《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》アモンの決意
「アモン。君ができることは二つある」
切り出すと、彼は首を捻った。
「二つ?」
「まず一つは、このまま戦士達の死を嘆き、ガレスとエルバを恨み、恐れ、隠れてひっそりと生き延びるか。もしくは……」
煽るような言い方だけど、今後のために『ある決心』してもらわないといけない。
もったいぶるように告げたことで、彼は息を飲み、食いるようにこちらを見つめている。
待ちきれなくなったのか、「もしくは……?」とアモンがを乗り出した。
「ガレスとエルバに宣戦布告し、部族長の座を君が簒奪するかだ」
「……リッド殿、それは本気で言っているのか」
「あぁ、僕は本気だよ」
二つ返事で頷くと、アモンは「し、しかし……」とためらうように首を橫に振った。
「グランドーク家の総力は數萬だ。そう易々と簒奪できるとは……」
「アモン。勝てるかどうかじゃないだろ?」
僕は、あえて彼の言葉を遮った。
「君を慕い、理想を信じ、死んでいったリックと戦士達。彼等の覚悟と志に答え、狐人族の未來を背負う覚悟が君にあるかだよ」
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「……⁉」
今の言葉は、自分でもずるいと思う。
でも、グランドーク家が侵攻してきた大軍と正面からぶつかっては爭うだけじゃ、この戦いを本當の意味で終わらせることはできない。
現狀のグランドーク家を本から変えない限り、両家間で起きた問題は解決せず、今後も続いていくだろう。
だからこそ、アモンの理想をここで終わらせず、実現させなくてはいけない。
結果、バルディアの明るい未來にもつながっていくはずだ。
「君が立つというなら、僕も父上を必ず説得してみせる。そして、バルディア家が後ろ盾になると約束するよ。でも、選ぶのあくまで君だ。さぁ、どうする?」
答えは決まっているだろうけど、あえて彼に決斷を迫った。
今から、アモンが進む道は親兄弟から立場を簒奪する修羅道だ。
彼が自分の意志で進むという覚悟を持たなければ、やり遂げることはできないだろう。
靜寂が流れた後、アモンは震えながら深く息を吐いた。
「リック、皆……そうか、そうだな。わかった、リッド殿。僕……いや、私こと『アモン・グランドーク』は親兄弟と今を持って決別し、部族長の座を簒奪する。どうか、バルディア家の力を貸してほしい」
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「わかった。改めてよろしく、アモン」
僕達が固い握手をわすと、周りに居た皆から「おぉ!」と驚嘆の聲が上がる。
これで、現グランドーク家を徹底的に潰す大義名分は整ったわけだ。
心でほく笑んでいる中、「リッド殿、しよろしいですかな?」とカーティスに聲を掛けられた。
「うん。どうしたの?」
「バルディア家が決起するアモン殿の後ろ盾となり、現狀のグランドーク家を本から変えていく……というのは賛同できます。しかし、狹間砦に侵攻している數萬の大軍はどうお考えなのですかな?」
「現地で狀況を見ないと何とも言えないけど、考えていることはいくつかあるさ。それに……」
言い掛けたところで、「リッド様!」と可らしい聲が辺りに響き、こちらに走ってくるファラの姿が目にる。
「ごめん。また後で」とカーティスに告げて前に出ると、彼は僕のに飛び込んできた。
「リッド様、ご無事で良かったです」
「ファラ! 君も無事で良かった」
抱きしめつつ、背中を優しく叩くと彼と目を合わせる。
「でも、駄目じゃないか。君が出てきたら、アスナが君に変裝した意味がなくなっちゃうよ」
この場に居るもう一人の『ファラ』に目をやったその時、ジェシカがやってきた。
「私達もお止めしたのですが……申し訳ありません」
彼は、深く頭を下げた。
ジェシカは、エルティア母様の元部下らしいから、本気で止めたんだろうな。
ファラは、バツの悪そうな表を浮かべた。
「すみません……。ですが、外から音が聞こえてきて、皆のことが心配で居ても立ってもいられなくなったんです。それで外を見たら、リッド様のお姿も見えたので……」
「そっか。心配してくれてありがとう。でも、この襲撃の狙いの一つは君と母上だったから、ジェシカやアスナ達の判斷は正しかったと思うよ」
「う……申し訳ありません」
此処に來たことが軽率だったと理解したらしく、彼はしゅんとして耳が下がってしまう。
僕は目を細めると、ファラの頭に手を置き優しくでた。
「次からは待っていてね。必ず僕が迎えに行くからさ」
「は、はい……畏まりました」
ファラの顔はさっきよりも明るいし、耳も上がったから大丈夫かな。
