《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》34-4

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そして、その日最後にやって來たのは、全すっぽりマントで包んだ人だった。さすがにぎょっとしたが、フードの下から出てきた顔を見て、すぐにほっと息をつく。

「びっくりしたぁ。なんだ、あんたか……ドルトヒェン」

「すみません、驚かせてしまったようで」

フードを外したドルトヒェンは、きれいな角度でお辭儀をした。と、その拍子に見えた背中が、なぜか妙に膨らんでいる。うわっ、いたぞ!モコモコモコ!

「ぷはっ。レーヴェもいるゾ!」

えぇ?ドルトヒェンのマントの襟元から顔を出したのは、狼そっくりの耳が頭に生えた、レーヴェだ。二人羽織していたのか。

「こら、レーヴェ。勝手に顔を出してはいけないと、あれほど言ったでしょう」

「いいじゃないカ、ドルト。どうせこいつらハ、レーヴェのこと知ってるんだシ」

「はぁ、まあそうですが……」

俺たちが困しているのに気付いてか、ドルトヒェンはハッとすると、またしてもお辭儀をした。

「重ね重ね、申し訳ありません。二の國の勇者様が目を覚まされたと聞きましたので、一度ご挨拶に伺えないかと」

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「あ、ああ。ご挨拶ね……いちおう訊いとくけど、もう俺とやり合う気はないんだよな?」

「もちろんです。あの男がいなくなった現時點において、あなた方と敵対する理由は無くなりました。危害を加える事は一切ないことを表明しておきます」

よかった。さすがに第二ラウンドはないだろうとは思ったが、挨拶とか言って、お禮參り的な意味ってこともありうる。つい數日前まで、俺たちは敵同士だったのだから。

「この裝束につきましても、さすがにわたくしたち魔族が城をうろついていると、他の人間の方々が驚かれますので。致し方ないことだとご理解ください」

「ま、そうだよな。……ところで、あんたとレーヴェは、今どうしてるんだ?」

「ペトラ様の下でを隠しております。わたくしたちが魔族ということは伏せ、人間の従者ということになっています」

なるほど、ペトラが匿っているのか。ならたぶん、他の無事だった魔のことも、うまいことやってくれたのだろう。

「ペトラは、元気か?」

「命に別狀はありません。四肢の再生も順調です」

「そっか……え?再生が順調?どういうことだ?」

「ペトラ様がそうおっしゃっていたのです。數週間もすれば、新しいものが生えてくるとのころで」

……魔王の娘って、カニかなにかか?

「ま、まあ元気そうなら、なによりだけど」

「はい。そのほかに、お聞きになりたいことはございませんか?」

「あ、悪い。こっちが々質問しちゃって」

「いえ。他に無いようでしたら、わたくしの用事を済ませたいと思います。桜下様、誠にありがとうございました」

ドルトヒェンは、何度目かの禮をした。頭を上げると、背中のレーヴェにも促す。

「ほら、あなたも」

「おう。ありがとナ、おまえたチ!」

ははは……ドルトヒェンは額を押さえている。まあしかし、禮をもらっただけでも大したもんだろう。これまでのことを鑑みればな。

「でも……ならあんたたちは、これからどうするんだ?」

しかし俺は、聞き逃しちゃいなかった。さっきドルトヒェンは、“現時點では”、戦う理由がないと言ったのだ。つまり未來においては、必ずしもそうじゃないということだ。

「……まだ、なんとも言えません」

ドルトヒェンは瞳を伏せて、こちらを正面から見ようとしない。

「決めるのはわたくしではなく、ペトラ様ですから。しかし、ペトラ様がお決めになったことを、あなた方の王がれるとも限りません」

「……それは、場合によってはことか?雙方の同意が得られない時は……」

「いえ。それをまれていはいないように、わたくしには見えました。ペトラ様は、話し合いたいとお考えのようです。近々、こちらにお伺いするかもしれません」

「そう、か……」

現時點では、ここらが限界か。向こうが話し合いをんでくれているのなら、まだ潰えちゃいない。

「わかった、俺からも頼むよ。……ここから第二幕なんて、心底まっぴらごめんなんだよ、俺は」

「かしこまりました。お伝えさせていただきます」

ドルトヒェンは、再び深々と頭を下げた。

「それでは、わたくしたちはそろそろ。ご靜養中に申し訳ございませんでした」

「こっちこそ。部屋、用意してくれてありがとうって、伝えといてくれよ」

「承知しました。では、失禮いたします」

「またナ!」

レーヴェが頭を引っ込めたのを確認すると、ドルトヒェンは靜かに一禮して、部屋を出て行った。

「ふぅ……」

二人がいなくなると、俺はベットに沈んでため息をつく。

「結局なんだかんだ、慌ただしい一日だったな。こんなにお客が來るなんて」

窓の外に見える空は、茜に染まりつつある。様々な國、役職、種族と、バラエティーに富んだ來客たちだったな。

「んふふふ」

と、ベッドわきの椅子に腰かけているライラが、口元を押さえて笑っている。

「ん?なんだよライラ、ニヤニヤして」

「だって、うれしーんだもん。みんな喜んでたでしょ?」

「ん?まあ、そうだったか」

今日來た全員、笑っていたからな。けどそれは當然だ、やっと戦いが終わったんだから。それの何が、ライラは嬉しいんだろう?

「みんなが、桜下にありがとーって言ってたよね。それって、桜下がすごいって、みんな分かったってことだよね?」

「へ?」

なに?それは、俺という怪我人の見舞いついでだったからじゃないか?禮を言われることも、いくつかはあったとは思うが……

「いやぁ、たぶんそんなことないぜ?」

「うーうん、きっとそう!桜下が、みんなにすごいって思ってもらえて、ライラ、すっごく嬉しい!」

ライラは花が咲いたように、ぱぁっと笑った。ここ最近戦い続きで、こんなに明るく笑うライラは久々に見た気がする……そんな顔されたら、否定しづらいじゃないか。するとウィルが、くすくす笑った。

「いいじゃありませんか。みなさん、謝していたことは事実なんですし。今日くらい、ね?」

「う、ん……」

むずがゆいな……今までが今までだから、なかなかこういうのには慣れない。まあでも、ウィルの言う通り。一日くらいは、そんな日があってもいいよな?

つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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