてくる。
どうやら、皆は無事なようだ。
ほっとをなで下ろすが、隣に目をやれば、「うぅ……ぐぅう……⁉」とアモンが嗚咽をらしながら何度も地面を毆っている。
黒い煙がしずつ薄くなる中、改めて周りを見渡した。
僕達が気絶させた戦士達の居た場所は、どこも地面がえぐれて黒ずんでいる。
ケイ、カーツ、ユタという戦士達が居た場所は特に酷い。
「死期を悟った彼等は、背中合わせで魔障壁を張ることで発を空に逃がしたのでしょう。我々に……いえ、アモン殿に危害が及ばぬようにです」
「あのような事、誰でも簡単にできることではありません……立派な戦士だったと存じます」
カペラが淡々と告げ、ディアナがしみじみ呟く。
「そうだね……」
僕は平靜を裝い相槌を打ったけど、心では激しい怒りを覚えていた。
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人質を取り、有無を言わさず戦士達に魔法を施して自攻撃要員とした挙げ句、『日沒まで』と制限時間を伝え、決死隊に仕立て上げたのだ。
それでも、アモンに従う戦士が出ることも見越しており、『日沒』よりもっと早い時刻で彼等を発させた……そんなところだろう。
「リッド様! ご無事ですか」
名前を呼ばれて振り向くと、『ファラ』を先頭にカーティス達と第二騎士団の皆がこちらにやってきた。
離れた場所から見ているとそこまで違和はなかったけど、明らかに本のファラより長が大きいし、目つきが鋭い。
寫真が存在していたら、絶対誤魔化せていないだろう。
「うん。『アスナ達』も無事で良かったよ」
「はは。やはり、リッド様を始め、姫様をご存じの方々は誤魔化せないですね」
顔を綻ばしたアスナは、肩を竦めてやれやれと首を橫に振った。
ファラに変裝した彼の姿を近くで見てみると、鬘で本人と同じの髪形にしており、何か特別な薬でも使ったのか瞳のも合わせているみたい。
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服裝もファラの普段著であり、彼の特徴をよく捉えていることに加え、本人をずっと側で見ているアスナが変裝しているせいか、所作も良く似ている。
ファラ本人と面識がない相手であれば、見間違えてしまうのも無理はない。
まぁ、長と二刀流で知っている人からはバレバレなんだけどね。
「それにしても、良く咄嗟に影武者なんて思いついたね」
「いえ。この策は、エルティア様から遣わされた侍の『ジェシカ』殿が予め用意されていたものです」
「え、そうなの?」
侍のジェシカは、ファラがバルディア家に嫁ぐ時にダリアや他のメイド達と一緒にやってきたダークエルフのだ。
うん? ちょっと待って。
エルティア母様から遣わされたということは、まさか……とカペラに目を向ける。
「お察しの通り、『ジェシカ』はエルティア様の元部下です」
「……なるほどね」
合點がいった。
エルティア母様は、ファラの専屬護衛をアスナに任せ、有事の対応や危機管理は『ジェシカ』に任せていたというところだろう。
相変わらず、がわかりにくいなぁ。
「あ、ところでファラは?」
「ご安心下さい。ファラ様は、『あの部屋』に避難しております。まぁ、私の影武者にはご立腹でしたがね。最後は、渋々ながら私とジェシカ殿の意見をけれてくれました」
アスナは、決まりが悪そうに苦笑して頬を掻いた。
ファラの格上、アスナが自分の代わりをすると言えば、確かに怒りそうだ。
でも、彼の立場を考えれば、ジェシカの策によるアスナの影武者は正解だけどね。
それがわかっているから、ファラも最後は了承したのだろう。
ちなみに、『あの部屋』というのは、有事の時に使用される一部の人だけに教えている新屋敷の避難室のことだ。
こんなに早く使うことになるとは、思わなかったけど。
「リッド殿。ところでこの慘狀を見る限り、會談は決裂した……ということですな?」
切り出したのはカーティスだ。
彼の顔つきは、普段浮かべている好々爺のものではなく、この場に居る誰よりも険しい。
「うん。それどころか、グランドーク家はバルディア家に領地戦を宣戦布告されたよ」
淡々と告げると、辺りがからどよめきが起きる。
疑問が確信に変わったからだろう。
でも、カーティスだけはこちらを靜かに見つめていた。
「やはり、そうでしたか。恐れながら、リッド殿。バルディア家は今後、どうされるおつもりですか?」
「勿論、決ま……」
答えようとしたその時、『信機』から「リッド様。至急、応答願います」とサルビアの切羽詰まったような聲が発せられた。
「ごめん、ちょっと待ってね」
カーティスに軽く誤りつつ、通信魔法を発する。
