《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》7話 アジヤマ〆アウト〆サバイバル

「おいおいおいおいおい、そのかっけー悪役幹部みたいな姿、見た事あんなァ、グレンの隠し玉と似てるぞ」

「ネガティブーー敵報解析開始……ネガティブ、信じられません。対象のDNA狀態、そのほぼ全てのテロメアは死滅している……なのに、生にはなんら問題はない……? ありえない……」

対峙する探索者と黒い巨人。

そして。

「アレフチーム……こんな形で再び會う事になるとはおもいませんでした」

「……姉さん、この人達が、本當に、あのアレフチームなの?」

「雪代姉妹、手加減すんなよ。……普通にこいつら、マジでヤバい」

上空からふわりと降り立つ3人。

3人とも、黒いコンバットスールに黒いガスマスクを裝著している、

どこかで見た事のあるような裝備だ。

ガスマスクの上からでもなんとなく分かるのは彼らの焦り。

――アレタとアサマに対しての驚愕。

「ふうん。ニホンも騒な國になったものね。挨拶代わりに攻撃してくるんだもの」

「にんげん、し強いにんげん……? くんくん、うーん、でも、3人とも、し違うかおりがするね」

空間を歪ませる念

空気を凍らせる冷気。

鉄を歪ませ迸る

不意打ちで放たれたその攻撃。

全ては嵐と黒い泥が混じった幕に止められる。

「……私、割と本気で力を使ったんですけど」

「奇遇ですね、姉さん、私もです」

「チッ、いっつも格上が相手かよ……」

彼らにとっては必殺の一撃。

味山達は知る由もないが、未だニホンが國家のをなしているのは彼らという戦力がサキモリに協力しているのが大きい。

「お、おお……シエラチーム……! シエラチームだ!」

「サキモリより先に來てくれたのか!」

「神種とも戦った事のある連中だ……! た、頼む、総理をお守りしてくれ!」

「ーーネガティブ。我々シエラチームの同盟者、ニホンの政府機関に所屬している者の負傷を確認。救援要請は間違いなかったようですね」

「……めんどくせえな。俺はそこの総理殿とお話したいだけなんだが……」

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「ネガティブ、それは葉いません。個識別名、味山只人……貴方は危険です」

「お?」

ごつい黒鎧、合されたの聲が響かせるのは明らかな警戒の

サキモリや護衛達が味山に向けていた嫌悪と侮蔑じりの恐怖ではない。

純粋な、畏れ。

「解析結果の全てが貴方の凡てを平凡と判斷しています。しかしデータベースに殘る貴方の來歴は異常そのものです」

「黒い鎧さんよお、自分のビジュアルを見た事はあるかァ? アメコミから出てきたような見た目しやがって。ヒトの事を異常って呼べたタマかよ」

「黒い鎧ではありません。自己紹介が遅れました。私はM-66・強制進化促寄生生・コードネーム、マルスです。はじめまして、恐るべき人よ」

「あ、どうも、ご丁寧に。味山只人です……」

流れる綺麗なお辭儀と自己紹介、味山も思わず直立してあいさつを返す。

久しぶりにまともなコミュニケーションをとったような気がしないでもない。

「よかったわね、タダヒト。久しぶりにマナーを示してもらえたんじゃない?」

「確かに。ここんところほとんど、初めまして、死ね。みたいなコミュニケーションしかとっていなかったからな」

ひゅん! ぼん!!

け止めていた攻撃のエネルギーを嵐と一緒に空へ投げ捨てながら、アレタが味山の隣へ。

リラックスした表。しかし、アレタがいた瞬間、目の前の者達が張したのが分かる。

なくとも、アレタ・アシュフィールドの脅威を理解できる水準ではあるらしい。

「ぱぱ……あさまの事、まだ、おこってるの?」

「お前は、まあ、俺も何回かぶっ殺したからセーフ、おあいこって奴だな」

「……えへへ! やったあ、ぱぱとおあいこ……あ、ごめんね、きんぱつ。きんぱつは、ぱぱと殺し合った事なかったね、ぷーくすくす、ぱぱのこわーい顔知らないんだぁ」

ひゅっと、いつのまにか味山の腰にじゃれつくようにくっつくアサマ。

アレタをニヨニヨと見上げながら、を鳴らして。

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「……あたし、タダヒトに中の骨折られて顔面を毆られたわ」

