《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》11話 生贄の流儀

◇◇◇◇

「こ、れは……」

手帳を読み始めた総理が言葉に詰まる。

味山がその様子を眺め。

「多賀総理。俺は、ここから5か月後のニホンから戻ってきた。アンタの持つ大、時をつかさどるの力でな」

味山は必死に記憶をかき集める。

かろうじて、その名前を憶えている。

「名前は、確か、大”観彌勒菩薩上生兜率天経”」

「な、ぜ。その名前を……いや、當たり前か、私が、8月の私が君をここまで送ったのなら、知っていて當然だ」

手帳を持ったまま茫然と呟く総理。

「あら、多賀総理。貴方だったのね。委員會が探していた時をつかさどる。かつてニホンで喪われたというゲームチェンジャーの1つ」

「き、みは……誰だ? アレフチーム、なのかい? だが、委員會、その存在を知る者、只者ではないはずだ」

アレタを見つめる多賀。

彼もまたアムネジアシンドロームにより、星の存在を忘れている。

「アレタ・アシュフィールド。委員會の、アムネジアシンドロームが使われたって言えば、どこまで伝わるかしら?」

「――記憶を……! アレが使用されたというのか? いつ……いや、あれが本當に私の知る所の効果のなら、発した事すら確認する事は出來ない、か」

「ご明察。ふうん、でも今のやりとりで分かった。貴方、かなり深い所まで委員會の事知ってるのね」

「それは、貴もだよ、しいお嬢さん……待てよ……公的記録では、アレフチームは、4人だったはずだ、それがいつのまにか3人になって……青い瞳、金の髪……52番目の……星?」

「あ?」

「え?」

今度目を丸くしたのは、味山とアレタだ。

52番目の星の記憶はすでに世界から消失し、その代名詞はソフィ・M・クラークに移譲しているはず。

なのに、今、総理は――。

「ああ、この違和、そうだ。今までどの周回でも、ソフィ・M・クラークは52番目の星では、なかった。いつも、彼達は、金の髪と、あの人とよく似た青い目で……記憶を、消された君、アレタ・アシュフィールド君、君はーー

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「君が、52番目の星なのではないかい?」

「おお、すげえな、タイムトラベラー。地味に初めてじゃねえか? チーム以外でアシュフィールドの事、思い出したのは」

「あは。タダヒト。あたし、ニホンと組むの、賛よ。こんな人が指導者なんでしょ? 絶対強くなるわ。さすが、貴方が生まれた國のボスね」

し嬉しそうにアレタが笑う。

「おお、マジか。よかった。これでしやりやすくなったな」

「……待て、味山只人君、君は、君はいったい、何を見てきた。この手帳、これに書いてあるのは――」

「細かい事は置いといて、全部本當だ。多賀総理。このままじゃ、全部死ぬんだ」

味山が立ち上がる。

ガラス窓一面に広がるトーキョーの街並みを背に。

「ニホン人はスナック覚で団子スープにされる。サキモリは仲良く皆討ち死に。死も殘らず、ただ服だけが吐き捨てたガムみたいに串刺しでさらされる」

「……あ」

味山の語るは、最悪の未來。

「俺の仲間はクソ害獣にを食われ、魂をなぶられ、記憶をかすめられ、皮を奪われる」

ソフィとグレンが目をつむる。

死に目に遭う事もなく、彼らは神に奪われた。

「俺の上司はクソ害獣を追い詰める為に、最悪の道を選ぶ。もう二度と人間に戻る事はない」

アレタがトーキョーの空を眺める。

あの終わりの中、獨りになった彼は最後に何を思ったのか。

「だが、多賀総理。アンタは見事に己の役割を果たした」

人類最期の生き殘り、そして最悪の銃弾が己を撃ち放った銃手を見つめる。

「俺は弾丸だ。アンタが放った。手帳に、そう書いてたらありがたいな」

「……ああ、きちんと、書いてあるよ。君の行く末を見屆けろ、と。前の私からね」

諦めたような、いや、違う。

覚悟を決めた人間の顔で、多賀が味山を見つめる。

「味山君、前の私からどこまで聞いているかわからないが、1つ。――私はもう、時をさかのぼることは出來ない」

「え、あ、おう」

「はあ、その顔だとどうやら切迫した狀況だったわけだね。今、確信した。懐中時計、私のがね、なくなってるんだ、今気づいた」

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「そりゃ、どういう事だ」

「無理な使い方をしたんだろう? 道と同じさ。本來の用途ではない使い方をしたりしたら壊れるものだ。――事はなんとなく、理解した。だが、1つ君の口からききたい事がある。いいかい?」

