《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》10話 1945.08.15

時に西暦2032年、3月。

のどかな春の時間。

あなたは、久しぶりの休日にのんびりテレビを流し見している。

しずつ春の気配がこの庭園にもやってきました、トーキョーの気溫は現在19度――』

『封鎖されていたイズ市付近の避難命令について、自治から昨日、政府による避難命令解除の打診が來たと発表されました』

『イズが封鎖されてたのはね、これは政府の謀ですよ! 怪種……だったけ? あれもね! ARとかなんかの噓なんですね!』

『でも実際に世界中で甚大な被害が発生しています。現在もホッカイドウとオキナワは立ち止區域として封鎖。今も家に帰れない方が多數存在していますが』

『いいやあれもね、政府の謀ですね、ここ最近の與黨、および閣の軍事方面の強化法案、來年度の予算案での空白會計、軍靴の音が聞こえてきましたよ』

『それにあのサキモリ法案!! あれはもう戦後最悪の法案ですよ! 指定探索者を中心とした事実上の自衛軍以外の戦力保有!ン周辺諸國との関係にも張を與えますし!』

『ここで本日のゲスト。月刊ルーの編集長、石神レキシントンさんにもお伺いしましょう。編集長は現在の政府の対応をどのように見ていますか?』

『んっんー、んこれはですねえ、非常に政府は的確な対応をしてると言わざるを得ないでゴワスwww、皆さん、覚が麻痺してるでござるなwww多分、多賀政権じゃなければ、今頃ニホンはこんな呑気にテレビ番組を放映してる暇ないと思われww』

Ver2.0の世界。

生活の中に自らを喰らう存在、怪種がねじ込まれた世界。

強食の摂理がより近になったその世界。

それでも、まだ人々の営みは続いていた。

ぴろりろりん、ぴろりろりん。

ニュース速報。

TVの畫面、白い文字が點滅する。

《多賀総理大臣。首相邸敷地に押しった何者かにより公務中に拐される》

『えっ』

一瞬顔を変えるキャスター。

プロである彼は表を引き締める。

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渡された原稿に一瞬視線を傾けた後、TVカメラを見つめて。

『――今ったニュースです、畫面でもお伝えしましたが、た、多賀総理大臣が、邸での公務中、何者かにより連れ去られ、拐されたとの報がりました』

『現在、警察、および自衛軍による捜索と追跡が開始されて――』

畫面が切り替わる。

首都在住のあなたはその映像がトウキョウタワーの周辺だとすぐに気づいた。

あわただしい人々、警や迷彩服姿の人員があわただしく行きかう大きな道の中。

した面持ちのキャスターが映る。

『げ、現場の今川です。ご覧ください、現在、多賀総理はトーキョータワー部に拐犯と共に監されているとの事です、周辺の警察、および自衛軍による包囲が開始されています』

『今川さん、スタジオの塩田です! 自衛軍も出しているんですか!?』

『――――っはい、はい! そうです、自衛軍もです! 怪種対策のためのサキモリの要請で自衛軍にも急の出要請がったと報がっています。――え!? アレフチーム!!??』

『今川さん、どうしましたか!?』

『――――はい! 今現場でった報です! 拐犯の元が判明しました!! アレフチームです!! 2028年にバベル島で探索者組合を急襲したのち、バベルの大で行方不明になっていた國際指名手配犯! アレフチームによる犯行との事です!!』

『アレフチーム!? 4年前にあのバベル島再誕祭襲撃事件を起こした!?』

『はい、そのアレフチームが関與していると……げ、現場は混しています。テレビの前の皆さん、またネット回線を通じて覧の視聴者様、決して現場に近寄る事ないように、そして不確かな噂の拡散はお控え頂けるようお願いできれば……!』

『今川さん、不確かな噂とは……』

『――――はい。イズ半島で起きた住民の拉致、いえ、イズ王國を名乗る宗教集団から都市を解放したのがアレフチームのメンバ―であるといった噂が流れており――、あ、そこの方! だ、ダメですよ! そのロープの向こうは今、立ち止で』