「えっ……ぱぱ? あさま以外の子を毆ったの? なんで、あさまじゃだめなの? あさまがもっと悪い子になればいいの?」

「おい、その話題はやめろ。目の前のガスマスクの皆様の視線が痛い」

謎のマウントバトルを始める英雄と神種。

じりじりとした殺し合い獨特の空気の中、繰り広げられるそれをガスマスク達が見つめる。

「……どうしましょう、殺し合いの最中にあのノリを始める人達、姉さんとアリサさん以外に初めて見ました……」

「ちょっ、継音、やめてくださいよ! あそこまでないわけじゃないし!」

「いや、雪代姉妹、そこじゃねえよ。言い爭いのレベルが高いんだっつの。なんであの達、DV自慢をしてんだ? おかしいだろ、毆られたのだの、殺し合ったのだので仲の深さの優劣を測るのは」

「「……??」」

「噓だろ、イカレ界隈ではDV自慢は當たり前なのか……? ウミハラのオッサン、アンタも苦労してんな……」

あっちはあっちで割と呑気にしている。

味山は靜かに、警戒を深めた。

TIPS€ 雪代姉妹は大化生、雪の末裔だ

TIPS€ 田井中 誠はなしで深度Ⅱに至った超人だ。鉄をる能力、ホット・アイアンズに注意しろ

TIPS€ 警告・危険な敵を確認……耳男を滅ぼし得る力を持つ存在が混じっている

TIPS€ 凡人生存者に注意しろ

強いな、こいつら。

サキモリの連中よりも、死線を超え、場數を踏んでいる気がする。

それに、あののガスマスクの2人は、貴崎や熊野ミサキとよく似た底知れない覚も。

TIPS€ 特殊なイベントをクリアしています。記憶判定ロール開始……INT2の為、規定値が足りない、無條件で失敗

……雪代? どこかで聞いたような事があるような、ないような……。

「……どちらにせよ、戦いたくねえなあ」

「ポジティブ、それは同意見です。どうでしょう? 投降しては戴けませんでしょうか?」

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「そこの総理殿とお話させてくれたら考えてもいいけどな」

「ネガティブ、それはできません、貴方の潛在的な危険を加味するとミスター多賀に接させるのはリスクが高すぎます」

ガスマスクの化け

そう表現するのがぴったりな黒い鎧は見た目によらない冷靜な口調を崩さない。

張りつめ、弛緩し、乾いた空気。

どこかゆるい空気の両陣営。

それは、互いに百戦錬磨の戦闘集団の証左。

「……タダヒト、ここの判斷は貴方に任せる」

「ぱぱ。いつでもおっけー。呪い殺すね」

アレタも、アサマもいつしか、口數はなく。

「……継音?」

「うん、姉さん、大丈夫、いつでも」

「オッサン抜きじゃ、きついと思うけどな……」

向こうのガスマスクも、黒い鎧を除いて沈黙へ。

言葉をわすのは、味山とマルスと名乗った黒鎧だけ。

殺し合いが、近い。

それぞれの陣営の旗頭、そのどちらかが始めれば、すぐにでも。

「ミスター多賀、おさがりください、シエラチームはその存続と生存のため、ニホンを守ります。そしてその為には、貴方の存在が必要不可欠です」

「……マルス君、君の主はまだ眠ったままかい?」

「ポジティブ、ヨキヒトは現在、ヒミコとの戦闘によって負った神傷害の回復中です。――彼が戻るまで、彼のも、彼の國も、彼の友も、彼が背負うべきすべてを私が守ります」

ぎちち。

黒い鎧、筋骨隆々のそのが脈する。

「やる気満々か。……まあ、いいや。お前達が、俺の邪魔をするんなら、やる事は1つだな」

「何も奪わせません、何も終わりにはさせません。恐るべき人よ、殘念です。貴方がもしも、我々の味方であったならば」

「味方だっつの……まあ、誰も話を聞いてくれねえならしかたねえ。ボコボコにした後なら、きっと楽しくお話できるよな」

味山が構える。

アレタが聲もなく、風を従え。

アサマがぞっとするような笑みで黒い泥を足元に呼び起こす。

「シエラチーム、連続での戦闘で申し訳ありません、ですが、力を貸してください」

「いいでしょう、マルス。彼の到著を待つまでもありません。……特級指定封印対象味山只人の無力化を」

「……貴崎さんが勝てる気がしないって言ってた探索者。油斷はしない。全力で」

「あーあ、あーあ!! いっつもこうだ! 味山只人だけじゃねえ、他の2人もやばいほど強い……まあ、格上ばっかなのは、いつもの事かァ!!」