「あ、はい。大丈夫ですよ」

呑気に味山が返事をする。

「君は、本當に……味方、なのかい?」

「味方ですよ、総理殿、依頼をけたんですから」

「……サキモリの皆に、あの世へ行った友に、私は謝らなければいけないね」

「護國を誓った同胞。それを葬った悪魔と手を組むとこんなに簡単に決めてしまったのだから。味山只人。君はーー」

「え、いや全員生きてますよ」

「えっ」

「えっ」

沈黙。

総理の薄い頭に、しっとり汗が滲む。

ぽかんと口を開けた味山。

そしてーー。

馬場バババババババババババババババババババババババババババババババババババババ!!

「立てこもり犯に告ぐ!! 君達は完全に包囲されている!!」

「人質を解放し、投降しなさい!!」

「アレフチーム!! 今ならまだやり直せる! 速やかに多賀総理を解放せよ!」

プロペラの音。

拡聲で広がるあふれる大聲。

「わあ、アジヤマ。ご覧、壯観だよ。ニホンの公務員は優秀だねえ」

「空、陸、見たじ全部抑えられてるっすね。見たじ自衛軍も配備されてるっす」

『2人の意見は正しい!! どうやら完全にニホンの警察特殊部隊、自衛軍に包囲されているな!」

「あら、いよいよお尋ね者ね」

「おー、來たか。いいね、もうここまで來ると後は野となれ、山となれ。どーんと行ってみようや」

呑気なアレフチーム。

それに対して。

「はーー? あ、えっ? 味山君、君は今、なんて?」

「え、いや、だから、サキモリは全員死んでないですよ。殺してないですもん。なあ」

「ええ。致命傷は裂けたし、手加減も充分したわ。怪我はーーまあ、何人かいるかもだけど……」

「ど、どういう事だ?」

「どういう事も何も、なあ? 別にニホンは敵じゃねえし……」

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「あ、あ?」

「そもそも、俺は最初から話をしに來たって言ってたんですよ。それを本當、どいつもこいつも人の話聞かねえ……まあ、最終的には結果オーライ。総理とも話せたし、連中のハッパにもなったんじゃないですかね」

「ま、待て……話が見えない。ハッパ……とは。いや、まさあ、まさか君……ああ!! 味山君、味山只人! 君なら、君ならやりかねない……! わざとか!」

頭を抑えるく。

多賀は理解した、目の前の男が何をしたか。

ーー何をしようとしているのか。

りん、りん。

夏の音が一瞬蘇る。

味山只人が、にっと笑う。

周りのアレフチームもまた、似たような顔で笑う。

「多賀総理。これはアンタからの指示だ。全部ぶっ壊せってな。神に負けるサキモリ、護國の戦力は要らない。しいのは、神様をぶっ殺せる強え奴らだ」

タワーデッキから眺めるトーキョーの空。

自衛軍ヘリコプター、ドローンの姿が確認出來る。

眼下には、街を埋め盡くす勢いで展開される

「暖まってきたな。ーーねえ、総理殿。俺は常々思うんですが、世の中本當に凄い奴、先見の明がある奴ってのはないと思うんです」

「何を」

「世界が変わった。地上には怪が現れ、神種なんてカスが今にも人間を絶滅させようとしている。にも拘わらずでっ――」

――っパン!!