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テレビの畫面。

特徴のない顔つきの男が、立ち止テープを潛ろうとしてキャスターに止められる。

『あ、そうなんですか? すみません、近くにアr――……今回はアレフチームか。彼らが來てるって聞いたんでし気になっちゃって……多賀慎二さんは良い仕事をしましたね。なんだかんだ彼をきちんと撃ち放つ事が出來ました。多賀影史さんが後は生かせるかどうかだとは思うんですが……彼は日本……ニホン擔當の彼に脳を焼かれてますからね。いや、まあ多な時期にあんなのと出會ってしまったら一生忘れなくなっちゃうのは仕方ないとはおもいますけど。でも楽しみだな。בָּבֶ֔ל君の思と凡人探索者のきはすでにずれ始めてます。神の王は未だ放たれた弾丸には気づいていなさそうでトゥスクの皆さんにかかりきりのようですしね。天邪鬼のあの人もだいぶ行を制限、ていうかトリックスターが怯えてしまったらもう終わりですよね。ん? 報酬が使われましたね? あ~アレフチーム、それは悪手じゃないかな~あなた達が思うほど人間ってあまり強くないんですよね。北風がヴァイキングを作ったといっても、その前に北風によって死ぬ人間の方が多いわけでして。それと多分、このすぐあと、電波乗っ取られますよ。へ~スワンプマンの予備機なのに機能多いなあ。さすがラドンさんの作品ですね、あ、そろそろ行きますね、お仕事お疲れ様です』

『あ、はい』

テレビの畫面ががくりと下を向く。

あなたは次の瞬間にはもう、今しゃべっていた通行人の名前も、顔も思い出せなかった。

なんだったんだ?

どこかぼーっとした様子の現地キャスターにまたカメラが戻って。

ぶつん。

TVの畫面が暗転した。

あなたは、テレビから目が離せない。

そして、その聲が頭の中に響いた。

《あ、どうも、お疲れ様です、勤勉なニホン國民のみなさん、オイラ、バベルの大です》

《今、衛星にしお邪魔して、皆さんのお茶の間にお邪魔させてもらってます、オイラ的にはバカというかあほというか、まあ、ちょっとやりすぎなんじゃないかなって思う所もあるんですけど、いかんせんバカなので手段を選ぶ気がないっすね。まあいいや。じゃ、すみません、今ニホンにある全てのTV、スマホ、PC、勝手に起して、映像流しますね》

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『では、どうぞ』

……なんだ?

何かの凝った宣伝か何かか?

あなたはいぶかしみつつも、なぜかテレビから目が離せない。

『……あ、えっ、もう映ってんの? マジ?』

『アジヤマ、その聲も聞こえてるよ、ほら、畫面きちんと見て』

『センセイの聲もっちゃってるっすよ~、あ、やべ、俺の聲もだわ』

『……君達、なんていうかその、慣れてないね、ほんと』

『タダヒト、あたしがやろうか?』

『いや、お前は駄目だ、ヘイトをあまり向けたくない。俺がやる』

真っ暗な畫面にが戻る。

そこには、凡庸な顔の男。

し日焼けした以外はこれと言って特徴のないモブ顔の男が映っていた。

『よお、ニホンの人達、話は聞かせてもらった』

『……? ソフィ? タダヒトの言葉おかしくない? 別にあたし達、誰の話も聞いてないわ』

『ああ……うん、そっとしておいてあげようか、アレタ……』

『――今年の夏、世界は滅亡する!!!!』

…………な、なんだってーーーー!!??

