《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》31-3
31-3
「くっくっく……カモが、のこのこ殺されに來やがった」
セカンドはニヤニヤと笑いながら、俺がよたよた近づいてくるのを待っている。ふぅ……さて、このくらいでいいか。セカンドとは、おおよそ五メートルほどの距離だ。ここまで歩いてくるのさえ、今の俺には気が遠のきそうなほどの重労働だ。
「で?そのおもちゃで、オレと勝負しようってか?」
おもちゃ?ああ、俺の短剣のことか。剣を持つ腕はだらりと垂れていて、とても戦う姿勢には見えないな。しかしまあ、これが今の、いっぱいのファイティングポーズだ。
「まあな。お相手願おうか」
「おいおい……最後がこれかよ?締まんねーなぁおい。なんかこう、ないの?最後に仲間の絆で、バァーっとパワーアップ!みたいなさ」
セカンドは芝居がかった仕草で、やれやれと両手を広げた。できれば、あまり無駄口を叩きたくはないんだけど。それだけの余力もないんだっての、こっちはさ。
「あったらとっくに使ってる。あんた、王道展開が好きなのか?」
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「いいや。味気ねぇって言ってんだよ。だってお前、ぶっくくく……ザコすぎだろ!」
これ見よがしに指を突き付けてきやがる。くそ、いちいちムカつくヤローだ。
「なあお前、ほんとに勇者か?」
「だからやめたんだよ。さっきも言っただろうが」
「あー、そうだったか?でもやっぱ、お前もあの金髪クンも、バカだよなぁ。結局こうして死ぬことになるわけだ。報われねえな、勇者ってのは」
ふん、決めつけてくれる。まだ俺が死ぬとは限らないじゃないか?……我ながら、し白々しいか。
「しっかしよお。なーんでそんなに、連中の肩持つかねえ。お前ら、あれ知ってんだろ?勇者の召喚についてとか、コイツのこととかさ」
セカンドはそう言うと、に下がっているガラスの鈴……エゴバイブルを、くいとつまみ上げた。
「ああ、知ってる。不運にもな」
「いいや、そいつは幸運だってもんだぜ。おかげでお前は、シンジツってのを知れたわけだ。だってのに、どうして目を覚まさねえかね?お前らの脳ミソは、このちんけなガラクタにいじくり回されてるんだぞ?」
ピン、とセカンドが鈴を指ではじく。俺の元のアニが、かすかに震えた気がした。
「分かってる……でも俺にとって、アニは大事な仲間だ」
「アニ?お前、このガラクタに名前つけてんのか?うへー、筋金りだなこりゃ」
セカンドは元を押さえてさすると、そのまま親指を突き立てた。
「なら、おバカなお前に教えてやる。これは、ただの道だ」
セカンドは鈴をぶらぶらと揺らす。
「知ってるか?こいつらは、元々はオレたちの魂の一部だったモノだ。だからオレたちになじみやすいのよ。でっけえ星にちっぽけな衛星が近づきすぎたら、どうなると思う?」
な。こいつ、まさか……
「ククク……こいつには、オレの魔力をたっぷり流し込んでやったのさ。こいつ自の自我はもう殘っちゃいねえ。道は道らしく、持ち主の言う事を忠実に聞いてりゃいいと思わねーか?」
自我を、消しただって?俺はギリッと奧歯を噛んだ。
「お前は……なんとも、思わなかったのか?そいつを、消してしまう時に」
「おいおい、まーたお説教か?勘弁してくれよ、たかだかモノふぜいによ」
「それだけじゃ、ないだろう。お前は、他にも」
「だーかーらー、うぜえって。じゃあ訊くが、節度ある正義を守ったいい子ちゃんがどうなった?ああ?」
俺は言葉に詰まった。奴は構わず続ける。
「死んだ!ファーストも、おめえらのバカも、みんななぁ!んなもんは、全部言い訳にすぎねーんだよ!テメェが弱い理由を、だとか正義だとかで覆い隠してるだけだ!」
「そんなことは、ない。クラークは……」
「じゃあ、訊いてやるよ。そいつは一度だって、戦うのを拒まなかったのか?正義のために盡くすのをよしとしたのか?」
っ。俺の脳裏に、數時間前のクラークがありありと浮かび上がる。
「それは……」
「違うだろ?違うだろうが!そうだ、誰だって本當は、秩序も正義も守りたいなんざ思ってねえ!誰だって自分の思い通りに、自由に生きてえと思ってるはずだろ!それだできねえのを、弱さと言って何が悪い!」
くっ……だが俺は、首を橫に振る。
「違う……それでも、お前のやり方は。お前は、誰かの自由を踏み付けるだろ」
「ハッ、踏み付けただと?だったら最初にそれをやったのは、向こうが先じゃねえか!」
え?向こうって……誰のことを、言ってるんだ。すると突然、クラークは意味の分からないことを訊ねてきた。
「おいテメェ!オレの名前を言ってみろ!」
「は……?」
「言えよ!ああ?言えるのか、オレの名を!」
いまさら、何を言っているんだ?そんな分かり切った……
(いや、ちょっと待てよ)
セカンドの、名前?