ガスマスクの者達もまた、己が力を構える。

臆さず、ひるまず、油斷せず。

味山達の前に、この世界を生き抜く、生存者達が立ちふさがった。

「M-66、マルス。シエラ0の作権を海原善人より移譲。これより、特級指定封印対象者、そして推定神種二との戦闘を開始します」

「味山只人の探索記録――。グレンと似たじの奴、それに貴崎と同じじの奴、あとは……ま、アシュフィールドとアサマがいるんだ。問題ねえ」

ぎちち。

黒い鎧が軋む。

にちゃあ。

味山のが吊り上がる。

「PERK・ON」

「力ァ貸せ、クソ耳」

互いに牙を剝く。

ぎらり。

黒鎧が、尖った爪の指を味山に向ける。

ぎぎぎ。

味山が、耳の大力を以って拳を固める。

探索者と生存者、両者の殺し合い。

終わった世界を歩く者、世界を終わらせない為に奔走する者。

もう、止まることは――。

「狼王の指先(ロボ・フィンガー)」

「耳の大力」

ボボン!!

同時だった。

黒鎧から放たれたのは、間違いない、指だ。

狼の爪のようなとがった指がそのまま、ロケットのように出される。

「ギャハハハ!! なんっだそ、りゃ!」

正確に味山向けて放たれた指弾。

それを、味山は真正面から――。

「鬼裂先生!!」

作を、最強の武人へ一瞬譲渡する。

全自で、最適化されるき。

耳の大力を以て、振るわれた拳がその指弾を毆り落とす。

ぐちゃ!!

「っ!! ネガティブ」

「いってえええええええええええ!! 頭おかしいんじゃねえか!!?? それ、自分の指だろ!?」

黒鎧が構えた指は3本、その元から無くなっている。

指を毆り落した味山の拳はその衝撃に耐えきれず、ぐちゃっとつぶれて。

ぼしゅん。

じゅるるるる。

「再生完了」

「治ったけどなァ!!」

失った指、つぶれた拳。その両方が再生するのはほぼ同時。

「……驚きました、我々を凌駕する再生能力……」

「おい……噓だろ、それ、また生えんのか? なんだそのクソシナジー技……」

マルスと味山、互いに互いの能力のトンチキぶりにし引く。

「貴達、人の事言えないですからね」

「タダヒト、安心して、あなたもたいがいよ」

同時。

ガスマスクの1人が手を掲げる。

空気が歪み、がねじ曲がる。

アレタが指を鳴らす。

風が破裂し、雨が固まる。

ばち、ちちち。

歪みと嵐が互いに食い合う。

「……っ、なんて、力……!」

「あら、驚いた。もうし強くしても大丈夫そうね」

地力の差は見える。

だが、アレタ・アシュフィールドの力に干渉できる。

それ自が、ガスマスクのの異常を表す。

「……全部、止められた」

「おい、冷、油斷すんな、死ぬぞ」

「……ふーん、にんげんにしては、まあまあ、かな」

アサマもまた、放たれた攻撃を彼岸の泥をけ止める。

「殺し合いに、なりますね」

「ほんっと殘念だなァ、でも安心しろ、俺は死なねえし、お前らは殺さない。だから、死人は出ねえよ」

「……理解出來ません、やはり、危険です」

ばさり。

ぎ、ぎぎ。

黒鎧が軋む、かと思えばその翼が広がり、背中からは太い尾のようなものが。

「お、おいおいおい、しっかり化けじゃねえか」

「全ては我々の生存の為」

ボンッ。

地面が弾けた。

味山の反応よりも先にーー。

TIPSーー

「遅い」

「う、おおおおおおおお!?」

至近距離の超接近戦。

気付けばその黒鎧が味山の目の前に。

巨大な手のひらが味山のを捉え、そのまま地面に叩きつける。

「ぎゃっ!? いてえな! このバカ!」

「……っ、なんて頑丈な、人類の耐久限界を明らかに超えている」

「そりゃどうも! 酸菌きちんと摂ってるからかな!」

と、言いつつもこのままでは口から臓が飛び出そうだ。

ーー使うか。

味山只人は直接黒鎧の力にれる事で判斷した。

耳男を使わなければ、恐らくもう勝負にもならない、と。

そして。

「お前、なんか火に弱そうな見た目してんな」

「ーー!! PERK・Oーー」

ぱしっ。

味山の右腕が黒鎧の腕にれる。

腹にじる圧力が強くなる。

敵が、追撃に出る、その瞬間にジャワの火を使おうとーー。

「っ! 何故です!? ヨキヒト! 邪魔をしなっーー『うるせえ! いいから落ち著け、アメリカンエイリアン!』は!? よ、ヨキヒト、今、わ、私の事をエイリアンって言いましたか?」

