《スキルイータ》第三百二十話
クリスティーネは、張した面持ちで、カズトとシロが住んでいる場所に向かっていた。
崖の下に到著した時に、同じように邸宅に向かっていた者たちと合流した。
メイド姿をしたドリュアスが、全員が揃ってから邸宅に案すると伝えてきた。
「シロ様がこちらにお越しになるのでは?よいのですか?私たちが、邸宅にお邪魔する形になってしまいます」
驚いたのは、メリエーラだ。
立場を考えれば、邸宅に案されても不思議ではないが、メリエーラだけではなく、ヴィマやヴィミやラッセルやヨナタンも、邸宅に足を踏みれたことがない。カズトやシロは、気にしなくてよいと言っていたのだが、ルートガーが”ダメ”だと許可を出さなかった。ルートガーは、カズトたちの重要を誰よりも理解していた。崖の上に立っている邸宅は、守りやすかった。邸宅の中に人を招きれるのには、ドリュアスやエントたちも反対の立場だ。
カイやウミといった一緒に居る事が多い眷屬たちは、自分たちが居るから大丈夫だと言っているのだが、安全を考えれば、ルートガーと同じように考える者の方が多い。
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「いいのかい?」
「はい。シロ様からのご要です。エリン殿が既に邸宅にいらっしゃっています。今日でしたら、ウミ様もご一緒です」
他にも、眷屬が邸宅に居るらしく、反対する者が居ない事もあり、邸宅でのお茶會が開かれることに決まった。
「準備は?」
準備の心配をしたのは、カトリナだ。
崖下の待合室に居る人數だけでも、10名を越えている。従者として數えられる者を除いても、6名だ。
ドリュアスの言葉では、待機している者で全員ではないようだ。
まだ増える事を考えれば、お茶會といえど準備が大変だと考えた。カトリナは、準備が終わっていなければ、先に自分だけでも準備を手伝いに行こうと考えていた。
「ステファナとレイニーをドリュアスが手伝う形で準備を行っています。ご安心ください」
準備の為に、従者が居るのだと解っているが、それでも人數を考えれば、十分だとは思えなかった。
しかし、ドリュアスからは”準備は不要”だと思える発言しか引き出せていない。
「カトリナ。座りなさい。準備は必要ないと言っている。私たちが慌ててもしょうがないだろう?違うかい?」
「メリエーラ様。それは・・・。そうですね。解りました」
年長者であるメリエーラに言われてしまえば、カトリナが慌ててもしょうがない。腰掛けて、用意されている飲みを口に含んだ。
ドアがノックされて、フリーゼに案されて、最後の客が顔を出した。
エルフ大陸にカズトが確保した宿屋の主人が、報告にチアル大陸を訪ねてきていた。夫人を伴ってきていた。夫人をお茶會にったのだ。チアル大陸で影響力を持つの集まりだ。斷ることはできない。
全員が揃った所で、ドリュアスが邸宅に案を始める。
階段を使ってもよかったのだが、メリエーラが招待客の中に含まれていたので、シロの指示をけて、エレベータを使う事になっている。初めて使うものが殆どだが、”こういう”だと教えられて素直に従った。
エレベータが崖の上に到著して、扉が開けられると、目の前には、シロとエリンが立って出迎えてくれた。
「皆さん。呼びかけに応じていただきありがとうございます。だけの集まりとして、本日は楽しんでいただければと思います」
シロの口上を聞いても、クリスティーネの張は収まらなかった。正確には、より張したと言ったほうがよかった。
龍族のエリンが、シロから離れようとしない異様な狀況だが、エリンの不思議な行は今に始まったことではない。一人を除いて、カズトがシロの護衛としてエリンを呼んだのだと考えた。
お茶會は、當初は崖の上に用意された庭園で行う予定だったのだが、エリンが強固に反対したこともあり、邸宅の中で行われることに決まった。
皆は、案された見事な部屋にも驚いたのだが、それ以上に用意されているお茶と菓子に目を奪われている。
「シロ様。これは?」
「カズトさんに聞いて作った新作です。お土産とレシピも用意してありますので、帰りにお持ち帰りください」
「よろしいのですか?」
「大丈夫です。カズトさんにも許可を貰っています。それに・・・」
シロが、意味ありげに、ノービスのナーシャを見る。
その視線だけで、エルフ大陸から來ている宿屋の將意外は事が解ってしまった。
將には、カトリナが寄り添って簡単に事を話している。
シロも、將はカトリナにまかせることに決めたようだ。
エルフ大陸への足がかりが必要なのは、カトリナだけなので、丁度良いとも言える狀況だ。
お茶會のホストは、シロだ。
しかし、実際にお茶會を滯りなくかすのは、クリスティーネが行う必要がある。
シロから招待された時に、クリスティーネから言い出したことだ。
クリスティーネの張は、お茶會の運営を任された事に由來する。カズトとシロが、エルフ大陸に旅行に出かけている最中に、チアル大陸を任されていたのは、ルートガーとクリスティーネだ。
ルートガーは、そつなくこなすことが出來たのだが、クリスティーネはルートガーの補助という意味では満點の行だったのだが、シロの代わりが勤まってはいなかった。元々の役割が違うと言えば、それまでだが、クリスティーネはシロに出來ていたことなら、自分でも大丈夫だと考えていた。その拠のない自信が、打ち砕かれる結果になってしまった。
その狀況で、シロからだけの集まりを提案されたのは、役割を降ろされるのではないか?皆の前で叱責されるのではないか?悪い想像だけが先走ってしまった。
張していたことも影響してか、最初はクリスティーネの進行は、ぎこちないになってしまった。
ナーシャやカトリナのフォローをけて、徐々に本來の力を発揮し始めた。
大きな問題もなく、お茶會は和やかに進行した。
時間がゆったりと流れる中でも、エリンはシロの側を離れなかった。
実際に、シロもエリンが自分にべったりとついている理由が解らない。
「シロ様?」
「どうしたのクリス?何か、聞きたいこと?」
「・・・」
「何?いいわよ。クリスには、これからもいろいろ頑張ってもらわないと・・・」
「私でいいのでしょうか?」
「どうしたの?」
「シロ様とカズト様がチアル大陸にいらっしゃらなかった期間に・・・。しだけの期間なのに、私はシロ様の代わりを務められなかった・・・。のです」
誰からも非難されなかったことが、クリスティーネの心にを落としていた。
お茶會で、誰かから指摘されたほうが楽だった。でも、誰もクリスティーネを責めなかった。それだけでも、心に負擔になっていたのだが、クリスティーネがシロとカズトが居なかった時に、しっかりと役割を果たしたと皆が話している。最初は嬉しかった。しかし、実際にはシロの代わりが勤まらなかったと認識している。
「クリス。貴は、考えすぎよ」
「え?」
「私の代わり?それは無理よ」
「はい。無理でした。私には、足りない事が多すぎます」
「ううん。違うの。クリスは、ルートガーのサポートをやり遂げたの、それは貴にしかできない」
「はい。わかっています。でも、シロ様は、ツクモ様のサポートをしながら、他にも・・・。私には、できませんでした」
「それはそうよ。だって、ルートガーとカズトさんは違うわよ?ルートガーは、カズトさんほど周りに頼らないでしょ?」
「・・・」
「クリス。貴の役割はなに?私と変わること?カズトさんのサポートを行う事?違いわよね?」
「・・・。はい。でも・・・」
「”でも”は、必要ないわ。貴は、貴にしか出來ないことをしたのよ。私には、カズトさんのサポートは出來ても、ルートガーのサポートは出來ない。これは、能力ではない。相の問題」
「・・・」
「納得は出來ないと思うけど、私と貴では、役割が違うのよ。そこは間違えないでね」
「・・・。はい。解りました」
二人が話し始めてから皆の會話が止まった。
そして、クリスティーネが納得したことで、場の雰囲気が緩和した。
ナーシャの質問に答える形で、エリンが弾発言を行うまで、お茶會は靜かに終わりに向っていた。
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