◇◇◇◇

1945年8月15日の事だった。

忘れもしない、暑い夏の日。

もうもうと登る分厚い道雲が、青い空にまるで支配者のような顔で鎮座していた。

年、実は今日でお別れなんだ」

「……え?」

「悪いね、突然の……話でもないか。まあ、元々勝ち目は薄かったんだけどね。ブーゲンビルで五十六が死んだのが決定的だったかな、いや、ミッドウェーで多聞丸と蒼龍を喪った時かな。この2つが違っていれば……いやはや、詮無き事だね、今更だ」

「な、なんの話をしてるんですか?」

「失敗とお別れの話だよ、年」

工場での作業を終え、家に帰る。

正午に近い時間。

はいつものように僕の生家の庭先にいた。

その人は現れた時と同じように、唐突に話を始める。

「キミとこうしてお話しする數ヶ月、悪くなかったんだ。キミの話す日本語は心地よい。君のお母さんが作るおむすびとお新香はとても味しい。ああ、お家でいただいたお風呂も良かった……安心してくれよ、戦後、君達の家が苦労しないようにするくらいの段取りはもうしてあるからね」

「戦後……?」

「そっか、まだこの言葉には馴染みがないか。……全く我ながら自分の馬鹿さ加減が嫌になるね。君達のような真面目で誠実な國の民をここまで戦う事だけしか考えないような者に変えてしまった」

そのは出會った時と同じ。

ただ、しく。

僕は、彼のラインがけて見えそうな洋裝、白いワンピースから目を曬す。

夏の日差し。

洋裝をかせて腰のくびれの有り様が見えてしまう。

れたら折れてしまいそうだ。

「何人、死なせてしまったんだろう。ああ、だが彼らの戦、覚悟、何よりその強さは世界に刻まれた。今後なくとも100年、日本を害そうとする國はいない。歐米列強はきっと、日本を屬國にも植民地にもしないだろう……」

「屬國って、お姉さん、ほ、ほんとに何を言って」

ガガガガがガガ。

その時だ。ラジオが鳴った。

『朕、深く世界の大勢と帝國の現狀とに鑑み、非常の措置をもって時局を収拾せんとし、ここに忠良なるなんじ臣民に告ぐ』

「……え?」

ラジオから響くその聲。

誰の聲かも分からないそれ。

でも、僕は無意識に膝を折ってその場に屈んでいた。

録音された雑音混じりの放送。

でも、どこか。優しい、聲だった。

『しかれども朕は時運のおもむくところ、堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、もって萬世のために太平を開かんとす』

近所の家からも似た放送が聞こえる。

そして、誰かがんでる聲とか、泣き喚いてる聲とか。

年」

りりんん、りりりりりん。

夏のそよ風が、風鈴を鳴らす。

の黒い絹のような髪を、さらり、すいていく。

のシミひとつない白い腳、水桶に付けられていたそれがすくっと持ち上げられる。

「夏がそろそろ終わるね」

麥わら帽子のつばの奧。

夏空と同じの溢れそうな瞳が、綺麗で、

何故だろう。

僕はその時、もう死んでもいいと思ってしまった。

僕はその時、僕はこの時の為に生まれてきたんだと思えた。

の黒い瞳に映る僕は、それはもう間抜けな顔をしていた。

「行って、しまうんですか?」

無意識にれた言葉だ。

今でもなぜあの言葉が出たのか、わからない。

ラジオの放送は続く。

近所から響く慟哭の聲。

――それは日本の敗戦を伝える放送だとようやく気付いた。

「ああ、お別れだ。もう2度と會う事もないかな」

「……あ、そう、です、か」

「ふふ、年、泣くなよ、男の子だろ? 君が泣くと私も悲しいよ」

「な、なんで。なんで、もう會えないんですか?」

「……多くを死なせすぎたんだ、私は」

「お、お姉さんが、何を言ってるか、僕には半分も分からない……なんで、ですか」

「負けたからさ。責任を取らないといけないんだ。でも、これで良かったと思えるかな、本土決戦になればこの國はここで終わっていたかもしれないからね。――2028年、いや最低でも2025年、彼がはじまりの探索者として大に挑むまで、日本は存続しなければならないんだ」

