《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》捕虜の戦士
「君のことはリックから何度か聞いたことがあるし、何度か顔を合わせたこともある。カラバ……で間違いないかな?」
アモンの優しい問い掛けに、彼はコクリと頷く。
でも、直ぐにハッとしてアモンを舐めるように見て睨みつけた。
カラバの瞳は、相変わらず憎しみと怒りが宿っている。
その様子にアモンが戸っていると、クロスがカラバに付けている猿轡を外し始めた。
「暴れるなよ。今、目の前におられるのは正真正銘、グランドーク家の三男。アモン・グランドーク殿だぞ。貴殿に々と聞きたいことがあると仰せだ」
猿轡を外されたカラバは、口の中に溜まった唾を床に吐き捨て、アモンをじろりと睨む。
「……確かにアモン様と良く似ているな。だが、バルディア家には『化』が使える狐人族や貍人族がいると聞いてるぜ。姿だけじゃ、本人かどうかわかりゃしねぇ……。何せ、バルディア家は渉と言っておいて、アモン様やリック達を騙し討ちにした外道だからなぁ。よく似た偽者ぐらい、すぐに用意するだろうぜ。なぁ?」
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カラバの挑発と怒り、様々ながり混じった怒號が響く。
クロスは眉を顰めるが、僕とアモンが何も言わないのでかない。
僕達がすぐに返事をしないでいると、カラバは「はは」と口元を緩めた。
「ほれみろ。何も言い返せねぇんだ。よく似た偽者に、誰が口を割るっていうんだよ。俺だってなぁ、戦士の端くれだ。死んで上等……絶対に仲間を売る真似はしねぇのさ」
彼はそう言うと、この場にいる僕達を鋭く睨みつけた。
「アモン様はなぁ……狐人族の希だった。それに、お前らに殺された奴らはよ。皆、俺より才能があって良い奴らだったんだ。それを騙し討ちした挙句、アモン様の『首』を投げ込みやがって……絶対に許さねぇ」
カラバの鬼ような形相に、思わず息を呑む。
でも、彼はいまとても重要なことを言った。
『アモン様の『首』を、バルディア家が狐人族の陣営に投げ込んだ』
勿論、そんなことを僕達はしていない。
おそらく、グランドーク家が自軍の士気高揚と侵攻の大義名分のためにでっち上げたのだろう。
真実は違うけど、『アモンがバルディア家に渉に出向き、狐人族の領地に戻っていない。加えて、リック達が死亡した』というのは事実だ。
『首』というのは、グランドーク家が用意した替え玉か何かだろう。
事実を元に、真実を都合の良いように捻じ曲げた自作自演。
マッチポンプというやつか。
「父上と兄上……いや、ガレスやエルバが考えそうなことだ」
アモンは低い聲で呟くと、カラバの瞳を真っ直ぐに見據えた。
「私……いや、僕がアモン本人であることを証明したい。リックのことでも、何でも質問してくれ」
「は……ふざけんなよ。リックの事をまるで知っているような口ぶりだな。じゃあ、あいつの妻の名はなんだ?」
「……リックの妻は、彼の馴染みの『ディジェ』だ。彼はリックに結婚を申し込まれたとき、『告白が遅い』と怒ったそうだよ。それから、二人の子供の名は『ディアス』と『トラシア』。雙子の男の子との子だ」
挑発するような問い掛けにアモンが冷靜に返事をすると、カラバの目は點となった。
「……⁉ い、いや、そんなはずはない。じゃ、じゃあ……」
彼は困した様子で、矢継ぎ早に質問していく。
アモンは、その問い掛けにじることなく、優しく答えていった。
やがて、カラバの態度にも変化が現れる。
瞳から憎悪のが消え、悲しみと喜びがりじった複雑なに変わっていく。
「本當に……本當に、アモン様なんですか?」
「あぁ。僕はアモン・グランドーク、本人だよ。信じられないかもしれないけどね」
質疑を経て、カラバはようやく目の前にいるアモンが本人であると認めてくれたらしい。
彼は、目に涙を浮かべて首を激しく橫に振った。
「とんでもないことでございます。數々の無禮なお言葉。どうかお許しください。アモン様が生きていてくださり、本當に良かった……本當に……」
カラバは目を伏して呟き、すすり泣いている。
「彼の拘束を全て外してあげて。もう大丈夫だと思う」
「畏まりました」
クロスは僕の指示に従い、カラバの拘束を外していく。
自由になった彼は、ゆっくりと顔を上げた。
「恐れながら、アモン様の護衛をしていたリック達はどうなったのでしょうか?」
「彼等は……全員亡くなった。エルバとガレスの策略によってだ」
手を怒りに震わつつ、アモンは靜かに答えた。
カラバは、その言を目の當たりにして息を呑む。
「リック達の最期を……詳細を伺ってもよろしいでしょうか?」
「辛い話になると思うけど、それでも聞くのかい」
問い掛けにカラバが頷くと、アモンはバルディア家の屋敷で起きた慘劇を彼に淡々と語っていく。
やがて、カラバは肩を震わせながら目を伏せた。
アモンの語りが終わると、彼は手を拳に変えて力一杯に床を何度も叩き、「うがぁああああ」と慟哭を響かせる。
「リック達は、何のためにアモン様に仕えていたんだ。あんまりだ……あんまりすぎる。それじゃあ、ただの無駄死ではありませんか⁉」
カラバがうずくまって嗚咽をらす中、「確かにそうだね」とアモンが彼の肩に優しく手を置いた。
「今のままじゃ、リック達は君の言うとおり無駄死になってしまう。だけど、そうはさせない。彼等の志は僕が継ぐ」
「……?」
彼が首を傾げながら顔を上げると、アモンは微笑んだ。
「僕は、バルディア家の力を借りて決起する。父であるガレス・グランドークを討ち果たし、狐人族を本から変えるつもりだ」
「……⁉」
アモンの瞳は決意のに染まっている。
カラバは、信じられない様子で目を見開いた。
「どうだろうか、カラバ。君の力も僕に貸してくれないか?」
「本気ですか?」
「こんなこと、酔狂で言えることじゃない。それに、リック達の志を継いだと言っただろう? 僕は、ガレス達と決別する。グレアス叔父上がその道を選んだように」
淀みない、真っ直ぐなアモンの答え。
カラバの瞳に強いが燈った。
「承知しました。私の力で良ければ、アモン様に捧げます。どうか、お使いください」
「うん、ありがとう」
畏まり、一禮するカラバ。
そんな彼の肩に、アモンは再び優しく手を置いた。
一連のやり取りを橫で見ていた僕は、をで下ろす。
これで、新たなの報が得られ、勝利に一歩前進できるはずだ。
でも、『渉』までの時間があまりない。
僕はそれとなく、懐中時計で時間を確認してから、「話はまとまったようだね」と切り出した。
「じゃあ、早速だけどグランドーク家の陣営と狀況。それから、さっき君が言っていた『首』と『だまし討ち』の件。全て教えてほしい」
カラバは訝しむようにこちらを見つめるが、すぐにアモンが首を橫に振った。
「大丈夫。この方は、力を貸してくださったバルディア家の嫡男、リッド・バルディア殿だ」
「な……⁉ 大変、失禮しました」
彼は僕の正がわかるなり、再び頭を下げる。
「あはは。些末なことは気にしなくいいよ。それより、あんまり時間がないんだ。グランドーク家の陣営について知っていることを教えてほしい」
僕の問い掛けにカラバはこくりと頷き、グランドーク家が侵攻を開始するまでの経緯を語り始めた。
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