《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》バルディア家の出陣
狹間砦救援の準備が整い、僕達は新屋敷の玄関に集まっている。
母上、ガルン、ファラ達の他、新屋敷で働く皆が見送りに來てくれていた。
第一騎士団と第二騎士団の面々は、ほぼ全員が狹間砦に向かうことになっている。
ほぼというのは、新屋敷の警護に第一騎士団の一部の騎士に加え、第二騎士団の報局員や工房に所屬する非戦闘員が一部殘るからだ。
とはいえ、工房からもアレックスを主とした狐人族と猿人族の子達を一部、工兵として一緒に現地へ赴くことになっている。
集まった皆の表がし重い中、ファラがニコリと笑った。
「リッド様、父様。お二人とも、そのお姿とてもよくお似合いです」
「そうかな。ありがとう」
僕が照れ隠し頬を掻くと、父上は満更でもなさそうに「うむ」と相槌を打った。
今僕がに纏っている服は、赤と白を軸とした父上と同じバルディア騎士団の制服だ。
バルディア第一騎士団は、赤と黒を軸とした制服。
第二騎士団は、白と青を軸とした制服になっている。
赤と白を軸とした制服は、バルディア家の縁者だけが著ることを許されるもので、一目で立場がわかる工夫らしい。
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ちなみに騎士達の階級は、バルディア家の家紋が用いられた襟章で判別ができるようになっている。
見送りの皆も服裝は正裝であり、母上も車椅子には乗っているけど、ドレスをに纏った凜とした姿だ。
「あの……リッド様」
ファラが恐る恐る呟いた。
「うん? どうしたの?」
「やはり、私の代わりにアスナをリッド様の護衛として連れて行ってくださいませんか?」
ファラは僕の目を真っ直ぐに見據えるが、彼の後ろに控えるアスナとジェシカが首を小さく橫に振った。
「姫様、お気持ちはお察しいたします。しかし、その件はもうお伝えしたではありませんか」
「左様でございます。アスナ様は、ファラ様の専屬護衛を國から任されているお立場。その任務を放棄することは許されません」
「わかっています。ですが……やはり、心配なのです」
彼はそう言うと、目を潤ませて俯いてしまう。
當初、ファラは狹間砦に僕達と一緒に行くと言って聞かなかったのだ。
彼が敵の標的の一つである可能は高い上、そもそも危険な戦場に連れて行くなんてことはできない。
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ファラの希は當然卻下されたけど、同時にあるお願いもしている。
僕は目を細めて彼をの中に抱きしめると、背中をぽんぽんと優しく叩いた。
「父上達と一緒に行くんだから大丈夫さ。それに、アスナは來れなくても、カーティスやシュタイン達は來てくれるんだ。必ず、皆で帰って來るよ」
「……はい」
の中でファラは小さく頷いた。
「それに、お願いした通り、『萬が一』の時は皆を守ってほしい。ファラ、君には君にしかできないことがあるんだ。いいね?」
「はい……承知しております」
彼は再び、小さく頷いた。
『萬が一』とは、狹間砦が突破された場合の事を指している。
アモンの報でグランドーク家の狙いは、バルディア領にある資や資源の可能が高いことが
判明。
また、彼等は奴隷売買によって様々な國の貴族や組織とも繋がりを持っているらしく、ファラや母上も狙われている可能が高いということを教えてくれた。
そうした狀況下、敵は數萬の大軍。
バルディア家は、狹間砦に駐在の騎士達とこれから向かう救援の騎士、冒険者ギルドを通じてかき集めた傭兵部隊をれても一萬には屆かない。
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勿論、勝つための策略は々考えてはいるけど、戦爭とは基本的に數が多い方が有利であり、勝てる保証なんて何処にもないのが現実だ。
狹間砦が突破された場合、通信魔法で報局に殘るサルビアへすぐに連絡がるように手配している。
もし、その連絡がった場合、ファラ達は母上を連れてレナルーテ王國に木炭車で逃げる手筈だ。
帝都のバルディア邸に逃げる方法もあるけど、グランドーク家と帝國貴族に繋がりがある以上、帝都の方が危険度が高いと判斷した。
距離で言えばレナルーテの方が近いし、今後における母上の治療もある。
ファラはレナルーテの元王という點も大きい。
グランドーク家は、帝國と事を構える気は無いから『領地戦』という言い回しをしたのだ。
それなら、レナルーテ王國とも事を構えるようなことはしないだろう。
領地戦とは、國同士で起こす戦爭ではなく、あくまで貴族同士だけで行われる局地的な戦爭だ。
帝國貴族でも、過去には領地の境界線や歴史的背景から『領地戦』が數多く行われていた時期があるらしい。
だけど、勝手な領地戦は國から咎められるため、それぞれの貴族が事前に領地戦を行う理由を皇帝に提出。
認められれば、行われるのが帝國の領地戦だったそうだ。
