《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》217・竜島
私とファーヴはナイジェル、そしてドグラスと合流。
ドグラスとファーヴはドラゴンの形態に変化。そして私とナイジェルはドグラスの背に乗り、共に竜島を目指して、王都を出発しました。
そこからし下を見ると、街や村々が豆粒のよう。
やっぱり……高い!
「エリアーヌ? 大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です。ですが、もうしこのままで……」
ナイジェルの腕にしがみつきます。
し恐怖にも慣れてきましたが、怖いことは怖い。
落下しても、結界魔法を使えば、死ぬことはないと分かっていますが……こういうのは理屈ではありません。
けないとは思いつつも、こうしてナイジェルの溫かみをじられるのは、幸せだと思ってみたり。
『もうしで竜島に著く。あとしの辛抱だ』
私達の前を、ファーヴが先導して飛んでいます。
昔のことなので、ドグラスは竜島の場所を忘れてしまったと言っていました。
それが理由なのもあると思いますが──もしかしたらドグラスにとって、竜島とは嫌な場所だったかもしれません。
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だから思い出さないようにした、そのようにじました。
「竜島……」
ドラゴン達だけの楽園。
二百年前、ファーヴが起こした災厄をきっかけに、今は誰も寄りつかない無人島になっているそう。
どんなところなのでしょうか?
気になることは多い。
だけど、だからといってなにもしないのはに合いません。
私は一度頷いて、前を見つめました。
ほどなくして、竜島に到著。
私とナイジェルが地面に足を著けると、ドグラスとファーヴも人間の姿に変わりました。
「シルヴィは島の奧にいる。案する。來てくれ」
ファーヴの一聲を合図に、私達は歩き出しました。
竜島は島全が山のような形になっています。
そのせいで、なだらかな斜面を歩き続けることになって、力がジワジワと削られていきます。
「それにしても……ここは暑いですね」
私は右手でパタパタと顔に風を送りながら、そう言葉を発します。
今のリンチギハムの季節は、秋と冬の中間くらい。
寒さをじてもおかしくありませんが、不思議とこの島には暖かな空気が流れています。
「竜島は年中夏のような気候だからな」
疑問に思っている私に、ファーヴが説明をしてくれます。
「そのおかげで植もよく育つ。こういう気候だからこそ、一部のドラゴン達はここを棲家としていたのだ」
「ドラゴンという生きは、どちらかというと寒さに弱いからな。冬の間はほとんどかないドラゴンも多い」
とドグラスもファーヴの説明を補足してくれます。
「自然が多いのは良いことだね」
ナイジェルも周囲の草木を眺めながら、そう口にする。
「ええ、その通りです」
「だが、エリアーヌにとっては、々厳しい場所だったか? 失禮な話になるかもしれないが、君はか弱そうだし……」
「あら、そんなことはないですよ」
気遣ってくれるファーヴに、私はこう言葉を返します。
「夏の太や生い茂る草木と花々を見ていると、自然と心が癒されます。高いところではお見苦しいところを見せましたが、そもそも私は箱り娘というわけではなく──」
そこまで語った瞬間──首元にひんやりと冷たいが當たりました。
「ひゃっ!」
変な聲を出してしまい、つい飛び引いてしまいます。
「ど、どうしたんだい!?」
そんな私をナイジェルが優しくけ止めてくれました。
「もしや急事態でも……」
「い、いえ、首のところに冷たいものが」
「首? ああ──」
そう言って、ナイジェルが私の首元に手を持っていきます。
そしてなにかを摑み上げたかと思うと、先ほどまでじていた冷たさがなくなりました。
「蟲みたいだね。ほら」
うねうねとく蟲。
ナイジェルはそれを、優しく自然へと返します。
「ビ、ビックリしました」
「無理もないね」