破裂音。

スイカが側から弾けるように、味山の頭が砕ける。

「あっ」

狙撃。

多賀はすぐにそれが警察、特殊急襲部隊によるものだと理解した。

ようやく通じ合いかけた途端に、その相手が目の前で殺される。

脳が理解を拒む衝撃、その驚愕を多賀が認識するよりも、先に。

じゅるるうるるるるるるる。

「――やっぱ認識が甘すぎるな」

『――アレフチーム!! 警察の無線回線のハックが完了した! 今時暗號化もされていないとは! 平和な國だ! アメリカの自由を思い知れ!!』

「えっ」

味山只人の脳が頭部が再生していく。

頭蓋骨も、髪も、耳も、顔も、すべてが骨が戻っていく。

『――目標、ヘッドショット1、えっ』

『了解、続いて総理の付近にいる拐犯を無力――は?』

裝甲車から響くのは、傍した無線回線。

周囲に配備された警察の狙撃班の回線すら、もはや彼らの手のひらの上に。

『――ほ、ほ、報告……対象、健在……!? へ、ヘッドショットしたのに?』

『16、どうした、ヘッドショット後のバイタル報告がない。対象は無力化したのか?』

『……イ、生きてる、いて、立ってる……』

『何を言ってるんだ……おい、噓だよな? いてる? ――狙撃2班! 狀況継続! 対象健在!』

『自衛軍特殊部隊にも確認しろ! いやいやいやいや、あり、あり、ありえないだろ? ありえないよな』

『こ、こちら、自衛軍狙撃班。こちらでも確認した……頭部損壊ののち、頭部……再生……』

無線の向こう側で響くのは、怪能に慄く人間の聲。

「アシュフィールド、頼めるか?

「了解。えっと、あっちかしら」

ふわり、當たり前のように割れた窓ガラスから飛び降りる金髪の

そして、また當たり前のように空を飛び――。

『えっ』」

『な、何かがこっちへ來る……!? え、人? あっ』

『ハァイ、初めまして、良い銃ね。でもごめんね、今あたしの補佐探索者がミスタータガと大事なお話の途中なの、これ、もらっていくわね』

『ア』

『どうした16!? そ、そっちに空を飛ぶ何かが向かって――ぎゃああああ!? なんで、人が空を――』

混迷を極める無線。

耳から赤いの塊をほじくりだした味山がトーキョーの街を背景に。

「これが、現狀だ。――普通過ぎる」

「ふ、つう?」

「ああ、そうだよ、多賀総理。これはアンタとサキモリの功労でもあり、失敗でもある」

「ど、どういう意味だい、味山君」

「アンタはこの國を守り過ぎた。とっくに世界は変わって、とっくに人間の時代は終わろうとしてるのに、みんなそれに気付かない。……サキモリとアンタがこの國の日常を守り続けたからだ」

「そ、れは」

「分かってる。理屈じゃどう考えてもアンタ達が正しいよ。戦える人間が、その役割を果たした。國を守ろうとする人間がその役割を果たした。でも、それじゃ駄目なんだ、危機が足りない」

バラバラバラバラ。

窓の外から振り降りるのは、銃

拳銃、機関銃、狙撃銃。

辺りを囲うニホンの戦力から、アレタが無傷で取り上げたもの。

まるで、紙細工のおもちゃのように風に吹かれて。

「俺達は、ワクチンだ。これより先、世界にふりかかる大病の予行演習。ガラじゃないが、これも仕事でね。ーー平和ボケしたこの世界をまず、壊す」

「あ……」

多賀――今は影史。

彼は知っている。

ここではない場所、今ではない時間。

――ギャハッ

夕焼け。黒煙。廃墟。死んだ都市ーー嗤い聲、樹、樹樹樹。

嗤う、樹。

ある男によって終わった世界の景。

「俺達という脅威を以てニホンを強くする。目の前で総理大臣をさらわれたんだ。しづつ、戦うことを選ばなかった人間にも気付いてもらおう。もうとっくに日常なんか終わってるって事を」

味山只人はどんな時、どんな場所でも、味山只人なのだ。

多賀影史はそれを、再度理解した。

ああ、ちくしょう。私よ。

きっと失敗してしまった私よ。

これから先、酷いことが起きるんだな?

私が、彼に託す、託さざるをえない事態が。

世界を壊した男でなければ、壊せぬ何かが居るのならば。

無意識に握り締めていた手帳。

しわくちゃのページに目を落とす。

【まあ、頑張れ】

「……ふざけやがって」

思わず溢れたのは多賀の本來の姿の言葉。

あの夏の日に焼け焦がれた彼のエミュレートではない、本來の多賀年の言葉。

だが、彼は気付かない。

自分がし、笑っていたことに。

『アーミー味山!! 衛星通信回線のハックが完了した、だが、それでもニホン全國のTV、スマホ、映像機を強制ハックするのにはまだ時間がかかるぞ!』

「いや、ハートマン、それでいい。初めてくれ。ーー報酬接続」

『これはーー不明なユニットの接続を確認……は、ははははは!! 出力の最大化を確認! 今ならーーなんでも出來そうだ! ニホン全國の映像端末數把握……起掌握完了、カメラ、音聲接続完了……! アーミーいつでも行けるぞ!』