「……あ?」

味山が、ぽかんと間抜けな聲をあげる。

自分を地面に押さえつけている黒鎧がなんか、1人で騒ぎ始めた。

いや、これは――。

『あ、悪い、それは表現が悪かった。でもマルス! どうしたんだ、お前らしくもない。問答無用でバトル開始しすぎじゃろ!』

「で、ですが……! 相手はかの特級指定封印參號、しかも我々が総力を懸けても討滅に至れなかった他の封印対象を屠った怪です。楽観視などできません」

『結構な事じゃねえか、俺達が殺せなかった化けを殺してくれたんだろ? 相手を害獣って決めつけるよりも先に、益獣かもと思うほうが効率がいいだろうがよ』

「それでも、彼は総理殿を狙っています、ヨ(・)キ(・)ヒ(・)ト(・)、貴方も理解しているはずです、多賀総理を失えば全部終わる、と」

『待て待て待て、マルス、論理的に行こう。今お前が俺のを使って叩き潰そうとしてるお兄さん、俺もまだ意識がはっきりしてねえから自信はないが、話をしに來たって言ってなかったか? ノープランでバトル仕掛けてんのはこっちだろ? それは、なんか、おかしくないか?』

「ですから!! ヨキヒト! そ(・)れ(・)が(・)危(・)険(・)だ(・)|と《言ってるのです!! 目の前の存在は、何かがおかしい! ここで討伐せねば我々の生存に関わります!」

『……こりゃ、何か妙な狀況だな。効率的じゃねえ』

1人芝居だ。

黒鎧がさっきから自分と自分でわめきあっている。

二重人格……なのだろうか?

