《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》リッドと狹間砦
僕達が狹間砦に到著したのは夕暮れ時であり、グランドーク家の軍は引き上げていた。
狹間砦の前後は高原だが、周辺は深い木々が生い茂った小高い丘に囲まれている。
グランドーク家とバルディア家の領地を往來できる大きな道は此処だけらしい。
その唯一である道を、高くそびえ立つ長い城壁で遮斷しているのが狹間砦だ。
砦の外見は、ネットや観寫真でしか見たことないけど、前世の記憶にある『スペインのアビラ城壁』のようにじる。
側からとはいえ、間近で城壁を見るとその威圧は凄まじい。
ちなみに名前の由來は、丘に囲まれた平底谷と國境地點という狹間にあるということで、狹間砦と呼ばれているそうだ。
砦を歩いていくと、狐人族の攻撃によるものと思われる損壊があちこちに見けられる他、砦の城壁を突破してきたのだろう。
狐人族の戦士のも多數転がっている。
當然、こちら側にも死傷者が出ており、砦は治療や対応で騎士達がごった返していた。
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晝間の開戦から、どれだけ激しい戦闘が行われたのか……容易に想像できる景が広がっている。
辺りに漂う異様な景と張のほか、生臭さや焦げ臭さがりじった嗅いだことのない匂いに當てられ、僕は強烈な吐き気に襲われた。
「リッド様。お気を確かに」
「う、うん。ごめんね」
ディアナやカペラに背中をさすられる中、僕の様子に気付いた父上がこちらにやってきた。
「大丈夫か?」
「……申し訳ありません。もう大丈夫です」
口元を袖で拭って答えると、父上は僕の頭の上に手を置いて顔をふっと緩めた。
「お前は初めての戦場だからしょうがあるまい。だが、直に慣れるだろう……良くも悪くもな。では、行くぞ」
「はい」
僕は気を引き締めると、足早に砦の中を進んでいく父上の背中を追いかける。
父上は顔一つ変えず、首や目をそれとなくかして砦の狀況や報をで集めているのが窺えた。
同じように、砦の狀況に目をやって進めば進むほど、これが現実であることを教えてくれる。
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時折、本屋敷で見たことのある騎士、第二騎士団の稽古に參加してくれた騎士が負傷していたり、倒れているのが目にった。
その度にが締め付けられ、同時に相手に対する怒りや憎しみといったが僕の中で生まれていく。
(これが、戦爭か……)
心の中で呟くと、僕は前を向き、父上の背中を必死に追いかけた。
砦の奧に進んでいくと、辺りの建より頭一つ高い小塔が見えてくる。
その塔は回りにある建と比べ、堅牢に造られている一目でがわかった。
あそこが、目的地なのかな? そう思っていると父上が塔前で足を止め、そびえ立つ塔を見上げた。
「ここは、狹間砦の全を出來る限り見渡せるように建てられた司令塔だ。ここが落ちた時、狹間砦は終わる。覚えておけ」
「畏まりました」
僕が頷くと、父上は塔の中にり、勝手知ったる様子で進んでいく。
そして、とある部屋の扉を開けた。
部屋の中には甲冑をにつけた騎士達と、第二騎士団の航空隊に所屬するサリア達が並んでいた。
そして、一人の騎士が父上と僕の前に出て畏まる。
「ライナー様、リッド様。よくお越しくださいました」
「うむ。クロスもよく耐えてくれた。禮を言う」
父上は力強くそう言うと、彼の肩に手を置いて労った。
「とんでもないことでございます」
クロスは、手をに當てながら軽く頭を下げる。
この場にいる皆をよく見ると、クロスを含めて騎士達やサリア達の髪は汗で濡れており、顔も黒く汚れ、目新しい傷を持つ者もいた。
騎士がに纏っている甲冑には細かい傷があり、へこんでいる箇所もある。
返りでも拭ったのか、小さな赤い汚れも目に付く。
彼等はつい先程まで、命を賭してこの砦を防衛していたのだ。
屋敷で接する優しく、穏やかな雰囲気を持つ騎士ではなく、臨戦態勢の殺気溢れた恐ろしくも頼りある騎士の姿がそこにあった。
これが、騎士達の本當の姿か。
僕は息を呑むが、父上は相変わらず顔一つ変えない。
「評定を始める前に、本屋敷で起きた出來事の説明。そして、今回の戦爭で勝利の鍵となる人を先に紹介したい。彼は、アモン・グランドーク殿だ」
その言葉で騎士達の眉がピクリとき、『彼』がこの場の注目を浴びる。
アモンはびくりと肩を震わせるが、深呼吸をして騎士達に力強い眼差しを向けた。
「ご紹介にあずかりました、グランドーク家の三男。アモン・グランドークです。僕……いや、私は、狐人族に革命を起こすため、我が父、ガレス・グランドークを討ち果たす所存。そのため、バルディア家に助力を求めました。どうか、皆様のお力を私にもお貸しください」
騎士達の顔に困のが宿るが、すぐに父上が屋敷で起きた出來事と今後のきについて補足。
アモンが如何に今回の戦爭における重要人かを説いた。
合點がいったらしく、騎士達は納得顔で父上とアモンに向かって「承知しました」と一禮する。
「では、早速で悪いが開戦の狀況からこれまでの戦況、被害を全て包み無く教えてくれ」
「畏まりました」
父上の問い掛けにクロスが答えると、僕達は部屋の中央にある大きな機を囲む。
クロスは、機上で広げられている狹間砦周辺の地図に赤い凸の駒を置いて、指を指しながら説明を始めた。
グランドーク家が狹間砦の前に展開している軍勢は、サリア達飛行小隊による空からの目測により、多めに見積もっておよそ六萬強であると推測されているそうだ。
狹間砦の城壁と向かい合っている橫並びの敵陣形が三つあり、それらが一陣形につき約五千の兵力と目され、総力およそ一萬五千。
さらに、その三つの陣形の背後には、約一萬程度の兵力を有するであろう陣形が縦に四つ並んでいるそうだ。
サリア達が空から見た様子を要約すれば、狹間砦の城壁に対して大きな『T字狀』になっているという。
バルディア家が狹間砦に駐在させていた兵力はおよそ四千であり、僕達が救援としてやってきた兵力は約五千である。
つまり、僕達は一萬に満たない兵力で、六萬強の狐人族を打ち破らなければならない。
數字だけ見れば、あまりに絶的な戦いだ。
でも、父上は「ふむ」と冷靜に頷く。
「相手の戦力と陣形はわかった。まさか、これほどの軍勢をグランドーク家がかせるとはな。それにしてもよくこれだけ緻に調べてくれたな、クロス」
「いえ、これらはリッド様が派遣してくれた第二騎士団のサリア達が、危険を顧みずに報収集をしてくれたおかげです」
彼は、サリア達に視線を向ける。
話を振られるとは思っていなかったのか、彼達は「へ……?」と鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべた。
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