《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》28-2

28-2

「クラーク、立てるな?」

「あ、ああ……」

助けてもらいはしたものの、クラークも相當に驚いている。

「あの……ペトラさん、なのか?」

「そうだ。これが私本來の姿だ、と言ったら驚くか?」

本來の姿……そうか。ペトラが魔なんだってこと、すっかり忘れてた。人間そっくりなのは、あくまで仮の姿か。

今のペトラは、全を黒い甲殻で覆われている。四肢は鋭く細く尖り、顔は流線形のフォルムに変化している。長いしっぽは槍のようだ。どことなくエイリアンがあるが、不気味さよりもかっこよさが勝つな。俺が男だからかもしれないけど。

「えっと……すまない。助かったよ」

「禮は働きで返してもらおう。行くぞ!」

ペトラは砂利を蹴り上げ、すぐさま敵に飛び込んでいく。クラークも剣を握って走り出した。

「よし……二人がかりなら、勝機はある。俺たちもくぞ!」

俺は仲間を振り返った。みんなは決意に満ちた目をしている。

「あの二人に続くんだ。その役目を……フラン。お前にやってほしい」

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「え」

フランは意外そうに、目をしばたいた。

「わたし……で、いいの?」

「ああ。お前に頼みたい。つっても、お前にとってあいつは……」

「やめて。あんな奴、わたしと何のつながりもない」

フランはきっぱりと言った。

「わかった。わたしが、行ってくる」

フランはざりっと一歩踏み出した。俺は彼を正面から見つめる。

「クラークたちを助けてやってくれ」

「嫌」

「ありが……うえぇ?」

こ、この場面で斷られるなんてあるの?俺が目を白黒させていると、フランがこちらを振り向いた。

「わたしは、あなたのために戦うの。勘違いしないで」

「へ。あ……」

それだけ言い殘すと、フランはたたっと走り出してしまった。遠ざかる背中を見ながら、ロウランがしみじみという。

「いいなぁ。あのコみたいなストレートさ、アタシも忘れたくないの」

……なんも言えん。と、ともかく!頑張れフラン。俺は見ていることしかできないが……

「桜下、ライラたちはどーするの?」

ライラが俺の袖を引いてくる。俺はその手を握ると、前方に注視する。

「今は、待機だ。フランたちを見守ろう。下手にちょっかいかけて、あいつを警戒させちゃならねえ」

クラーク、ペトラ、フランは、セカンドに猛攻を仕掛けている。だがきっと、セカンドも本気じゃない。まずはあいつの本気を引き出さないと、話にならないんだ。

「おらおら、どうしたぁ!三人まとまってもこの程度か!?」

セカンドは悠々と攻撃をかわしながら、そんなふざけたセリフを吐く余裕を見せた。

ペトラの甲殻で覆われた拳を避けると、クラークの剣を化させた腕でけ止める。さらにその剣を押し返すことで、そのわきから鍵爪を突き出そうとしていたフランの前に、クラークを押し出した。二人はぶつかり合ってしまった。

「くっ」

「ぐあっ」

セカンドが拳を振るうと、二人は固まったまま吹っ飛ばされてしまった。その背中に、ペトラが襲い掛かる。だがセカンドは、背中に目がついているのかというくらい正確に、その攻撃をかわした。

「あめーんだよザコが!」

突き出された腕を摑むと、セカンドはおもちゃを振り回す子どものように、ペトラを振り回した。そのままクラークとフラン目掛けて投げ飛ばす。ドガアッ!

「ああっ。くそ、あの野郎……!」

三人は砂煙に巻かれて見えなくなってしまった。なんて奴だ、あの三人相手に……!

「……強いな。やはり」

俺は隣を振り向く。アドリアがいつの間にか、俺たちのそばまでやって來ていた。

「さっきから隙を伺っているのだが、矢を一本も撃たせてくれん。己の無力をこれほどまで痛したことはないよ」

アドリアの表はいつも通りに見えたが、その聲はいつもよりずいぶん弱弱しく聞こえた。

「あいつの尊大な態度は、あの力に裏打ちされたものという事か。まったく……」

「あんたから見ても、そうなのか?」

「ああ。単に力が強いだけでない。技、判斷力、敏捷。どれも極めて高いと言わざるを得ん。武人の域に達していると見て間違いない。あやつは、そういうものの上にあぐらをかいている」

くそ……並外れた武人であるアドリアが、そう評価しているってのか。この場にエラゼムがいたら、彼も同じ評価を下したんだろうか……

「セカンドはきっと、何人もの戦士の技を盜み取ったんだ。今フランたちは、その人たちを束にして相手にしてるようなもんなんだよ」

「一人のに、軍隊が宿っているようなものか……」

「そうかもしれない。けど」

「けど?」

「けど所詮、あいつは一人だ。それに、力は全て盜んだもの。そんな偽の力をいくつ集めたって、フランは負けない!」

「おーい、そんなもんかよって。もっと頑張ってくれよなぁ」

セカンドは倒れたフランたちを煽り立てた。クラークは頭にがかあっと上ったが、フランとペトラは冷靜だ。

「わたしが先に突っ込む。わたしをおとりにして」

フランが二人に告げると、クラークは面食らった。

「そんな!の子をおとりにするなんて……」

「今はいいから、そういうの。わたしは死なないんだから、そうするのが一番でしょ。それとも、死んでもいいって言うなら変わるけど」

そう言われては、ぐうの音も出なかった。ペトラもうなずく。

「それで行こう。クラーク、お前は一番脆いが、一番有効打を與えられるはずだ。我々を盾にし、機を逃すな。分かったな」

クラークは不満でいっぱいだったが、彼が反論を口にする前に、二人はき始めていた。クラークは心の中で舌打ちをし、後を追う。

「やあああ!」

フランが鉤爪を突き出す。片腕を失ったフランは、一番攻撃力が低い。彼はそれを承知で、切り込み役を買って出た。

「なんだよそれ。つまんねー突きだな」

セカンドは余裕をもってそれをかわし、フランの腹に蹴りを喰らわせた。吹っ飛ぶフランだったが、彼は焦ってはいなかった。自分の攻撃は、捨て石でいい。次の一撃を、確実なものにするために……!

「ふっ!」

短い気合と共に、猛加速したペトラが、吹っ飛ばされたフランのから現れた。死角からの急襲と、作の切れ目を狙った二重の不意打ちだ。さしものセカンドでも、これには対応できまい。ペトラはそう睨んでいた。

「だから、つまんねーっつってんだよ」

ペトラは驚愕した。セカンドはまっすぐに、ペトラを見據えていた。この速度、この角度からの不意打ちにすら反応できるなんて。人間の反応速度を越えている。

「おらあ!」

突っ込んでくるペトラに合わせるように、セカンドは彼の顔面を蹴り飛ばした。フランを越える怪力は、ペトラをものけ反らせる。會心の一撃に、セカンドはにやりと笑った。

が、彼はここで慢心した。ペトラは、吹き飛ばされたのではない。のけ反っただけだったのだ。それは、彼がギリギリのとことで反応し、を逸らせて蹴りの威力を抑えていたためだ。

(今だ!クラーク!)

「はああぁぁぁぁ!」

ペトラのから、クラークが飛び出した。ペトラもまた、彼のおとりだったのだ。雷の力によって強化されたから放たれる一突きは、セカンドの心臓を正確に狙いすました。

ガイィーン!

「ぐぅ……!」

「學習しねぇなぁ。お前の剣じゃ、オレには傷一つ付けらんねーよ」

セカンドのを覆うように、黒の鱗のようなものが出現していた。その鱗が、クラークの剣を防いでいる。

「確かに……」

「あん?」

「確かに僕一人の力じゃ、お前の鎧は貫けない……」

「へっ、潔いな。徳ってやつかよ?」

「だがそれは……一人ならの話だ!」

なに……?セカンドはそう続けようとしたが、それよりも早くが反応していた。バックステップで下がろうとするが、間に合わない。

ペトラがを起こし、クラークの剣の柄を目掛けて、蹴りを放っていた。

「ふんっ!」

「はあっ!」

クラークの剣を介にして、ペトラの力が、ゼロ距離でセカンドに伝わった。それと息を合わせるように、クラーク自も剣を押し出す。ビキィ!

「がはぁ……!」

セカンドがよろけた!を覆っていた黒い鱗には、ひびがっている。初めてじた確かな手ごたえに、クラークはが高鳴った。そしてその勢いのまま、追撃を仕掛けようとする。

だが次の瞬間、彼のかなくなってしまった。とてつもない重力に、押しつぶされるようだ……

「やってくれんじゃんかよ……ならそろそろ、こっちも力、出してかないとなぁ……!」

セカンドの目に、怒りが燃えている。ついに奴の能力の一つ、磁力魔法が牙を剝いたのだ。

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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