ちょっと、顔が赤いのが気になるけど。
「リッド殿。失禮ながら、そちらの方は?」
「あ、そっか。紹介がまだだったね。彼が僕の妻だよ。ファラ、彼は『アモン・グランドーク』。狐人族の新たな部族長になる……僕の友人さ」
彼は一瞬きょとんとするが、すぐに意図を察してくれたらしい。威儀を正して彼の前に歩み出た。
「初めまして、アモン・グランドーク様。リッド様にご紹介あずかりました『ファラ・バルディア』でございます。以後、よろしくお願い申し上げます」
「え⁉ あちらの方が、ファラ殿ではなかったのですか!」
彼は目を丸くし、この場にいるもう一人のファラ……もといアスナを凝視した。
どうやら、僕がアスナ達とした先程のやり取りは、茫然自失していたアモンの耳にはっていなかったらしい。
「恐れながら、私はファラ様の専屬護衛。アスナ・ランマークと申します。以後、お見知りおき下されば幸いです」
畏まったアスナが鬘を外すと、彼の赤みがかった桃の髪が宙を舞うようにわになった。
「な、なんと……」
アモンは開いた口が塞がらない様子だったが、ハッとして咳払いをする。
「ご挨拶が遅れて申し訳ない。改めて、アモン・グランドークと申します」
三人が自己紹介を終えたのを見計らい、僕はファラの耳元に顔を寄せた。
「ファラ。ところで、母上は大丈夫?」
「はい。私と一緒に避難室にいましたから。ただ、お母様も心配しておりましたから、後でお顔を見せてあげてください」
「うん。わかった」と頷き、ほっとをなで下ろした。
彼が此処にいる以上、母上も無事であることは想像に難くないけど、不安はしあったからね。
その時、「リッド様! 応答願います!」と信機からサルビアの聲が響いた。
周りにいる皆に目配せし、僕は通信魔法を発する。
「はい、こちらリッド。どうしたの?」
「今し方、団員を通じてライナー様より電。本屋敷では、狐人族の発による重癥者多數。また、本屋敷は半壊狀態。新屋敷の被害はどうか? と仰せです」
報告を聞き、思わず眉間に皺が寄る。
やっぱり……という気持ちはあるけど、それ以上の嫌悪と憤りがを駆け巡る。
ふと橫目に見れば、アモンが手を拳にして震えていた。
本屋敷では、気絶させた狐人族の戦士達を拘束後、一カ所に集めるよう父上が指示を出していたはずだ。
そのせいで、図らずも発の威力が上がってしまったのだろう。
深呼吸をして気持ちを落ち著かせると、ゆっくり口を開いた。
「こっちでも狐人族の戦士が全員死したけど、幸い被害はなかったよ」
「畏まりました。皆様がご無事で良かったです」
サルビアの聲がし明るくなった。
彼も僕達のことを心配してくれていたのだろう。
なお、彼が居る場所は第二騎士団宿舎に併設されている報局だ。
本屋敷や新屋敷から離れた場所ではあるけど音が聞こえたり、煙が遠巻きに見えたのかもしれない。
「では、ライナー様からの指示をお伝えいたします」
気を取り直したように、彼は通信を続けた。
「本屋敷は発被害による重癥者の臨時救護施設とし、今後の活拠點は一時的に新屋敷に移行するとのことです」
「わかった。こっちもすぐにけれ準備に取り掛かるよ。ちなみに、サルビア。一つ尋ねたいことがあるだけど、いいかな?」
「はい。何でしょうか」
「誰か……本屋敷で生き殘った狐人族の戦士はいるかい?」
しんとした靜寂が訪れる。
アモンに目を向けると、彼の瞳にはどこか期待のが宿っていた。
しの間を置き、サルビアの聲が重くなる。
「いえ……特にその報告はけておりません。何でも、戦士の方々は生死問わず一斉に発したと報告をけております」
「そうか、ありがとう。こっちも発の狀況は本屋敷と同じだったと父上に伝えてほしい」
「畏まりました。それでは、失禮します」
通信が終わって息を吐くと、目を伏せて肩をふるわせるアモンの傍に寄った。
「彼等の志と覚悟も君が引き継ぐ……そうだろ?」
「あぁ……勿論だ。だが、このやりきれない気持ち……どうすれば良いだろうな。はは」
自傷気味に苦笑する彼に、優しく微笑み掛けた。
「悔しかったら、泣けば良いと思うよ。泣いて、んで、それを次に生かす力に変えれば良いのさ」
「そうか、そうだな」
返事に合わせて目配せすると、周りにいた皆は察してこの場から移を始める。
僕とアモンのだけになると、改めて優しく語りかけた。
「すぐに手にる理想なんて、理想じゃない。でも、君は必ず理想を実現させる。戦士達同様、僕も君を信じてるよ」
「……リッド殿。恩に著る」
彼は頷くと、大粒の涙を止めどなく流して大聲を上げ始める。
アモンが今までの自分自と決別し、新たな道を踏み出した産聲にも聞こえるような、そんな慟哭だった。
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