蟲が苦手というわけでもないですが……ここに來てから、張しっぱなしなので、いつもよりオーバーなリアクションを取ってしまいました。
「ガハハ。得意げに語っていたのが噓のようだな」
「お恥ずかしいばかりです……」
楽しげに笑うドグラスを見て、私はしょんぼりと肩を落とします。
「でも、もう平気ですから。心配かけて、すみませんでした」
「謝る必要はないよ」
ナイジェルは優しく微笑みを浮かべ、地面に視線を移します。
「それにしても……ここには蟲以外にも、地面に小さな石がたくさん転がっているね。エリアーヌがこれで転んで大怪我をしたら、大変だ」
「か、過保護すぎますよ」
「過保護なんかじゃない」
と真面目な顔をして言うナイジェルは、私の肩に腕を回したまま。
「僕から離れないで。エリアーヌを転ばせやしないし、蟲一匹たりとも近付かせないから」
「歩きにくいんですが!?」
私は抗議の聲を上げますが、ナイジェルは一歩も引く気配がありません。
仕方がないと思い、私はナイジェルにを寄り添ったままで、歩き始めます。
「この二人はいつもこうなのか?」
「そうだな。なにかったら、すぐにいちゃいちゃしよる。好きにさせておけ」
そんな私達を眺めて、ファーヴは怪訝顔で、ドグラスはぶっきらぼうに言い放ちます。
ちょっと張がないようにも思えますが、気を張り詰めすぎると、思わぬところで足をすくわれないとも限りません。
だからこれでいいはず……。
いいんです!
自分にそう言い聞かせ、さらに島の奧に進んでいくと、やがて私達は開けた場所に出ました。
「ここだ」
そう言って、ファーヴが立ち止まります。
私は吸い寄せられるように、彼と同じところを注目します。
──細い木や枝が螺旋狀に絡まり、一本の大木を形している。
その奧にはり輝く彫像のようなものが鎮座していました。
よく見ると、彫像はを形取っています。
「シルヴィだ」
とファーヴは再び歩を進め、木々や枝に絡まった彫像──黃金のシルヴィさんの前で足を止めます。
「なるほど、こうなっていたから島から持ち出すことが出來なかったってこと?」
ナイジェルがそう問いかけます。
「それだけが理由じゃないんだがな。この程度なら──」
ファーヴが木に手を添え、魔力を放出。
黃金のシルヴィさんの周りにある木々がほどけていきました。
「魔法があまり得意ではない俺でも、これくらいの真似は可能だ」
「確か、ファーヴは黃金のシルヴィさんは島の大地にを張っているように、かせないと言っていましたね」
それにしては、そうは思えないのですが……パッと見ただけでは、分からないところがあるんでしょうか?
私はあらためて黃金のシルヴィさんを観察します。
しいだということがはっきりと分かります。
彼も私と同じく、ベルカイム王國に結界を張って、魔族の侵攻を防いでいたのですね。
ベルカイムの地下で見た始まりの聖と同じく──私は慨深い気持ちになりました。
ですが。
「…………」
「エリアーヌ、どうした?」
心配そうな顔で、ファーヴが私の顔を覗き見ます。
「──いえ、なんでもありません。私の気のせいかもしれませんから」
「気のせい?」
「話は後です。もしかしたら、これは呪いかもしれません。まずは解呪出來ないか、確かめてみますね」
私は嫌な予を抑えつつ、黃金のシルヴィさんに手をばします。
やはり、これは──。
始まりの聖の時とははっきりと違います。
彼は石像となりながらも、そのにめる神聖な魔力は隠しきれていませんでした。
當然、シルヴィさんも同様だと思っていましたが……この黃金からはそんな魔力はじられません。
どうしよう──。
ですが、告げないわけにはいきません。
それはファーヴを余計に傷つけてしまうことになると思ったから。
「……一つ、分かったことがあります」
私は黃金のシルヴィさんから手を離し、ファーヴにこう告げます。
「──これはシルヴィさんではありません。の形をした、ただの黃金です」
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