「サルビア。こちら、リッド。どうしたの?」
「リッド様。先程、『狹間砦』に駐在中のサリアから急の電がありました。狐人族が國境を越えて侵攻を開始。現在、クロス様の指揮下で戦中とのことです!」
信機から発せられた彼の聲で、辺りが再びざわめいた。
やっぱり、そういうことか。
宣戦布告をしてきた以上、こうなることは想像に難くなかった。
つまり、今回の會談はであり、アモン達は僕と父上のきを止める時間稼ぎの完全な捨て駒扱い。
よくもまぁ、ここまで馬鹿にしてくれたものだ。
込み上げる怒りを発させぬよう深呼吸で抑え、サルビアとの通信を再開する。
「……それで、戦況はどうなってるの?」
「はい。クロス様率いる狹間砦の守備隊は、防戦に努めております。しかし、兵力差が激しく、現狀では持って數日が限度。それ故、至急応援を乞うとのことです」
「わかった。父上に指示は確認するけど、すぐ応援に向かうと現地には伝えて。それから、兵力差が激しいということだけど、どれぐらいの規模なの?」
「そ、それが……」
サルビアの聲が震え、歯切れが悪くなる。
「第四飛行小隊のサリア曰く、空から見る限り、狐人族の軍勢で相手側の陣地は埋め盡くされているそうです。おそらく、數萬の軍勢になるかと……」
「數萬だって⁉」
思わず聲に出してしまった。
同時に、辺りから再びざわめきが起きるが、先程よりも雰囲気が暗い。
でも、僕にはある閃きが生まれており、「アモン。君に聞きたいことがある」と切り出した。
「重要なことだから、確認したい。聞いての通り、グランドーク家が數萬の軍勢を引き連れて越境。バルディア家の狹間砦に侵攻を開始した。このきに、當主である『ガレス・グランドーク』を含め、一族は全員戦場に出ていると思うかい?」
「あ、あぁ……」
彼は嗚咽をらしながら頷いた。
「父上と兄上の格上、こうしたきは必ず陣頭で指揮を執ることだろう」
「そうか。でも、それだけじゃ、確証は心許ないな……」
「……リッド殿?」
首を傾げてこちらを見つめるアモンに、僕は歩み寄る。
「何か、グランドーク家の部族長しか掲げることのできない旗とかはないのか」
「それなら、『四つ鉞』の家紋の旗を大きく掲げているはずだ。あの旗は父と兄姉しか掲げることを許されていないはずだから……」
「なるほど。ありがとう」
僕は再び、通信魔法を発する。
「サルビア。大至急、狹間砦にいるサリアに空から確認してほしいことがある。グランドーク家の一族が戦場に出てきている確証を得たいんだ。四つの斧をかたどった『四つ鉞』の家紋の旗。これを大きく掲げている陣地があるかどうかを尋ねてほしい」
「は、はい。々お待ちください」
通信魔法を切ると、アモンを始めとして皆は首を傾げて不思議そうにしている。
カーティスだけは、顔が険しいままだ。
彼は、レナルーテの元軍人だから、僕の考えに想像が付いているのかもしれないな。
「リッド様、お待たせしました!」
程なく、信機からサルビアの聲が響いた。
「こちら、リッド。サリアはなんて? 確認にし時間がかかりそうかな?」
「いえ、グランドーク家の侵攻を開始と同時に、クロス様の指示でサリアが敵陣地を確認しておりました」
さすが、クロス。
バルディア騎士団で副団長をしているのは伊達じゃない。
有事が起きた時、いち早く報収集を行うのは基本中の基本だけどね。
でも、浮き足立つようなことがあれば、そんな基本も出來なくなるものだ。
彼が報収集の指示をサリアにすぐ出したということは、それだけ落ち著いて戦況を見ている証拠にもなる。
相當な場數を踏んでいる証拠だろう。
「そっか。それで……どうだった?」
「はい。ありました。上空からサリアの『遠鏡』により確認済みです。敵陣地の奧に……えっと、四つの斧をかたどった家紋と思われる『四つ鉞』ですね。こちらの旗を掲げた陣地が全部で四カ所確認しております。手前に二つ。奧に二つあったそうです」
「わかった。それは値千金の報だよ。大変だとは思うけど、僕と父上が行くまで何とか耐えてほしいと、クロスとサリアに改めて伝えてほしい」
「畏まりました!」
サルビアとの通信が終わると、辺りに靜寂が訪れる。
深呼吸をして考えをまとめると、僕は両手両膝を地面に付き、すすり泣くアモンの正面に立った。
そして、彼の両肩を鼓舞するように強く叩く。
「アモン。悲しいだろうけど、これは千載一遇の好機。君が部族長になれる絶好の機會でもある……後は、君にその覚悟があるかだ」
「リッド殿……?」
首を傾げるアモンを立たせると、僕の考えを彼に伝えた。
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