さすがに、今は帝國では領地戦が認められる例は、ほとんどないらしいけどね。
アモン曰く、ズベーラの領地戦も似たようなものらしいけど、部族同士でいざこざが絶えないため、王の許可を事前に取ることはないらしい。
大が事後報告であり、ある程度のところで王や他部族が仲裁にるのがほとんどだそうだ。
様々得た報から考察するに、帝國とズベーラは國として戦爭をするつもりがなかったんだろう。
だからこそ、國としては我関せず、二家だけで問題解決をんでいたんだ。
もし、二家の爭いに國が介すれば、二國間の全面戦爭になってしまう。
それぞれの國の頂點に立つ人達は、グランドーク家が本當にバルディア家へ攻め込むとは考えていなかったのか、もしくは潰し合いさせる目的があったのかもしれない。
なからず、帝國に君臨する皇帝は、攻め込まれるという考えはなかった可能は高い。
その認識があれば、バルディア領の近くに帝國軍を配備するとか、事前に何かしらのやりようはあったはずだ。
現狀、皇帝のきは後手に回っている。
萬が一にでもバルディア家がグランドーク家に遅れを取るようなことがあれば、帝國の威信を揺るがす事態になりかねない。
自らの権威を失墜させるような真似は、あの皇帝はしないだろう。
もしくは、皇帝の権威を失墜させようとしている輩が暗躍した結果なのかもしれない。
ズベーラの王は、何を考えているのかわからないけど、エルバが次期獣王と目されているのなら、あわよくば潰し合えとでも考えていた可能はあるだろう。
僕はの中ですすり泣くファラの肩に手を置いて、し離すと目を細めて笑いかけた。
「名殘惜しいけど、そろそろ行かないとね」
「……はい、後のことはお任せ下さい。どうか、ご武運をお祈りします」
ファラは畏まってそう言うと、一歩下がった。
彼の目はし赤く潤んでいるけど、もう泣いてはいない。
ファラ達に任せれば、後顧の憂いはない気にしなくて大丈夫だろう。
僕は頷くと、母上に振り向いた。
「父上を助け、バルディア家の勤めをしっかりと果たすのですよ」
「勿論です。必ず、無粋な輩を追い払ってみせます」
僕がを張ると、母上は嬉しそうに目を細めた。
「では、リッド。こちらにいらっしゃい」
「……? はい」
言われるがままに前に出ると、母上は僕をの中に抱き込んだ。
「は、母上?」
思わず目を瞬くと、母上は僕の耳元で囁いた。
「こんな時だけは、母親として貴方の才能が嬉しくも怨めしいです。決して、命を末にしてはなりませんよ」
「……承知しております。決して、そのような真似はいたしません。必ず、メル達と共に帰って參ります故、ご安心ください」
「約束ですよ」
母上は微笑んで頷くと、僕をの中から解放して視線を父上に向ける。
そして、メイド達の力を借りて車椅子から立ち上がった。
そのきに合わせるように前に出た父上は、母上を優しく抱きしめる。
「どうか……どうか、必ず生きて帰ってきてください。ご武運をお祈りしております」
「わかっている。勝利して君達を守ってみせよう」
父上は、母上をゆっくりと車椅子に座らせると、ガルンに振り向いた。
「後のことは、手はず通りに頼むぞ」
「畏まりました」
ガルンが會釈すると、父上は「うむ」と頷き玄関の扉を開けた。
その先には、數多くの木炭車と連結された荷臺が並んでおり、騎士達がいつでも出陣できるよう整列している。
馬車や馬で編された部隊は、すでに狹間砦に向かっており、この場にはいない。
なお、その部隊を率いて先に出発しているのはダイナス達だ。
「では、これより、狹間砦に向けて出陣する」
「はい、父上」
僕は返事をしながら、考えを巡らせた。
バルディア家とグランドーク家の『戦爭』が、いよいよ本格的に始まったことになる。
メモリーを通して前世の記憶が探ったけど、この事変に関する報は何も得られなかった。
母上を救おうと行したことで、何かの歯車が変わったのだろうか。
僕と同じ境遇であるヴァレリの意見も聞きたいけど、彼は帝都にいるから不可能だ。
それとも、死の運命からは逃れられないというある種の暗示だろうか。
いや、そんなことはないはずだ。
現に、母上は生きている。
ガレスとエルバを筆頭としたグランドーク家。
もし、お前達が斷罪と死の運命が寄越した死神だというのなら、必ず僕がその運命をまた変えてみせる。
そう決意し、改めて眼前に広がる木炭車と荷臺。
そして、第一、第二騎士団の団員達を見回すと、手に自然と力がり、拳となって震えていく。
その時、ぽんと僕の肩に手が置かれた。
「……父上?」
「そんな顔では、皆が張する。こんな時こそ、笑うのだ。それに、お前は後ろの皆に言うことがまだあるだろう」
そう言うと、父上は不敵にふっと口元を緩める。
ハッとした僕は、振り返ってファラ達を見回してから、ニコリと微笑んだ。
「じゃあ、行ってきます!」
こうして、バルディア家の本隊は狹間砦に向けて出陣した。
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