「わお、タダヒト。あなた、何をしたの? ーーあたしに黙って悪魔と取引でもしたのかしら」

「怒んなよ、アシュフィールド。お前と一緒だと役に立つ悪魔が逃げ出しちまう」

「アジヤマ、古今東西、悪魔を役立たせる、なんて事が出來た人間はいないよ。

「その時はお前らに敵討ちでもしてもらうよ」

多賀が過去の自分に半ギレになっている間にも事態は進む。

アレフチームは勝手に進む。

「えっ、もう映ってんの? マジで?」

「――世界は滅亡する!!」

彼らは行く気だ。

例え、世界から大悪と判斷されても、彼らはすべき事をすのだろう。

多賀は、裝甲車両の目の前でわちゃわちゃしているアレフチームを見つめる。

「そしてだ、ニホンの皆さん。安心してほしい、多賀総理は無事だ。元気にご挨拶でもしてもらおうか」

きっと、味山只人は正しいのだろう。

英雄ではなく、民衆の1人である自覚を持つこの男は知っている。

劇的な大事件でもなければ民衆は変わらない。

「総理殿、こっちだ。俺達の利害は一致しているはずだよな」

カメラの外で味山が影山に語り掛ける。

「アンタはニホンを守りたい。俺は仕事を果たし、俺と俺の仲間を脅かす全ての存在を滅ぼしたい。俺達は共通の敵を抱えている」

「――そう、だね」

「アンタは俺より賢い。高IQを誇る俺より遙かに、な。――俺がアンタにむ事は理解しているだろう?」

「……アレフチームという脅威の共有……それによるニホン全の、この世界への認識の再周知……といった所かな」

「さすがは総理殿、リーマンの時に投票きちんと行っててよかったよ。加えてアンタの切り札、サキモリの連中の強化にも繋がる。――やられっぱなしで黙ってる連中が、サキモリなんてやるわけねえよな」

「……君は、英雄になるつもりかい?」

「英雄ならもういる。――多賀総理、世界が終わる日の空のってどんなだと思います?」

「……」

「俺はね、二度とあんなモン見たくないんですよ。そして、俺にあ(・)ん(・)な(・)も(・)の(・)を(・)見(・)せ(・)た(・)連中を生かしておくつもりもない」

りん――。

幻聴、多賀の耳にどこかで明に鳴る風鈴の音が。

「選択の時だ、多賀総理」

味山は自覚していない。

「何をするべきかはわかってるはずだ。進め、俺も進む、アンタも進め」

その口ぶりが、己に囁く胡なヒントに酷似している事を。

「今、ハートマンがニホン全國の映像を乗っ取った。家庭用テレビ、PC、スマホ。この包囲だ、とっくに報道されてるだろうし、ニホンの連中全員がこの狀況に注目している。チャンスだ。わかるだろ?」