「……おい、お前、さっきから1人で何言ってんだ?」

何がなんだか、わからない。

だが、チャンスだ。

味山が、ジャワの火を借りようとして。

『マルス 跳べ』

「っ!? あ、作権を! ヨキヒト!? なぜです」

著火寸前、黒鎧が味山から離れる。

長い黒い尾と、翼による三次元機

本格的に殺し合うのなら、耳男でないと勝負にならないだろう。

ぐりゅ。

黒鎧の頬に、がぱりと口が生えた。

あれが、さっきから喋っているのだろうか。

『雪代! お前もらしくねえな。なんでノリノリで攻撃を開始してんだ』

「え……!? う、海原さん? な、なんで起きてるんですか? マルスの中でお休みしてるんじゃ……」

黒鎧の口と、のガスマスクが何やらしゃべり始める。

向こうの様子がどことなく変わっている。

あの黒鎧の1人芝居が始まった瞬間に、だ。

「タダヒト……」

「ああ。分かってる、何か空気が変わった。アサマ、いったん待機だ」

「え~、あさま、あいつらと遊んであげようとおもったんに」

「後で俺が遊んでやるから、いう事聞け」

「!! ほんと!? わかった! あさま、言う事聞く!」

聞き分けの良い猛獣と、扱いやすい魔獣を控えさせ味山が、シエラチームと名乗った連中の様子を注視する。

敵対ぶっころ雰囲気一だった向こう側はしかし、あの”黒鎧のもう1つの口”が喋り始めた途端、変わった。

TIPS€ 敵報解析完了

TIPS€ シエラゼロ。本名、海原善人と寄生生マルス

TIPS€”神種ヒミコ”との戦闘により的な死を迎えた海原善人は現在、マルスのに共生している

TIPS€ 警告・に神種ヒミコの神を確認、警告・非常に強力な機能を確認

TIPS€ 警告・異常な數の耐久、および食いしばり系の技能を確認。極限狀況生存特化ビルド

「おいおいおい……びっくり人間か?」

味山の耳に屆くヒントはあの黒鎧の報。

どうやら想像以上に面白そうなやつだ。

『田井中、お前は……ああ、よかった、冷靜だな』

「おっさん、業腹だがあんた抜きじゃ無理だろ、こいつら。勝てるビジョンが見えねえよ」

『それは正しいだろうな。だが、お前も、震えてんのか』

「悪いかよ、の2人の方がやばいはずなのに、怖いのは、あの男の方だ……」

ガスマスクの1人が黒鎧と言葉をわす。

の読めないガスマスク面が味山を見つめて。

『その割には向こうは論理的だぜ。一貫して、主張はシンプルだ。総理と話をさせろ、だ。こっちが勝手にビビって話をごちゃごちゃにしてしまってないか?』

「え……?」

「う、海原さん? し、正気ですか?」

「オッサン、アンタ……マジで言ってんのか? 特級指定封印対象で、そもそもサキモリとドンパチしてる奴だぜ」

『それも狀況を聞いてただけだ、どういう経緯で敵対したかまでは知らん。効率的に考えようや。マルスの中からでも分かる、あの3人、ノリで戦うにはし辛すぎるじゃろてや』

黒鎧の言葉に、向こう側の敵意がし薄まる。

味山はし、ほんのしだが、していた。

「マジかよ、あいつ。見た目1番近い化け寄りだけど、話分かるぞ」

「探せばいるものね、話し合いでなんとかなればそれに越した事はないけど……結構既に暴れちゃってるし……」

「あさま、すとっぷのまま。ぱぱ、殺してよくなったらゆってね」

まさかの和解ルート。

ここで人の話を聞いてくれる奴が現れるとは。

このままうまくいけば、総理と和解、ついでにサキモリや連中とも協力することが出來るかも知れない。

『つーわけだ、総理殿。シエラチームとしては、殺し合う前に向こうの主張を聞いてからでも遅くないと愚考しますが』

「……海原善人くん、なのかい? 報告では、君は……ヒミコによって、死亡した、と」

『まあ、ギリのギリでこうしてマルスの中で生きてます。……でも、やっぱまだ本調子じゃなくてっすね。……総理、奴らと戦ったからすると、まだ、俺達は実力が足りない。どんな形の力でも、とにかくそれを揃えないと勝負にもならないっすよ』

「……君がそう言うなら」

TIPS€ ニホンとシエラチーム、サキモリとの和解ルート発生

「マジかよ」

『そこの3人、俺達には大いなる誤解があったんじゃねえか? 今はまだ、仲良しこよしとはいかないが、話を聞かせてくれ』

黒鎧の二つ目の口が非常に理的な言葉を紡ぐ。

これだよ、これ。

相互理解と話し合い。

久しぶりにまともなコミュニケーションを取る事の出來る奴を見つけた。

味山はもちろんと頷く。

TIPSのヒントもこの道が正しいものだと。

TIPS€ 警告・8月31日をシエラチームは超えられない

「……あ?」

TIPS€ 警告・このままではシエラチームは8月31日で全て死ぬ。戦力不足だ

だが、殘念ながらこの世界は既に神は敵に回っている。

クソすぎる運命が、どこかでゲラゲラ笑ってる。

TIPS€"海原善人の完全な帰還"とアビス・ウォーカーとしての習が進行しなければ、シエラゼロは8月31日に神種によって消化される

TIPS€ "雪代姉妹の覚醒、および、ホットアイアンズの覚醒"無しでは、シエラチームの雪代長音、雪代継音、田井中誠は8月31日に貴崎凜と共に、神種に食われる

「……マジ?」

嫌すぎる報が、味山の耳を打つ。

TIPS€ シエラチーム共闘ルート、"ニホン〆アウト〆サバイバル"へ移行した場合、シエラチームは全滅する

なんやかんやいいじに収まりそうな空気の中、味山だけ笑えない。

いつもそうだ。

このクソヒントが聞こえてしまうばっかりにいつも厄介ごとに巻き込まれる。

聞こえないふりをしてしまえばいい。

今はとにかく総理と話して、準備をしてしまえばいい。

きっとそれが楽な道だ。

だが、味山只人は知っている。

先送りにするのもいいだろう。いったん寢かしておくのもいいだろう。見ないフリをするのもいいだろう。

でも。

「……教えろ、クソ耳」

TIPS€ なにを? いいじゃないか。このままシエラチームを利用しろ。奴らは死ぬが、お前達は楽を出來るぞ。使い潰せ、お前が大事にするのは、アレフチームとお前の周りにいる人間だけだろう?

ーー楽な道に、先はない。

「8月31日を越える、正解を」

TIPS€ ーー條件達

たまに、思う。

このヒント、この聲はいったい、どこから。

TIPS€ シエラチーム敵対ルート"善き人よ、終わりの中で夜明けを目指せ"