「たん……さく?」

「ああ、いや、今は何の意味もない言葉さ。未來って奴は不確かでね。見る人によってゆっくりきを変えていく。……君の未來もすごく楽しみだったんだよ、年。できる事なら、ずっと見守っていきたかったほどにね」

くすくすと微笑む彼の顔。

見てるだけで、がきゅっとせつない。

心臓が妙なきをしている、何度その笑顔を夢で見ただろう。

「なら――」

「けど、もうだめなんだ。私の長い旅はここでおしまい。まあ、でも戦後の事、実はあまり心配してないんだ、アレはきっと裕仁君と相がいいだろうから殺しはしないだろうし、この國の民は皆しぶとい。日本はこれから強くなるんだ。かの世界最強國に真正面から挑み、そして不死鳥のごとくよみがえる我が國を、世界はもう無視できない」

お姉さんは靜かに笑う。

僕に向ける靜かな花のような笑顔じゃない。

狂人が、狂人にのみわかる楽しみを見出したような顔で。

「ああ、そうだ。やったんだ、私は。2028年までを確保した。これで、良かった」

「お、お姉さん……」

あの時はじめて、自分が子供である事が悔しいとじたのを覚えているよ。

僕はく愚かで純粋で何も知らなかった。

故にきっと、私は彼の闇にれる事さえできなかった。

人と繋がるとは、その人の闇にれる事と同意だろうに。

『宜しく 挙國一家 子孫相伝え かたく神州の不滅を信じ 任重くして道遠きを念い 総力を將來の建設に傾け 道義を篤くし 志を堅くし 誓って國華を発揚し世界の進運に後れざらんことを期すべ』

「はは、裕仁君。相當練習したね。――年、この放送を忘れないでおくれよ。神州とまで言うつもりはないけどさ、この國は良い國なんだ」

もう、彼の狂気はどこにもない。

僕は、2度と彼の闇に狂気にれる事は出來ない。

「私はね、この國の全てが好きだった」

「春、目を覚ました鳥達の聲を聴きながら暖かい教室で居眠りするのもいい。夏、海の音を聞きながら満點の星空を見上げて眠るのは良い、秋、どんどん早くなっていく日のりに夏の終わりをじながら進む帰路、冬、世界に誰もいないんじゃないかって錯覚するようなあの寒い、日が出る寸前の夜」

歌うような彼の聲。

雑音じりの放送が、夏とこの國の戦いの終わりを告げる。

ああ、僕は理解していたんだ。

「完されていた。そして何より素樸で穏やかで、でも腹の底には一本の芯がある人々。私はね、この國の人が大好きだったんだ」

本當に終わりなんだって。

でも、あの時の僕はどうしても、どうしても、子供で。

「――いやだ」

「うん?」

「いやです、會えないなんて納得できない……!」

涙が止まらなかった。

止め方も知らない。

「はは、これは參ったな、友人に泣かれるのはつらいよ、年。……ああ、でも、わかるよ。逝ってしまう友人を見送るのも辛いよな。多聞丸や五十六を送った時もそうだった。……でもね、年、私は責任をとらなければならない」

「わからない、お姉さんがなんの話をしてるのか! 僕が愚かで、視野が狹くて、子供だからわからないんですか!?」

ああ、けない。けないな、畜生。

涙が止まらない、鼻の奧が痛い、きゅうってして辛い。

「――ああ、そうさ。君が愚かで、視野が狹くて、子供だからわからないんだ」

「――あ」

僕は、聞けなかった。

「多くを殺してしまった。殺させてしまった。死なせてしまった。私は未來の數億人を生かす為に、今の300萬以上を死なせた」

「誰も、死にたくなんてなかったんだ。明日を夢見る若者もいた。その明日を楽しみに思う親がいた。家族のために汗水流して働く父を。家族を守り、慈しむ母を。今日よりもずっと良い明日を創る子供達を。そんな何よりも尊い人の営みを私は銃弾と刃に変えたんだ」

