《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》

王様との謁見が終わると、空には徐々に紅が差してきていて、青く澄んでいた空は徐々に深みを増していた。

夕暮れになってからアイビーの道案に従って王都を歩いていくと、目的地が見えてくる。

今日僕らが泊まらせてもらう、辺境伯のお屋敷だ。

辺境伯は王様との仲は悪いとはいえ、それでも彼だって一応は王國貴族。

當然ながら貴族として王都に來ることもなくはないため、この王都に屋敷を構えている。

「もっとも、俺が直接行くことはほとんどないんだけどな!」

とは本人の談である。

本當なら王都で宿を借りるつもりだったんだけど、よくわからん土地で寢苦しいベッドで眠るより、アクープの屋敷と同じベッドを使っている屋敷で寢た方がお前達も気楽だろうという辺境伯のご厚意に甘え、僕らは気前よく屋敷の一室を貸してもらっていた。

それにこうして屋敷の中にいれば、もしもの時にカーチャのを守ることもできるしね。

「おぉ、ブルーノにアイビー。もう終わったのか?」

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屋敷にろうとすると、僕らとれ替わるように出ていこうとしている集団が。

そこにいたのは護衛の騎士達に囲まれ、馬車に乗り込もうとしているカーチャだあった。

馬車はアクープでも見たことがないくらいファンシーなデザインをしている。

をくりぬかれたかぼちゃのようになっていて、窓越しに中に高級そうな革のソファーが見えた。

辺境伯の溺っぷりは、まったく今日も絶好調らしい。

「カーチャ、どこかに出かけるの?」

「うむ。王都に來たからには、報収集がてらパーティーをいくつか回らないといけないのじゃ。正直面倒じゃが、やらないわけにもいかんでな」

「もしよければ、僕達も行こうか?」

「その気持ちは嬉しいんじゃがな、貴族のパーティーにブルーノ達を連れて行くわけにはいかん。アイビーはいいとして、ブルーノがどんな罠にひっかかるかわかったものじゃないからの」

なんともひどい言われようだ。

どうやらカーチャは僕のことを全然信じてくれてないみたいである。

でもたしかに、何も貴族界隈の常識を知らない僕がパーティーに行ったら、よくわからないうちに手痛いミスをしてしまうかもしれない。

……うん、前言撤回。

やっぱりカーチャの言う通り、僕は家でお留守番をしている方が良さそうだ。

「あまり夜更かしはせずに帰ってくるんじゃぞ」

カーチャはそう言うと、馬車のドアに手をかける。

「大丈夫だよ、子供じゃあるまいし」

「ブルーノは大きな子供みたいなところがあるからの」

「みぃみぃ……」

その通り、というじで頷くアイビー。

味方だと思っていたは、どうやら今回は敵側に寢返っていたようだ。

うーん、僕ってそんなに子供っぽいんだろうか。

自分であんまり自覚はないんだけど……。

「しかし、父上の無茶ぶりにも困ったものじゃ……。言われたことを全部こなすには、王都滯在がどこまで長引くことやら……」

カーチャがはぁ、とため息を大きく吐く。

領主の名代としてもやってきているカーチャがしなくてはいけないのはパーティーだけではない。

有力貴族の人達への挨拶回りであったり、現狀で抱えている貴族間の問題解決や折衷案の提示等々、言いつけられている仕事はなかなかに多いようだ。

「まあこうなる理由も、わかってはいるんじゃがな……」

辺境伯は王國貴族でありながら、以前から王様との仲が悪い。

エンドルド辺境伯は辺境という常に大量の魔被害が発生している地帯を、徹底した実力主義でなんとか治めている。

だが魔の襲撃に対応できるよう防勢を整えるにも、魔の被害をけた街を復興させるのにも、とにかくお金が必要だ。

故にエンドルド辺境伯は稅金の支払いを許されるギリギリまで絞ったり、食糧問題解決と特産品生産の一挙両得を狙って魔の養を無許可で始めたり……といった合に、お上の反を食らおうが気にせずに領地を運営している。

けれどいくらいつだって不敵な辺境伯とはいえ、全方位に噛みつき続けるわけにはいかない。

王様と度々喧嘩をしている以上、他の大貴族達にそっぽを向かれてしまうのはマズいのだ。 辺境伯領が立ちゆかなくなるのを防ぐためには、どうやら々と苦労も耐えないらしい。

「でも別に王都を出るのがびたって大丈夫だよね、アイビー」

「みいっ!」

王都に來るのは、実は初めてだ。

王都イリスは、僕が今まで見てきたどんな街と比べても大きい。

しかも大きいだけじゃない。

どこか雑多な印象があるアクープと比べるとこの街はかなり洗練されているじがするのだ。

いくつも通りがあって、活気に賑わっている街並み。

見るべきところは沢山あるだろうから、観スポットを探すのには苦労しないだろうと思う。

それに見るものがなくなったらなくなったで、アイビーと一緒に家の中でゴロゴロしてればいいしね。

「うむ、そうかそうか……って、こんな話をしている場合ではないのじゃ! それではまたの、二人とも!」

それだけ言うと、カーチャは慌ただしく出発していってしまった。

相変わらずの元気っぷりだ。

「とりあえず王都でも見て回ろうか?」

「みっ!」

アイビーはそれもいいけど……というじで、ピッと手をばした。

手の先には、屋敷からし離れたところにある廄舎がある。

『またあっしだけこんな狹いところで……暇でやんす!』

耳を澄ませてみると、そこから誰かさんの聲が聞こえてくる。

今回もサンシタは廄舎でお留守番で、フラストレーションが溜まっているらしい。

……完全に忘れてた。

それなら機嫌を治すために、まずはサンシタと一緒に遊ぼっか。

「みいっ!」

僕はアイビーと一緒に、暇を持て余しているサンシタのところへ向かうのだった――。

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