《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》32-1 武士《もののふ》
32-1 武士《もののふ》
「エラゼム……?どうしてお前が、ここに……?」
俺は、夢でも見ているのだろうか。死の淵に立たされた俺が見ている、走馬燈か?
(いいえ。そのどちらでもありませぬ)
目の前の突如現れたエラゼムは、冷靜に俺の誤りを諭す。
(以前、貴方の前に、かの勇者が姿を現しませんでしたか)
ああ……確かに、ファーストが俺の夢の中に出てきた。その時彼は、一度だけ、こちらの世界にやって來られると言っていたが……
(まさにそれです。未練を晴らし、この世を去りはしましたが、みなさまのことはずっと気にかけておりました。差し出がましいようですが、扶翼に參った次第)
エラゼムが……俺たちの旅を、ずっと見ていてくれたのか?そして今、彼の前にメアリーが姿を現したように、俺の前に現れてくれたっていうのか。
「おい、テメェ!何をゴチャゴチャ言ってやがる!何をした!?」
はっとして、セカンドを見る。セカンドは突然の出來事に、目を白黒させていた。それでも慎重に様子を伺っている辺り、したたかさがけて見える。
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(外野がうるさくなってきましたな。桜下殿、再會の喜びに浸る余裕は無いようです。參りましょう)
「でも、エラゼム……俺にはもう、何の力も……」
(おっと、これを言い忘れておりました。実は、メアリー様からも、餞別を預かっているのです)
「え……」
エラゼムはぽんと手を打つと、鎧のすき間から何かを取り出した。それは、暖かいを放つ、不思議な塊だ……
(メアリー様がこちらに來ることはもう葉いませぬが、代わりにご自の魔力を預かっております。け取ってくだされ、桜下殿)
エラゼムが、の塊を差し出す。なんて……なんて、暖かいんだろう。なんて、嬉しいんだろう。なんて、力が沸いてくるんだろう。俺は流れる涙をぬぐいもせずに、エラゼムに笑いかけた。
「もう一度……もう一度、俺と戦ってくれるか。エラゼム」
(意に)
俺はエラゼムの手を握った。が、手を通じて、俺の中に流れ込んでくる。全が……魂が、震えるのをじた。
「行くぞ、エラゼム!ディストーションソウル・レゾナンス!」
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「ぐうっ……くそ、何が起こりやがった……?」
が徐々に収まると、セカンドは顔から腕を除けた。きゃつがこちらを見た途端、目のがさっと変わる。
「……誰だ、テメェ」
その反応もまた、致し方のないものだろう。さっきまでとは、まるで姿が変わっているはずだ。甲冑にを包み、総面を付けた某それがしは、さながら武者の亡霊にでも見えているか。
さて、普通に答えてもよいが、ここはこう名乗らせてもらおうか。
「死霊師が、お相手仕つかまつる」
「なんだ、あのは……」
ヘイズは目をしばたかせながら、そっと壁からを乗り出すと、目の前で起こった事をもう一度確かめた。
セカンドの前に、り輝く鎧をまとった戦士が立っている。白いシルエットは、黒く輝く鎧のセカンドとは対照的だ。その戦士の鎧は、王國の騎士とはまるで違う、獨特な形をしている。ヘイズはあのような鎧を見たことがなかった。
「ヘイズ。あれは、桜下たちではないか……?」
彼の隣にをかがめていたエドガーが、がれきのからそっと顔を出す。ヘイズたち人類連合軍は、自分たちの力がセカンドに遠く及ばないことを悟ると、こっそりと退避して、ヘルズニル城で息を潛めていた。
「ええ……さっきの、恐らくあいつのです」
「そうか……一時はもう駄目かとも思ったが、まだやつは戦っているのだな」
「はい。くそ、なのにオレたちは……」
各國の兵士騎士が大軍をしても、セカンドの前では赤子同然だった。セカンドの纏う炎の鎧は、あらゆる攻撃をけ付けない。手も足も出ずにむごむご撤退し、今はこうして、年たちが戦っているのを後ろで見守ることしかできない。敗北と無力に打ちのめされた連合軍の面々は、沈痛な顔でうつむいていた。
「オレたち、いったい何のためにここまで……」
「……本當に、そうだろうか」
「え?」
「もう私たちには、できることはないのか?ここで管を巻いていることが、私たちの仕事か?違うだろう、ヘイズ!」
エドガーはを起こすと、ヘイズの両肩に手を置いた。だがヘイズは、その目から逃げるようにうつむく。
「んなこと言われましても……じゃあほかに、何ができるっていうんすか」
「それを考えるのがおぬしの役目だろうが!妙案の一つや二つ、出してみせんか!」
な、なにをトンチンカンなことを……と、ヘイズは一瞬あきれ果てた。だがエドガーはお構いなしに、ヘイズの丸まった背中をバシッと叩かれた。
「手がないなら、生み出せばよい!無力を嘆くのは、すべてが終わった、一番最後にやることだ!」
「っ」
ヘイズは目が覚めた気がした。確かにまだ、戦いは終わっていない。終わった後に嘆いてもどうしようもないが、今ならまだ、何か手が打てるかもしれない。どんなに些細なことでもいい、何か、自分たちが力になれれば……
「……わかりましたよ。やってやる!ける兵を集めてください!」
「よし來た!」
二人はばっと立ち上がると、それぞれの持ち場に走り出した。
「へっ、へへ……なにが、お相手仕る、だ」
セカンドは引きつった聲で笑った。
「今度はサムライごっこのつもりか?笑わせやがる。何をしたところで、オレには勝てねぇんだよ!」
黒い炎の槍が、セカンドの手に握られる。
(桜下殿。見えますな)
「無論だ」
「死ねやカスがぁー!」
迫る槍の切っ先。がしかし、なまくらなり。
ガキィーン!