この時、初めて僕はお姉さんを怖いとじた。

この人は、為すべき事を為した。

それが多くの人の生活を営みを幸せを奪うとわかっていてなお。

「そして、負けた。皆にそこまで差し出させて、それでも、負けた。必要な負けだった事は否定する気はない。でもね、負けは負けだ。敗北にはそれなりの最期が必要なんだよ」

それは僕なんかではれてはならない領域だったんだろう。

の地獄は彼が生み出したものだ。

「だから、さよならだ。年。君と過ごした半年間、本當に悪くなかったよ」

そうして彼は立ち上がる。

と確信があった。

きっとこうして初めて現れた時と同じだ。

炎のように現れて、炎のように消えていく。

「――!!」

この時、私は自分が何をんだか、もう覚えていないんだ。

でも、去り行く彼は立ち止まり、こちらを振り向いた。

年。じゃあ一つ最期に、お願い事をしていいかな?」

「は、はい……なんでも、だから、どうか……」

「ふふ。いいのかい? これはきっと呪いだよ。私が君にせるのは、呪いでしかない。それでもいいのかい?」

首を縦に振るしかない私。

困ったように笑う彼は、私の前でしゃがみ、私と目線を合わせる。

蒼い瞳だった。

は日本の人間じゃなかった。

でも、きっと誰よりもこの國をしていた。

「この國をしてくれないかな」

これは、彼した呪いの話。

「これから先の世。世界は、人間の世界は大きな転換を迎える。人間は己よりも強大で賢く、殘酷で恐ろしい存在と戦い続けなければならない。もう、決まってるんだ」

「多くの人が死ぬだろう。多くの國が消えるだろう。でもね、私はこの國とこの國の民が好きだ。滅んでほしくない」

「だから、君に任せていいかな、この國を」

僕には彼が何を言ってるか本當にわからなかったんだ。

でも頷いた。それしかできなかったからね。

「ああ、何を言ってんだって顔だね。はは、キミはよく顔に出る。……この懐中時計、あげるよ。ずっとしいって言ってたろ?」

が首に掛けてる鎖を外す。

繋がれた懐中時計は、彼とのたわいないやり取りでいつも話題に上がっていたものだ。

違うんだ。本當は時計なんてどうでもよかった。

そういうものを持っていれば。貴に、貴と対等になれるんじゃないかって。

ただ、それだけだったのに。

「使い方はいずれわかる。時計盤がきっと、君に何度でも立ち向かう力とチャンスを與えてくれる。――ああ、覧。止まっていた針がいているだろう?」

かち、かち。

が持っていた時は、ぴくりともしていなかった針が時を刻む。

「譲渡は完了した、今日より我が大の保有者は君だ、年。――多賀年」

風が吹く。

がかぶっていた麥わら帽子が、夏の空へ旅立つ。

けて揺れる彼の黒い髪が、夏の日差しをけて輝く。

「今日より、君こそが我が後継。君、死に給う事なかれ」

蒼い瞳が、私だけを映す。

私はその蒼い瞳にとらわれる。

「我がしき八島の國を。この國の民を任せる。――願わくば、この今度は君が、――」

もう、この先は思い出せない。

ああ、これは夢だ。

私の旅の始まり、私の人生の始まった日。

あの日、日本が負け、彼が去ったある夏の日の出來事。

ああ、――さん。

貴方は最期になんと言ったのだろう。

ただ、それだけが思い出せなくて――。

「よお、総理殿、目は覚めたか?」

男の聲が、夏の夢を終わらせた。

◇◇◇◇

「タダヒト、あまり暴しちゃだめよ? ミスター多賀は非戦闘員、丁重に扱う事、いい?」

「了解、アシュフィールド」

「ならよし!」

「ふむ、これがトーキョーの誇る複合電波塔、トーキョータワーかい。どうだい、ハートマン、通信のジャックは可能かな?」

『ソフィ・M・クラーク特別佐!! 問題ない! 現在、電波ジャックの進行中! ラドンのした拡張機能を使えば、ラドンテックのスターアローシステムもジャック出來るぞ!』

「げっ、ハートマン、お前そんな事もできるんすか? スターアローシステムって高速衛星通信網っすよね? バベルの大の通信もそこから取ってたような……」

ここは、どこだ……?

