《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》32-3

32-3

ブワァー!

右手が、全が、そして俺の魂までもが、激しく鳴している。俺の右手は郭を失い、激しく振しながら、地の底へとびていく。地面を突き抜け、さらにその下……

「……摑んだ!」

右手を引き抜く。手には確かに、“魂の”があった。いつもなら、そこで止める。アンデッドと俺の魂を共鳴させた後は、いつも俺は、彼らと対話してきた。だが今回は、そんな気はさらさらない。俺は摑んだ魂に、さらに魔力を込めた。

「おおおぉぉぉ!」

この魂を、完全に掌握する!

バシュウッ!

俺の手の中で、魂が弾け散った。手をほどかないまま、握り拳を灰の上にかざす。すると、ザァッと灰がうごめいた。

「ひっ……」

ウィルが息をのむ。灰が立ち昇って、人の形になったのだ。真っ黒の影のようなソイツを伴って、俺はずんずんと歩き出す。

「お、桜下さん。それって……」

した仲間たちが、後をついてくる。悪いが、今は説明してやれない。これを維持するのにものすごい集中が必要だし、これからすることを考えたら……間違いなく、反対されるだろうから。

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俺は、倒れたクラークのもとまでやって來た。

「桜下……」

「ぐすっ……あの、何を……?」

アドリアとミカエルが、混した顔で俺を見上げる。俺は全に力を込めたまま、堅い聲で告げる。

「クラークを、生き返らせる」

「え……」

この場にいる全員の目が、俺に集まった。

「何を……いい加減なことを、言わないでくれ!」

アドリアが激しい剣幕で、地面に拳をどんっと打ち付ける。

「そんなことが、できるのであれば……できるのであれば、とっくに……」

「ああ。普通の死じゃ、そうだろうな。けど、クラークはそうじゃないだろ」

「なに……?」

「クラークの命は、闇の魔法で奪われた。なら、こいつの力が効くはずだ」

俺は拳を前に突き出し、黒い影をクラークの側へと立たせる。クラークに覆いかぶさっていたミカエルが、びくりとをすくめた。

「ミカエル、どいてくれ」

「で、ですが……それに……クラーク様の心臓は、もう……」

「どいてくれ。じゃないと、あんたも巻き込まれるぞ」

俺の有無を言わせない口調に、ミカエルはごくりとつばを飲む。すると、ミカエルのわきに腕が差し込まれて、ひょいと抱え上げられた。目を白黒させるミカエルを、アルアが固い表で連れて行く。

「あっ、アルアさん!?」

「今は、あの人の言う通りに……見守りましょう」

クラークの側に誰もいなくなると、俺は左手を添えた握り拳を、クラークのの上に突き出す。ミイラのように黒く干からびた、クラークの顔を見下ろす。

「闇の魔力の傷は、闇の魔力でしか治せない。クラークの命は、闇の魔法で吸い取られてしまった」

辺りが靜まり返る。みんなが固唾をのんで、俺とクラークを見つめている。

「なら、闇の魔力を使って、再び命を與えることも可能なはずだ」

俺は心の中で、黒い影に念じた。影が、ゆっくりとこちらを向く。その瞬間、なにかを悟ったのか、アドリアが目を見開いた。同時に、ウィルが息をのむ。

「まさか……お前!」

「っ!いけません、桜下さん!」

ウィルが飛び込んでくるが、遅かった。

「やれ!セカンド!」

影の手が、俺のを貫いた。

「ぐぉ……ッ!」

なんだ、これは……目の前がチカチカと明滅している。中のを抜き取られてしまったようだ。視界がぐるぐると回り、酷い耳鳴りがする。膝にありったけの力をこめて、辛うじて倒れることだけは免れる。

「よし……いいぞ、やれ……」

掠れた聲で呟くと、黒い影は俺から手を引き抜く。俺のから影の指先が抜けた瞬間、ぞっとするほど寒くなった。いきなり、冬になっちまったのか……?の震えが止まらないが、それでもまだ、倒れるわけにはいかない。俺が心の中で命じると、影はそのままクラークに手を突き刺した。すると……