「うおっ……!?」
セカンドは驚愕の目で、“半分に折れた”槍を見つめた。
「なにしやがった……テメェ!」
某はゆっくりと、薄桃の刃を持つ長剣を振るってやる。よく見ておけと言わんばかりに。
「破ッ!」
ドスッ!某の一突きが、セカンドを鎧ごと貫いた。きゃつの目が恐怖に見開かれる。
「……?」
だがすぐに、異変を察したようだ。某が刀を引き抜くと、そこにはの一滴もついてはいなかった。
「安心するがよい。某の刃は、魔力の刃。そなたの鎧は貫こうとも、そなたのを絶ちはせん」
「は……」
恐怖に凍り付いていたセカンドが、一気に破顔する。
「ハッハハハハハ!さんざん粋がっておいて、結局それかよ!所詮は手も足もでねぇってことじゃねぇか!」
笑いながら、きゃつは即座に新たな槍を作り出すと、不意打ちでそれを突き出してきた。
「そしてお前はぁ!せいぜい防ぐことしかできねぇ!」
(笑いながら刺してくるとは。やはり、油斷ならん男ですな)
エラゼムの言う通り。さらに槍の切れが、先刻よりも増している。闇雲に振り回していたのがさっきまでだとしたら、今は正確にこちらの弱所を突く戦い方をしてきている。それもそのはず、きゃつには奪い取った幾人もの武人の能力が備わっているのだ。その気になれば、歴戦の戦士としての力を振るうことも十分可能のはず。
(桜下殿。敵も本気になったようです。こちらも最適なきをしていく必要がありますぞ)
うむ。意識を集中させる。某の魂と、エラゼムの魂を限りなく一つに。手、目、足、全てを剣とす……!
「オラアァァァ!」
首元を狙ったセカンドの攻撃。わずかに首を反らすことでかわすと、反撃の一太刀を浴びせかける。だがセカンドは、某の攻撃を意にも介さない。某の剣では、奴のは傷つかないからだ。むしろ歯をむき出しにして、より一層兇暴に襲い掛かってくる。
セカンドは槍を逆手に持つと、切っ先を突き下してきた。剣を振るい、それを切り捨てると、即座に反対の手からも槍を生み出してきた。甲冑でけることで防いだが、鎧の一部が砕けてしまう。
「おらおらぁ!いつまでチャンバラしてられるかなぁ!」
両手に槍を持ったセカンドは、激しい毆打を浴びせてくる。剣でけ、甲冑で防ぎつつ、耐える。
(桜下殿、今は耐え凌ぐ時です。必ずや、その時が訪れましょう……!)
そうだ。心の目を研ぎ澄ませろ。その機會を、見逃さぬように……
(今です!)
好機!セカンドが大振りになった瞬間、某は勢を崩さぬまま、地面を蹴って後ろに下がった。即座に剣を振り抜く。
「喝ッ!」
シャパンッ!振り抜かれた剣からは、一拍遅れて、の斬撃が飛び出した。それはまっすぐ、セカンドへと飛んでいく。
「それがどうしたぁ!」
セカンドは余裕の表で、その斬撃をけようとした。だが直撃する寸前、セカンドは態度を一変させた。両手の槍を勢いよく地面に突き刺すと、棒高跳びのように跳ね上がる。斬撃は奴の下をくぐり、後方へと消えてしまった。
「ハッハァ!喰らうとでも思ったか……!」
なるほど……さすが、カンがいい。あれを喰らってはまずいと、即座に見切ったか。
「しくじったか」
「バカが!どれだけ小細工弄そうがなぁ!そもそも実力がちげーんだよ!」
その通りだ。言われるまでもなく、自覚している。某一人の力では、きっとなに者にも勝てはしまい。だが……
「だからこそ。某には、仲間が必要なのだ」
「……?」
セカンドは一瞬、怪訝そうな顔をした。だが次の瞬間、ドゴッ!激しい打撃音とともに、空中にいたセカンドが落下する。その隙を逃すまい!
「破ッ!」
ザンッ!再び薄桃の刃が、セカンドの鎧を貫いた。セカンドは舌打ちをすると、鬱陶しそうに後ろを振り返る。
「そーいうことか……さっきの攻撃は、オレを狙ったもんじゃねえ。こいつを押さえてた槍を狙いやがったな……!」
きゃつの背後には……槍の拘束から解き放たれた、フランの姿があった。
「その通り。おぬしに勝つためには、一本では足りぬのでな」
フランは跳躍してセカンドを飛び越すと、某の隣に降り立った。
「某とフラン……二本の刀で、貴様を討つ!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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