一面窓ガラスの壁、そこから見えるトーキョーの街並み。

そして、場所を同じく黒い裝甲車両かが當たり前のように鎮座している。

ああ、やけに風をじると思えば、すぐ近くの窓ガラスが大きく割れて吹き抜けのように。

なるほど、裝甲車両で無理やり乗りれたのか?

――は? 待て、裝甲車両だぞ? どうやって、こんな眺めの場所まで運びれた?

ああ、ちくしょう、どうして、どうしてこうなった。

私はここがどこか、理解してしまった、

「トーキョータワーのメインデッキ……」

連れ去られたんだ、彼らに。

「お、さすがは総理。寢起きでよく頭が回るな。楽にしててくれ。飲みとかいる? アシュフィールド、インスタントのコーヒーってまだあったっけ?」

「ハートマンのトランクの中にあるわよ? 淹れてこようか? あ、お湯沸かさないといけないわ、どうしよ」

アレフチーム……味山只人……!!

恐るべき存在。4年前、探索者組合を、いやバベル島を敵に回し、生き殘った男。

……ホッカイドウとオキナワを墮とした”アジヤマタダヒト”と同じ名前の探索者……。

そして、本來なら私が守るべきこの國の若者。

ーー日本を破壊した、凡人ソロ探索者。

「……いやよしておこう。今日は朝から公務でね。コーヒーをすでに5杯は飲んでいるんだ」

「ありゃ、そりゃ、仕事の邪魔をしちまったな。政治家は忙しいんだろ?」

「まあ、君達ほどじゃないかな……」

――既に覚悟は決めている。

妻も娘も敏い人間だ。私がいなくとも大丈夫だろう。てある。

だが、最期の最期まであきらめるつもりはない。

どれだけ慘めだろうと、どれだけけなくとも。

まだ私は死ぬ訳にはいかない。

「……サキモリは、私の部下は――」

「あ? ああ、あいつらか。仲良く同じ所にいるだろうよ」

――済まない、皆……。君達の命を、私は。

「言いたくないが、し実力不足だな。を持ってる奴も何人いたが、アシュフィールド1人に完封されるようじゃ、ちょっとな」

「ふふん。アジヤマ。それはし酷な話さ。ワタシのアレタは世界最強の探索者にして保有者だ。遅れをとるのは仕方ない事さ」

「あー……そこには確かに同意なんだが。これから環境変わるからな。アレタ・アシュフィールドと戦いが立するってのが戦力としての最低ラインにしたいんだよな」

……アレタ・アシュフィールド? 何者だ?

あの味山只人と、52番目の星(ソフィ・M・クラーク)がこんな評価をする探索者。

そのような傑がこれまで表舞臺に立っていなかったのか?

「おっと、話が線したな」

「……西表君は」

「ああ、あいつか。まあまあだった、今は、シエラチームとかいう連中と一緒だ。安らかに眠ってるよ」

――西表君のみならず、シエラチームまで……!?

味山只人、恐るべき男だ。

特級指定封印の指定はやり過ぎではなかったわけだ。

「禮を……言うべきかな。報告で聞いてるよ。他の特級指定封印は君が再び、封印し直してくれたとね」

「ああ、あの化け達か。ありゃなんだ? 怪種とも神種ともし違ったじだったな。でも、偶々タイミングが良かっただけだ。もう同じことは出來ん」

読めない。

まるで海や山と會話しているような錯覚だ。

そして、この味山只人のリラックスしている表……

ふ……そういう……事か。

狀況は最悪。

サキモリは既に、彼らに敗れた

「全て、お見通しという訳だね」

「お? おお。さすが総理。話が早いな」

彼にとって私は復讐の相手という訳だ。

かされているのだろう、私の駆け引きも言葉も全て時間稼ぎに過ぎない、と。

「いや時間稼ぎは意味がない。誠に恥ずかしい話だが今から君と話したいのは」

「おお、そうそう。総理殿用事があるんだよ、アンタに。大切な話だ。アンタと話したいのは」

私の死に場所はここではない。

なんとしても生き殘り、私はーー

「命乞いだよ、味山只人君」

「8月31日にニホンが死ぬ、多賀総理」

「「ん??」」

なんて?