「それは……」

「俺達を國家の敵として扱え。ニホンはアレフチームという共通の敵を持つ事で強くなる」

味山の言葉に,、多賀が表を固める。

理解しているからだ、そのやり方の絶大な効果の高さを。

「いつだってそうだ。生の進化は常に危険と共にある」

味山の記憶に巡るのは數々の危険。

、ホラー、神

多くの危険と対峙し、生き殘ってきた。

あまりにも多くを殺しすぎたその男はしかし、本來ならばとっくに死んでいるはずの存在。

生き殘れる筈のなかった男が、生き殘れなかった國の長を見つめる。

「俺達がそれになる。多賀総理、ニホンを進化させろ」

「り、理解してるのか? それは、その先は地獄だぞ、君は、いや君だけじゃない、仲間を地獄に導くつもりなのか?」

「知らないのか、総理殿。もともとこの世は地獄だ。それに気づいてるかどうかの違いでしかない」

アレフチームが全員、ため息をつく。

だが、誰一人味山の意見に反対する者はいない。

「タダヒトの過激な意見は別として……し面白そうね。これで本格的に世界の敵だわ」

「えー! 世界から狙われ続け、記憶からも記録からも消えた英雄……! 映畫を撮ろう、アレタ。キミが主演でワタシが監督その他全てをしようじゃないか」

「あ、俺エキストラで出たいっす」

それどころか悪ふざけか本気かも分からない戯言で盛り上がる。

窓の外、包囲網に參加するヘリ、パトカー、軍用車両は増えていくばかり。

投降を呼びかける聲も全て無視して。

「あー、いいね。いっそあれだ。ヨーツーブとかの畫サイトで配信とかしちまうか?」

「それ割とありね……」

――あっ。

多賀は気付いた。

こいつら、バカなんだ。

本気で恐れていない。

世界から悪逆と謗られ、追われようと構わないのだ。

りん、りん、りん。

じーわ、じわじわじわ。

幻聴。夏の音がする。

風鈴、セミの聲。

「ハートマン、カメラを総理殿へ。――多賀総理、宣言するんだ。俺達の脅威を。アンタの言葉で。アレフチームを敵と認定しろ。國家として俺達を追わせろ。俺達を地獄へ墮とせ、ニホンを地獄にしない為に」

にっと笑う、味山只人。

彼に寄り添い、似た表で笑うアレフチーム。

多賀は真夏の日差しを幻視する。

「ああ、ちくしょう」

れたぼやき。

かぶるのだ。

似ていないハズ、似ている訳がない、似ていていいはずがないのに。

誰に理解される事もなく、報われる事もなく。

それでもすべき事をすその姿が。

あの夏の日の記憶と、アレフチームが、味山只人が。

憧憬が消えない、よみがえる。

あの時、彼はなんといっていたのだろう。

最期に、何を――。

――年。

「多賀総理」

――願わくば、今度は君が。

「出番だ、やるべき事をやってくれ」

――特攻、玉砕、兵役、己が腹に據えた一本の芯が為に、己を捧げる、そんな愚かで哀れで、ああ、それでも。

「仕事の時間だ」

――輝かんばかりの誇り高きバカ達を守ってやってくれないかい

「あ……」

多賀影史。

彼だけが、今、1945年、夏の影法師との記憶を取り戻す。

が何を守りたかったのか。

何をしたかったのか。

カメラが多賀総理を捉える。

『――!! ハックされた通信に多賀総理の姿を確認!』

『総理は無事だ……! アレフチーム全員健在……!』

『銃の再配備急げ! サキモリと共同し、総理を救出する!』

ハートマンが傍している無線だけじゃない。

今、この瞬間、人類最先端、オーバーテクノロジーのAIと、バベルの大の深淵の力によりこのこの場の映像はニホンに存在している映像すべてに屆けられている。

學校の教室、晝下がりの自室、仕事まっさかりの職場、車のナビ、街頭の大型モニター。

この國に住まうほとんどの人間が、総理大臣拐という未曽有の大事件に注目している。

ああ、なるほど。

確かにそうだ。

これが正解だ。

この場で、アレフチームを共通の敵に祀り上げる。

國家は共通の敵を持ち、國民はついに気付くだろう。

日常などもはや消え失せている事を。

國會も法もすべて変わる。

ニホンは神と國家として戦える存在となる。

戦力についても同様だ。

サキモリは、強くなる。

アレフチームという最前の力を目の當たりにし、そのままでいる者達ではない。

の進化は常に危険と共にある。

アレフチームは、善き危険だ。

アレフチームの犠牲で。ニホンは殘るだろう。

「お膳立ては完璧、か」

笑ってしまうほどの好條件。

やるべき事は明朗簡潔。

アレフチームとは裏で繋がり、極裏に協力制を取ればいい。

それで國が守れる。

それで彼との約束を果たせる。

「さあ、総理殿。仕事を始めよう」

悪魔、いや、きっと只の人間が多賀を見つめる。

恐ろしい、心底多賀は、この男が怖かった。

きっとこれは知能による判斷ではなく、ただ當たり前に、いや、當然のようにこの道筋を立てた。

味山只人は當然のように、己を天秤に乗せる。

きっと彼の頭の中では仲間を方法もあるの地獄から抜け出させる考えもあるだろう。

だが、きっとその考えに自分の処遇はない。

「味山君、君は、きっとすべてを壊すだろう、そして、君はきっとすべき事をなすのだろう」

「あ?」

この男は、もしかすると本當にこの國を、世界を守ってしまうかもしれない。

捨て、削り、変わり、戻れなくなっても。

この男は止まらない。

ああ、だって多賀は知っている。味山只人がやり切ってしまう事を。

「君は仲間を生かす、國を生かし、敵を殺す。だが、君は、どうなる」

「何言ってんだ? ――ああ、TVの前の皆さん、すみません、多賀総理、しビビらせすぎたかな。混してんだ。――何言ってんすか? ほら、早く、宣言するんだ、俺達アレフチームを敵として――」