TIPS€ シエラチームと敵対し、戦え。神をも屠る最前の力を以って、生存者達を鍛え上げろ

誰の聲なんだろう。

TIPS€ ただし、アレフチームの名聲は地に落ちる。お前達は世界から理解される事はない

「問題ねえよ、俺1人でやりゃあいい」

今の自分なら出來る。

アレフチームがいなくとも、アレフチームを生かす為なら、あのムカつく連中を全部始末する為なら。

「悪役になんてなりたくねーが、まあ、仕方ないか」

「タダヒト?」

「アシュフィールド、悪い。予定が変わった。穏便はナシだ、それと、こっから先は別行でーー」

味山が英雄に提案する。

きっと、アレタなら、アレフチームなら大丈夫だ。

今度は間違えない。

巻き込む訳にはいかない。

これは、ヒントが聞こえる味山だけの戦いで。

ーーあたし達を頼んだわ。タダヒト

思考に蘇るのは、あの赤い世界の終わり。

神と化してしまった英雄からの最後の言葉。

味山只人がこれからしなければいけない覚悟は1人で進む覚悟ではない。

この男にとって、それは楽な道だ。

「……アシュフィールド」

「タダヒト?」

これから、この男がしなければならない覚悟は。

楽ではない、たどり著く為の道は。

ああ、めんどくせぇ。

でも、もう2度とあんな終わりは見たくないから。

覚悟を決めろ、味山只人。

1人になる覚悟じゃなくて。

「悪い、アシュフィールド。これから一緒にアイツらブチのめして、総理を攫っちまおう」

1人にならない覚悟を。

「ーー」

アレタが、一瞬、目を丸くして、青い瞳を右に左にかして。

「あは」

薄く、英雄が笑う。

「あたし、アレタ・アシュフィールドなんだけど?」

「駄目か?」

「うーん。どうしよっかなぁ。……タダヒト、それをすれば、どうなるの? 彼らはあたし達を尊重しようとしてくれようとしてる。それを裏切る事って理解してる?」

「ああ」

「それでもするの?」

「ああ」

「誰のために?」

「俺の為に」

「そっ。ねえ、タダヒト。もし、あたしがそんなの許さないって言ったらどうする?」

「……駄目か?」

「……もう。それ反則でしょ」

風が、吹いた。

それが返事だった。

『よし、これでなんとか全部上手くいく、マルス、すまん、後は頼む、眠気が……え?』

「悪い、シエラチーム!!」

嵐が世界にやってくる。

世界が健忘癥によって忘れた英雄の力が。

「……おい、オッサン、これは?」

「う、う、海原さん、あの、なんか、そんな穏便に終わらない気が」

「……戦うしかないでしょ、これ」

『……噓だろ』

シエラチームが

嵐が舞う。

彼岸の泥が揺う。

英雄を、神を唆したのは、その男だ。

「すまんが、本気で戦ってくれ!」

同時に、味山の頭上に現れるのは。

大扉。

「ーー超絶有能な熾天使として、パパ上の演出なんてちょちょいなんですよね」

金髪のみになったアサマ、いや、セラフがにっと笑う。

神が作り出す異界の扉。

それが開いて。

『あの、耳です……』

『お疲れ様です、耳です』

「あ……」

シエラチーム、そして、護衛達が、絶の聲を挙げる。

現れるは、歪な耳の顔に巨軀と鎧を併せ持つ2の巨人。

味山只人の人形と化した護國の

そして。

「ふう、ようやく地上に帰還……おっと、凄い嵐だね、素敵だ、アレタ」

「いやー、サキモリ、あの人らは強敵だったすね」

『名実と共に我々は完全にニホン國家を敵に回した訳だ!! アーミー油斷するなよ! ニホンは過去の大戦で最も合衆國を本気にさせた國家だ! 侮っていい存在ではない!」

巨人の手のひらの上には、愉快な裝甲車両、愉快な史に、愉快なバカその2。

「やあ、アジヤマ! アレタ、それに見知らぬ……え? 見知らぬ……? な、なんで?」

「センセ! 今論理的な思考をすると辛いっすよ! 酔いに全てを任せて!」

「確かに! はい、じゃあやり直し! アジヤマ、アレタ、見知らぬ! 今、どんな狀況だい?」

アッハッハハハハハハハハ。

響く笑い聲。マッドなじで決まってるクラーク博士の一行が、式神の掌の上で笑う。

味山が、にっと笑う。

目の決まってるソフィも似たような笑みを浮かべて。

「クラーク!! グレン!! 手ぇ貸せ!」

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ! アジヤマ、何をする気だい!? これ以上の混と戦闘は我々とニホンの関係を決定的なものにしてしまうよ! アハハ! もう遅いかもだけど!」

「必要な事だ! 悪いがその為に目の前の分かりの良い紳士と淑には手荒い真似をすることになるな!」

「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア、アジヤマ! 正気かい? 我々の目的は総理殿と仲良くお話してあの終わりに抗う為だ! 人類のいちばんの武は、信頼と習慣だよ! そんな脳筋一直線なやり方で上手くいくとは思えない! こう見えて、ワタシ達は正義の味方なんだ! あんまよく憶えてないけど、時を戻す前だって、君抜きでワタシ達は世界の為に戦ってだねーー」

