《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》33-1 終焉

33-1 終焉

「……終わった、んですか?」

聲が聞こえてきて、振り返る。そこには、いまだに何が起こったのか理解できないという顔のウィルと、そしてライラ、アルルカ、ロウラン……俺の仲間たちがいた。

「ああ……いちおう、な」

そうは言ったものの、俺の気分は全く晴れやかじゃない。普通なら、勝利に歓喜し、打ち震える場面なんだろうが……そうもいかないだろ、この場合。

「セカンドは、死んだ……あのバカ野郎が。結局、何一つ片付けていかなかった」

「……」

ウィルは悲し気に、瞳を伏せた。この戦い……あまりにも、失ったものが多すぎる。

「フラン……」

俺はよろよろと、彼の下へと向かう……今は、黒い骸骨となってしまった、彼の下へ。だが、俺が辿り著いても、骸骨はこちらを振り向こうともしない。

「フラン……なんだよな、本當に」

は、何も答えない。當然だ、骸骨は喋らない。本當は俺だって、分かっている。もう、彼の聲を聴くことはかなわない。彼の頬にれることもかなわない。彼しい銀髪を、でることもかなわない……

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「くうぅ。フラン……」

涙がにじむ。彼をこんな風にさせてしまったことへの罪悪と、己のふがいなさ。だが、フランが自らを犠牲にしなければ、俺はもっと前に死んでいた。セカンドを倒すことはできず、語は最悪の結末を迎えていたはずだ。

(ダメだ、泣いていちゃ……それだけ偉大なことをしたんだ、フランは)

俺は荒っぽく目元を拭うと、謝を伝えようと手をばす。だが、彼はすっとそれを避けた。そして、俺に背中を向けてしまう。見ないでくれ、と言わんばかりに。

「フラン……」

この勝利は、彼のおかげだ。勝利のために彼が取った選択は、正しかったんだ。でも、こんなのって……

「……あたしの、せいよ」

え?思わず振り返った。アルルカが、拳を握り締めて、地面を見つめている。

「あたしが、やったの。その子がそんな風になったのは、あたしの責任よ」

「アルルカが……?何を、言ってるんだ」

「そいつに、あの炎に対抗する方法を教えたの。こうなるって、分かっていたのに」

え?ああそうか、確か、アルルカが何かの呪文を唱えて……その結果、フランはあの姿になった。

「でも、あの時はああするしか……」

「そうよ、無理やりやらせたわけじゃない。でもね、だったらあたし自を掛けたってよかったの。あの子ほどじゃないけど、それでも多は戦えたはずよ。でも、それをしなかった。わかる?」

アルルカ……?一、何を言うつもりなんだ。アルルカは駄々をこねる子どものように、ぶんぶんと髪を振りす。

「あたしはね、嫌だったの!あんなふうに骨だけになるなんて、怖くてできなかった!あいつみたいに、自分のすべてを掛けることなんて……できなかったのよ。サイテーでしょ。あいつを代わりにしたんだから。怒っていいわ、恨んだりしないから」

「なにいって……」

「キライになったでしょ。あんた、こういうの大ッキライだったものね。あんたの大好きな子を奪ったんだから、當然よ。卑怯なやつだって、最低のクズだって、好きなだけ馬鹿にしていいから」

「……」

仲間たちは……當然、俺も含めて……唖然としていた。いつも高飛車で、高慢ちきな態度を崩さなかったアルルカが……これじゃ、まるで……

するとアルルカは、くるりと背を向け、翼を広げた。え!?

「おい、待てよ!どこに行く気だ!」

俺はつんのめるように走り出すと、何とかアルルカの細い手首を摑んだ。

「ふざけるなよ!どうして、そうなるんだ」

「……あたしのことなんて、見たくないでしょ。消えてあげるから。何言っても構わないわ……でも、できるなら。悪口、その後に言ってよね」

「おい、アルルカ!」

話しを聞こうとしないアルルカに、俺は思わず腕に力を込めた。ぐいと手を引っ張って、こちらを振り向かせる。

「え……?」

アルルカの目元に、きらりと雫がっている……それが涙だと理解するのに、數秒を要した。だって、今までアルルカが涙を流した事なんて、いままで一度も……

「アルルカ……泣いてる、のか?」

俺は馬鹿みたいな質問をする。そんなの、誰が見たって明らかだ。そしていつもなら、小ばかにしたようなツッコミがるところで……

「……さぃ」

「え?」

「ごめん、なさい」

自分の耳が、信じられなかった。アルルカはうつむくと、子どもみたいにぎゅっと目をつぶって、ひたすら繰り返している。

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

アルルカが……

セイラムロットの住民たちの前で、ただ形式的に頭を下げたアルルカ。

俺が彼を連れ回す理由について、全く理解できないと一蹴したアルルカ。

自らを怪だと稱し、人間の倫理観など分かるはずがないと言ったアルルカ。

そのアルルカが、自分の罪を認めて、謝罪している。自分がしたことで、誰かが不幸になってしまったことを実し、それを悔いている。

(あんたは、あたしがいつか反省して、心から懺悔をすると思ってるわけ?……一生かかっても無理よ?)

あの時のアルルカの言葉を、今でも思い出せる。そしてやっぱり、そんなことはなかったんだ。

俺は無に、アルルカを抱きしめたくなった。実際にそうした。

「いいよ。いいんだ、アルルカ。俺が許す。許すから……」

本當は俺に、こんなこと言う資格はない。でも、フランが喋れない今、俺が代わりに言うしかないだろ。……辛い役目を、させちまったんだな。

「アルルカさん……」

ウィルも涙ぐんでいる。こんなアルルカ、誰が想像できただろう。俺たちと過ごした時間が、彼の心の氷を溶かしたんだ。

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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