し焦った顔の味山。

それを見て、今度は、多賀が笑った。

ああ。――さん。

これか、貴が、守りたかったものは。

「親なるニホンの諸君、多賀影史です」

カメラの真ん中が、多賀を捉える。

ほっとした様子の味山、アレフチーム。

彼らを後目に、多賀が言葉を紡ぐ。

これで、一歩前進。

多賀影史の言葉で、ニホンは時代を進める。

「騒がせてしまい、申し訳ない。今、私はアレフチーム、彼らと共にいます」

アレフチームを通じ、神という脅威に立ち向かう力を養う。

味山が、自分の完璧な作戦にうんうんと頷く。

「そう、拐です、殘念ながら我々は彼ら、たった4人に敗北しました。ニホンはたった4人の暴力により、王手をかけられたのです」

無線からる通信、揺の聲。

映像を見ている人間の想は世界中のSNSの8割をパンクさせている。

もはや事はニホンだけで済む問題ではない。

世界中がこの場所、この展開に注目して。

「勇敢に戦ってくれた同士諸君、ありがとう。この場に駆けつけてくれた公務に準ずる諸君に最大の謝意を。――ニホン閣総理大臣として、皆様にお伝えしたい事がございます」

味山は総理の次の言葉を待つ。

これが終わったら、総理を開放して、包囲網を破って、まあなんとかなるだろ。

テーブルに殘ってる冷えたコーヒーをずびっと飲んで。

「――これにて!! 第一回!! アレフチーム・ニホン合同による首都直下政府機能襲撃対応訓練の終了を宣言致します!!!!!!!!!」

「え」

「ほ」

「お」

アレタ、ソフィ、グレンが、ぱちくりと目を瞬かせて。

「――あ?」

味山がコーヒーを零した。

「――引き金を引いたのは、私だ、そして、見屆けるのも私だ」

「あ、あんた、今自分が、何言って……なにしてんだ」

総理が笑う。

走った目、引きつった

「味山只人君」

味山はしらない、その笑顔が。

多賀影史が浮かべるその笑顔が。

「地獄への旅路。席はまだ空いてるかな」

自分達(アレフチーム)のものとひどいほどに、そっくりだった事を。

◇◇◇◇

この日より、ニホンの歴史は変わる。

多賀閣は、國際指名手配犯、アレフチームとの友好同盟條約を締結。

外から歴史上類を見ないほどの批判を浴びつつ、このVer2.0の世界を進む事となる。

だが、結果的にこの判斷は、4月に発生するある事件においてニホンが本來歩むはずだった歴史を大きく塗り替える事になる。

――本來の歴史にて、多くのニホン戦力が削られ、國土の支配の3割を失う事になった事件。

記録――2032年4月。

首都、及び、20の政令指定都市に対しての”神種”による同時侵略行為。

異界による國土侵略、および民間人の拉致の脅威、都市破壊行為を確認。

多賀閣は自衛軍、および、サキモリに戦力の派遣を指示。

同時、同盟勢力、アレフチームメンバー”アレフ1”により、全神種の異界の破壊、および神種の絶対優位の陳腐化に功。、

第一次ニホン本土同時防衛戦、通稱”八島作戦”が開始される。

同作戦においてサキモリは奇跡的に人的損害をゼロとして作戦終了を迎える。

自衛軍もまた人的損害を最低限に収め、民間人、および國土の防衛に功。

また國土を襲撃した神種、8すべての討伐に功。

その8から新たな號級の押収にも功。

更に、アレフチーム主導による即時反撃強行偵察作戦。

”オペレーション・アタック・バベル”が開始。

人類による初の、神種による國家勢力の発見、拉致された民間人の救出。

および”アレフ4”による獨斷での宣戦布告を完了。

したアレフチーム人員、”アレフ1”、”アレフ4”。

およびサキモリ人員”貴崎凜”、”西表波””名瀬瀬奈”、”アックス村山”、”熊野ミサキ”

全員生還。

――その作戦終了後。

ニホン同盟勢力・アレフチーム、1名 死亡。

死因――。

斷頭。

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