「総理殿を拐する!!」

「――それ、最高だね」

そういうことになった。

ソフィの右頬に、3個目の瞳が生える。

「約定を、ここにーー。おや、おやおやおや? そのガスマスクの裝備は……シエラチームかい? 久しぶり! 元気だったかな!」

の片翼。

顔を半分だけ覆う割れた仮面のようなものがソフィに生える。

「あれ、どう見ても俺と同じやつっすよね? でも、なんか、違うような……まあ、いいっす! 戦えば分かるっすから!」

どろり。

ぱきん。

グレンの目、口、鼻から黒いブヨブヨがれ出す。

それはあっという間に彼の顔を覆い、ペスト醫師のマスクのような。

「シエラチーム……因果な縁ね。彼達もいるのかしら。まあ、いいけど」

パチン。

長い指が鳴らされる。

嵐だ。風が吹く、雨が橫に吹き付ける。

それなのに、彼と彼の仲間に雨と風はその牙を向けることはない。

ほわり。

晴れている。アレフチームの元だけ雨と風は吹かず。

臺風の目のような雲の隙間から振り降りる天使の梯子。

「ごめんね、あたしの補佐探索者が迷かけちゃうわ」

の髪、蒼の瞳、暴風の中で明滅する瞳、蒼から金へと。

「……化け、いや……神種かよ」

田井中と呼ばれたガスマスクのメンバーが茫然と呟く。

この終わった世界で家族を守る為に戦う事を選び、そして生きのこってきた年は悟る。

今、目の前にいる連中はあの神にも等しい力を。

「アレフ2、ソフィ・M・クラーク。悪いね、シエラチーム。今我々には余裕がないんだ」

「同族さん、すまんっす! ちょっとそこ通らせてもらうっすわ!」

魔人と評するにふさわし異形の姿。赤髪のと灰髪の男。

「……ぱぱ、戦うって事でいいの? いいよ、あさまも手伝ってあげるね――あっあー、アサマ、殺しちゃダメですよ、多分、人の子パパ上、あの人達を殺す気はないでしょうから」

イズ王國の闇にして、主。

ニホンを最も脅かした最悪の神種アサマ、そして、深遠のまんなかで人類の岐路として鎮座する大いなる熾天使、その転生

『お耳なのかな……』

『まあ、もうお耳だし……』

護國の最終兵

1000年にわたる研鑽と継承の結晶たる決戦兵

前鬼と後鬼、耳バージョン。

「タダヒト、皆、準備萬端だけど?」

そして、いずれ神に至るだろう選ばれし英雄。

それらを率いるのは。

「じゃあ! 悪い! そういう事で! いっちょ始めようかァ!」

凡人。

人類最前の集団が、生存者達へ嗤いかける。

「だ、だから……だから、言ったんですよう、ヨキヒト……! 彼ら、彼らは危険すぎる! 思考の次元が、我々とは違う!!」

「お、オッサン! なんだよ、これ!? なんなんだよ!!?? 能力の規模が違いすぎる……!!」

「継音、私の傍から離れないように」

「姉さんも、私から離れないで」

生存者達はいやおうなく理解する。

その絶的な彼我の実力の差を――。

『……世の中広いな』

「よ、ヨキヒト?」

黒鎧の2つ目の口が自嘲気味につぶやいて。

『悪い、マルス。俺が甘かった。アレは道理でいてない。俺達とは別の視座、視點、価値観でいてやがる』

「ええ。そうです、なくとも現段階では、相互理解は不可能、ですから」

『――ああ、邪魔だ。俺達の生存に』

アレフチーム(最前)の威に慄くシエラチームの中、彼と彼だけが前に。

『俺の名前は、海原善人。この終わった世界で、ただ死にたくない、俺の周りの善い奴らが死ぬのを見たくない。ただ、それだけの為にここまで來た』

生存者が一歩前に。

それは味山只人が知らない生存者の語。

『……ここにいる人間はまだ生きていたい。それだけだ。失っても、失っても、1つしかない命を抱えてただ生き殘るために、生き殘らせる為に戦ってきた。アレフチーム、お前らにも何かの道理があるんだろ? なんかの目的があるんだろ?』