「……」
言え……ない。俺は奴のことを……“セカンド”としか、知っていない。
「そうだ!答えられねーよなぁ!“勇者セカンド”だと?ふざけんな!オレにはオレだけの、自分の名前があったんだよ!」
そうだ。ファーストも、セカンドも、それは通り名に過ぎない。彼らにだって、本名があったはずなのに。どうして今まで、それを気にすら留めなかったんだろう。
「教えてやる!オレたちは、名前を奪われたんだ!過去の記憶だけじゃ飽き足らず、王國のクズどもは、オレがオレである証すらも奪いやがったんだ!」
名前、すら?だけど俺は、自分が誰なのか忘れたことはない。
「でも、俺たちは」
「テメェらぬるま湯世代は、そこまでの記憶作はされちゃいねーみたいだな。オレが召喚された時は、とっとと魔王との戦爭を終わらせたいお偉いさんたちがウヨウヨいたんだ。連中は“強い勇者”のためなら、なんだってやったんだよ、くそったれがッ!」
「強い、勇者……」
「ああ、そうだ!ファースト、サード、そしてセカンド!これは全部、そのままの意味だ!一號ファースト、二號セカンド、そして三號サード!」
そんな……それじゃあまるで、機械じゃないか……
「これほどの仕打ちをけても、奴らに守る価値があると思えるか!?あいつらは、勝手にオレたちを呼び出しただけだ!頼んでもねぇことをされて、なんで謝して盡くさなきゃいけねぇ!そいつらをぶっ殺して何が悪い!面倒事は全部押し付けて、自分たちだけ平和になろうとしてる連中をぶっ殺して、何が悪いってんだ!」
セカンドのびは……に、刺さった。俺だって、同じことを考えたからだ。この世界に初めて召喚された時、あの暗い牢獄のなかで、確かにそう思った。
「どうだ!答えてみろ、おい!」
「……分からない、とは言わない。俺だって、同じことは考えたから」
セカンドは、満足そうにうなずいた。
「やっとわかったみてぇだな。これは、正當な復讐だ。奴らは、オレたちをげだ。今度はオレたちが奴らをげる番だ。そうだろ?」
復讐、か。どこかで聞いた話だな……確か、燃える松明の話だった。
「どうだ、なあおい。いい加減、目を覚ませよ」
セカンドは打って変わって、嫌に親切な聲特徴になった。
「わかっただろ?あいつらに盡くしたところで、何一ついいことなんざねえ。だったら、もっと楽しく生きる道を選べよ。そうすりゃ、何にも縛られずに、最高に自由に生きることができるんだぜ。どっちが賢いのか、分かるよな?」
そう言ってセカンドは、片手を差しべてきた。痛みと疲労で朦朧とする俺には、その手が救いの髪が差しべた手に見えた。あの手を取れば、俺はあらゆる苦しみから解放される……元々俺は、自由を手にれるために、あの牢獄から逃げ出したんだから。
俺は、乾いてひび割れたをらせると、ゆっくりと口を開いた。
「俺は……」
つづく
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