《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》32-5

32-5

「は……はは。意味わかんねーよ。本気で言ってやがるのか?殺しはしない?」

セカンドはオウム返しに訊き返してくる。俺たちの主義であることはもちろんだが、そうしないといけない切実な理由もある。

「ま、さすがに博主義を説きたいわけじゃない。率直に言えば、あんたには死なれちゃ困るんだ。あんたが欠けた呪いを、解いてもらわないとならないから」

コルトやロアたちに掛けられた呪いは、その者……すなわち、セカンドにしか解けない。奴を殺してしまったら、彼たちは永久にあのままになってしまう。

セカンドも合點がいったのか、いやらしくニタリと笑う。

「なるほどなぁ……あいつらのこと、すっかり忘れてたぜ。そうか、あいつらが居れば、テメェはオレを殺せないんだな?」

「ああ。だから、呪いを解いて、どっかに行ってくれないかな。どっかの大陸で、靜かに暮らせよ。あんたは魔王になれるくらいなんだから、それくらいわけないだろ?」

「ククク……ハァーッハッハ!バカかテメェ、素直にハイソウシマスと言うとでも?この狀況で、テメェの頼みを聞く理由があると思ってんのか?」

そうだな。確かにこの取引、かなり俺たちの利が多い容だ。だがな。

「ある」

俺はきっぱりと言い切った。

「へぇ~……そんなら、聞かせてもらおうじゃん」

セカンドは俺が苦し紛れにそう言ったと思っているのか、ニタニタと笑っている。

「いいだろう。それをしたらあんた、自由になれるぞ」

「はぁ?」

「自由だ。潔く負けと認めて、自分のしたことを悔い改めろよ。そんで、呪いを解いて、新しい土地でやり直せ。そしたらもう、俺たちはお前に関わらない。お前は本當の意味で自由になれるんだ」

「ハ……ヒャハハハ!ガハハハハハ!」

セカンドは大口を開けると、狂ったように笑った。

「傑作だな!どこまでお甘ちゃんなんだ?稚園児でも、もっとマシな條件を出せるって!」

「……」

俺は黙って、笑い転げるセカンドを見つめる。奴はひとしきり笑うと、どかっとあぐらをかいた。

「はぁー、はぁー……で?脳お花畑ちゃん。渉のカードは、それで全部か?」

「ああ」

「じゃ、やっぱりダメだな。テーブルに著く気にすらならねーよ」

「そうか?本當に、よく考えたか」

「くどいなテメーも。だから……」

「本當に分かってるのか?もうあんたには、これしか殘されてないって言ってんだぞ」

セカンドがぴくりとまなじりをかした。

「なに?」

「これが、あんたが踏みとどまれる最後の一線だって言ってる。あんたはもう、とっくに越えちゃいけない線を越えまくってきた。だけど、まだ引き返せる。というか、ここが最終ラインだ」

「何言ってんのかわかんねーな。たとえどこまで行こうが、オレ様は自分の力で、世界を自由に作り変えることができる。おまえらザコと違ってな」

「ならそれで、あんたのみは葉えられたのか?」

セカンドがピクピクと、顔を引きつらせる。

「オメェ、まだ言うか……」

「何度でも。あんたは本當は、誰かと一緒にいたかった。この世界に來た時からずっとだ。全部じゃないけど、々と聞いてきたよ。きっと最初は、ファーストに憧れてたんじゃないか?」

セカンドの顔が、苦蟲を嚙み潰したようになった。図星か。

「あんた、ファーストみたいになりたかったんじゃないのか。最初のころは、一緒に戦ってもいたそうじゃないか。だけど、耐えられなくなったんだろ。自分より優秀な奴の側に居続けるのが」

「……!」

セカンドが目を見開く。俺はうなずいた。

「だから、分かるんだって。俺だって同じだ。常に比較され続けて、常に二番で居続けるなんて、俺なら耐えられない」

「……」

「だからあんたは逃げ出した。ファーストに負けない力をに著けて、たくさんの人たちを自分のものにしようとした。最後にはファーストすらも倒したわけだが……もう、気付いてたんだろ。そん時のあんたは、一人だったはずだ」

セカンドは、どんよりと淀んだ目をしている。

「どうしたら正解なのかは、俺には分からない。けど、なくともあんたのやり方が正しくないことだけは分かる。だったらどうして、あんたは今でも一人でいるんだ?」

「オレ、は……」

「間違えるのは、悪いことじゃない。けどあんたはやり過ぎた。もう、償うのは無理だ。あんたが最後にできるのは、全部白紙に戻すことくらいしかないよ」

「白紙に……」

「ああ。約束する。みんなの呪いを解いてくれるなら、俺は絶対にあんたを追わない。他の連中にも追わせない。誓うよ」

フランの背中が、ピクリと揺れた。その仕草が、本気か?と問いかけているようだ。無論、本気だ。せめて姿勢だけでも本気じゃないと、奴には見かされそうだからな。

「オレ……おれ……」

深くうなだれて、セカンドがか細い聲でささやく。

「おれは……たくさん、努力したんだ。一生懸命努力して、たくさん頑張った。なのに、誰も、おれを認めてくれなかったんだ」

「ああ」

「けど、おれ、本當は……ずっと、寂しかった……!」

セカンドの聲が震える。俺はいっぱい優しく語り掛ける。

「誰だってそうだ。特に、俺たちはいきなりこっちに連れてこられたんだから」

「分かって、くれるのか……?」

「最初からそう言ってるだろ。俺だってそうだった。けど、仲間と出會えた。きっとあんただって、まだ変われるはずだ」

「そうかぁ……分かった」

セカンドは、ずびーっと鼻をすすった。俺はほっと溜息をつく。

「よし。それなら……」

「わかった。やっぱりお前らは……皆殺しだ」

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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