「……待て、味山君、君は何を話すって?」

「え、いやだから最初からずっと言ってるんですけど。総理、アンタと話がしたかった。8月31日からの報告があるって」

「……君を封印したニホン、私へ復讐しにきたのでは? 君は敵を決して許さない男のはずだ」

「あ~そこはまあ、それどころじゃないというか。まあ、俺も俺の仲間も今んとこ全員無事だからいい。あ、もし負い目があるんなら貴崎の謹慎はどうにかしてやってくれよ。あいつ、俺をかばってくれたんだろ?」

「……あ、ああ。――それどころじゃない? 待て。待ってくれ。味山君。君は、何を知っている?」

なんだ、この違和は。

彼と全く話がかみ合わない。

話の最初からずれていたように。

「いや~まあ、俺もどこから話していいか。アレフチームの連中と話すのとは訳が違うしよ~、あ、そうだ、ええっと……お、あった」

彼が懐から何かを、いや、手帳を取り出した。

古ぼけた黒茶の手帳。

――は?

なぜ、君がそれを。

「もしかして、同じを持ってんじゃないか?」

震える手で、私はスーツのポケットを探る。

頼む、落としててくれ、そんな妙な事を願いながら――。

「あ……」

無意識に取り出した手帳、そして目の前で味山只人が持っている手帳。

牛革についた傷、汚れ、くたびれ合。

見間違えるはずもなく、その手帳は。

「私の、手帳……?」

「ああ、アンタからけ取ったもんだ。――2032年、8月の多賀総理からな」

――あ。

バカか、私は。

なぜ、その可能に行きつかなかった。

なぜ、その発想に至らなかった。

「ア(・)ン(・)タ(・)からの依頼だ。全部滅ぼせってな。で、そのためにはまず。この手帳を渡せって頼まれたんだ」

味山只人から渡された手帳をけ取る。

靜かにページをめくる。

ああ、ちくしょう。

まだ私が書きれた覚えのない5月以降のページがびっしりと書き詰められていて。

【私から私へ。ああ、予想通りだ。このままでは君は失敗する。守るべきを守れず、すべて奪われ、ニホンは、いや、”日本”は終わる】

あああ……あああああああああ。

私の字で書かれたそのメッセージ。

そこに描かれているのは、この先の未來。

4月から8月の間にこの世界で起こる出來事。世界が終わるまでの日記帳。

そして、手を止める。

【最悪の未來だろう? だが、すでに依頼は発行したつもりだ】

「……え?」

【私は駄目だった。あの恐怖が拭えなかった。だが、私よ、もう戻れぬ私よ、君に私の銃弾の世話頼みたい】

なんだ、この文章は。

【引き金だ、私が引いた。そして行く末を見屆けるのは、君だ。1945年の8月15日をきっと、共有している私よ】

ページをめくる。

【夏の約束を今度こそ。私が果たせなかった彼との約束を、今度こそ】

「総理殿、依頼の確認だ。敵は神種。ニホンをぶっ殺そうとしてる怪ども。あれ、全部ぶっ殺そうぜ――」

男が笑う。

私の國を壊した男と同じ顔で。

味山只人が、嗤って。

「今度は一緒にな、多賀総理」

【今回は味山只人が、我々の味方だ】

読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!

凡人探索者3巻、來週発売!

ダンジョン配信したり貴崎とあのインチキオカルトショップに出掛けたりナイトプールで雨霧達と遊んだり、アイツのアイツが現れたり。

クリスマスは是非、味山とWEB版にはないバベル島の探索をお楽しみ頂ければ!

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