その男もまた生き殘ってきたのだ。

味山只人が、アレフチームが探索を続行する中、この世界を生き殘って、サバイバルした。

『――知ったことかよ。お前らが俺の生存を、俺の周りの人間の生存を脅かすっつーんなら』

TIPS€ シエラチーム・敵対イベント確定。海原善人とのコミュルートが途絶えた。代わりに海原善人とマルスの新たな進化の可能が生まれた

『俺達の生存の為に』

TIPS€ 神種討伐數”1”、シエラゼロ。マルスと、海原善人

TIPS€ 【凡人生存者】來るぞ

『お前らが邪魔だ!!!』

どじゅっ。

黒いドロドロを、軌跡として。

黒鎧が、地面を蹴った。

「タダヒト!!」

アレタ・アシュフィールドだけだ。

そのきに反応できたのは。

嵐による行阻害、ソフィをはじめとする実力者の警戒。

その全てを突き抜け、黒鎧が突貫。

狙うはもちろん。

『將をんとすれば先ず馬を、いや効率よく行こう。將が先に死ね』

味山の顔面を黒鎧の手のひらが、がっつりとつかむ。

アイアンクローからの流れるような作で地面に叩きつける。

くぼむ地面、へしゃげる頭、人、飛び散る

種も英雄もその反応が遅れる。

死線を容易に超えた高速の攻撃。

シエラゼロ、その戦闘力の高さは、アレフチームですら、不意をつかれ――。

『PERK・O「ギャハ」

TIPS€ それでも、今のお前の敵ではない

『――ッ』

「ギャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッははハハハハハはっはっはっはっはっははッはは8母はhhっハハッハハッハハッハハッハハッハハッハハッハハハ!!!!!!!!」

「っ、ヨキヒト、変わって!!」

『マルス!?』

一瞬、黒鎧のきがよどんだ。

瞬間。

ぼおう!!!!!!!!

「ネガティブ!!!!」

一瞬で、仲間の元まで飛びのき、後退したマルスは見た。

火だ。

頭をつぶされた人から真上に向かって火が放たれた。

「火……?」

海原の意識をにひっこめたマルスは、最初自分がなぜ、その判斷をしたか、わからなかった。

それに、自分が目の前の相手を恐れる理由も、はっきりと彼は言語化できなかった。

だが、今、分かった。

「あー……すっげえ力だなァ、近接で一撃死すんのは久しぶりだァ」

ぼおおおう、おおう……。

火の中で、何かがいている。

人影。

「……あの、マルス、あれ、なんかうごいてんですけど」

「マルス、海原お兄さんは?」

「おい、マルス、悪い事は言わねえ、オッサンを起こせ……一瞬でも良い、オ――海原さんと協力しながらけ、じゃないと」

――これは、海原善人と會わせてはならない。

もう理屈も、何もいらない。

遠き星雲の彼方、この星の遠くからやってきた宇宙生は目撃する。

200萬種以上に及ぶ地球の生命、その生態系。

それをなんの意味もなく踏み外した、異常存在の姿を!

「ギャ―ハッハッハッハッハッハ!! 久しぶりィ、俺はあと変を何回か殘してるけどよォ!! まずはやっぱり、これからだろ!!」

半月のように、何がそんなに楽しいのかと糾弾したくなる笑顔。

その笑顔の鼻から上、顔の上部を覆う異形。

耳の面。

ぐにゅ。るるるる。

うごめく、首の鰓からは威嚇するかの如く異形の化生の水かき腕が生え。

じじじじ。

左腕の肘の辺りはもっと、意味不明。

が削げ、皮が消え、そこにはあるのはむき出しの骨。

ぼおう。

ついに、右腕は燃え始めて。

「あなたは、……何者ですか!? いえ、あなたは人間じゃ――」

ずるっ。

「えっ」

ぼとん。

マルスの右腕が、落ちる。

――斬られていた。本人すら気付かぬうちに。

「あっ」

死線。

海原がそうしたように、同じく。

シエラチームの誰も反応できないタイミング、速度で。

生存者達の目の前に、化けが突っ立って。

「俺は、耳男。よろしくな、それと」

くるくる。

宙に舞い、落ちてくるのは切り落とされたマルスの右腕。

ぱしっ。

それをけて止めた化けの右腕が、火を纏って、マルスの腕を燃やし盡くす。

「あ」

「悪いな、俺は人間だ」

噓つけ。

アレフチームですら、そう思った人間が何人か。

「――潰れろ」

「――凍れ」

「――ホット・アイアンズ!!!!」

超常の力が躍る。

味山が、目の前に迫るその力を見て、笑って。

「殺す気で來い!!!!! 生存者ども!!!!」

探索者(アレフチーム)VS生存者(シエラチーム)。

サバイバルが、始まった。

読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!

12月6日まで次にくるライトノベル大賞の投票を行なっております。

お願いばかりで心苦しいのですが、是非ご協力頂ければ幸いです。

また近日、カクヨムコンに新作投下予定です。

凡人探索者、ダンワル、に続き新作もまた是非ご覧下さい。

下の作者Twitterでは、書籍版のキャラデザ公開などしてます。良ければご覧くださいませ。

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