《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》34-1 目覚め

34-1 目覚め

「ん……」

「っ!桜下さん!目を覚まされたんですね!ああ、よかった!」

ぐうっ。首元に、ひんやりと冷たいものがぶつかってきた。寢起きだったのも相まって、それがウィルだと気づくのに、しばらくかかった。

「ウィル……苦しいよ」

「ばか……どれだけ心配したと思ってるんですか。あなたが倒れたって聞いた時の、私の気持ちを考えてください……」

ウィルは腕の力を強くする。そうか、しずつ思い出してきた。俺は、セカンドの魂を呼び戻して、それから夢を見て……ずいぶん長いこと眠っていたようだ。

「ウィル……ごめんな。心配かけた」

「……ばか。こういう時は……」

ば、ばか?俺が文句を言うよりも早く、ウィルが顔を寄せてきた。さらさらの金髪が、俺の顔をくすぐり……

「……本當に、よかった。無事に目が覚めてくれたら、もう何も言いません」

そう言って、俺のに顔をうずめる。

(……そんなに取りすほどだったのか)

俺が思っている以上に、心配させてしまったんだろうな。俺は謝る代わりに、彼の髪をでた。どうやら、これは正解だったらしい。ウィルはしばらく、俺のしたいようにさせてくれていたから。

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バターン!

「おねーちゃん!桜下が起きたって、ほんと!?」

「ダーリン!?目が覚めたの?うわぁん、よかったのー!」

え……ぐああぁ!一気に二人分の重が飛んできて、俺のみぞおちをしこたま圧迫する。しかも一人は、全に合金を仕込んでいるんだぞ。ぐるんと目が回り……俺は早くも二度目の気絶をした。

二度目の起床は、それからすぐだったようだ。意識を取り戻すと、床に正座させられたライラとロウランが、ウィルに雷を落とされている真っ最中だった。

「ほら!謝りなさい!」

「ごめんなさい……」

「ごめんなの、ダーリン……」

「あー、いいよいいよ。これくらいなら、安いくらいだ……いてて」

「まったくもう……病室では、靜かにするものですよ」

ウィルは腕組して言うが、さっきお前もさんざん騒いでなかったか?とは言わない。三度の目の気絶はごめんだ。

「ところでさ。ここ、どこだ?」

さっきから気になっていたんだ。きょろきょろとあたりを見回す。ここは床も壁も黒い、真っ黒な部屋の中だった。病室にしちゃ、ずいぶんシックだよな。丸い形の窓からが仕込んでいるから、そこまで暗い印象ではないけれど。俺はその部屋の中に置かれたベッドの上に寢かされていた。

「ここは、ヘルズニルの中です。ペトラさんが、部屋を用意してくれたんですよ」

「え。ここ、城の中なのか」

魔王城ヘルズニルに、ベッド付きの部屋があるとは……いやまあ、あってもおかしくないか。ペトラとかドルトヒェンとか、人型の魔もいるんだから。

「俺、どれくらい寢てた?」

「丸二日……といったところでしょうか。一昨日の明け方に戦いが終わって、今が二日後のお晝です」

「ま、丸二日!?」

「そうですよ、ほんとに心配したんですからね」

おお、そんなに……そりゃあ、ああもなるわな。

「昨日までシスターの方たちが、代わる代わるやって來ては、治癒の結界を張ってくださったんですよ」

「へえ……あ、そうだ!俺だけじゃなくて、あいつは?クラークはどうなった?」

容態はあいつの方が深刻なはず。かなりの荒療治だったからな。あれでくたばってやがったら、ぶっ殺してやるぞ。けれどウィルは、にこりと笑った。

「安心してください。まだ全快とは行かないみたいですけれど、それでも元気になってますよ。さすがは勇者様、ですね」

「そ、そうか……」

ほっとした。べ、別に嬉しかったからじゃないぞ。俺の命を半分やったんだから、生き返ってもらわないと困るってだけだ。

……けどそこで、にこにこしていたウィルは笑顔を消して、真面目な顔になった。

「桜下さん。あなたがしたことについて、私たちなりに、々話を伺いました」

おっと、そいつは……俺の生命力の半分を、クラークに注ぎ込んだことについて、だろうな。こればかりは、言い訳も立つまい。神妙にウィルの言葉を待つ。

「一番闇の魔法に詳しいのは、ペトラさんでしょう。彼いわく、こんな闇の魔力の使い方は前例がなく、その結果どんな副作用が出るのか、はたまた出ないのか、正直分からないそうです。ただ……」

「言ってくれよ、ウィル。無茶やったんだ、覚悟はしてるよ」

いくら俺だって、何のリスクも伴わないとは思っていない。ウィルは瞳を伏せ、スカートをぎゅっと握ると、言いにくそうに口を開く。

「……単純に、考えれば。命の力の半分を渡したということは、そのまま、壽命が半分になった可能がある、と……」

「半分、か。そりゃまた、ずいぶんだなぁ……」

俺が百歳まで生きたとしても、五十歳か。まだまだ先とは言え、ずいぶん短くなったな……だがウィルは、慌てて言い添える。

「ただ、絶対にそうとは限らないようです。今回桜下さんがけ渡したのは、あくまで生命力です。この生命力っていうのがあやふやで、私もよく分からないんですが、単純な壽命とは異なるもののようでして。つまり、失ったなら、また満たすことも可能だって」

「そんなこと、できるのか?」

「生きている限り、生命力は盡きることはない、と。空のおわんに水が満ちていくように、しずつしずつ、回復させることはできるそうです」

なるほど……なら俺は、おわん一杯だった水の半分を、クラークに分け與えたことになるのかな?

「なんとなくイメージは付いたけど、結局どうなんだってじだな」

「まあ、そうですよね。普通は命そのものを回復させることなんてできませんが、今回は闇の魔法による、かなりイレギュラーなケースなので、こういう事も起こり得る……と、ペトラさんは言っていましたが」

ふーむ……まあでも、今すぐどうこうなるわけじゃないってことだ。そんなら、案外いい方法だったんじゃないか。我ながら上出來じゃんか。が、そんな俺の表を敏に読み取ったのか、ウィルがジトリとした目をする。

「もちろん、むちゃくちゃやった代償は高く付きますからね。向こう一カ月は、激しい運は厳ですから」

「うっ。はーい……」

けど実際、起き上がろうって気にもなれないや。全が重くって、鉛が詰まってるみたいだ。

「桜下、安心してね。ライラがお世話したげるから」

ライラがふんすと、無いを張る。それに負けじと、ロウランもを反らした。

「アタシも!下のお世話だって、なんなら夜のお世話も」

「そこまで!それ以上喋ったら、追い出しますからね!」

ははは……こういうやりとりも、ひさびさにじるよ。戦い、戦いで、いつもピリピリしていたからな。ようやっと肩の荷が下りた気分だ。

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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