《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》107 王宮舞踏會 4

新たに知った事実に、私は顔を青ざめさせた。

何てことかしら。フェリクス様が長年舞踏會に參加しなかった理由は、もしかしたら私が原因かもしれないとかに考えていたけれど、実際にその通りだったのだわ。

しかも、クリスタの話の中に登場するフェリクス様は、そのようなことが本當に起こったのかと疑いたくなるほど過激だ。

信じられない思いでフェリクス様を見つめると、視線をじた彼がこちらを向いて穏やかに微笑んだ。

「どうした、ルピア? が渇いたのなら何か飲むかい?」

その表にはどこまでも私を思いやる気持ちが溢れていて、優しい人にしか見えない。

クリスタが虛偽を言うはずはないのだけれど、フェリクス様は気にらない言葉を聞いたからといって、剣を抜くようなタイプに思えないわ。

心を落ち著かせるため、何か飲みたいと思って頷くと、侍の一人がグラスの置かれたトレイを差し出してきた。

け取ったグラスには紫っていて、一見ワインに見えるけれど、実はフルーツジュースなのだ。

Advertisement

というのも、妊娠が分かって以降、フェリクス様が一切のお酒を私から遠ざけているからだ。

グラスを手に持ってゆっくりと口に含んでいると、一組の父娘が近付いてきた。

にこやかな笑みを浮かべて対応すると、父親の如才ない挨拶に続いて、娘が頭を下げる。

「フェリクス陛下、王のご尊顔を拝する機會をいただきましたことを嬉しく思います」

それは赤と緑の髪を持つ年若いご令嬢だった。

の虹髪を持っていることから、高位貴族であることが分かる。

けれど、この10年間眠り続けていた私には、どの貴族家のご令嬢であるのかが分からなかったため、下手なことは言えずに黙っていると、ご令嬢が艶やかに微笑んだ。

「今夜の王宮舞踏會に関して、王から特別に、必ず參加するようにとのお言葉を賜りましたことを非常に栄に思っております。たとえ足が折れたとしても、槍が降ってきたとしても、必ず參加するつもりでしたわ」

その言葉を聞いて、びくりと肩が跳ねる。

Advertisement

フェリクス様が特別に、參加を依頼した?

そう考えて一瞬揺したけれど、そのご令嬢は虹髪を持っているので、フェリクス様が特別に目を掛けることに不思議はなかった。

言うまでもないことだけれど、スターリング王國において、虹髪の者は特別に重寶されているのだから。

気になってじっと見つめていたためか、ご令嬢は私に顔を向けるとにこりと微笑んだ。

「王妃陛下には初めてお目にかかります。バルバーニー公爵家のブリアナです」

正面から向かい合ったことで、ブリアナが非常にしいであることに気付く。

は真っ白いに大きな目を持っており、濃くて長いまつが彼しさを際立たせていた。

平均よりも厚いがとてもなまめかしく、私にはない香を漂わせている。

恐らく私(の実年齢)よりもし年上で、公爵令嬢として高い教育をけているのだろう。

の一挙手一投足は自信に満ち溢れており、とても優雅だった。

「赤と緑のとても綺麗な髪をしているのね」

髪を褒めると、ブリアナは上品に微笑んだ。

「ありがとうございます。生まれた時は一でしたが、7歳の時に2に変化したのです。恐れ多くも、フェリクス王の髪の変化と同じ経緯を辿りましたので、神の不思議な思し召しに驚いておりますわ」

私が返事をするより早く、隣からクリスタが尖った聲を出す。

「お兄様の髪は1から3に変化したのよ。同じではないわ」

「まあ、その通りですね。誤解を招く言い方をして、大変失禮いたしました」

ブリアナは素直に頭を下げた。

フェリクス様はそれらの會話を黙って聞いていたけれど、沈黙が落ちたタイミングで2人に向かって小さく頷く。

「バルバーニー公爵、ブリアナ嬢、舞踏會を楽しんでくれ」

フェリクス様が聲を掛けたことで、2人は退席のタイミングだと理解したようで、頭を下げると去っていった。

バルバーニー公爵父娘の後ろ姿を見ながら、クリスタがむくれたような聲を上げる。

「お兄様ったら、どうしてわざわざ舞踏會への參加を依頼する言葉をブリアナ嬢にかけたのよ! 勘違いされても知らないからね!!」

フェリクス様は何でもないことだとばかりに、さらりと返した。

「虹髪を持つ『神のし子』が近くにいることで、周りの者にも様々な祝福が與えられることはお前も知っているだろう。今日は12年振りにルピアが舞踏會に出席するのだから、できるだけ多くの祝福を集めたいと思っただけだ」