「あ……」

「ああ……クラーク様!」

クラークのが、元に戻っていく。どす黒かった顔は、蒼白くらいの顔になった。なにより、わずかにだが、が上下している。

「ま、まだ……全快とは、言えないはずだ……よ、よく診てやってくれ……」

「はい……はい……!」

ミカエルは息を詰まらせながらも、急いでクラークの治療を始めた。よし、これでこっちは大丈夫……などと、息つく暇もなかった。

「な……何考えてるんですかっ!」

ウィルが倉を摑み上げん勢いで、俺にぐっと詰め寄ってきた。

「まさか、自分に闇の魔法を使わせたんですか!?正気なの、あなた!」

「だ、大丈夫だって……俺だって、自分の命、丸ごとやるほどお人好し、し、じゃないよ……半分だけだ」

「は……半分?」

「ああ……俺のは、は、半分を、クラークにやった。な、何とか足りたみたいで、よかったよ……」

ウィルはなおも口を開こうとするが、それを遮る。

「ウィル。悪い……今は、俺の頼みをき、聞いてくれないか。文句なら、その後でいくらでも……」

「……~~~ッ!あとで、耳にタコができるまで聞いてもらいますからね!絶対です!倒れたりしたら、はたき起こしてやりますから!」

ははは……それは、覚悟しないとな。

「俺を……ろ、ロアたちのとこへ、連れてってくれ。あいつらのことを……解放する」

殘すところ、これが最後の仕事だ。けど、正直あとどれくらいもつかな……さっきからだいぶ、目の前が暗いんだよな……

「アルルカさん!聞いてましたよね、お願いします!」

「任せなさい!」

が、ぐいと持ち上げられる。アルルカが俺を抱え上げたようだ。そのままばさりと翼が振り下ろされ、俺たちは猛スピードで、ヘルズニルの中へ飛んで行く……

……

「……著いたわよ。ねえあんた、大丈夫?」

はっ。飛翔と同時に、意識のほうも飛んでいたらしい。気が付いたら、心配そうにこちらを覗き込む、アルルカの顔が近くにあった。

「ああ……あ、あ、ありがとな、アルルカ……」

「ねえ、無理すんじゃないわよ。これであんたまで……」

「ちゃっちゃと、やるからさ……な?」

アルルカはぐっとを噛むと、黙って俺を支えてくれた。

ここは、いつかに見た、がらんどうの館のような部屋だ。あの頃が、遠い昔にじるな……広い部屋いっぱいに結晶が並べられ、その中に人々が閉じ込められている。その中の一つ、何の因果か、偶然俺たちのすぐそばにあったのが……ロアが閉じ込められたクリスタルだった。

「さあ……セカンド。最後の務めを果たせ」

黒い影が、ゆっくりと両手を前に掲げる。そしてその手を、思い切り自分のに突き刺した。

ガシャァァァァン!

けたたましい音と共に、結晶が一斉に砕け散った。無數の欠片が床に跳ね、部屋いっぱいに広がる。アルルカはマントをひるがえすと、俺の前に立って、結晶の欠片が當たらないようにしてくれた。

(ああ……)

最後まで確認できなくて、殘念だが。まあ、ここまでやれば、後はよろしくやってくれるだろ……

「よ……かった……これで……」

「ち、ちょっと!?ねえ、しっかりしなさいよ!ねえったら!」

アルルカ、揺するならもうし優しくやってくれないか……それじゃあ、眠りづらいじゃないか。だがじきに、その聲も聞こえなくなる。世界が、全てが、俺から遠ざかっていくようだ。

薄れゆく視界の中、ぼんやりとした人影が、こちらに走ってくるのが見えたが……もう、目を開け続けることはできなかった。

ぷっつりと、俺の意識は闇に途切れた。

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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