「まあ、お義姉様中心主義のお兄様らしいわね!」

クリスタはフェリクス様の言葉に納得した様子だったけれど、私は小さな違和を覚えたため小首を傾げる。

フェリクス様の言葉に噓はなく、私のために多くの祝福を集めようとしてくれたことは事実だろうけれど、それだけではないように思われたからだ。

フェリクス様は何か別の理由があってブリアナを呼んだように思われたものの、その理由は分からなかった。

―――10年前は、アナイスが『虹の乙』として様々な國行事に參加していた。

けれど、この10年間、アナイスは王都外にいるとのことなので、彼の代わりにブリアナが虹の神関連の行事に參加しているのかもしれない。

そのことでフェリクス様が彼に聲を掛けたのかもしれないわ、と自分を納得させると、私は新たに挨拶をしてきた貴族に意識を切り替えた。

しばらくすると、私は席を立って貴族たちの間を回ることにした。

心配のフェリクス様は誰かが私のお腹にぶつかったら大変だと、私の隣にぴったりとくっついてくる。

その様子を見た貴族たちは皆、驚いたように立ち止まってフェリクス様を見つめていた。

どうやらフェリクス様は、『の舞踏會』のせいで皆から怖がられているようだ。

そんな彼が妃とともににこやかに皆の間を回る姿は、貴族たちに信じられないものに映るらしい。

こうなったらフェリクス様は優しい方だと、分かってもらわなければいけないわね。

多分、『の舞踏會』はものすごく衝撃的だったため、人々に恐怖の記憶として強く殘ったのだろう。

そして、その事件以降はフェリクス様が一切舞踏會に參加しなかったことも相まって、彼の恐ろしい印象が貴族たちの中に殘っているのだ。

そのため、フェリクス様が普通の言葉を掛けるたび、あるいはわずかでも微笑んだりするたびに、皆は信じられないものを見たとばかりに目を見張っているのだろう。

どうやら私が10年振りに人々の前に姿を見せたことよりも、フェリクス様が舞踏會で紳士的な言をすることの方が、皆にとっては衝撃のようだ。

それから、誰もが私たちが話しかけるだけで驚くとともに、嬉しそうな様子を見せるため、出席してよかったと改めて思う。

一言二言わしながら貴族たちの間を回っていると、先ほど挨拶をしてくれたブリアナと彼のご友人一行が視界にってきた。

ブリアナが何事か発言したことに対して、周りの者たちがわっと笑い聲を上げている。

「とても楽しそうね」

王宮舞踏會で楽しんでいる姿を見て、嬉しくなってそう聲を掛けると、全員がはっとした様子でこちらを見てきた。

「王妃陛下、お聲掛けいただきありがとうございます! それから、改めましてご快癒されましたことお喜び申し上げます」

グループの中にいた1人の紳士が、にこやかな表で労わりの言葉を掛けてくれた。

グループの全員が10代から20代のようで、6年前に起こった『の舞踏會』にはくて參加していなかったのか、恐怖の表を浮かべることなく、尊敬の眼差しでフェリクス様を見ている。

「ええ、おかげさまで元気になったわ。夜會を楽しんでいるようで嬉しいわ」

そう返すと、全員が笑顔を浮かべた。

それから、ご令嬢の1人が弾んだ聲を上げる。

「ありがとうございます、王宮舞踏會はとても楽しいです! このような煌びやかな場に參加したのは初めてなので、國王夫妻が主催される夜會は格別だとときめいておりました」

頬を赤くして、元で手を握り合わせるご令嬢の姿はとても可らしかった。

「それはよかったわ。遠くからでも、あなた方の楽しそうな様子は見て取れたわ」

笑顔で返すと、ブリアナが笑みを浮かべて説明を始めた。

「私たちは虹髪が子どもに伝わるという話をしていたんです。私は2の虹髪を持っていますから、夫となる方が同じように複數の虹髪を持っていたら、2以上になることは確実ですわ」

の言葉を聞いて、グループの全員が同意するように頷く。

「2の虹髪を持って生まれてくるとしたら、確実に祝福されていますよね! ああ、ブリアナ嬢の子どもとして生まれてくる者は幸せだ」

「本當にうらやましい! ああ、私がブリアナ嬢の子どもになりたかった!!」

もちろん彼らは何もおかしなことを言っておらず、思っていることを口にしただけだ。

けれど、なぜか―――私が妊娠しているためか、彼らの言葉がに突き刺さった。

私が生む子どもであれば、白の髪の子になるかもしれない。

子どもが長じたとしても虹に変化することはなく、ずっと白のままだろう。

そんな子どもがこの國でれてもらえるのだろうか。

聲を出すことも難しく思えたため、無言のまま立ち盡くしていると、フェリクス様が私の腰にあてていた手に引き寄せられるようにぴたりとくっついてきた。

それから、無言のまま私の頭のてっぺんにを落とすと、私を見下ろしたまま口を開く。

「虹髪に生まれてきたとしたら、神の祝福をいただけたということだから、その子は幸せになれるだろうね。同じようにルピアの子どもとして生まれてきたら、深い母親に世話を焼いてもらえるのだから、やはり幸福になるだろうな」

フェリクス様は私の髪を一房手に取ると、眩しそうに目を細めた。

「私はね、妃を一目見た時に、彼の髪は我が國が誇るレストレア山脈の積雪のだと思ったのだ。我が國をかにして命を育んでくれた、あの壯麗にして荘厳な山の雪と同じだとね。もしも白い髪の子どもが生まれてくれたら、私は幸せだろうな」

それは、その場にいた誰もが発想もしない言葉だった。

フェリクス様の口調は靜かだったけれど、深い思いが込められていることは明らかだったため、その場にはしんとした沈黙が落ちた。

本日、ノベル3巻が発売されました!

的に改稿したので、WEBとはだいぶ印象が変わっていると思います。

甘々な話からコミカルな話、シリアスな話を5本追加しています。

☆フェリクス、會話アップ講座を講する

☆【SIDEフェリクス】ルピアの刺繍と溢れる

☆【SIDEハーラルト】僕の初と妖

☆【SIDE侍ミレナ】王と雙璧の奇行

☆フェリクスが贈れなかったルピアへのプレゼント

お手に取ってもらえればすごく嬉しいです。よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

また、発売を記念して、出版社H.P.にSSが掲載されていますので、よければご覧ください。

★SQEXノベル「代わりの魔

https://magazine.jp.square-enix.com/sqexnovel/novel/2023.html#m12-03

「【SIDE國王フェリクス】文たちと騎士たちによる王妃不老疑

    人が読んでいる<【書籍化】誤解された『身代わりの魔女』は、國王から最初の戀と最後の戀を捧げられる>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください